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さよならなんか言いたくないから、まだストロングウーマンにはならずにいたい。

たぷたぷと溜まったものをこぼさぬように、彼は器用に端をくくってゴミ箱に捨てる。私はそこに少しの寂しさを覚えながらも、骨抜きの身体をベッドに沈めたまま眺めていた。


何度目かの冬を越そうとする頃、何度目かのさよならを突き付けられた。けれどいつもの如く、言いくるめて元通り。私は悲しくなんてないわ、私は不幸なんかじゃないわ、あなたと会う時間はとても幸せよ、と訴える。

"もしもあなたが、恋人にも友達にもなれなくて、どういう関係であってももう会わないと言うのなら、仕方ないから気持ちを切り替えるわ"

すると彼は困り顔でこう言う。

"そう言われちゃうとなぁ…。ちゃんとしないとと思うんだけどね…"


永遠の愛なんか信じていない。だから、今好きな気持ちを大事にして会っていたい。たとえ未来がなくとも、今失いたくないからそれでいい。

彼はいつも迷っている。

私のことを考えて離れなければならないと思いながらも、切り捨てる強さはないのだ。私はその弱さに付け入る。いっそ、あわよくばでキープしていてくれればいいのに。私は彼が思うほど、やわな女じゃない。


けれど、時折夢を見てしまう。

彼が私を選び、残りの人生を供にすることを。

薄暗い夜の物語しか綴れない私達に、未来などあるはずがないのに。それはなんて、チープで滑稽な夢だろうか。


ランダムに流していたミュージックで、PUSHIMのSTRONG WOMANが流れる。

"でもさよならと切り出せない それがあなたの弱さ
Cause I wanna be a Strong Woman
あなたにさよならと言うわ…"

好きな曲なのだけれど、なんだかモヤモヤして次の曲にスキップする。私はまだ、ストロングウーマンにはなりたくない。さよならなんか、切り出せない。まだまだ、淡い時間の中で夢を見ていたいのだ。



何度目かの春を迎え、相変わらずの関係を保っている私達。この平行線はいったいあとどのくらい続くのだろう。平行線のままでも続くことが嬉しくもあり、面白くもある。このまま10年というのも悪くないな、と思い、ふふふと笑う。

彼はさよならを言い出せなくて、私もさよならを言わない。

次の夏も、次の秋も、次の冬も、次の春も、きっとこの平行線は変わらないだろう。


淡々と想いを寄せ、時折、夢を見ながら。





#金曜ビター倶楽部 #ショートストーリー #恋愛 #ちいさな物語 #大人の恋 #片思い

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