三十路の上海留学5日目 前編 ~我、助けられてばかりの外国人。人を助ける~

9月13日(金)留学5日目

 強化クラスのオリエンテーション&アイスブレイクがあり、朝8時半に来いというので、15分くらいかかる道のりを道中スーパーによるため8時に寮を出る。
 
 普段支付宝で会計しているスーパーが、今日は学園カード(学生カード)でしか支払できない日であるらしい。
 会場で食べようとパンを手に取り(美味しかった)、レジへ向かう。
 一人の女性がなんだか困っていた。
 
 「会計できない」、的なことをいってるらしい(普通话には違いないが、なぜだか1ミリも聞き取れない。訛り?)。
 このとき、今日は学園カードでしか会計できないことを知らなかった私が、「あー…OK。我一起付款,用支付宝(一緒に買います、支付宝で)」とレジ店員に伝えると、「使えない使えない」的なことを言われる。
 ここでようやく学園カードしか使えんってことね、と理解して学生カードで支払いを済ませた。

 店を出て、「微信で送金する」という彼女に「人から送金されたことがないから分からん。どうやるの?」と果てしなく拙い中国語で言う。彼女戸惑う。
 英語で「friends」と言われるので、連絡先を交換すると、彼女からwechatで送金された。

 「新生(新入生)?フレッシュ?」と言われるので、「フレッシュ」と片仮名英語で返すと、「I'm Teacher!」と返されて仰天する。
 「ありがとう!頑張って!」と英語で言われ、私は彼女との微信のトーク画面に「谢谢」と返した。

 今日も今日もて会場には15分くらい前について、室内に入ると、やけにこちらに手を振ってくる女性がいる。
 あ、さっきの!先生!
 これ王道少女漫画の導入の、「なんなのよあいつ~!」って思ってたらその相手が転校生としてクラスにやってくる導入に似てる。
 こちらも陰キャ丸出しのお手振りを返す。

 着席するとその先生はこちらへ駆け寄ってきた。
 「あなたどこのクラス?1の…」
 ちなみに1-1~1-3はまったくのビギナー、あるいはエレメンタリーレベルクラスなので、スーパーでの听力の低さから彼女は私を1のクラスと判断したらしい。
 「2-3(HSK5級相当(※))です」
 と答えると「私のクラスじゃないのね…残念」と去っていった。
 スーパーで見せたひどい中国語にたいしてHSK5級相当を語るのは恥ずかしすぎた。

(※)公式よりHSK5級は「中国語の新聞や雑誌が読めるだけでなく、中国の映画やテレビも観賞でき、さらに、中国語でスピーチすることができる」レベル

 あいもかわらず私は端っこの席が大好きなので、また真ん中の群の前の方の右端に座った。
 「sorry?」
 私より左はがら空きだったので、そう女性に声をかけられ立ち上がり、彼女を奥へ通す。
 彼女はガラガラに空いた席で、私の真隣に着席した。
 日本人にはなかなか無い感覚。

 定刻、「まずはアイスブレイク~!」と先生たちが大盛り上がりで開会する。
 「1-1~1-3クラスの生徒の中から、5人ステージに来てくださーい!」と声を張る先生たち。270を超える生徒たち。広がる責任分散。
 アイスブレイクのゲームの内容は、画面に写される5人組のポーズを5秒以内にそっくり真似て、先生がそれを写真にとる、というものらしかった。

 ここで、私はとなりから熱烈な視線を感じてそちらを見遣る。バチっと隣の女性とがっつり目が合う。「何て言ってるの?」と英語で問われる。
 「あー…ユアクラス、ワットナンバー?ワットナンバーユアクラス?」
 「beginner」
 「OK、ディスイズ アイスブレイク イベント。ユアクラス イベント。ユー チョイス ゴー オア ノットゴー。フリー!」
 これがジャパニーズイングリッシュ(私のレベルはイングリッシュと呼べないレベルでひどい)。
 「あぁ…じゃあ行かないわ」的なことをはにかみながら言われる。 

 ステージに視線を戻すと、白人の男性3人と女性2人(それぞればらばらの席に戻っていったのでお互い面識なさそう)が爆笑しながらアイスブレイクを全力で楽しんでいる。センターの男性に至っては、モデルの写真に表情まで似せていて、これぞ世界のパーティーピーポー…と震え上がる。

 同じアイスブレイクがもう1チームなされて、そちらも英語圏の生徒たちがはちゃめちゃに楽しんでいた。

 「next。その他のクラスの生徒たち!5人出てきて!」と先生が言う。
 2-1からはHSK3級・4級相当以上になるので、英語圏の生徒の割合がぐっと減る。アジア人は陰キャだらけ(ド偏見)、誰一人手を上げない。
 見かねた先生が目についた生徒を誘ったり、名簿を見て生徒の名前を読み上げて(呼ばれた生徒はなお返事をしなかった)、ようやく5人を調達した。
 私ももちろん不参加である。

 我々のレベルの生徒に課されたのは、色の名前の漢字が一文字出てくるが、その漢字の読み方ではなく文字の色を答える、というゲーム(赤い文字で「绿色」と書かれていたら、「红色」と回答する)。
 あぁ、私それ脳トレで見ました。
 
 生徒に渡されたマイク音量が小さくて生徒の回答する声が聞こえず、いまいち盛り上がりにかける。
 まさかのまさか、こちらもメンバーチェンジをして2セットもやっていた。

 ふたたび、私は隣の席の女性に話しかけられた。
 「食べる?」とVICKSの飴を差し出している。「Thank you !」と片手を差し出すと、彼女が袋を振って出してくれたVICKSは、私の手を滑り落ちて地に落ちていった。
 「Sorry…」
 気まずい。
 今度は両手を差し出すと、彼女はもう1個くれた。

 こっちに来てから、水と必要最低限の食料しか買っていないので、お菓子はまったく持っていない。
 返せるものがないので、せめてもの償いに「where are you from ?」と問うてみる。
 彼女は端的に国名だけを言った。本場の英語の発音が良すぎて聞き取れない。
 君はいったい何人なんだ。
 「ビューリフォー」
 とりあえずそう言っときゃいいやろの精神でそう返して、深掘りされるとボロが出そうなので間髪いれずに「アイム ジャパニーズ」と言う。
 言外に「せやから英語は喋られへん」と念を込めた。
 彼女にその念は伝わらなかった。

 「日本行ったことあるよ」
 それだけ聞き取れる。
 「おー…リアリー?」
 「✕✕✕、clean、✕✕✕✕、✕✕、hahaha(楽しそう)、✕✕、✕✕✕✕、hahaha(なんか自虐的な笑い)」
 たぶん彼女はここで小粋なジョークでも一発かましてくれたんやろな…すまん分からんな…と思いながら、こちらは乾いた笑いを返して、「clean?」と聞き取れた単語だけおうむ返しする。「clean」というので「thank you」とよく分からんけど返す(おおよそ町が綺麗とかそんなとこだろう。今の歌舞伎町はスラム街みたいにゴミが散乱してますけどね)。

 「住んでたこともある」
 彼女は行間なんて読まない。まだ続く。
 「ハウロング?」
 「✕✕」
 うそだろ私の英語力…!さっきから…!ポンコツ!
 私は頭をフル回転させる。日本人の私に、日本に住んでいたことのある彼女が日本語で返してこないということはおそらく短期滞在。
 そんな彼女との会話を気まずくならないように保つには…!

 「"ありがとう"?」
 彼女が知ってる日本語聞くのが一番盛り上がる!(?)
 彼女は手を合わせながら
 「アリガトウ、ドーモドーモ、ソンナ、ワルイデス」
 と言った。
 「そんな、悪いです~」なんて言えたら君のマインドは立派な日本人や。

 アイスブレイクが片付き、ここからようやく本題に入るらしい。
 教室に入る前に渡されたハンドブックは全ページ全て英語。
 そこには成績の付け方、欠席の扱い、欠席する場合のシステム連絡のやりかた、今後のスケジュール、レベル変更に関して、要は授業における一番大切なものが全て書かれていた。
 英語で。英語のみで。

 「hey guys~!」
 あ~~~なんかヤな予感。
 開口一番英語から入るとき、先生たちは中国語を話さない。この5日で私はそれを学んでいた。
 私は激怒した。
 なぜ中国語を学びに来たのに英語で話を聞かねばならぬ!

 まぁ実際にはモヤる、くらいではあるが、アイスブレイクは中英両方で話が進んだのに、この大切な説明に関して中国語が一切話されなかったこと、さらにはハンドブックにも一文字たりとも漢字が使われなかったことが誠に遺憾であったことをここに記しておく。
 (お前が英語を学べ、という妥当な指摘はこの際一切受け付けないでおく)

 さて、話を戻して。
 説明によると、どうやら遅刻欠席にはめちゃくちゃ厳しいらしい。
 再三先生たちは「don't ・ be ・ late!」と繰り返していた。
 この説明会自体も、8時半開始であったところ、遅刻した生徒たちがちらほら9時半まで途中入室していたので、念押しは必要だろうと思われた。
 
 あらかたの説明が終わる。
 最後に「クイズタイム!」と先生が言い、目の前のスクリーンには中国語(と補助的に英語)で「授業は何時からはじまる?」「何回欠席すると成績がつかない?」などが書いてあった。
 問題文中国語にするくらいなら、資料と説明も頼めるか???

 英語で話されたおかげで理解度が高い&積極性の高い英語圏の面々が続々と挙手し、もちろん英語で回答していくので、私…ひいては主語がでかいが集まったほとんどの日本人たちは、今も何回欠席したら成績がつかないのか知らぬままである。

 そんなめちゃくちゃな説明会を終え、「GCPメンバー(よくわからん)は退室して」と中国語と英語でアナウンスされる。

 「なんて?」と隣の女性からふたたび聞かれた。
 (えっ、今のアナウンス英語よ?あんなに英語ペラペラだったじゃない、あなた…?)
 「They are…gcpクラス。アーユー?」
 退室するメンバーを指差しながら教えてあげる。
 「分からん。beginner」
 oh!それはさっき聞いた知ってる!
 「Maybe …you、here. maybe(笑)」
 「OK(笑)」
 本当にOKか?(笑)
 まあいいか…違ってても。
 クラスも違うので、どうせここだけの関わりだ。責任を取らされることもなかろうし…。と思っていると、「wechat?」と彼女は自分のスマホをこちらに差し出した。
 ……まじで?
 こうして私はどこの国の人かも分からんお茶目な女性の連絡先をゲットした。

 GCPメンバーが退室すると、先生たちは両手の親指と人差し指で円を作ったものより一回り小さいくらいの大きさの丸いステッカーを生徒たちに配り始めた。
 私がもらったのは黄色、P(隣の何人かわからん女性。以下Pとする)がもらったのは灰色だった。
 配られたステッカーはたぶん10色くらいあった。
 マイクを通さず、先生が近くの生徒に「ステッカーに名前書いて胸に貼れ」というので、その情報が伝言ゲームのように伝わり私とPも名前を書く。

 「なにするんだろう…」
 「わからん、憂鬱」
 「怖い…」
 なんかそんな感じのことをお互いにポツポツ話した。

 結論からいえば、色ごとに引率の先生に導かれながら、5つ(くらい)の部屋と野外3ヶ所で行われるアクティビティに参加し、各アクティビティのクリア時間を色ごとに競いあって順位をつける、というものだった。

 しかし上記の説明など一切無いので、ひとまず「黄色~!イエロー!」と呼ばれて先生にくっついていった。

 アクティビティは、ジェスチャーゲーム、ジェスチャー伝言ゲーム、5つの水が満杯に入ったカップの水面にピンポン玉を置き、息を吹き掛け隣のカップへピンポン玉を運んでいくゲーム、大縄跳び、地図から名所を探しだす、などなど多様だった。

 しかも各アクティビティ、参加人数が2~8名で、16人いる黄色チームは(他のチームも)挙手性で参加を決めていく。
 私は覚えている限りでは
・8人で手を繋いだ状態でフラフープを一番右の人から左の人へ運ぶ
・2人で地図から観光名所を5ヵ所探す
・8人でジェスチャー伝言ゲーム
・8人でおお縄跳び
 に参加した。

 観光名所に関しては相方のインド人?が全てを見つけ出したので、立候補を死ぬほど後悔した。

 途中、Pから微信で連絡をもらったので「Are you enjoy ?」と送る。おお縄跳びで回る縄をジャンプで避けながら、「are」じゃなくて「do」だったかもな…と考えていた。
 おお縄跳びはやりたくなかったのに無理矢理引っ張りこまれた。

 アクティビティの最中、「◯◯ちゃん?」と同じ黄色チームにいた爽やかクール系美少女に名前を呼ばれる。
 一回見たら忘れないレベルの美人なので、初対面に違いないことは確信を持っていた。
 「えーっと…?」
 「わたし、◯◯です」
 数日前、wechatで友達登録を送ってくれた女の子(以下A)だった。奇跡すぎる。

 すべてのアクティビティを終え、説明会会場の講堂に戻る。
 私たちのチームはまさかの2位だったので、景品として大学の手帳をもらった。
 ステージに2列にならんで写真を撮る、というが、その説明が中国語のみだったので陽キャ欧米人に伝わらない。結局、私とA、もう一人の日本人男性で1列目センターのド陽キャポジを陣取るという歴史的快挙がなされてしまった。

 Pからは、そのステージでの撮影の様子を撮った写真が送られてきた。Pはめちゃくちゃ良い子だった。
 「thanks」とさながら英語慣れした人間のように格好つけて返事をした。

 すべてのプログラムが終了し、解散することになった。
 昨日、友達が「あした説明会後に外滩に行く」と言うので「行きたい行きたい!」と無理矢理参加表明したくせに、以前インド人がwechatに書き込んだ「singing clubに興味ない?クラブ作ろうと思って」に「興味あるある!」と返したばっかりに、「説明会のあと顔合わせをしよう!」と言われ予定がブッキングしてしまった。
 
 日本人の友達に、「ごめん行けなくなっちゃった」と送ると「外滩は昼に見てもしょうがないから夕方出発にしようかって相談してるー。来れたらおいでよ」と返してもらった。

 ひと安心してインド人のJに「你在哪儿(どこにいる)?」と連絡する。
 「Uhhhhh」と返ってくる。
 つづけて、「我穿了黑色的衣服(黒い服を着てるよ)」ときた。
 「哈哈。很多(いっぱいいるって(笑))」と返すとまた「uhhh」と来た。
 
 入り口の看板の写真を撮って送ったあと、「我穿了衬衫(シャツを着てるよ)」と送る。
 Jのメッセージと大差なかったが、頭のてっぺんで髪をくくった、全身真っ黒の男に「◯◯?」と満面の笑顔で名前を呼ばれた。
 「もうひとりのメンバーも紹介するね!」
 彼には、私が一切英語を喋れないことを伝えていたので、中国語でそう言う。

 「Mだよ」
 Mはマツコ・デラックスみたいな洋服を着た、モナ・リザみたいな女性だった。背も180センチくらいある。
 Mはなにかをベラベラベラっとすさまじい早さの英語で話す。1ミリも理解できない。
 「◯◯(※私)はどう思う?」
 Jに振られる。
 「分からない。なんの話し?」
 この「分からない、なんの話し?」すら伝わらず、Mからは全力で「は?」という顔をされ、Jからは「あぁ英語伝わらないのか…中国語でなんて言うんだろう…」的なことを言われる。

 不好意思(ごめんなさい)、と繰り返すと、「没事儿!」と繰り返しながら、Jは困り顔ながらも、翻訳サイトを駆使してこちらの言葉を理解しようと努めてくれた。Jもまた優しい男であった。
 Jが、集まったら皆でご飯行こう!ともともと言っていたので、空気も読まずに「レッツゴーランチ!」と言う。Mから「canteen?」と言われる。
 「yeah yeah yeah !」
 私は英語ができないあまり、返事だけは一丁前だった。
 
 なぜか知らんが、Mはそのまま「bye bye」と行って去っていった。
 えっ?
 Jから「Mは今日は友達と約束しちゃったからダメなんだって」と聞かされる。
 いーーーや待ってくれ。
 Jとサシ飯?!?!

 まあね、こちらはいいよ。気まずくてもね。
 この気まずさはひとえに英語喋れないこちら側の落ち度ですからね。
 でもJはMがいればもう少し有意義なランチになるだろうに、こちらが話せないばかりにくそつまらんランチタイムを送る羽目になるのでは…?
 しかもJは優しい男だから、「俺あんまり中国語話せないんだ…」と言っていたのに、私にたいしては頑なに中国語を使おうとしてくれる気遣いやさんである。

 私も努力せねばならぬ…。
 私の拙い英語×Jの拙い中国語という、この世の地獄みたいな会話をしながら我々は一番近い(そこまで美味しくないと噂の)食堂へ向かった。
 「日本人?」と聞かれたのでイエスと答える。「Jは?」と聞き返す。このとき私には「インユー人(英语人)」と聞こえて(ふーん…英语?イギリス人?)と思った(イギリス人は英国人)。

 食堂のご飯は全然普通に美味しかった。
 Jと向い合わせで座り、私は小さくいただきますをする。
 「ところで…」と話しかけたところで、Jが十字架を切り、お祈りを始めた。
 おもわず「sorry」と光の速さで謝罪する。
 向こうもお祈りが終わると「sorry」と謝ってきた。
 「インユーじゃなくてインドゥー(印度)だ!」とここではじめて気がついた。

 そこからはお互い、ときおり翻訳アプリの力を借りながらポツポツ話をした。
 Jはたぶん、8人集まらないとクラブを設立できないんだ、と言った。Mが2人友達をつれてくるという。あと3人足りない。

 盛り上がりもせず、気まずくもなく、思ったより【私は】居心地よくJとのランチを終わらせた。(Jの方は知らん)。
 Jの寮は食堂からとても近いので、早々に解散して私は一人、知らぬ場所に放流される。
 時間もあるので地図を見ずに適当に校内を歩くかーと思っていたら、道中、外滩一緒に行きたい、と告げたC(そして外滩もこのあと一緒に行く、四人でランチを食べたときの一人であるKもいた)が前方から歩いてくる。

 「なにしてるの?」と聞かれたので、「インド人とご飯食べてた」と言う。
 「夕方、行ける時間なら外滩行きたいわ」と言うと「うん。じゃああとで時間決まったら連絡するよ」と言ってもらう。
 CとKの寮見たい、と言って2人について行くと、私の寮より外装がめちゃくちゃ綺麗な寮についた(でも風呂トイレ無し)。
 どの寮も一長一短らしいことを知った。

 かくして前編は終了、後半は夢の外滩へ。

 
 

 

 

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