♯43 【ブックレビュー】スプートニクの恋人
村上春樹さんの作品に触れたのは、『ノルウェイの森』が発売されたとき、本屋さんで読んだ最初の数ページのみだった。文体はとてもわかりやすく、読みやすい。しかし、比喩表現が多いように感じて、少々うんざりした。また、その比喩表現の多くが私にはわかりにくかった。何が言いたいのかよくわからん…となる箇所ばかりだと感じてしまった。
正直なところ、当時の私はなぜこんなにこの小説がウケるのか、まったく理解できなかった。そんなことがあり、私は村上春樹作品に苦手意識を感じて、近寄らなくなった。
それからン十年が過ぎた今年。ビジネス書やノンフィクションを好んでいた私だが、最近になって小説の魅力に取り憑かれはじめた。おそらく、近藤康太郎氏の『百冊で耕す』に影響されたのだ。
「読書はトレーニング」という考えを知り、苦手としてきた作品を読みたくなった。で、手に取ったのが『スプートニクの恋人』だった。
感想。読み終えてから、未だ小説の世界から出られない。私の意識はまだ小説の舞台である東京とギリシャを行ったり来たりしている気がする。それに、息苦しい。もちろん呼吸は正常にできているのだが、この作品に少しでも意識が向くと、途端に息苦しくなる。「僕」とすみれとミュウの心情が、私の心を揺らして、息苦しくさせたからだ。
つまり、私はそれくらい強烈に『スプートニクの恋人』の世界観に入り込んだ。最後のシーンは「僕」の幻想? それとも現実? 結論が知りたくて「スプートニクの恋人 考察」というワードで検索をかけたが、もちろんはっきりしたことはわからない。
すみれがこちら側に戻れて、「僕」とまた連絡をとれたらいいのに。ミュウには会えなくても、「僕」とコンタクトをとれたらいいのに。そしたらすみれは、本当に自由になれるのに。そんなふうに考えてはヤキモキして、ああ小説の話だっけ、と我に帰ることをくりかえしている。
比喩表現はやっぱり多いと感じたし、この比喩の意味はよくわからないと思ったのもあった。しかし、この比喩表現があるからこそ、現実とファンタジーが交錯する独特の世界観がダイレクトにつたわってくるのかもしれない、と考えている。
と、つらつらとわかったように述べたが、単純に感想を言うと、とにかくめちゃくちゃおもしろかった。『スプートニクの恋人』が描く世界観にぐいぐい引き込まれて、気がついたら物語が幕を閉じていた。読み始めて2時間、まったくよそ見をせずに本の世界にトリップできた。それが新鮮でたまらない。読書体力が落ち、集中力を欠くようになったと感じていたのに、こんなに集中できるなんて。息苦しくて物語の世界から抜け出られないけれど、だからこそ、最高の気分転換ができたと実感し、晴れ晴れとした気持ちになっている。
村上春樹作品の魅力を語るのは難しい。だが、本を開いたら、1分たりとも逃してもらえない強い吸引力があるのは確か。
というわけで、村上氏の他の作品も読みたい。何がいいかな。かなり遅ればせながらではあるが、村上春樹氏はすごい(大感動)。
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