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広告とネットミームⅡ~マックの音MAD「チーズ狂愛」からオタクに受け入れられやすいネットミーム広告五箇条を作る~

 マクドナルドの広告、『チーズ狂愛』がオタク間において話題である。悪い意味で。
 少し前から音MAD的な技巧を広告に起用しよう、という流れ自体は割と見かけてはいたのだが、その中でもチーズ狂愛はあまり良い印象を受けない代物だったのは間違いない。
 ネットミームを採用した広告を考える「ネットミームと広告」。第二回ではチーズ狂愛が何故ダメだったのか、そしてどのような音MAD広告なら比較的受け入れられやすいかを考えていきたい。

・チーズ狂愛が期待外れとされた理由

 チーズ狂愛が良くなかった理由は、概ね以下の三点である。

①ドナルドを起用していなかった
②音程が狂っている
③単純に面白くない

・ドナルドを起用していなかった

 マクドナルドの音MADと言うのであれば、やはり『教祖』ドナルド・マクドナルドの登場が期待されるだろう。しかし、ドナルドはいなかった。この時点で期待外れだと思う人が多かった。
 しかしドナルドというキャラクター自体昨今は日本展開されていないキャラであるし、単純に出せない大人の理由がある可能性も高い。であれば仕方が無いという見方も出来る。

 ただ、マックで音MADネタをやりたいのであればスポンジボブのハッキョーセットを再現して素材にしても良かったはずである。ドナルドにこだわらなくとも、マックのCMは他にもネタがあるのだ。
 これはこれで権利的な問題は絡むが、ドナルドが無理でも別の策は検討しなかったのか? という所が気になった方もいると思う。

・音程が不快である

 改めてチーズ狂愛を聞いてみて欲しいのだが、音程がかなり不快である。元の曲も馴染みが無いし、聞いていても面白いかつまらないかという判断の前に不快という感想が浮かんでくる。
 音MAD広告の中ではより出来が良い物としてモスバーガーの広告「和風旨ダレのとり竜田バーガー」が先行して登場していたのも痛かった。これと比べるといかんせん手抜きの感が否めず、クオリティ不足を指摘されてしまうのも仕方が無い。
 ちなみにモスバーガーはTVCM向けの真面目な広告も同タイミングで出しており、ネットのノリはネットだけに収めようという意気も見える。ここも良かったポイントです。

 強いてマック側を擁護するならあえて音程を外して雑な作りにして笑いを取るような音MADも存在しているので、そこを目指した可能性も無くは無い。とはいえ、企業がやる事と個人のやる事では求められる物も変わるし、何の説明やバックボーンも無く雑な物を出すのは結果だけ見ると良くなかった。

・どこに面白味を覚えてよいか分からない

 もっとシンプルな話をするのであれば、単純にネタにしづらい内容だったのは間違いない。
 何故ネタにしづらいか、という理由として考えられるのはそもそも音MADという物自体が元ネタを加工して作る創作形態が基本だからである。一次創作に近い物も存在はするが、相当音MADに熟達した人間でないと形にならない。
 
チーズ狂愛は原曲がUnbelievable Girlという楽曲で、そこに加えるネタが誰も知らない新商品であるチーズベーコンポテトパイ。これでは多くの人がどこからこの作品に対してとっかかりを得れば良いのか分からない。
 ネタ要素としては「素材無いからサクサク音を~」というパートが一応あるが、これだけでは安直に「インターネットのノリに合わせたんだろ?」と思われても文句は言えない。

・広告のネットミームはどうすれば受け入れられやすいのか?

 広告におけるネットミーム採用の是非は前回auの広告「神ジューデン」における「走るガンガーGB」の採用とPB素材配布でも触れたが、受け入れられやすい物と受け入れられない物があるのは間違いない。
 よって今回は、そのオタクに受け入れられやすいネットミーム広告五箇条を作ってみようと思う。概ねこの条件に当てはまった広告は受け入れられやすいという指針として、以下を提示したい。

・求められるネタのテンプレに沿っている
・一定のクオリティを保っている
・新しいネットミームを使っている
・大手企業ではなく中小企業が行う
・分からない程度まで薄める

・求められるネタのテンプレに沿っている

 これはXiaomi 13T Proの記事も参考にしていただきたいが、ネットミームのテンプレに沿っていればいるほど好意的な評判が増える。
 また今にして見返してみるとプレゼント企画を平行してやって好意的な評判を増やすとか、動画素材配布を行っていた該当の広告に関しては今では全部削除済みでアーカイブも見当たらないとか、そういう細かい後始末もちゃんとしている辺り立派な広告だったと思います。

・一定のクオリティを保っている

 上にも通ずる話だが、適当な再現ではいけない。ニコ動風の広告をやるとしても、雑に「すげええええ」とか「wwwwww」を流すだけでニコ動っぽくなるんでしょ? と思っているのであれば今すぐそれを改めた方が良い。
 ニコ動のアニメ配信時の再現を真面目にやったおかげで話題になった広告としては『陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン』の広告があって、これはきちんとニコ動でアニメを配信した時のコメントを再現しているからこそファンが喜ぶ物に仕上がったのである。ニコ動風コメントは何につけても美味しい醤油ではなく適切な調理をしないと辛さしか感じなくなるデスソースみたいな物だと思って広告をしてほしい。
 毎回カゲマスを例に挙げているのも、結局カゲマスくらいしかニコ動風広告、あるいはライブ配信風広告をやって出来が良かったなあと思えるものが無いからだ。オタク受けするクオリティを保つのは面倒だし大変な話である。

・新しいネットミームを使っている

 日清のネットミーム広告、あるいはネットからネタを拾ってきたらしい広告は受け入れられている傾向があるが、その理由として比較的新しいインターネットのネタをすぐに取り入れて広告にするのは大きな要因だろう。
 マクドナルドはドナルドネタを期待されているとして、もうドナルドMADも15年以上前のネタである。15年以上前のネタを笑っていた層は感性も「インターネットのネタを広告にするのは見ていて恥ずかしい」と感じる、あるいは「一定以上のクオリティも無く安直にパクるな」と厳しい視座を持っている事が多く、ハードルが高くなってしまう。
 その点最近のネタをガンガン拾いつつ一定のクオリティを持っている日清は最近のインターネットユーザーから受け入れられやすいのも間違いないし、多くの人に見られるよう広告しているからこそ反発が大きいのも事実である。

・大手企業ではなく中小企業が行う

 ネットミームを起用した広告としては、2022年にスーパーウィザードは野獣先輩を広告に出してインプレッションを稼いでいたのが印象深い。それ以外にも様々なミームを使用して注目を集めていた。
 良いか悪いかで言えば普通にダメなんだけど、中小企業がやっている広告の場合はこういう危ない行動を咎める声よりも面白がって話題にするリアクションの方が強くなる場合がある。
 
中華広告が妙にネットミームを使いまくるのも取り締まりが難しいからだろうし、そもそも権利侵害しようが儲かれば良いというビジネスの悪癖が出ていると言われれば全くその通りである。受け入れられているというよりも無視されている場合も多いし、法的に突っ込まれた場合のリスクも大きい。
 真似しろとは決して書けない領域であるが、このような手口で話題を獲得するような広告が多い事実は記載しておきたい。

・分からない程度まで薄める

 音MAD風の広告というと自分はサントリー生ビールの広告を思い出すのだが、これは音MAD的な技法を使いつつもネットミームには掠っていない珍しい広告である。
 一見すると音MADだと分からないが分かる人には音MADだと分かるレベルに仕上げる事によって、見ごたえのある映像に仕上げる事が出来る一例としてチェックしておくべきだと思う。

 「分からない程度まで薄める」というのは、「風評被害を受ける程度にする」というやり方も考えられる。
 たとえばeximoはドコモのド定番というキャッチコピーにしつつ変な振り付けをやっていたらドリトライのミームに巻き込まれて話題になったタイプのCMであるが、オタクが自ら風評被害を擦り付ける形で話題になる分にはネットミームを商業的に使っているとは捉えられない。
 
とはいえこれは製作者の意図に沿わない形での話題獲得になる場合が大半だろうから、狙ってやるのは難しい。狙っていたとしても意図しない二次災害が起きる可能性もあり、役者の個人情報特定や想定以上の削除騒ぎに繋がるリスクも存在する。

・まとめ

 ここまで書いておいてなんだけども、そもそも音MADという物自体が著作権を破って動画素材や音声素材を持って来て作る違法な物だという意識は常に持っておいて欲しい。
 
ネットミームだって内輪ノリで話しているから面白いのであって、企業がそこに友達ヅラして割って入ってくる時点で絶対に受け入れられないと思う人の多い代物である事は間違いない。そもそも昔のネットミームで大笑いしてるのも恥ずかしいし、こんなことを大真面目に書いている自分だって恥ずかしいという羞恥心を持たなければならない。現実社会でネットミームを使うのは淫夢ごっこと同じくらい恥ずかしい事です。
 その辺の考え方や覚悟無く広告と言う公共の媒体にネットミームを起用しようという最近の流れ自体ちょっとおかしいな、という感性を持っておくべきだと思います。

 それに古くは広告発祥の音MADが大量にあったのに、今ではそういうネタになるほど印象に残る広告が少ないというのも問題だと思う。
 最近の例では丸亀製麺やキノコ勇者などがあったが、かつてはカビキラー、一本満足バー、モーニングレスキュー、Z会、天神、ドナルドのヒミツ、ハッピーセットなどもっと多くの記憶に残る広告があったはずである。それが今では広告のネタが無くなって、パクられる側ではなくネットミームをパクる側になっているというのは広告が好きな人間として悲しい。
 ネットミームを広告にするというよりも、ネットミームになるくらい印象に残る広告を作ってやるんだという気概でやってほしいなと思うのは自分だけなのだろうか。そういう意味でもネットミーム寄りの広告が自分はあんまり好きになれないというのがあります。

 とりあえず、自分はオタクに受け入れられやすいネットミーム広告五箇条という物を勢いで作ってしまいました。何かご意見等あったらください。

・おまけ~自分が見かけたチーズ狂愛MAD集~


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