マガジンのカバー画像

Set Freeter 2

37
セットフリーターの仕事なんて、絶対にお断りだ! 僕は平和に平凡な生活を満喫するんだ。そう言い張って美佐子さんに抵抗した僕だけど、その平和の象徴である学校で僕は事件に巻き込まれてし… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

36 さよなら、僕の平和な日々よ

「だから言いたくなかったんだよ……」  ぼそりと呟く僕の肩を、稲元が揺さぶった。僕は揺さぶられるままに、焼きそばロールに齧りついた。 「ど、どうして言わなかったんだよ!」  稲元の視線が僕を責める。僕は視線の非難を受け止めたまま、ウンザリとしたように深い溜め息をもらした。 「言っただろ、三十過ぎていて高校生の子供がいるってさ……」  僕は一気に疲れた。僕は動揺を隠せない稲元を無視して、焼きそばロールも平らげた。欲を言えばまだまだ食べられそうだったが、稲元も食ってないんだ。後は

35 さよなら、僕の平和な日々よ

「誰?」 「誰に向かってそんな口聞いているのよ?」  こんな憎まれ口叩くのは美佐子さんしかいない。僕はドアのロックを外してドアを開けた。 「ほら、ご褒美よ」  美佐子さんが僕に手渡した物は、コンビニの白いビニールに入った食料だ。見た途端に猛烈に腹が減ってきた。そうだ、僕夕飯も食べてないんだった。 「珍しく気が利くじゃん」  つい本音を漏らしたのは、疲労で僕の注意力が散漫になっていたせい。おかげで後頭部を叩かれた。 「ったいな!」  後頭部を押さえて振り返る。美佐子さんは不機嫌

34 さよなら、僕の平和な日々よ

 時刻は午前三時。まだ暗いが、東の空にやや明かりが射して来ていた。疲労困憊の僕と稲元は、それぞれホテルのツインルームのベッドに大の字になって寝転んでいた。  眠気は確かにあったけれど、あんなことがあった後じゃ、素直に睡魔に身を委ねられない。微妙な空気に満たされていて、僕としては肩身が狭い。 「助かってよかったじゃん、じゃ、だめだよなぁ……」  疲れきっていてもう言い訳すら、僕には思いつかない。 「……まぁな」  あれから大林さんは犯人を拘束した。携帯で大林さんは仲間を呼び、こ

41 スカイ・ロード

「そのエースを今俺たちは独り占めしているんだぜ。それも複座に載っているみたいにさ、機体をガンガン動かしてくれる。エースがどんな風に飛ぶのか自分の体で体験できる。またおまえがFCOSに載っている時は、俺は中佐と戦える。本当にこの時期にここにいてよかったよ。フランツの悪いところは、そういう貴重な体験を自分の反発心で棒に振るってところだな。いつでもやれると思ったか? このテスト自体が最初で最後かもしれないんだぜ」 「え?」  思わず声を上げると、オラーシオは苦笑しながらビールのジョ

有料
100

33 さよなら、僕の平和な日々よ

 僕は稲元目がけてネジを投げつけた。頼む、外れるな! 「誰だ!」  犯人が今の物音に対して警戒するように叫んだ。稲元もつられたように物音の方向に目を向けていた。その横顔にネジがヒット! 稲元は驚いたように僕のいる方向を見た! (騒ぐな!)  僕は口もとに指を当てて、稲元に声を出さないように指示する。稲元は危うく声を出すところだったらしく、口をあんぐりとあけた後、慌てて口をつぐんだ。 「こっちか!」  まっずーい! 僕のほうに顔を向けた!  僕は機械の山に身を隠したが、逃げ場が

32 さよなら、僕の平和な日々よ

 大林さんが歩き出したので、僕もそれに続いて歩く。廃工場地帯の廃れた陰鬱とした空気が、肌にねっとりと絡みつくような気がした。  しばらく行くと大林さんは立ち止まり、僕の方を見ながら建物を指さした。ここなのだろう。  ガラスというガラスが割れている。どこかの暇な悪ガキどもが、いい気になって憂さ晴らしでもしたのだろう。中は当然真っ暗だ。  大林さんが足もとを指さした。一瞬ここにいろっていうこと? と思ったが、どうやらガラスが落ちているので、足音を立てるなということらしい。  気を

31 さよなら、僕の平和な日々よ

「携帯の電源は切って。時間がないのは理解してもらえているわね?」 「まぁ……でも僕は一応普通の高校生なんですけど?」  確かに美佐子さんは非凡だし、状況も非常識なものだけど、僕自身は一般人なんだけど。 「あら、そのわりには平然としているじゃない?」  大林さんはくすりと笑った。年上ながら、笑顔は魅力的。 「美佐子さんが普通じゃないから、普通じゃない人に慣れているだけで、僕は平凡な人間です」  つまりはそういうとこだ。今の僕の感覚は麻痺してしまっているのだろう。だからといって同

30 さよなら、僕の平和な日々よ

 もちろん、犯罪を犯罪と認識して犯しているわけだから、告発されるのは避けたいだろう。だが、避けるために何の罪もない高校生を誘拐し、さらに人を一人撃ったりするだろうか? そこまでして告発されたくない理由の背後に、いったい何があるのだろうか?  バイクは夜道を疾走する。振り落とされないようにしがみつきながら、それでもこんなことを考えている僕は、案外天然なのだろうか? 「このままなの?」  大林さんが叫ぶ。僕は手にしているGPS発進機に目を落とす。真っ直ぐ走ってはいるが、スピードを

29 さよなら、僕の平和な日々よ

 警察関係者ではないとしても、政府に関わっている?  では政府関係者だとして、なぜ稲元の誘拐のことを知っていて、美佐子さんと関わっているのだろうか?  まず、稲元のじいちゃんの線から絡んでいるんだろう。  政府が動くだけの収賄って……  赤翼会がただの左翼じゃないって事? 「あら、何考えているのかしら?」 「えぇっ?」  いきなり僕はすっと顎を撫でられた。明らかに僕の反応を楽しんでいらっしゃる様子。 「美佐子にあまり似てないのね」 「はっ……そ、そうですか」  まじまじと見つ

28 さよなら、僕の平和な日々よ

 もうすぐで車というところまで来て、その車の影から人影が踊り出た。それに気付いた瞬間には、その人物は僕と美佐子さんに襲いかかった。美佐子さんは腕でガードしたが、その人物の蹴りをくらって地面に投げ出された。 「美…っ!」  僕が美佐子さんに気を取られた次の瞬間、今度は僕に向かって上段の回し蹴りが飛んできた。  早い!  攻撃をかわせないと読んだ僕は、腕でガードしながら蹴り出された方向にわざと跳んだ。 「っ!」  腕がびりびりとする程の重く鋭い蹴りだ! 「えっ!」  しかも!  

27 さよなら、僕の平和な日々よ

  ふいに足音がしたので、僕は気絶した男をそのままに手すりに隠れた。 「ちょっと、このままにしておかないでよ」  美佐子さんの肉声のぼやきに、僕は手すりから身を乗り出した。 「たった今倒したんだもの。そしたら足音したんで隠れたの。ところが美佐子さんだったってわけ。ちょっとくらい待ってよ」  僕は気絶した男に近づくと、ガムテープでぐるぐる巻にしはじめた。美佐子さんも手伝ってくれたので、案外手早く男をみの虫三号にできた。 「で、残るは?」 「あんたの言う校長室でしょ? 一緒に来な

26 さよなら、僕の平和な日々よ

 廊下の角で様子を伺うと、職員室を出てこちらに向かってきた。  僕はしゃがみ込んで身を潜めて相手を待つ。ふと思い出したかのように、美佐子さんから預かったリュックを床に置いて、中から唐辛子スプレーを取り出し、ポケットに入れた。 右手にはコンドーム風船、左手にはチョーク制のダーツの矢だ。  いよいよ男の足音が最接近を告げた。僕は身を乗り出し、コンドーム風船を投げつける。 「わっ……はぁ?」  男は一瞬驚き、それから頼りなく宙を滑るコンドーム風船に呆気に取られた。僕は男の反応に構わ

25 さよなら、僕の平和な日々よ

 中庭の短い距離が、やけに長く感じた。行きは敵の現在地を確認できても、帰りは死角になるためにそれができない。それがプレッシャーになり、心臓を圧迫する。 「っっ!」  ドアを閉めてきたことに少し後悔しながら、僕はやっとの思いでドアの内側へと体を滑り込ませる。反射的に額を手の甲で拭い、それからポケットに入れた配電版の鍵を取り出す。  鍵を差し込み、扉を開ける。中にはいくつもランプがあり、そして大きなブレーカーレバーが四つあった。 「美佐子さん、電源落とすよ」  マイクを意識しなが

24 さよなら、僕の平和な日々よ

 平和という名の世界に生きるか、美佐子さんに引きずられるまま、アンダーグランドな世界に生きるか。 「美佐子さん……聞きたいことが色々あるんだけど、答えてくれる気はある?」 「質問によるわね」  その答えによって、僕の今後の身の振り方が決まってしまう。急にそれを意識すると、逆に聞きたいことが喉の奥で止まってしまった。  美佐子さんの視線が僕に真っ直ぐに注がれている。  今ならいつものようにはぐらかさない、そんな雰囲気だ。それなのに僕ときたら、逆に怖くなって聞きたいことを口に出せ