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続うつ病日記3

 昨日は日記公開後、シンクの食器を洗い、ごみ捨てをしてお風呂に入った。その後、贔屓にしている近所の商店街の古い薬局へ行って青汁と台所用洗剤を購入。チェーンのドラッグストアは安いけれど、照明が眩しくて、うるさくて、行くたびに疲弊してしまう。チェーンのドラッグストアやドン・キホーテで快活に働いている人を見るたびに、「すごい……」と感心してしまう。世の中には色んな感性の持ち主がいるんだな、と思う。
 帰宅後は一寝入りし、昨夜調理を断念したうどんを昼食に作った。白菜と玉ねぎ、豚肉と油揚げを和風だしで煮込んでうどんを入れる。最後に卵を落として完成だ。我ながら頑張った。食後は洗い物もした。

 昨日の日記で書いた通り、現在何らかの医療機関でカウンセリングを受けようとすると、どこも1か月待ちはざらだ。でも、わたしは「今」助けが欲しかった。薬を飲んでも眠れるだけで、心の痛みや苦しみが消えることはない。そういう訳で、ネットで検索して初回無料のオンラインカウンセリングを受けることにした。低所得者故、このサービスを受け続けることは難しいが(あるいは他の医療機関が合わなかった場合はここを利用するのもありかもしれない。月1回くらいなら何とかならなくもないか…?)、お世話になったので宣伝だけでもしておこうと思う。kikiwellという電話カウンセリングだ。

わたしはこのカウンセリングサービスのあさくらゆかりさんという方にお話を聞いていただいた。公認心理士の資格をお持ちで、非常に話をしやすいカウンセラーでいらっしゃった。うつ病になった経緯や、日本社会のデフォルトの働き方ができない自分への不安、芸術家・翻訳家を取り巻く現状に対する不満、現在の主治医に対する不信感、チェコ滞在中に感じた解放感について丁寧にお話を聞いていただいた。わたしの話を聞きながら、あさくらさんは、「ことたびさんは、自分の身体の状態についてしっかりと把握できています。薬の処方よりは、カウンセリングによる治療の方が向いているかもしれません。自分の世話ができない現在の状況をセルフネグレクトと見做さず、「しっかり休んでいる」と考えた方が良いでしょう」とおっしゃった。また、「自分が生きやすいと感じていたチェコでの環境を作ることも重要です」というアドヴァイスも頂いた。すごく納得させられた。3月2日にブルノに到着した際に、アテンドのJさんから「毎日図書館に通う必要なんてないのよ?」と言われてはっとさせられたのを思い出した。

 45分間カウンセリングを受けただけなのに、驚くほど体が軽くなった。その後はバナナと豆乳と青汁のスムージーを作って飲み、悩んだ末にコーヒーを入れて詩の翻訳の微調整に取り掛かることにした。そして日が暮れる前に近所の小さな和菓子屋さんへと走って端午の節句の柏餅をふたつ購入した。つぶあんとこしあんの柏餅は売り切れていたので、残っていた味噌あんの柏餅を買うことにした。

 夕方には夫が色々なお土産を抱えて実家から帰宅。ふたりで柏餅を食べてから(味噌あんは思いのほかおいしかった)、冷蔵庫の余り野菜と鶏肉のごった煮のようなよく分からない夕食を作って食べた。

 今朝は7時過ぎに起床したが、かなり眠気が残っていた。明け方に何度か覚醒したので、熟睡できなかったのだと思う。朝食には、夫が実家で焼いてきてくれた全粒粉パンに、義母お手製のトマトソースを塗ってピザトーストを作り、目玉焼きとウインナーを焼いて食べた。調理したのは主に夫で、わたしはコーヒー豆を挽いて淹れただけだ。夫は朝からしっかり食べるのが習慣なので、彼がいると自然と朝食が豪華になる。朝食の準備をしながらメールチェックをしていると、なんと、昨日受けたカウンセリング・サイトのメールアドレスから、あさくらさんによるカウンセリングのまとめが届いていた。朝食を食べながら夫とその内容を共有し、やはりわたしたちは、日本の働き方に無理して合わせるよりは、チェコ的な生き方・働き方を導入しようという話になった。他人と自分を比較するのをやめること。メールやSNSをチェックする時間を減らすこと。できるだけ、頭が仕事モードになる時間を減らすこと。大丈夫、そんなにすぐに収入がなくなったり、生活費に困るようになったりすることはないよ、と夫は言う。今日からわたしたちの家は、日本にありながらにしてチェコだ(この「チェコ」とは、あくまでも、日本でデフォルトとされている働き方や社会のあり様を相対化するための比喩であって、イタリアであってもメキシコであっても構わない。ちなみに、4/30に開いたイタリア語文学「紙とヘビ」の朗読イベントでもこれと似たような話をしている。宣伝になってしまって申し訳ないのですが、観ていただけると嬉しいです!)。あとで自分の部屋の前に、「チェコ共和国日本支部 Japonská pobočka České Republiky」と書いた紙でも貼り付けておこうかなと思う。

 ところで、5月の初めにとてもうれしい郵便物が届いた。東京外大のチェコ語科出身の藤田琳さんが編集・出版された『tanec タネッツ』というzineだ。

 実は、彼女とは留学時期が一部被っていたため少し面識がある。映画やアニメーション、アートに造詣が深い方で、チェコ語も堪能だ。「チェコのこと」という特集で編まれたこのzineは、デザインがおしゃれで可愛らしいだけでなく、旅行ガイドや語学の教科書からではなかなかアクセスできない情報をふんだんに盛り込んだ非常にディープで読みごたえのある本だった。

 チェコのように「その他の外国語」に属する世界は、そこへアクセスするための窓が常に限られている。それがどんなに大きくて立派な窓であろうと、窓である限り、そこから見える世界は枠で切り取られている。本当はその窓枠の外にも、興味深い世界が広がっているはずなのに……。『tanec タネッツ』は、そうした窓枠の外の世界を読者にしっかりと味わわせてくれる本だ。
 自分が刊行している『翻訳文学紀行』しかり『tanec タネッツ』しかり、「その他の外国語」の世界に続く裏口や抜け道がもっとたくさんあってほしいと思う。


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