見出し画像

地方で出版社をつくる【其の二】

(この記事は静岡のフリーランスグループえでぃしずのコラムサイト(2019年10月17日付)からの転載です)

前回、売れるかどうかは別にして、とにかく出版社はできると書いた。が、個人が作った本は何冊くらい売れるのだろうか。そんな話を今回は書いてみたい。

虹霓社で刊行した初めての書籍『杉並区長日記−地方自治の先駆者・新居格』は1000部刷った。いま我が家には500冊程度の在庫がある。取次会社や書店の在庫が返品となってくる可能性はあるものの、少なくとも現時点では約500冊が我が家から旅立っていった。え? たったの500冊?! と思う方も多いと思う。

出版不況と言われている今、そもそも本はどのくらい売れるものなのだろうか。村上春樹の『騎士団長殺し』が130万部というニュースはさておき(笑)、特に虹霓社の主なジャンルである人文系書籍の世界を見てみよう。

例えば

小林:うちは、例えば人文書の中でもガチガチの哲学書や博士論文とかは、一番少ない場合500部が初版だし、それを何年もかけてようやく売り切る感じ。
下平尾:うちも初版は1000部、1500部とか。重版も最低ロットの500部、700部が多いかな。
(「小さな出版社と編集者の大きな夢:川崎昌平×下平尾直×小林浩 【前編】部数と販売方法の密接な関係」より引用)
小社から刊行する詩人の作品集がますますニッチ化しておりますがついに出ます。『薔薇色のアパリシオン 冨士原清一詩文集成』。さきほど印刷所に入稿しました。日本にシュルレアリスムをもたらしながら36歳で戦没した詩人のほぼ1巻本全集です。限定600部。
(ひとり出版社「共和国」公式Twitterより引用)
文 『レンブラントの帽子』は3000部初版で今年1月に増刷、『昔日の客』は2500部初版で増刷が2回。
文 『佐藤泰志作品集』は、初版が2000部でした。
(第49回西荻ブックマーク「吉祥寺で出版社を営むということ~アルテス、クレイン、夏葉社の場合」より引用)
部数は色々調べると分かると思いますが、今は非常に厳しいです。ニッチなテーマの本となると場合によっては1000部未満という事すらあります。
(「初めて本を書く人にお願いしている事」より引用)

以上をみれば、1000部という数字も決して楽な部数でないことがわかっていただけると思う。実際にやってみるとわかるが、300部でもなかなか苦労する。

そんな中で、最近とても刺激を受けた記事に出会った。「インディペンデントな文芸同人誌を作ってSNSで売るということ―『かわいいウルフ』製作日誌」がそれ。

知る人ぞ知るイギリスの作家ヴァージニア・ウルフのファンブックをSNS(ほぼTwitter)だけで500部(+500部増刷)を売り上げたというもの。とにかく凄い。何が凄いって、告知も販売も部数も、その熱き想いも全て凄いのである。

「自分が読みたいと思うものを作りたい」「ヴァージニア・ウルフの素晴らしさをもっと世の中に伝えたい」というところからスタートしている。ただひたすらに一生懸命、本を作り、必死で毎日Twitterをしていた結果、こうなったのだと思う。伝えたい、広めたい。ただその一心でやってきた
一連の作業を通して、本造りとその広め方を身を持って知ることができた。熱意を持って本を作り、誠意を持ってSNSで宣伝をすれば、自ずと人は集まり、本は売れる、ということを体験できた
(2つとも上記記事より引用)

個人で本を作る人、特に地方に住みながらモノを作ってる人にはとても参考になるし、何より勇気をもらえる。絶対に読んでほしいと思う。かくいう私も、なかなか東京の書店に営業に行けず、それを売れない理由にしていたが、そんなのは言い訳にすぎないとのだと痛感した。売れないとすれば、テーマがニッチすぎるか(これも大いにあるが…)、伝える想いが足りないかだ。まだまだやれることはたくさんある。

*下記も少し古い記事だが、かつてとても参考にさせていただいた。移住系の記事でご存知の方も多いかも。
ほぼ自己メディアで1000冊完売「リトルプレスを自力で作って売るには?私の方法まとめ」(ブログ:ヒビノケイコの日々。人生は自分でデザインする。)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?