見出し画像

リクエストにお応えして Part1「密室劇を書くコツ」

先日、私のnoteのコメント欄で小城昭根さんから、「密室劇or群像劇(希望はどちらも)を書く際のアドバイスを」とのリクエストをいただきました。
小城さん、コメントありがとうございます!
今日は「密室劇」に関して、私なりのコツを書いてみたいと思います。
(「群集劇」についてはまた後日ということで。)

【はじめに 「密室劇」の定義】

「密室劇」と聞くと、「密室殺人」という言葉を連想して、「その手の事件モノのこと?」と思う人もいらっしゃるかもしれませんね。
ですが、作劇の用語としての「密室劇」は、「劇中に登場する場所が、固定されている作品」を指します。
舞台ならば「どこか特定の場所だけでストーリーが進む作品(=始めから終わりまで場面転換しない作品)」は珍しくありませんし、その種のものをあえて「密室劇」と呼ぶことはしないと思います。

これに対して、「ドラマや映画といった映像作品で、登場する場所が固定されているもの」は、特殊な例と言え、「密室劇」という言葉は一般に、この種の映像作品を指します。

そもそも映像作品は、「別々に撮影した映像を一本に繋げることで、時間や空間の移動の簡単に表現できる」というのが大きな特長です。
例えば、「ある青年が、夕方スーパーで買い物をしている映像」の後に、「この日の夜、青年が自宅のキッチンでカレーを作っている映像」を繋げると、「時間が経過して夜になったこと(=時間の移動)」と、「彼がスーパーから自宅に移動したこと(=空間の移動)」が簡単に表現できるわけです。

同じことを舞台作品で行おうとすると、観客を前にして「スーパーから自宅キッチンへの場面転換」をしなくてはならず、それにかかる時間の分だけストーリーが中断してしまいます。
「空間の移動」や「時間の移動」の表現がスムーズに行えることは、映像作品ならではの特長なのです。
にも関わらず、あえて「空間の移動」を封印している映像作品が「密室劇」というわけですね。
例えば人気連続ドラマだった『王様のレストラン』(脚本は三谷幸喜氏)では、全11話の中に登場する場所は、ベル・エキップというフレンチレストランのみであり、これはテレビドラマとしては珍しい形式です。

【密室劇を書くコツその1 会話のシーンを見せ場にする】

さて、前置きが長くなりましたが、この「密室劇」を書く際の、私なりのコツをご紹介していきましょう。
まず一つ目は、「会話のシーンを見せ場にする」です。

「密室劇は、映像作品でありながら、”舞台のような面白さ”を表現するのに適している」というのが私の持論です。
では、”舞台のような面白さ”とは、どんなことを指すのでしょうか?

一般的な映像作品では、「画にバリエーションを作ること」で、ある程度視聴者を惹きつけられますが、場所が固定されている密室劇では、この手法は封印されています。

そこで私は「会話シーンの面白さ」を重視すべきだと考えており、これが”舞台のような面白さ”の正体でもあると考えます。

具体的には、「ある程度長い会話が続く中で、登場人物の感情が劇的に変化していく」という見せ場を作ると、「面白い密室劇」に仕上がる確率がグッと上がると思います。

【密室劇を書くコツその2 アクセントを作るために登場人物の”出ハケ”に工夫をする】

”出ハケ”という言葉は、登場人物が「舞台上に出る時」「舞台からはける(舞台袖に去る)時」を指します。
出ハケは、作品が面白くなるかどうかの大事なポイントでもあると私は考えています。
繰り返しになりますが、密室劇は場所が固定されているので、「画の変化」を作るのが難しいです。何か工夫をしなければ、視聴者は「単調だ」と感じるかもしれません。
そこで私は「画の変化」に替わるアクセントとして、”出ハケ”を重視しています。
「誰が、どのタイミングで、どんな理由で、登場/退出するのか?」を工夫して、面白さを生みだすということですね。

例えば映画『キサラギ』を観ていただくと、出ハケの工夫で面白さを生みだすコツを分かっていただきやすいと思います。
『キサラギ』は、自殺した(とされる)女性アイドルのファン五人が、一周忌にあたる日に彼女を偲ぶ為にある場所に集まって……というストーリーなのですが、登場人物の一人がお腹を壊してしまい、度々トイレに行くんですね。
トイレ中に、他の四人の力関係や敵味方の関係が目まぐるしく変わっていくため、彼はトイレから戻る度に「なんでこんなことになってんの!?」という場面を目の当たりにし、その仰天ぶりが視聴者の笑いを誘います。

【密室劇を書くコツその3 説明っぽさを消す為に、”その場所に初めて来た人”を登場させる】

一般的な映像作品では、脚本家は「セリフでの説明」に頼り過ぎないよう、「画で情報を伝えること」を心掛けます。
例えば、あるホームドラマの主人公が消防士だとします。
家族の間では、主人公の職業は周知の事実なので、通常の会話の中でわざわざ「あなたは消防士だから」「確かあなた、消防士だったわよね?」といったことを口にはしないはずです。
こういう説明っぽいセリフを言わせなくても、「主人公が火事現場で消火活動をしている画」を見せれば、視聴者には十分情報が伝わります。
ところが、密室劇ではこの手法が使えません。その為、何らか工夫をしないと、「説明っぽいセリフ」ばかりが続くことになってしまいます。

これを回避するために、「その場に初めて来た人」を登場させるわけです。
例えば「主人公が消防士のホームドラマ(密室劇)」ならば、
「主人公は今、保険の契約を検討していて、今日は初対面のセールスマンを家に呼んで説明を受けている」
といった状況を設定するのです。
そうすれば、「主人公がセールスマンに対して、自分の職業や家族構成などを語る」というシーンを作ることができ、それが自然と「視聴者への説明」にもなるため、説明っぽさは回避できます。

【おまけ】

最後に少しだけ補足を……。
今回ご紹介した【コツその1~3】は、舞台台本を書きなれている人なら、おそらく簡単にできるでしょう。
ですが、映像の脚本しか書いたことがない人にとっては、慣れるまでは難しいだろうと思います。
ですので、密室劇を書こうと決めたらまず、舞台台本を読み込んでみると参考になると思います。


ご質問のある方はこちらからどうぞ。
※シナリオコンクールの規定、審査基準に関してはお答えできませんので、その点はご了承ください。


脚本、小説の有料オンラインコンサルも行っていますので、よろしければ。


これまでに脚本家志望のみなさんからいただいたご質問への回答は、こちらのマガジンにまとめてあります。

スキ♡ボタンは、noteに会員登録してない方も押せますよ!

#脚本 #シナリオ #エンタメ #質問 #マシュマロ
***********************************
Twitterアカウント @chiezo2222

noteで全文無料公開中の小説『すずシネマパラダイス』は映画化を目指しています。 https://note.mu/kotoritori/n/nff436c3aef64 サポートいただきましたら、映画化に向けての活動費用に遣わせていただきます!