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抱きしめてあげる

そこは夏になれば
西に落ちる日が注ぎ
秋になれば裏の
金木犀が存在を放つ

冷蔵庫に貼ってある
読みにくい文字の走り書き
こなしてきたことが
ひとつずつ目に浮かぶ

一日のさんぶいちはそこにいて
朝げ夕げをこしらえて
うたを詠みラジオを聴き
新聞の文字を追う

生きている匂いが漂って
戸棚の中も冷蔵庫の中も
ひんやりしているのに
あたたかい、温室みたいに

雨の日はこもる空気に
野菜の切り口の匂いと
油の弾く音が混ざり
帰宅を急くわたしを留まらせる

揚げたてのてんぷらを
目くばせですすめる
「ふたつでもみっつでも
食べてみなね」

煮たり焼いたりの
そこでの日並みが
薄まり流れてゆかぬよう
いつまでも濃ゆくあれば



*****

身ひとつで戦いながら育ててくれた母。
こゝろを奮わせ愛してくれた母。
そんな母の愛に気がついたのは
いつの頃だったでしょう。

時を重ね
大人になることは
自ら人を愛することが
できることだと知りました。
愛されてきた自分が
人を愛せる大人になれたこと
こゝろからのありがとうと一緒に
母を抱きしめます。


だれもが母思う、その日です。

母の日によせてー


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