見出し画像

カッコイイっしょ、俺のリフッ!?

#2000字のドラマ

○登場人物
♤俺 愛知の片田舎から夢を持って上京したバンドマン、目下売れない歴代8年目突入
♡マリ 主人公の片思いの相手。主人公と同じバイト先。主人公曰く、凄く可愛い。
♢カツジ ベーシスト。主人公とバンドを組んでいて、バイト先も同じ。
♧ケン 恋の行方を知っているバイト先の店長。



専門学校卒業と同時に愛知の片田舎から上京してきたはいいが芽が出ない歴、7年。
もうそろそろ三十路の背中も見え始めてきた。
今まで作った曲は50曲以上、ライブでウケた曲は10曲未満。
出会った人は100人以上、ファンだって応援してくれた人は30人前後。
ただし、その30人がたとえ束になってもマリちゃんには敵わない。
「シノノベ マリ」
バイト先で当時高校生だった彼女に出会って、早4年。
童顔メガネで小さいのにお胸は豊か。奥ゆかしい性格だけど、人懐っこくて甘えん坊な一面も持つ彼女は、控えめに言って100点。
そんな彼女も教員免許を取ったそうで、まもなく大学からもバイト先からも卒業してしまう。
マリちゃんみたいなメガネ美人教師が居たら、きっと学校中が飢えたハイエナ達のヨダレまみれになるだろうな。

「先輩の歌う唄、個性的で好きですよ?」
以前から何度かライブに来てくれていた彼女が俺に「好きですよ?」と告白してきた。
咄嗟のことで俺は余韻を咀嚼するばかりで何も答えられずにいた。
でもさ、俺は最近思う。上京して沢山の可愛い子を見かけてきたけど、今はもうマリちゃんを超える子はいない気がしている。
「てか、もう我慢できない!」
「あの時、返事できなくてゴメン!友人関係長引かせてゴメン!待っててくれ、マリ・・・!!」


で、今の俺。
凄くカッコイイッ。
俺を差すスポットライトに反射する汗も味方してくれてる。
ステキに俺を演出してくれてる。ここまで調子が良いと俺のボルテージも上がりっぱなし。
ランナーズ・ハイッ!!
これだから、ライブは止められない。もう麻薬!!
特別に招待した客席のマリも俺に幸せそうな笑みを溢しながら、見上げてくる。
この景色!マリの上目遣い!幸せ麻薬だな、オイッ!

「では、ここで新譜行きたいと思います。これは俺が心の支えにもなってくれている大事な人へ言いたいことを曲にしました。なんかさ面と向かって言えないって、回りくどいかもしれないけど聞いてください。『そばにいようよ』」

バラード調の弾き出し、淡いブルーの証明の中一筋だけ俺を差すスポット。
場内に浮かぶ何本ものペンライトが青く光り出す。
客席で見守るマリちゃんの期待に満ちた目。
マリちゃんを見つめる俺の唇がマイクに触れ、続くように寂しさを醸し出した声がマイクに乗っかる。

「飽きるぐらいにさ 褒め合うだけの日々を繰り返したね
 同じことしか言えない僕に 見透かしたキミは愛想笑い
 だけど、今日会える 今日会える それだけが楽しみで
 いつ会える いつ会える 確認する日々
 次こそは 明日こそは 伝えたいんだ・・・」

大きく息を吸い込んで、吐き出そうとした瞬間。
俺の頭は真っ白になった。
「歌詞・・・何だっけ?」
本日最大級にお祭り騒ぎの俺の脳内は、先程まであんだけワキあいああい
としていたのに、今は真っ白。

どうにもテンパった俺はとりあえず、物凄い甲高い声で
「ウーーーーーーーーッ」と唸ってみた。とりあえず気持ちの良い顔で。
すると、よどめきのような歓声をあげる場内とざわめき出すバンドメンバー。
妙なサンドイッチ状態でサビを何とか切り抜けた。
「今日はよ、お前ら来てくれてサンキューな!また待ってるからよ!てか、迎えにいくからよ!行きたいからよ!」
もう出てくる言葉のどれもがしっちゃかめっちゃか。
強引に締められたそのライブは不思議と観客達に些細な満足感と余韻を与えて終わった。

ライブ終了後、事前に約束をしていた俺は急いで出演者出口に向かった。
扉に丸く象られた窓にはマリちゃんの横顔が見えている。
「マリちゃーん!」
飛び出し先は俺の期待を裏切る光景だった。
マリちゃんの横に何故かいるバンドメンバーでベースドラムのカツジだった。
「カッちゃん、、じゃん?どしたー?」
「ああ、いやさマリがライブ見に来てくれたからお礼を言いに」
「(マリ、、呼び捨て?)へぇーそうなんだ」
「うん。カッちゃん、今日も良かったよ」
「カッコイイっしょ、俺のリフッ!?」
「うん、最高だった!」
「すげー、、、、仲良い感じじゃん!?」
「まぁ(笑)付き合ってるしな」

あ、今俺の頭の中でお仏壇にあるチーンッて音したわ。。

「え?もしかして知らなかった?」
「嘘でしょ?シフト被らせてたから、皆にバレてるもんだと」
「てか、お前大丈夫か?」
「え、何で泣いてるの?大丈夫?」

「俺、どうしたらイイっすかね?」
次の日、俺はバイトを辞めました。
目が真っ赤な俺を抱きしめてくれました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?