06 蘇芳
都心にマンションを買った。
車はもちろん外車、フェラーリだぜ!
「くくくく……はははは! すげぇ、すげぇよ!」
家具はもちろん新しいものばかり。全部、全部、全部! ブランド物ばかり買いそろえた。
換金するのに少々時間がかかった。身分証明書が必要で、数日かかるとは思ってなかった。その間、俺はコンビニの裏に捨てられる、賞味期限切れの弁当をあさって、ホームレス同然の生活を強いられたが、後に来る金持ち生活が楽しみで、ちっとも苦にならなかった。
だって俺は億万長者だぜ?
もう裸足で歩くことだってないし、借金なんてとっくに返済してやったさ!
フェラーリに乗って、ブランド物のスーツを着てさ、借金取りの事務所に向かった。それでまだ帯のかかった新札の束を、投げつけてやったあのときったら!
人生最大の快感だったぜ!
そうだな、海外旅行に行こうか?
世界一周してみるのも悪くない。
いや、まてよ……金が手に入ったんだし、次は女だ。
俺はモテた試しがない。しかしこれだけ金があるんだ。女なんていくらでも自由になるはずだ。
銀座に飲みに行こう!
一番高い店で一番高い酒を飲んで、それで一番いい女を捕まえてやる。
俺はダイニングのソファーに座った。そこには伊豆蔵人形の蘇芳が置いてあった。
「全部おまえのおかげだぜ、感謝する。本当にありがとな」
両手で掴んで蘇芳の頭にキスをする。不気味な光景だろうが、どうせ誰も見ちゃいない。
「おまえが来てから何もかもうまくいってるよ。後は彼女作って、それから会社を作ろう。なんの会社がいいかな……そうだ、俺はゲームが好きなんだ。こっち来てから全然やってねぇけど。ファースト・ファンタジーやスネーク・クエストとか、エンジェル・メイ・クライとかさ! あれよりおもしれぇゲーム作れる会社にしよう!」
なんたって金がある。全部できる。今の俺にはできないはずがない。
俺は蘇芳の頭を撫でて、ソファーに置いた。
さぁ、今夜は銀座に繰り出そう。
テーブルの上のフェラーリのキーを手にし、俺は立ち上がった。窓の外はそろそろ夕闇が迫る頃だ。
俺は上機嫌のまま、マンションを後にした。
銀座中央通りは渋滞していて、少々俺をイラだたせたが、そのまま高級ホテルに向かった。今の俺ならスイートルームにだって泊まれる。今夜は飲み明かすつもりだったし、気に入った女を連れ込むためだ。
車を預けてそこからはタクシーで向かう。適当なところで下ろしてもらって、高そうだと思った店に適当に入った。
以前の俺なら店先に来ただけで、追い払われそうな店だ。でも見ろよ?
前の俺のままならば、ゴキブリを見る目付きだっただろうに、ボーイは丁寧に頭を下げる。これがブランドの威力ってやつだろうか?
店内に広がるのは高級感溢れるインテリア。
極上の女達が笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ」
ははは、こりゃ気分がいい!
俺は殊更偉そうにソファーに座った。隣に二人の美人の女の子が座る。
「ドンペリ持ってこいよ。あとはこの店で一番いい酒を持ってこい」
あぁ、なんて気分がいいんだ!
やっぱり金だよ、金!
世の中全部金次第だ!
「アユです! かわいがってくださいネ?」
瞳の大きなかわいい子だ。さりげなく俺の腕を抱きしめる。柔らかい胸が腕に当たって、ドキドキする。
「あーん、ずるいアユちゃん。あたしはユリアです。アユちゃんだけじゃなくて、ユリアもかわいがって?」
俺の手を掴んで自分の膝の上に置く。その上でアユ同様、俺の腕を抱きしめるようにするもんだから、デカい胸にぎゅうぎゅうと押しつけられる。
「二人ともかわいいね。いくつ?」
「二十歳です」
「二十一歳です」
年上か……
だって俺は高卒だぜ?まだ十九歳だ。飲酒は法律上違反だが、誰だって飲んでいるだろ?
それに今の俺には金があるんだから!
ボーイが恭しい手つきでドンペリを運んできた。グラスが用意されて、丁寧にグラスに注ぐ。
それぞれにグラスを手にして乾杯する。
「乾杯」
グラスの奏でる心地好い音。
最高だ。
正直酒の味なんてわからなかった。ドンペリ、ドンペリっていうけれど、うまいのかどうかよくわからない。ま、こんなものなんだろう。
その後も高い酒はどんどん運ばれて、あまりの羽振りのよさに金を心配したのか、ママが出てきた。俺は財布の札束を見せて安心させて、再びがんがんと飲み始めた。
酩酊が心地好くて、とにかく気分がよかった。
二時間は居座り飲み続け、まぁ、こうなりゃトイレも近くなる。
用を済ませて手を洗っていると、隣に別の男が並んで手を洗っていた。
「随分景気がいいですね」
結構派手に騒いでいたから、気になったのだろう。一晩だけで、しかも俺一人でもう三百万近くは使っているもんな。
「まぁね」
景気がいいなんてものじゃないぜ?人生のバブルだ。ダンヒルのスーツ着て、ヴェルサーチのアクセサリーつけてさ。フェラーリ乗り回して、高級マンションに住んで、酔い潰れたら高級ホテルのスイートルームさ。最高に景気がいいよ!
「何をしている方なんですか? あぁ、その不躾ですが、随分お若いのにと思いまして」
あまりの羽振りよさに、そう思うのも無理はない。しかし今のところ無職だ。だからこれからしようと思っていることを口にする。
「新しく事業を始めたいと思っているところさ。ゲーム関連の会社でも作ろうと思っていてね」
「ゲーム……奇遇ですねぇ。実は自分、株式会社フェニックス・カンパニーの伊東と申します。ゲーム監督していまして、あの、知っていますか? ファースト・ファンタジーっていうシリーズ」
「知ってる! 俺、全部のシリーズをクリアしたから!」
すげぇ! これってすごくない?
ファースト・ファンタジーの壮大な物語はもちろん、グラフィックのきれいさは他のメーカーを寄せ付けない。そしてあのリアルな動作も。
そんなゲームを作っている会社の、ゲーム監督に偶然会えるってすげぇよな?
「!」
でもいくらなんでもできすぎじゃねぇか? だって俺は……さっき思いついたばっかりなんだぜ?
これって……偶然か?
違う、蘇芳だ!
そうだ出がけに俺は蘇芳に言ったじゃないか。彼女作って、ゲームの会社作るってさ! ということは……蘇芳は何度でも願いを叶えてくれるのか?
そうだよな、そうなんだよな!
でも西園寺は二回だけって……わかった、あいつはケチなんだ。だから二回だけって言って……いいじゃねぇか、何度も願いを叶えてくれるなら、そのほうがさぁ!
「うれしいですねぇ。実は仲間とも来ているんです。向こうで一緒に話しませんか?」
俺は一も二もなくうなずいた。
だって俺の夢が次々に叶っていくんだぜ? この調子でがんがん金儲けしよう。
最高だ、金の力は。
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