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『おかえりの神様』 〜ただそこにいてくれるだけで

こんにちは、ことろです。
今回は『おかえりの神様』という本を紹介していきたいと思います。

『おかえりの神様』は、著・鈴森丹子(すずもり あかね)、装画・梨々子の小説です。
全6章で構成されており、序章、同居の神様、銭湯の神様、晩酌の神様、甘味の神様、続・同居の神様と、すべて"~の神様"というタイトルになっています。


主人公は、神谷千尋。OLさん。
十月十日が誕生日で、世界一ツイてない一日を過ごしたのち、自称神様の狸を拾う。

天野は神谷の同期で、神谷のことを昔から好きでいる男性。神谷は天野のことを気の置けない友達だと思っている。

崇司(たかし)さんは、神谷の想い人で同じ会社の人。のちに崇司さんも神谷のことが好きだと知るが…?

信也さんは、崇司さんの同期で天野の直属の上司。何かと天野や神谷のことを気にかけてくれる。

そのほかにも、神谷の元カレやコンビニの店員さん、信也さんのことが好きな布袋さんなど、登場人物は多めです。

神様も、狸の姿だけでなく、バービーの姿をしたものまで現れます。

狸の姿をした神様は神谷にポコ侍と呼ばれ、しばらく居候するのですが、ある日を境にマヨネーズ好きになり、何にでもマヨネーズをかけて食べる変な癖を身につけてしまいました。ちなみに、喋り方が侍言葉で男性だと思われます。山の神様です。

ビーバーの姿をした神様は信也さんと布袋さんの前に現れ、ある日を境にチョコレート好きになったために、お酒のおつまみにチョコレートを食べたり、バイキングやケーキ屋さんなどでチョコレートのものしか食べないなど、こちらも変な癖を身につけてしまいました。ちなみに、喋り方は花魁言葉で女性だと思われます。川の神様です。

神様は時に人の姿にも変化します。
狸の神様は、少年っぽさが残る出立ちに、明るい髪色、耳にピアスをつけ、首元にはネックレスと遊んでる感満載な姿。
ビーバーの神様は、原宿系というのにふさわしいカラフルな格好をした小柄で細身の少女。
どちらもちょっと意外です。


物語は、章によって主人公が変わります。
同居の神様では神谷が、銭湯の神様は天野、晩酌の神様は信也……などなど。

誕生日だというのに最悪な一日を過ごした神谷は、一日の最後に狸を拾います。
まさかそれが神様だとは知らずに、翌朝になるのですが、拾ったことを忘れています。
朝起きたときにギョッとした神谷ですが、とりあえず仕事に行かなければいけないので放っておくと、帰ってきたときに見知らぬ男性の声が……。
泥棒かと思い警戒するも、その声は狸から発せられているではありませんか!
そう、狸は神様だったのです。
ついでに人の姿にも化けられます(葉っぱを一枚使いますが)。

何気なく始まった狸こと山の神様との同居生活。
まずは部屋の大掃除から始まります。
洗濯物まで畳んでくれる神様は、部屋は汚い、自炊もしない、下着も機能性重視の色気のないもの、彼氏は居ないのか?と突っかかってきます。
神谷は天野から、想い人の崇司さんに彼女ができたらしいと言われ、告白する前からフラれてしまっていました。
しかし、まだ女を捨てる気はない神谷。
美容院に行き髪を切り、その帰りに新しい靴と洋服を買い、最後にランジェリーショップで最新の下着まで買って帰宅。
崇司さんのことは諦めると誓い、崇司さんからもらった観葉植物も神様にあげてしまいました。

なんやかんやと過ごしていると、偶然元カレと遭遇。ごはんを食べたあと寄りを戻さないかと言われます。
失恋したてで元カレと遭遇しただなんて、いいタイミングではござらんか、と侍言葉で言ってくる神様に、神谷はまだ答えを出せずにいました。

しかし、別の日に風邪を引き、見舞いに来てくれた天野に、崇司さんに彼女ができたわけではなく好きな人ができたらしいと言われます。その相手が神谷らしいということも。
神谷はおっちょこちょいで彼女ができたと勘違いして受け取って、そのまま勝手にフラれたと思って勝手に諦めていたのですが、実は両想いだったのです。
しかし、一旦気持ちに区切りをつけてしまったので、自分が好かれていたと言われてもなかなか受け入れられない神谷。

すると、天野が帰ったあとに神様が、天野はお嬢のことを好いておるぞと言ってくるではありませんか!
元カレ、崇司さん、天野……
一度に3人から想われて混乱する神谷。
しかし、運命は残酷なもので、元カレ、崇司さん、天野から同時に同じ日の夜にごはんに誘われてしまいます。
神谷は一体誰を選ぶのか?
誰と付き合うのか?
そこは読んでみてのお楽しみです。

……と、こんな風に神様と人間の縁結びの物語がつづられていきます。

銭湯の神様では、天野と山の神様が人間に化けた状態で交流がありますし、晩酌の神様では、信也と川の神様がお酒を酌み交わします。甘味の神様では、布袋さんが人間に化けた川の神様とチョコレートのお菓子を食べたりして交流します。

どれも縁結びの手助けをしているので、カップル成立になっていくのですが、そこに至るまでの葛藤とか悩みの解決などを神様がしてくれるのです。

神様はただそこにいて話を聞いてくれるだけなのですが、それがすべてを良くしてくれる不思議な時間となり、登場人物たちは救われていきます。
ただのラッキーではありません。
問題解決というのは、ときに痛みを伴います。
心の奥底にあった何物かを拾い上げ、一緒に眺めてくれる。
不思議と神様の前では素直に話せる。
そういった神様の人徳のようなもので心がほぐれていき、最後には結ばれていくのです。

神様なんているわけないと言いながら、最後には神頼みしている私たち。

もし、狸やビーバーのような神様がいたら、ちょっとだけ世界が変わって見えるかもしれません。


いかがでしたでしょうか?
ちょっと長くなってしまいましたが、とてもほっこりする日常系の小説です。
児童文学かどうかはわかりませんが(図書館にはその近くに置いてありました。笑)、会社員という登場人物でも、心の葛藤と向き合うという意味では学生さんでも理解できるし共感できる部分だと思います。
とてもコミカルで楽しい物語です。
ぜひ、読んでみてください。

それでは、また
次の本でお会いしましょう~!

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