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パープルラインの匂い

 バンコクの北に、ノンタブリー県はある。
 2016年8月に開業したパープルラインは、バンコクとノンタブリーを結ぶ路線であり、タイで初めて日本製車両を導入した高架鉄道でもある。
 列車や駅舎は、清潔で整然としているのだが、そこからは、何というか、東南アジア特有の匂いが全く感じられない。
 ズバリと言ってしまえば、無味無臭で面白味があまり無いのだ。
 駅の入り口付近では、危険物の持ち込みをチェックするゲートがあり、乗客はそこを通って構内へと入場する仕組みになっている。
 しかし、ゲートが赤く光り、ブザーが鳴り響いても、係りの人間は荷物の中身を調べようとはせずに、ただ横で、まるで鉄筋コンクリートの一部になってしまったかのように、ぼーっと突っ立っているだけだった。
 俺はブザー音の中を素通りしながら、そんな彼らから、タイの匂いを嗅ぎとって、思わず微笑んだ。

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