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光奏でる丘(脚本)

(このお話はシナリオセンター課題を編集したものです)

 人 物
新井一(43)新聞記者
大溝貴男(8)(6)小学生
大溝幸江(32)(30)主婦
大溝秋硯(30)貴男の父、故人
愛(65)たこ焼き屋台店主
新井のお父さん

○陽だまりの丘住宅街(夜)
T・12月23日
イルミネーションでライトアップされる家々。
その中でも一際強く光を放つ一軒家。
表札には「大溝秋硯・幸江・貴男」と書かれている。
新井N「これは僕がクリスマス前夜で出会った親子の約束とそれを見守り続けた者達のお話」

○陽だまりの丘住宅街(夜)
T・12月24日
イルミネーションでライトアップされる家々。
その中でも一際強く光を放つ一軒家。
表札には「大溝秋硯・幸江・貴男」の文字。
新井N「これは僕がクリスマス前夜に出会った親子とそれを見守り続けた者のお話」

○陽だまりの丘住宅街・たこ焼き屋台前
「この道50年!」「美味しい素焼き!」とのぼりを掲げたプレハブ式のたこ焼き屋で愛(65)がせっせとたこ焼きを焼いている。
新井一(43)、一軒一軒じっくり物色しながら歩いてくる。
愛、新井を不審者を見るように観察しながら近寄り、
愛「コラ不審者!空き巣に入る家でも探してるな?年の瀬に跳んだ不届き者だ!ちょっと来なさい警察に突き出してやる!」
愛、新井の腕を強引に引っ張る。
新井「ちょっと、ちょっと待ってくださいよ!僕は家を探しているだけですから!気になってたお宅がここら辺にあるって聞いたから、探しに来てるだけですから」
愛「ほほー。予め目星はつけてあるってか、用意周到だね。しかし、私は断じて逃さない、来なさい空き巣!」
新井と愛、取っ組み合いになる。
新井「お婆さん、勘違いしてます。空き巣じゃないから、待ってくださってば!僕は大溝という方の家を探しているだけですから」
愛、首を傾げて、
愛「大溝さん?」
ランドセルを背負った大溝貴男(8)が歩いてくる。
貴男「愛バー、ただいま〜。何してるの?」
愛「お、おかえり貴坊。今悪党を捕まえてたところだよ。でもね、貴坊・・」
新井「だから違うって!ねぇボク、ここら辺に大溝さんって家はあるかい?おじさん、その家に行きたいんだ」
貴男「え?」
愛「貴坊、気をつけな!私の勘が騒いでるこいつは危険だよ!」
新井「もうさっきから・・危険なんかじゃないですから!僕、こういう者です」
新井、名刺を差し出す。
愛「中日新聞・・・・新聞記者かい!?」
新井「そうです。気になる噂を聞きつけたので取材に来たんですよ」
愛「噂?」
新井「はい。この陽だまりの丘が冬になると、どの家も綺麗にイルミネーションが施されいるの有名ですよね?その中でも一軒、「大溝」って家だけは他のどの家よりも派手と聞きました。それは果たして何故か?そこがなんか記事になりそうな予感がするんですよ!一記者としてはどうしても記事にしないわけにはいかないでしょう?だから、取材に」

貴男、力一杯握り拳を作り、
貴男「・・・ウチの導(しるべ)を馬鹿にするなッ!」
貴男、走り去る。
新井「ウチ?」
愛「・・・アンタが冷やかしたからだよ。アンタやっぱり跳んだ悪者だね」
新井「どういうことですか?」
愛「あの子の家はそんな不粋な理由で家に光を灯しておらんよ」
新井「もしかして、あの子・・・」
愛「そうじゃよ。新井さんとやら・・」
新井、貴男を追いかける。
愛「これ!まだ話は終わっとらんに!」

○横溝家(外)
玄関が開き、かごバッグを持った大溝幸江(32)が出てくる。
貴男「お母〜さ〜ん!」
幸江に向かって走って来る貴男とその後を追いかけて来る新井。
貴男、幸江に抱きつき、そのまま家に押し込もうとする。
幸江「おかえり、ああ、どうしたの貴男?」
貴男「良いから!早く中に入って!」
新井、貴男に追いつき、家に見惚れ立ち尽くす。
新井「なんだこの電飾の数・・・スゲーな・・」
家の敷地内、至るところに電飾が張り巡らされた大溝家。
新井が見惚れてる隙を突いて、新井の股間に頭突きをする貴男。
新井、蚊の鳴くような声を上げて、静かにその場に沈み込む。
幸江「ちょっと貴男!大丈夫ですか?」
新井、痛みに震えながら、苦悶の表情を浮かべる。

○横溝家・リビング(夕)
貴男、ソファに座る新井を睨んでいる。
新井、貴男を警戒しながら、股間をクッションで隠す。
幸江、新井にお茶を運んで来る。
幸江「先程はウチの子がご迷惑をお掛けしました。私も時々手に負えないぐらい腕白で」
新井「ハハハ、子供はこれぐらい元気でなきゃ」
幸江「あの・・新井さんでしたっけ?ウチに何か?」
新井「あ、あの僕新聞記者なんですけど、驚きました。横溝さんのお宅凄いですね!噂を耳にして来ましたが、僕もまさかここまでとは思いませんでした。是非取材をさせてもらえませんでしょうか?」
幸江「・・・・」
幸江、立ち上がりリビングの扉を開く。
幸江「申し訳ありません。お引き取りください」
新井「え?」
幸江「(窓の外を見て)これは導(しるべ)なんです」
新井「それ・・・さっき貴男くんも言ってましたが、導って・・・」
幸江「とにかくお帰りください」
新井、強引に幸江に出される。

○陽だまりの丘住宅街・たこ焼き屋前(夜)
愛、店仕舞いしている。
新井が残念そうにトボトボと歩いて来る。
愛「おう、空き巣。取材はできたかい?」
新井、俯きながら首を振る。

×   ×  ×

新井、俯きながらベンチに座っている。
愛、新井にたこ焼きを差し出す。
愛「今日の売れ残りだ、食べな」
新井「ありがとうございます。・・僕は何か怒らせることをしたんでしょうか?」
愛「皆が皆、囃し立てられたいわけじゃないってことだ。失くした者も追い求めてるんだよ。迎い入れたいのはあんたじゃないってことだ」
新井、愛を見上げる。
新井「どういうことですか?」
愛「二年前のクリスマスだ・・・」

○(回想)同・たこ焼き屋前
大溝貴男(6)、大溝幸江(30)、大溝秋硯(30)が仲良くたこ焼きを食べている。
愛N「あの子の父親は近所でも評判の優しい父親だった。二人からしても、心強い一家の大黒柱でね。休みの日には家族揃ってよくたこ焼きを食べに来てくれてた」
貴男「あ、たこ焼き・・・」
貴男、たこ焼きを落とし転がるたこ焼きを追い、車道に飛び出す。
車が貴男目掛けて走って来る。
秋硯、貴男のもとへ駆け寄る。

(激しい事故とサイレンの音)

○同・たこ焼き屋前(夜)
愛「私らはみんな彼の死を悲しんだ。二人もそうだ、楽しい素敵な思い出を作る日が悲劇的な日になってしまったからね。でも、秋硯さんを愛する二人は諦めなかった。毎年クリスマスが近くになると父親が迷わず帰って来れるように、また三人でクリスマスをお祝いできるようにって、どの家よりも一際強く光の導を灯すようになったんだよ」
新井、呆然と遠くで強く光る大溝家を見つめる。
愛「新聞記者さん。アンタはまだ取材を続けるかい?」

○(イメージ)新井の記憶・新井家
お父さんがクリスマスを祝いながら、頭を撫でてくれるフラッシュバック。
新井N「親父・・・」

○陽だまりの丘住宅街・たこ焼き屋前(夜)
新井「わかりました・・・」
新井、大溝家を見つめ思いに耽(ふけ)る。

○横溝家前(夜)
T・―クリスマス当日―
煌びやかにライトアップされた大溝家。
家を見上げる貴男。
貴男「お父さん、今年も待ってるよ」
貴男の頭を優しく撫でる手。
ハッとして振り返る貴男。
優しく微笑み佇む新井。
新井「光を灯すと、また一段と綺麗だな」
貴男「お前・・」
新井「ごめんな」
貴男「え?」
新井「帰って来て欲しいよな、親父さん。でもさ、こんだけ眩しいんだもん。どこから見ても一目で分かる。お父さんもきっと帰って来られるよ」
貴男、唇を噛み締め頷く。
新井、貴男にたこ焼きを差し出す。
新井「ちゃんと爪楊枝3本入れてもらったから、仲良く食えよ」
貴男「おじさん、いいの?」
新井「メリークリスマス byサンタつってな」
新井、立ち去る。
貴男、新井の背中を見て笑いかける。

おしまい。

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