なれなかったものを数えてもしかたない

私は美容師にも、販売員にも、空間デザイナーにも、ステージデザイナーにも、なれなかった。
いや、一度は歩んだのだけれど、今は違う。なので、そう名乗ることもできない。なってないものは、どうしようもない。


とはいえ、そんな"なれなかったもの"を数えたってしかたない。


人生の指標を元に、ゴールに持っていくにはどうすればいいのかを考えていた。気になったものはとにかくやってみる。20代後半はそんなふうに駆け抜けてきた。

美容師をやめるまで、他の仕事に全く興味がなくて、私はなにも知らなかった。もちろん色んな職種のお客様に出会ってきたのだけれど、それはどこか外の世界で、本の中で見るのと変わらない距離感。

やめてどうしようかと考えた時、仕事ってこんなに多種多様なのね、と驚いたものだ。


こどもの考える"仕事(将来の夢)"って、恐ろしく狭い世界だと思う。私は身内が美容師だったので自然と自分も美容師になるものだと思っていたし、考えつく仕事の中で一番好きなことだったから進んだ。


けれど、たかだか十数年生きた中でこれだと思えるものを見つけ、そしてそれを一生涯やり通せる人は多くはない。

ドロップアウトして劣等感を抱えている人、私だけじゃないはずだ。

将来の夢ややりたいことが見つからなくて もがいている人だって、たくさんいる。


やらなかったこと、できなかったこと、なれなかったもの。

そんなもん数えたってなんにもならない。

くどくどたられば言ってたってなんにも生まれやしない。


過去の点はつながるのだと、よく耳にする。
これまでの経験が繋がって新たなものを生み出したり、意味あるものに思えたり。これは一つの理想であり、希望だ。

やりたかったけどやらなかったこと、やれなかったこと、ちょっとやってみたいなと思えること。そんな点を集めていくと、ナスカの地上絵みたいにある日浮かび上がってくるかもしれない。

もちろん、なれなかったものを悲観してただ数えていたって絵は生まれないだろう。なれなかったもの、できなかったこと、過去の点をどう繋げていくのかが大切であり、難しいところ。そしてそれが、人生の面白いところだと思う。


無数にある私の点たちは、いつどこでどんな絵に仕上がるのだろう。

なにもないと嘆く君は、この先どんな点を見つけ、どんな絵を描いてくるのだろう。

仕上がることなど永遠にないかもしれないけれど、それはそれで、未完の美しさと捉えられる心を持って、笑って最期を迎えられるといいなと思う。


#エッセイ #日記 #生き方 #働き方 #人生



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