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ご質問にお答えします!『脚本に専門用語を書いても良い?』

脚本家志望の方からこちらの質問をいただきました。

スポーツ関係の...

ご質問ありがとうございます。

【はじめに】

「審査員がわからないような用語を書いても大丈夫ですか?」とのことなので、シナリオコンクールへの応募を前提としたご質問なのだと思います。
申し訳ありませんが、私はコンクール主催者ではないので、審査の基準については「分からない」とお答えするしかありません。

そこで、「コンクールにおいて”あり”か、”なし”か?」ではなく、「私が脚本を書く際、さまざまなジャンルの専門用語をどのように扱っているか?」をお答えしたいと思います。

【ト書きに専門用語を書く場合の中川の配慮】

質問者さんは「茂野、ロージンバッグを握る」という例を挙げられているので、スポーツ関連の専門用語を、セリフではなく「ト書き」の中に書くことを想定されているのだと思います。

脚本の最重要事項は「面白いこと」であり、「面白い脚本であるためには、読みやすく分かりやすいことが必須条件」というのが私の考えです。
この考えに基づき、私は、確実に分からない人がいるような専門用語を何の説明もなくト書きに書くことはしません。
仮に「ロージンバッグ」を例にするならば、以下のように書くと思います。

ピッチャーマウンドの茂野、ロージンバッグ(滑り止めの粉が出る袋)を握る。

あくまでも「私ならこうする」という一例であり、すべてのプロがこう書くとは限りません。
読み手がロージンバッグを知らないとしても、ネット検索すれば分かるでしょうし、「いちいち説明しないよ」という脚本家がいても不思議はありません。
仮にこれが商業ベースの作品で、野球を題材としているなら、脚本家は「この作品のスタッフやキャストで、ロージンバッグも知らない人なんていないでしょ」と判断するかもしれませんしね。

ですが「この用語は、ほとんどの読み手には伝わらない」という前提なら、調べることが読み手の負荷になりますし、読み手がここまで読み進めてきていた流れを一旦止めることにもなるはずです。
読む人の作品への没入の度合いを下げるようなことは、私は極力避けたいです。

書籍では欄外や巻末に注釈を載せることもありますが、脚本の場合そのような説明方法は一般的ではありませんし、上記の例でも用語の後ろにカッコでくくって説明をつけています。
これが最もストレスなく理解してもらえる方法だと考えるからです。
”ストレスなく”という点が重要なので、例えばWikipediaの説明をそのままコピペするようなこともしません。
因みにWikiには以下のように書かれています。

滑り止め剤の粉末を布製の袋に詰めたもの。握ったり叩いたりすることで繊維間より適量の粉末を振り出す。野球・ソフトボールの投手、重量挙げや器械体操の選手が手先の滑り止めを目的として使用する。

上記のト書きを理解するのに、「野球以外に重量挙げや器械体操の選手も使う」といった情報は必要ありませんし、そもそもト書きの合間にこんなに長い説明が差し込まれていたら読み手はストレスを感じるので、もっと簡潔な説明が適切だと考えます。
コピペに比べて、簡潔で分かりやすい説明を書くには手間がかかりますが、作品に没入してもらうためなら、私はその手間を惜しみません。


【まとめ】

自分が思い描いたイメージを、脚本を通してキャスト・スタッフにより正確に伝えようとするならば、書き手は、読み手の視点に立ってさまざまな配慮をすべきだと思います。

・「かなりマイナーな専門用語」をト書きに書くかどうか?
・書くなら、どのように表現するか?(説明は添えるのかどうか?)
・説明を添えるなら、どんな形を取るか?
これらに関して、「読み手にとって最良の答え」を探ることも、プロの書き手としての務めだと私は考えます。

質問者さんが考えるべきことの本質は、「シナリオコンクールにおいて”あり”か、”なし”か?」ではなく、「自分が書いたことが、読み手にどう伝わるだろうか?」ということです。
ト書きに書こうとしている用語が「ロージンバッグよりかなりマイナー」で、「想定している読み手(=審査員)には分からない」とまで認識できているのなら、極端な話、私が「ググれば分かるんだし、そのまま書いておいていいんじゃないんですか?」と答えたとしても、「本当に? 何か配慮が要るのでは?」と疑うぐらいの気持ちを持ってほしいと個人的には思います。
こういう意識が持てるかどうかは、質問者さんがプロになれるかどうかにも影響するのではないでしょうか?

この機会にぜひ「セリフの中での専門用語の扱い方」についても、ご自身でお考えになってみてください。
・本当にその用語を使う必然性があるのか?
・必然性があるなら、どんな意図でその用語を使うのか?
・意図の通りに観客に伝えるには、どうすればいいのか?
といったことを考慮すれば、「セリフにマイナーな専門用語を使ってもいい/使ってはダメ」のどちらか、という単純な二択にはならないはずです。

これからもお互いがんばりましょう!

ご質問のある方はこちらからどうぞ。
※シナリオコンクールの規定、審査基準に関してはお答えできませんので、その点はご了承ください。


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