見出し画像

短編小説「肉食の狩人」

くだらない。

俺は舌打ちをして、スマートフォンの画面をスクロールしていた。
SNSには相変わらず、健康志向な菜食主義や、動物虐待反対を謳う投稿が溢れている。

脳まで枯れたやつらがまた騒いでいる。

俺は菜食主義者の母親に育てられた。
今でもあの、我慢の日々を思い出すと血反吐を吐きそうになる。

その反動か、俺はいま生粋の肉食主義者だ。

肉は飽きない。
種類によって味は全く違うし、調理法によっても変化する。

想像をしていたら、腹が減ってきた。
もうすぐ、夕食の時間だ。

肉専用の冷蔵庫を開けると、中は空っぽだった。

肉を切らしたのを忘れていた。
だが、空腹まま夜を明かせそうにはない。

俺はSNSを終了し、電話を掛けた。

「もしもし、もうなくなっちまったんだ。行っていいか?」

『おう』

俺は軽トラを走らせた。


『おっせぇな、やっと来たか』

「何だよ、いきり立って」

『さぁ行くぞ』

「ちょっと待て、どこにだよ」

知り合いの肉屋は有無を言わさず、助手席に乗り込んできた。

『はい、車出してー』

俺は言うとおりに運転した。

『ちょっと狭くない?』

「お前がでかいんだよ」

こいつは身長が2メートルもある大化け物だ。
俺なんかが立ち向かっても、すぐに捻り潰されてしまうだろう。

「いいから本題はなんだよ」

『つれないなぁ』

こいつは、臭い大ため息をついた。

『いつもの助手がいなくなっちゃってさ、だから、手伝ってくれよ』

「手伝いって、何の?」

『狩り』

「狩り? 経験ねぇよそんなの」

『だいじょぶ、だいじょぶ。仕留めるのは俺がやるから。動かなくなった獲物を運んでくれさえすれば』

「まぁ、それぐらいだったら…」

空腹という代償はあまりに大きく、俺は渋々了承した。


夜の道を走ること30分。街灯の少ない郊外に出た。

『やっと着いた』

辺りは暗く、静寂に包まれている。

『じゃあ、待ってよっか』

「え?」

俺たちは3時間ほど真っ暗闇で座っていた。

『おっ、来たぞ』

男の指さす方からは、3本の光が近づいている。

『じゃあ行ってくる。近くに車回しといてよ』

「え、わ、わかったよ」


俺は森を探して、何かを抱えている男の近くに車を寄せた。

男は地面にその何かを叩きつけた。

『じゃあこれ、積んどいて』

俺は目の前の光景に思わず吐き気を催した。

『どうしたの? いつも食べてるじゃん。じゃあ、あと二つ持ってくるから、それ、よろしくね』

男は再び闇へ消えていった。
恐ろしいことに、俺の胃はこの獲物を早く寄越せと疼いていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?