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【ジョジョnote】第5部考察 構成編 パッショーネのボス その① ソリッド・ナーゾ

目次
ジョジョnote

前回
構成編 ブチャラティ・チーム その⑥ フーゴとトリッシュ

さて、ブチャラティ・チームを考察したあとは、
いよいよ大物であるボス、ドッピオ、そしてディアボロについて、
キャラクター構成という観点から考察したい。

このキャラクターは物語序盤から終盤にかけて、
最もキャラクターの描写が変化しているため、
物語の登場順に考察していく。

3-1. 「ソリッド・ナーゾ」は何を意味するのか?
[信頼度: B (それっぽい! 推測)]


パッショーネのボスが劇中で初めて描かれるのは、
「ブチャラティ幹部;ボスからの第一指令」
(コミックス 50巻、文庫版 31巻)である。
シーンとしては、ポルポの遺産をペリーコロさんに渡すことで、
ブチャラティが幹部に昇進した時に、
同時にトリッシュ護衛の命令を受けた時だ。

その時のペリーコロさんの説明は以下の通りである。

2ヶ月ほど前の事じゃ
カラブリアって町の病院で
ドナテラって名の女が病気で死亡した

ドナテラは死ぬ何日か前に
ソリッド・ナーゾという名の男を
急に人に捜させ始めた…

『わたしはもうすぐ死ぬ…
昔…短い間…付き合った男が
今…どこで何をしているのか捜したい…』
そう思ったわけだ

ドナテラにはひとりの娘がいて
それは娘のためだったんだ(太字部分は漫画で強調)
『ひとり残される娘のために 父親を捜してやりたい』

だが……
いっこうに見つからない

それも そのはずじゃ
ナーゾなんて名の男は 存在 しないのじゃからな……

ボスが使った事のある偽名だったんじゃ

ボスは若い頃から偽名を使っていて
正体を決して明かさない男だった…
まさか 昔 短い間 付き合った男が
今…ギャングのボスをやってるなんて
女は夢にも思わないで人生を送って来たろう…

「ブチャラティ幹部;ボスからの第一指令」コミックス 50巻、文庫版 31巻 より

なんでわざわざペリーコロさんの話を書いたかと言うと、
「あれ?そんな話あったっけ?」という方の補助資料という点と、
ペリーコロさんがはっきりと「偽名」と言っていることを押さえるためだ。

ジョジョの考察というか、二次創作的な世界では、
「ソリッド・ナーゾはボスの第3の人格だ!」という話も見かけたりする。
二次創作的な考え方の1つとしては面白いとも思うが、
ソリッド・ナーゾの件ばかりは賛成しかねる。

なぜなら、「ソリッド・ナーゾ」という言葉の意味の裏には、
はっきりと「偽名」というニュアンスが含まれているからだ。


↑こちらがその答えである。

ソリッド・ナーゾ(Solido Naso)とは、イタリア語で次のような意味になる。
Solido:堅い・固形の
Naso:鼻
つまり、Solido Nasoとは、「堅い鼻」を意味する。

「堅い鼻」…と聞けば、すぐに連想されるキャラクターがいる。
そう、ピノキオだ。

ピノキオは第6部のボヘミアン・ラプソディー戦でも登場しており、
ジョジョとは浅からぬ縁がある。

その大元となる物語は
1880年頃に作られた「ピノッキオの冒険」という児童文学作品である。
そして、この作者であるカルロ・コッローディはフィレンツェ出身であり、
ピノキオというキャラクター・作品はイタリアと極めて縁が深いのだ。

つまり、ソリッド・ナーゾという名前が意味するところは、
「堅い鼻」=「ピノキオ」=「嘘つき」
ということになり、
ソリッド・ナーゾと名乗る時点で、
「私は嘘をついていますよ」=「偽名を使っていますよ」

という宣言になるのだ。


3-2. 「ボス」はネクタイを着けている
[信頼度: B (それっぽい! 推測)]


「ブチャラティ幹部;ボスからの第一指令」コミックス 50巻、文庫版 31巻 より

さて、先程のソリッド・ナーゾという偽名と同じ回では、
「ボス」のシルエットも描かれている。

前回のフーゴの考察で少し触れたが、
ネクタイとは「縦方向に走る線として、身体を左右に分離する」演出になる。
そして、フーゴ以外にもう1人ネクタイを着用する人がいる。
と述べていた。
それが「ボス」だ。

第5部という物語がどのように進むかを知っている読者にとっては、
「ボス」=「ディアボロ」=二重人格者、ということはあまりにも当たり前だが、
実は初登場の時点で、既に二重人格者であることをほのめかされていた、
と知っている人は少ないだろう。
(あくまで、ネクタイ=人格の分離を表すという推測が正しければ、ですが)

このような演出を意図していたために、
あえて他の主要キャラクターにはネクタイを着用させなかったと推測される。

よく考えてみると、主要キャラクターでもう1人、
ネクタイを着けている人がいた。
それはペリーコロさん…なのだが。
初登場時は清掃作業の服装をしていて、そちらの印象が強い。
ネクタイを着けているのは2度目の登場時なのだが、
そのシーンが問題なのだ。

これは、メローネ戦の後の「ヴェネツィアへ向かえ!」という回で、
ボスの指令でムーディー・ブルースを再生したときのこと。
ヴェネツィアの彫刻内のOA-DISKを隠したことを伝えるために、
ペリーコロさんが亀の中で独り言を放ち、拳銃で自殺する。

このシーンを普通に見れば、「ペリーコロさんも…幸せだったのかなぁ」
と少し複雑な気持ちになりつつ、さらっと流してしまうだろう。
しかし、「ネクタイ=感情の分離(表と裏)」と解釈するとどうだろう?
ペリーコロさんの語る、「ボスのおかげで十分に充実した人生だった
という言葉は、果たして心の底からの本心だったのか?
あるいは、ギャングという組織の人として、
ボスからの命令=逃れられない死を言い渡されたがゆえに、
これからも生きたいという本心を裏切る形での死を迎えたのではないか?

ネクタイという演出を深く読むと、
ペリーコロさんの死に様は余計に複雑な気持ちにさせられる。


3-3. 神としての「ボス」
[信頼度: B (それっぽい! 推測)]


以前のジョルノの考察でも触れたが、
パッショーネという組織名には、「情熱」と「キリストの受難」
という2つの意味が込められている
と推測される。

このように、第5部には至るところに「二重性」が散りばめられており、
それは「悪魔」を意味するディアボロの名を持つボスにおいても例外ではない。

こちらも以前の考察になるが、
ブチャラティの考察で、「神としてのボス」という性質を考察していた。

・「トリッシュ護衛」という任務を遂行するブチャラティ一行に、見えないところから細やかな指示を出し、時には亀やDISCなどの助け舟を出す「慈愛的な存在
・組織に歯向かおうとする暗殺者チームのソルベとジェラートに対しては見えないところから罰を与えて、恐怖や畏怖の念で自分に従わせる「厳格な存在
人はこういった存在を、「神」と呼ぶのではないだろうか?

ここでは、
物語冒頭〜ヴェネツィアの教会に至るまでは、
漫画表現としてボスは神として描かれている

という点を考察したい。


ナランチャのエアロスミス その⑥(コミックス 51巻、文庫版 32巻)
ジョジョアプリのカラー版コミックスより


伊・システィーナ礼拝堂天井画「最後の審判」 (ミケランジェロ・ブオナローティ画)
伊・システィーナ礼拝堂天井画「最後の審判」および「預言者ヨナ」など
(ミケランジェロ・ブオナローティ画)

こちらの4枚の画像は、ナランチャvsホルマジオ戦のホルマジオの回想で、
「輪切り」のソルベでボスに恐怖したホルマジオが語るシーンに登場する絵だ。

ジョジョの作品内では、上を見上げる男性の絵とともに、
神にも匹敵するボスの所業に対するホルマジオの言葉が綴られている。

では、この絵が何に由来するかといえば、
システィーナ礼拝堂の天井画である。
システィーナ礼拝堂とは、ポルポが語っていた教会であり、
その壁画の作者はミケランジェロだ。

この壁画は礼拝堂のアーチ状の天井と、正面に描かれており、
最も有名なのは正面の「最後の審判」である。

しかし、ジョジョで描かれているのは、
「最後の審判」の上部に位置する、「預言者ヨナ」の絵だ。

預言者ヨナは、旧約聖書の「ヨナ書」に登場する人物で、
主(つまり神)の言葉に逆らったがために、
さまざまな厄災に見舞われる。

さらに興味深いのは、「壁画の配置」だ。

↑こちらは、大塚国際美術館内に再現されたシスティーナ礼拝堂の絵画なのだが、
その構図をご覧いただきたい。
(各自リンクで見てみてください)

天井を斜めに見上げるヨナの目線の先には、
主(神)が最初の7日間で行った天地創造や、
アダムとイブの物語が描かれている。
つまり、システィーナ礼拝堂の絵画においては、
ヨナは神が行うさまざまな業を見上げる位置」にいる。

おそらく、このような「『視覚的』に神を見上げる」という構図が、
暗殺チームの「ボスを畏れ敬う」という立場と重なるために、
ホルマジオの回想で預言者ヨナの絵が選ばれたと推測される。


ちなみに…

ナランチャやホルマジオの回想では他の美術も登場するので、
それの出典だけ触れておく。


ナランチャのエアロスミス その③(コミックス 51巻、文庫版 32巻)


ジョジョアプリのカラー版コミックスより

イタリア中部シエーナ・シエナ大聖堂の尖塔の像
↑のリンク

こちらの像は、ナランチャの回想で登場する。
神の恵みを表すような描写で描かれている。
この像の元は、イタリア中部のシエーナにあるシエナ大聖堂の、
天井の先端に飾られた大天使ミカエルの像である。


ナランチャのエアロスミス その⑥(コミックス 51巻、文庫版 32巻)


イタリア北部ミラノ・ミラノ大聖堂のマドンニーナ(黄金のマリア)像

こちらの像は、ホルマジオの回想で登場する。
神の裁きを表すような描写で描かれている。
この像の元は、イタリア北部のミラノにあるミラノ大聖堂の、
天井の先端に飾られた聖母マリアの像である。


像の出典について横道にそれたが…

このように、ボスは登場初期から
①常に偽名を使う猜疑心の強い人物であること
②二重人格者であること
③神に匹敵する支配者であること
として描かれていたことがわかる。

次回は、スタンドであるキング・クリムゾンと、ドッピオ、
そしてディアボロについて考察する。

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構成編 パッショーネのボス その② ドッピオとディアボロ

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