見出し画像

「黙読」というパフォーマンス(前橋ポエフェス2022)

2022年6月5日に開催された前橋ポエトリーフェスティバル2022「ポエトリー・グルーブ」で行ったパフォーマンスについて書き残しておきます。
私は、アコーディオン弾きうたいのRinnさんと、黙読と音のパフォーマンスを披露しました。
なぜ、「朗読」ではなく「黙読」を選んだのか? どのように考え、実際になにが起こったのか? 振り返ってみたいと思います。

前橋とわたしのこれまで

前橋で催される詩の祭典に参加したのは今回で4度目でした。
1度目は、前橋ポエトリーフェスティバルのオープンマイクに。自分で録音・MIXした音源とともに朗読しました。
2度目は、初めてゲストとして。多重録音した音源とともに朗読のパフォーマンスをしました。三木悠莉さん、向坂くじらさんと初めてお会いしたのがこの時です。
3度目は、前橋猫町フェスへ、参加しているポエトリーリーディングユニット「Poetic Mica Drops」とともに招待されました。この時は、広瀬大志さんと詩作の講座も実施。
この時、Rinnさんと、「ぜひ次回コラボレーションしましょう!」と約束したものの、コロナ禍でそれは叶わず。
今回のRinnさんとのコラボーレーションが、3年越しのリベンジとなったわけです。

詩の管理者にはならない

そもそも、「ライブパフォーマンス」について、私にはある誓いがありました。
「お金をとれないパフォーマンスはしない」
40年以上に渡り商業出版を続けている作家の母の影響でしょうか。それとも、新卒入社したレコード会社で数多のライブイベントに関わってきたからでしょうか。
発表会ではなく、エンタテインメントの体験を。この感覚が、体に染み付いているのです。
(決して一般的な朗読を否定しているわけではないので、誤解のなきよう)

しかし残念ながら、私は朗読のプロではありません。
会場を沸かせるリーディングテクニックもありません。
だからこそ、ポエトリーリーディングのユニットを組み、わたしは詩をつくり、朗読は役者の方が、音楽は作曲家の方が担当しているのです。
すこしでも自信を持ってできることは、テキストとして詩を書くことだけでした。
それでも、作者が読むのが良い、という意見があることは知っています。
でも、嫌なんです。わたしが書いた詩を、わたしの拙いペースや音量で読み聞かせ、お客さんに対して詩をコントロールしてしまうことが。
作者が管理者にならず、詩が自由自在にお客さんへ届き、面白い時間をつくるために、わたしが最大限にできることとは何だろう。

考えた結果、たどりついたのが、「黙読」でした。

それぞれの頭の中の多様な声を聴いてみたい

パフォーマンスのテーマは決まりました。
では、それをどうやってそれを形にしようか?
RinnさんとFacebookのメッセンジャーでやりとりをしながら、さまざまに案を出しました。
その過程で思ったのが、わたしたちは実に多様な環境で黙読をしている、ということでした。
電車の発着音や雑踏が止まないホームで、BGMの流れるカフェで、冷蔵庫がしずかにうなるリビングで。多様な環境で、わたしたちもまた頭の中に多様な声を持ち、黙読をしているのではないでしょうか。
その多様な音や声を、一度聴いてみたい、と思いました。

Rinnさんと会話しながら、以下のプログラムに決めました。
お客さん主体で、黙読のあとにステージ上で詩を音読いただくことで、黙読のあいだにその空間を満たしていた多様な沈黙の声を、見える・聞こえる化するという挑戦です。
悩みましたが、音読も一編だけ加えました。

1 詩「もうずっと前から」の音読
←なるべく囁き声で起伏や緩急をつけず、声が重複・呼応する部分を多くする

2 詩「源流のある町」の黙読(4分間)
←黙読の間、Rinnさんが環境音のような音楽を演奏

3 お客さんに登壇していただき、詩「源流のある町」の一部を音読
←ペースや声量を合わせず、同時多発的に音読してもらう

4 Rinnさん作詞作曲「春のこども」歌唱
←詩「源流のある町」から着想を得た曲

また、多様な声や読み方の表現として、さまざまな紙にさまざまな字体で詩の一部を書いたスライドも作成し、黙読と音読のあいだ、スクリーンに投影することにしました。

Rinnさんとは、事前にZoomで2回、細かい進行のオペレーションについて打ち合わせをしました。誰が壇上のどの場所にいて、どのタイミングでスライドを操作するか、説明を入れるかなど、スムーズにわかりやすく進行できるよう入念に準備をしました。

みんな違う。たくさんの、でもひとつの詩

さて、本番当日。
リハーサルで、わたしが持参したMacに対応する会場のコネクタがなく、Rinnさんがご自宅へWindowsを取りに急ぎ、急遽ご対応いただくといったトラブルもありましたが、たくさんのお客さんが呼びかけにこたえ、ステージへ上がってくださいました!

「ポエトリー・グルーブ」の前に行われていたオープンマイクでパフォーマンスをしてくださった方々がずらり。

客席で、詩を音読してくださった方もたくさんいらっしゃったようです。
ありがとうございました!

想像していた以上の迫力でした。
それぞれの方が、それぞれのスタイルで、同時にひとつの詩を表現する。
形は違えど、会場全体が大きな詩情に包まれているのを感じました。
自分が書いた詩が、こんなにもたくさんの解釈で、出力方法で、発散されているのを目の当たりにできたことは、作者としてこの上ない幸福と興奮でした。

最後は、Rinnさんの伸びやかな歌とともにお別れ。
お客さんも一緒に手拍子してくださり、愉快で朗らかな雰囲気でした。
こちらの動画は曲の一部ですが、少しでもたのしい気持ちを分かち合うことができれば。

おわりに

「お金をとらないパフォーマンスはしない」と粋がっていましたが、今回、本当の意味でたくさんの方々とともに価値を創り上げる面白さを実感できました。
わたしが提供する、など、おこがましいですね。取るに足らない才能と努力では、限界があるのです。
これからも、作者がけっしてコントロールできない変幻自在な作品が生まれるよう、まずは書くところから、続けていきたいと思っています。
そしてぜひご一緒に、詩体験をつくりましょう。あなたがいてはじめて形を持つ、たった一度きりの。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?