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「陰翳礼讃」型都市づくりを

                         黄 文葦

 22年前、私は留学生として中国から日本にやってきた。以来、ずっと暮らしているが、日本の夜の明るさにはいまだになれない。中国人の家では部分照明で部屋がちょっと暗いのに対し、日本人の家では、部屋を全体照明にする。どうやら日中両国では「照明文化」が違うらしい。

 この数年、エネルギー問題がますます深刻になり、電力需給逼迫警報とか、計画停電とか、以前には特別だったことが頻繁に発生してしまう可能性が出てきた。しかし、東京の夜の街は依然として昼のように明るい。駅前のロータリーには、カラフルな電飾がひしめき、まばゆい自動販売機が林立する。商業施設やホテルの内部はまさに光の洪水だ。

  谷崎潤一郎は名作『陰翳礼讃』の中で、日本家屋のトイレ、燭台や漆器など、日常生活における具体例を多く挙げ、日本ならでの「陰翳の美学」として、建物とモノが生み出す影のような波紋や明暗の美しさを称えている。

  SDGsの17目標の一つが、「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」であることを考えると、谷崎潤一郎はSDGsを予見していたかのように見えてくる。であるならば、現代の私たちは、「陰翳礼讃」を目指してはどうだろうか。

 莫大な電力で世の中を明るく照らし出すことが文明の繁栄を象徴する時代が終わった。すでに成熟期に入っている日本は、伝統文化や美徳の振興に立ち返るべきだ。

 現在でも、日本中に、陰翳の美が見られるところがある。先だって京都を旅した私は改めて目を瞠った。夜の祇園花見小路では、朧げな灯りが夜の石畳を柔らかく照らし、店前の灯篭がそよ風に揺れている。そこを舞妓さんたちが細い足取りで歩いていく。また、神社仏閣や庭園で催されている薪能の、夜の暗闇とかがり火が織りなす幻想的な舞台には息を吞んでしまった。

 SDGsと未来のために、まずは日本が率先して照明のあり方を見直し、「陰翳礼讃」型都市づくりを世界に発信できたら素晴らしいと思う。
                       2022年9月18日

              (「文藝春秋SDGsエッセイ大賞」応募)

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