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ブルノ滞在記12 本屋巡り

今朝は4時過ぎに目が覚めた。二度寝しようとしたけれど、目が冴えてしまってなかなか寝付けない。仕方がないので、後で昼寝をすることにして起床。朝食を食べて夫と電話をする。昨日友人と会って元気をもらったからか、睡眠時間が足りていない割に調子は悪くない。「今日、ちょっと本屋さんに行きたいな……と思ってるんだけど、どう思う?」というわたしの問いに、夫はうーんと唸る。「それ、今日やらないとだめなこと?」確かに。でも、今日は何となく外出したい気分だ。一日中家でぼんやり過ごすには、エネルギーがあり余っている。

「例えば午前中に本屋を巡って、昼までに帰宅して、お昼ごはん食べて寝るとかはどう?」
と食い下がるわたしに、夫は「ことたびさんはバネみたいな人だからなぁ」と呆れたような困ったような顔をする。
「押さえすぎると反動で飛び過ぎてしまうだろうから、毎日気持ちを少しずつ抑えて、少しずつ飛ぶくらいがいいのかもしれない」
「バネみたいな人」という表現は、とても自分にしっくりくる表現だ。落ち込んだり疲れたりしてすぐにダウンするくせに、次の瞬間には新しい計画に向かって飛び跳ねている。

結局夫に提案した通り、午前中に本屋に行って、午後はごろごろすることにした。ブルノは信心深い人が多いため土日は閉店しているお店が多く、日曜に開いている本屋は実は数件しかないのだが。それにもかかわらず日曜に本屋に行きたくなってしまう自分は、やっぱり資本主義に毒されているなぁと感じる。とはいえ、シャッターが閉まった店が並ぶ休日の街は、静かで穏やかで心地がいい。中心街に続く道を歩いていると、教会の鐘の音が聞こえてくる。プラハでは日曜に鐘の音は聞こえただろうか? うまく思い出せない。あそこでは大抵のお店が曜日にかかわらず開店しているし、大型商業施設は24時間365日営業している。プラハは眠らない街だ。刺激に満ちていて、教会の鐘の音に聞き入る隙など誰にも与えはしない。

わたしは日曜に本屋を巡りたくなる程度には資本主義に毒されている一方で、できればチェーン店ではなく個人店で物を買いたいという面倒くさい信条の持ち主でもある。チェコで一番大きい本屋さんのひとつであるドブロフスキー書店 knihy Dobrovský が開店しているのは知っていたが、そちらに行く前に、地元の本屋らしいバルヴィチ・ノヴォトニー書店 Knihkupectví Barvič a Novotný に足を運ぶことにした。内装がとてもおしゃれで面白いのだが、写真を撮り忘れた。螺旋階段の壁に、本の背表紙がレンガのように埋め込まれているのだが、そんな説明をしても想像がつきにくいと思うので、今度写真を撮ってアップロードすることにしようと思う。なんと創業は1883年創業。ブルノで初めてのチェコ人店主による書店らしい。ウェブサイトに創業当時の写真が掲載されているが、店構えは今でもほとんど変わってない。すごい。

バルヴィチ・ノヴォトニー書店では、『湖』の作者として日本でもよく知られているビアンカ・ベロヴァー Bianca Bellová の『これら断片 Tyhle fragmenty 』、2019年にチェコのブッカー賞であるマグネシア・リテラ Magnesia Litera を受賞したパヴラ・ホラーコヴァー Pavla Horáková の『ヨーロッパの心 Srdce Evropy 』、そして、チェコの代表的な現代作家10名によるアンソロジー"Všechny za jednu"を購入した(邦訳が難しい。英語で言う"All for one"にあたる表現だが、ここでのvšechny (all) は物語を、jednu (one) はアンソロジー全体を指している。1冊のアンソロジーを作るために10個の物語りを編んだ、といったイメージか?)。贅沢なアンソロジーで、ひとり本屋でほくそ笑んだ。

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続いて二階の外国語教本のコーナーに行って、BASIC CZECH Ⅰ〜Ⅲを購入。

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来年度は大学での授業をほとんど手放したのだが、チェコ語の授業だけは1コマ引き受けることにした。日本語で書かれたチェコ語教材の不足を補うためにも、チェコへの渡航がかなったらこれだけは手に入れておこうと心に決めていた。実は留学時代に自分自身購入して使用していたのだが、引越しに次ぐ引越しで紛失してしまった。あぁ……。とはいえ、自分がかつてやり込んだ教材は、教える上でも使いやすいだろう。きっと役に立ってくれるはずだ。

続いて、ドブロフスキー書店に足を伸ばす。書店員が選書した本が一面にずらりと並べられていて、ポップのようなものも付けられていた。選びやすい。こちらの本屋では、チェコの代表的な詩人のひとりであるオトカル・ブジェジナ Otokar Březina の詩集を購入。

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実はこの本はバルヴィチ・ノヴォトニー書店でも見かけたのだが、手の届かない位置に置かれていたため断念した。書店員の方にお願いして取ってもらったが最後、気に入らなくても買わざるを得ない気持ちになるのは明らかだったからだ。

こうして収穫物の入った重い荷物を背負って帰路に着く。ちゃんと昼前に家に着いた。昼食を食べて、洗濯をして、先日買ったターボルスカー Táborská の『黒い言語 Černé jazyky 』を読みながら昼寝。1時間半ほど寝て、再び続きを読む。物語はいよいよ本題に入ってきた。面白いし、結構読みやすい。

それなりに休めたのか、それとも結構体力を消耗したのかよく分からないが、とりあえずメンタルの調子は今のところ悪くない。明日の夜はブルノ・マサリク大学の日本語学科の学生さんたちと交流会がある。昼間は図書館へは行かず、家でゆっくり作業をしよう。

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