見出し画像

フランス料理の技術力。

どんな料理を作るにも技術というものが必要になります。

ここ最近僕はミスチの人として見られることが多いのですが、それはこの2年のことだけで、それまでは当たり前ですが料理人として10数年働いて来ているので、僕は完全な技術屋です。

それは料理でもケーキでも変わりなく素材をどのように調理して変化させるか、という一点に絞って技術が使われています。

料理とは誰でもできます。なので技術の差というものが比較的見えにくいものです。技術にプラスして食材というものがその判断を難しくしている要因でもあります。技術がなくとも食材の力でカバーできてしまうからです。特に料理の場合はそれが顕著に現れます。

僕は今までMr. CHEESECAKEの調理技術の深い話はして来ていません。それはそのこと自体が美味しさに直結するわけではない、とう僕の考えのもとです。

素材が良ければ美味しい、技術があれば美味しい。これは前提として美味しくなる可能性が上がるだけであり、美味しくなると同義ではありません。

世界最高級の食材があったとしても、それを調理する人が素人なら美味しくなるかどうかは確証がありません。同じように技術がある人が作るものが美味しくなるか?もまた確証はありません。それは技術と味覚はイコールではないからです。

美味しさ>>>>>>>>>>>>>食材>>>>技術。

このくらい技術より食材より成果としての美味しさが重要です。

ただ、美味しさを突き詰める上で食材よりも重要になってくるのが技術だと僕は感じています。(矛盾していますが)

これは選ぶフィールドでも変わって来ますが、この技術の話を今日はしたいと思っています。



フランス料理の技術が世界一



たいそうな題名をつけました。でもこれは正しい認識だと僕は考えています。今世界中のガストロノミーと呼ばれる料理の基礎はフランス料理が軸になっています。派生があり変化はありつつも根本にはフランス料理があり、その礎の上に全てが成り立っている。

調理にも足し引きがあります。日本料理は圧倒的に引きの料理。それは独自のもので、素晴らしい食材があり、素晴らしい手当のある日本だからこそ育まれた文化でしょう。

世界の料理の進化は足すことで生まれて来ました。状態の悪い素材を少しでも保存し、美味しく食べるためにスパイスを使うようになり、素材をマスキングするという調理が生まれた。硬くて食べれないものを食べるために長時間煮込むような工夫がされた。

いかに工夫して食べれるようにするか?という試行錯誤が料理を進化させています。(日本料理にもこの概念はあります)

その中でも特にフランス料理において重要なのは乳化です。(これは師匠からの受け売りです)

乳化とは水と油のように本来はまじりあわないものが、混じり合う現象のことを指します。詳しくはこのブログを見てください。

簡潔に言えば

・舌触りが良くなる
・均一な状態に仕上がる
・状態が安定する

この3つが重要な要素です。

フランス料理で大切なのはソースだと言われています。(近年変化はありますが)ソースとは出汁(水分)と旨味(油脂分)を乳化させて濃度がついた状態のものが良いとされています。

これは味を感じやすくする効果やソースとして他の食材と絡みやすくするなど、必須の条件です。イタリア料理のパスタのソースも同じ理由で乳化が重要です。

フランス料理はポジションが明確に分かれており、ソーシエ(ソースを作る人)は重要なポジションでした。この乳化という作用を理解して技術がないとできないポジションです。今では簡易的なソースが増えたため、乳化を本当の意味で理解している料理人は減っているかもしれませんが。



乳化の技術



ソースを乳化させる手段はいくつかあり、小麦粉を使ってつなぐ方法や、バターなどの乳化している食材を加えてつなぐ方法、卵黄の力や、野菜のピュレなどを使うものなど、時代と共に変化と進化をしています。

身近なものだとマヨネーズが一番わかりやすい例です。酢と油という混ざらないものを卵黄の力で乳化させたのがマヨネーズです。

卵黄にはレシチンという成分があり、乳化促進や離水防止の効果があり、その力が水と油を乳化させます。乳化していなければマヨネーズというモノにならずただバラバラに存在しているだけで味の感じ方も違います。この相反する食材を一体化して食感を滑らかにするのが乳化という作用なのです。

他にもバターも乳化している食材で、油脂分の中に水分が溶け込んだ状態です。なので、水分と油脂分のあるモノと合わせることで乳化の促進剤として効果を発揮します。

混ざり合わないものを1つにすることで味の感じ方を変え滑らかさを与える

特に油脂は旨味が強いのですが、温度が上がり溶けているとそれを口に入れることが難しかったりします。油脂分を嫌い意図的に避けられることもある。それを乳化によって美味しく感じやすい状態にするというのも大きな理由です。

また、状態が安定することから変化に対しても強くなります。ただ混ざり合っているだけではなく、ほぼ完全に同一の状態になっていることがそれを可能にします。これが乳化しているように見えているだけだと、状態の変化に対応できず、分離や離水を起こし、状態が変化してしまう。これは焼きすぎた肉のように、タンパク質内の水分が細胞破壊によって流出してしまう現象と似ています。

大切な美味しさの水分が外部へと流出してしまう。これが起こるとボソボソして食感が悪くなる、水分量の減少により本来感じるはずの旨味が感じられないなどの現象が起きます。

素材の分量や温度管理、攪拌具合など、複数の条件が考えられる乳化という作業はとても繊細で複雑で難しい状態です。プロの料理人でもこの見極めがハイレベルでできる人はそう多くないと思います。

だからこそフランス料理は乳化だ、と師匠は教えてくれたのだと思います。



料理よりもお菓子に重要な乳化


料理の話から乳化を説明して来ましたが、料理以上に製菓の方が乳化に対してシビアです。それは生地作りもそうですが、クリームやチョコレート、ほぼ全てのモノに対して乳化の判断が必要とされるからです。

砂糖、小麦粉、卵、バターをベースに、生クリームや牛乳などの水分を使う。生地のほとんどにバターを使うことからも、乳化している状態を保ち続ける事を前提に生地作りは進みます。温度変化や水分量の調整を細かく行わなければ生地はすぐに分離してしまい、分離後のものを元に戻すのは至難の技です。

水分が入れば入るほど生地の安定性は下がり、温度が下がりすぎればバターの油脂分が凝固し始めて分離の危険性が上がる。生クリームなどの油脂分が多いものは撹拌過多でも分離するので、温度、状態、タイミングに気を張らなければいけません。

小麦粉は水分を吸うので、生地を撹拌している最中は生地を安定させることに貢献してくれます。しかしその状態を乳化と勘違いしてしまうと焼成後の変化に気づけません。特にその商品を冷凍した後の状態の変化は顕著に現れます。

生地に小麦粉が入ると乳化したように見える。これはわかる人がしっかり見れば判別できるのですが、とても難しい判断です。小麦粉によって一時的に生地がまとまって見えることがあるからです。

まとまっている、乳化しているように見えるだけなので、焼成中に乳化しきれていない油脂分が加熱により融解して生地が形成される前に流出します。そうなってしまえば後から何をしても美味しくはできません。

また外に流出せず保たれたとしても、冷やす過程で分離している油脂はザラザラした食感として残り、水分は止まりきれず離水します。

また小麦粉は焼成に必要な温度も高めです。他のでんぷん質のものよりも温度が高いということは、一緒に加熱する他の素材への温度の影響もあるということです。



Mr. CHEESECAKEに込められた技術とは


ここからはMr. CHEESECAKEに込められた技術の話です。ここまでのお話でお気付きだと思いますが乳化です。今までは香りの話にフォーカスきてきましたが、一番の差別化のポイントは乳化なのです。

当たり前ですがチーズケーキは乳製品がその大半を占めています。クリームチーズ、サワークリーム。それぞれが乳化した食材なので、乳化しやすいのは当たり前なのですが、ここにその他の食材が入ることで乳化がしにくくなります。

同じ乳製品でも生クリームやヨーグルトは水分が多く、保形性が低い(生クリームはそもそも保形してない)ため、加えれば加えるほど乳化した状態からは遠くなる。

一般的なチーズケーキの場合、クリームチーズ、砂糖、卵、薄力粉、生クリーム、レモンという材料で、全卵と粉の力で固めるので、表現としてはパンに近い。(個人的な感覚かもですが)

乳化させる必要はありますが、乳化作用だけで作っているわけではありません。小麦粉と全卵(特に卵白)の力に頼る部分が大きいからです。

Mr. CHEESECAKEは小麦粉を使っていません。使うことで食感が変わってしまうこと、冷凍による状態の劣化を感じているからです。そして小麦粉の作用に頼らなくとも、生地を乳化させる事で状態を保つすべがあるからです。

Mr. CHEESECAKEの原材料は
クリームチーズ、サワークリーム、ヨーグルト、生クリーム、ホワイトチョコレート、グラニュー糖、卵黄、レモンジュース、バニラ、トンカ豆、コーンスターチ、乳化剤(一部に卵、乳、大豆を含む)

このうちの乳化剤はホワイトチョコに含まれるため、僕たちは加えていません。この原材料の中で乳化のキーポイントになるのはホワイトチョコ、卵黄、レモンジュースです。その補佐的役割としてコーンスターチを少量加えます。


ホワイトチョコ


ホワイトチョコはそれ自体が乳化している材料です。カカオバターに材料を加えてチョコレートに仕上げています。ホワイトチョコは融点が低く状態を安定させるのが難しいですが、溶かす温度を間違えなければ乳化を助けてくれます。

生地の乳化を促進するとともに、冷えると凝固する力を利用して小麦粉などの不純物(ここでは乳化に必要ないと考えているので)を限りなく少なくします。

カカオバターの油脂のうまさも加わるので、単純に乳製品で作るよりも美味しさが増すのもホワイトチョコを使う理由です。


卵黄


全卵ではなく卵黄です。全卵の場合、水分量の多い卵白が入ってしまい味が薄まる原因になるのと、卵白のタンパク質が冷凍に弱いので不必要だからです。

卵は卵黄と卵白でかなり性質が違います。乳化に必要なのは圧倒的に卵黄で、レシチンという成分が乳化を促進するのと卵黄の油脂分が旨味を与えてくれます。

更に卵黄に熱凝固作用が乳化した生地の安定性を高めます。

ただ卵黄は味が強いので、レシピによっては分量の調整が必要です。単純に加えればいいというものではなく、全体の相性を考えながら分量を調整します。


レモンジュース


レモンは直接乳化に関わるというよりは、乳製品に加える事で濃度がでます。乳たん白質の凝固作用から濃度が出ます。

レモンは酸味を足すという理由のほかに、乳たんぱく質の凝固作用から濃度をつけて乳化を促進するというものです。

ただレモンも水分なので加えすぎるのは厳禁です。味のバランスと乳化のバランスを鑑みながら調整します。

生クリームにレモンジュースを加えると立ちが良くなるのですが、同じ原理で加えるものです。


ケーキ自体焼く前はほぼ液体です。(写真参考)

画像1

このように流動性が高くても乳化と加熱、冷却による凝固作用でギリギリの食感を作ります。

また、コーンスターチを使う理由は小麦粉のようにグルテンはなく、加熱による凝固開始温度が小麦粉より低い、そして凝固の質が柔らかく穏やかだからです。

片栗粉でもなく小麦粉でもなくコーンスターチ。様々な材料を検証した結果です。(でも試作自体はそこまでしていません)



乳化を見極める


素材が揃っていれば乳化がされるわけではありません。それぞれの食材は当たり前ですが状態が違います。季節で乳製品の味も変わりますし、1パックとて同じものはありません。

使用するときの温度や混ぜるときの温度、混ぜる順番、材料を加えるごとの状態の変化に気を配り、異変に気付けるか。

新しいフレーバーを作る中で水分量が増えたときの調整や味のバランスを取ることも、全体の香りのバランスを取ることも繊細な作業です。

焼き色をどこまでつけるのか、加熱による水分蒸発をどこまで許容するのかなど、乳化した後の調整も複雑です。しかしこの辺りのことはお客様には正直関係ありません。技術を謳ったところで美味しさは変わらない(と思っている)からです。

しかし、似たようなブランドが増え、安易な模倣が増えるのは当たり前のことですが、同列にされたくはありません。

たかがチーズケーキかもしれませんが、そこには僕がフランス料理を真剣に学んできた知識と技術が詰まっています。うわべだけでは絶対に真似できない技術があると自信を持って言えます。(ただそれがお客様が美味しいと思うかどうかは別問題)

僕はあくまでも技術者です。コミニケーションや表現の仕方は変えても調理を科学する技術者なのです。

美味しいを科学して、人に美味しいと感じてもらうためにできることはなんなのか?を考えています。

技術はあくまでもツールです。しかしその技術があるからこそ生み出せる感動や衝撃があると思っています。

そしてそれをスタッフへも共有し、更に素晴らしい体験をお届けできるように努めます。


今回は乳化の話について深掘りしてみました。また機会があれば技術の話はしたいと思いますが、そんなことよりも美味しいと感じていただければ僕もスタッフも心底嬉しいです。

今後もMr. CHEESECAKEをよろしくお願いいたします!


皆様の優しさに救われてます泣