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ご質問にお答えします!『脚本家に企画力は必要でしょうか?』

脚本家志望の方から、こちらのご質問をいただきました。

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ご質問、ありがとうございます!
内容を二つに分けて回答していきますね。

質問1) 脚本家に企画力は必要かどうか

必要ですし、とても重要です。
”脚本家予備軍”の人にとっても、企画力は大きな強みになるはずです。
例えば「主要キャストが決まっている状態での企画提案」や、「原作とする作品は決まっている状態で、それをどのような切り口で描くかという提案」を新人が求められる場合もあり、こういったときに良い提案ができると、デビューのチャンスに繋がることが多いです。

質問2) 企画力はどのように鍛えるべきか?

以下の3つがポイントだと私は考えます。
ポイント1「自分が観たいもの」を突き詰める。
ポイント2「社会通念への自分の違和感」を深掘りする。
ポイント3 説得力のある企画書を書くスキルを磨く。

それぞれ具体的にご説明していきますね。

ポイント1「自分が観たいもの」を突き詰める。

「企画は目新しさが大切!」と考えて、その時々の流行りの事象を取り入れるよう心がける……という考え方もあるとは思うのですが、私はそちらの方向には走らずに、「自分が観たいもの」を突き詰めていく方が合理的だと考えています。

仮に「目新しい題材」「流行りの事象」を取り入れようとしても、企画を立ててから作品が完成するまでにはどうしてもタイムラグが生まれます。
企画者は流行りの事象を取り入れているつもりでも、それが観客に届く頃には特に目新しくもない、ということも珍しくありません。
これでは、川に沿って向こう岸を歩いている人にボールを渡そうとして、”相手が今いる場所”に向かって投げるようなもの。
ボールが向こう岸に届くまでの時間に、相手は先に進んでしまい、結局ボールは届きません。

逆に、自分の足もとに井戸を掘るイメージで、「視聴者としての自分」が観たいものを突き詰めていくと、観客のニーズに繋がる水脈にたどり着ける……という考え方の方を私は重視しています。
(この考え方については、過去投稿『ブックレビュー勝見明著『セブン‐イレブンの「16歳からの経営学」』にも書いています。)

但し、これには例外もあります。
企画によっては、ターゲットが明確に限定されている場合があります。
例えば私は以前、ニコニコ動画で主に10~20代女性に人気のダンスボーカルユニットのメンバーが総出演する作品の企画を考えました。
このような場合、ターゲットは非常に明確で、「彼らの既存のファンの皆さん」ということになり、「私自身が観たいもの」よりも「ファンの皆さんが喜ぶもの」を優先すべきです。
そこで私は企画を立てるにあたり、まず「ファンの皆さんの心情にシンクロすること」を目指しました。
このユニットの動画を可能な限り観て、曲を聴き込み、彼らについてファンの皆さんがSNSにどんな投稿をしているかを読み込む。
そういった段階を経て、「ファンの皆さんが一番観たいと望むであろう彼らの姿」が描ける企画を考えました。

このようなケースを除いては、「自分自身が真に観たいと思うものを突き詰める」というのが、私が企画を立てるときの第一のポイントです。

ポイント2「社会通念への違和感」を深掘りする。

皆さんのSNSのタイムラインに、一つのドラマや映画に対して、真逆の感想が並ぶということはないでしょうか?
どんな人気作品にもアンチはいますし、ヒットしたとは言えない作品にも必ずファンがいます。
「何を面白いと感じるか」は、人それぞれということです。
この前提で、「より多くの人々の心に届く企画を!」と考える際には、「一般社会通念から逆立ちする」という考え方が武器になります。

どんなことで笑うか? 泣くか? といったことは人によって千差万別でも、世の中の大半の人々が共有している「常識」「社会通念」というものがあります。
例えば「愛する人と添い遂げることはすばらしい」「嘘を吐くのはいけないこと」といった、正論の類ですね。
そこから逆立ちした価値観、つまり常識からかけ離れたキャラクターや行動を魅力的に描くことができれば、「脚本家としては、百戦危うからず」だと、私は脚本の師匠である芦沢俊郎先生から教わりました。
この考え方に関しては、過去投稿『弱さや愚かさが輝くとき』にも書いています。

こちらの投稿にもある通り、中国の故事で、
「尾生という男が、橋の下で女性と待ち合わせをしたが、待てど暮らせど女性は来ない。そうするうちに大雨になり、どんどん水かさが増したが、尾生は危険も顧みず女性を待ち続け、ついにはおぼれ死んだ」
という話があります。
ここから「馬鹿正直で、融通の利かないこと」を意味する「尾生の信」という言葉が生まれました。

一般社会通念に照らし合わせれば、尾生は愚かです。
ですが、
「彼はここまで深く、相手の女性を愛していた」
「彼女の言葉を信じ抜き、命を落とすと分かっても、疑おうとしなかった」
と捉えて、尾生の愚かさを美しく尊いものとして描くことができれば、社会通念を逆手に取り、多くの人々の心を動かすストーリーを紡ぐことができます。

この感覚を身につけることが、企画を立てる上での強い武器になると私は考えています。
そして、この感覚を身につけるための第一歩が「社会通念への自分の違和感を深掘りすること」なのです
「あの人の行動は愚かだとみんな言うけれど、本当にそうだろうか?」
「『こういう生き方が正しい』とみんなが言うけれど、どうも自分は違和感があるな……」
そんな気持ちになったときに、「自分はなぜそう感じるのか?」を突き詰めていき、違和感の正体を明確にすることを習慣づけると、「社会通念から逆立ちした、個性的で、面白い企画」を立てる技術が、少しずつ身に付いていくはずです。

ポイント3 説得力のある企画書を書くスキルを磨く

「個性的で、面白い企画」を思いついたとしても、それを企画書上で的確に表現できなければ、企画成立にはたどり着けません。
そのために表現力を磨くことも、企画力を鍛えることの一部だと、私は考えます。

この件に関しては、過去の投稿『「今日性は?」と問われたぐらいでビビってはいかんという話』が参考になるかもしれません。

こちらの投稿にも書いた通り、「企画が選定されるかどうか」には、「今日性がある(と、選定者が感じる)かどうか」が重視されることが多いです。
ポイント1にも書いた通り、「流行りの事象を取り入れること」が企画を面白くするコツだとは私は思いませんが、本質的に面白い企画であれば、表現の仕方次第で「今日性に溢れた企画だという印象を与える」ことは可能だと思います。
上の投稿内の、『ローマの休日』『七人の侍』の例を参考になさってみてください。


これからもお互いがんばりましょう!

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