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「永遠も半ばを過ぎて」 中島らも の感想。

久々に記事を書いています。

なんやかんやあって就職先が決まり(今年の四月に卒業なのに今年に入ってから決まった)、大学も卒業でき、社会の小さく必要のない歯車として働いています。労働最高。

最近読んだ「永遠も半ばを過ぎて」が面白かったので感想を自分と未来のために書いておきます。いまさら中島らもに興味を持ってしまった。もっと早く読んでおけばよかったと思っている。

三行の適当なあらすじ

・主人公はタイプライターで印刷物の元になる文字を日々作成している冴えない男、波多野
・ある日、主人公の家を食品会社の経営を行なっているという高校の時の同級生・相川が現れ、しばらくの間家に住まわほしいと言われ勝手に住みこまれる。
・実はその同級生は社長でもなんでもなく詐欺師であった。詐欺師に巻き込まれ印刷会社のプレゼンに本の専門家として参加することになった主人公は嘘に巻き込まれ、人生が大きく変わっていく。

面白かったポイント

・流動的で予想のつかない展開や、軽い文体ながらも時折真理を突くような文章の書き方が好みだった。
・登場人物がそれぞれの孤独を抱えていてなおかつそれが大きく満たされることがないのが、現実的で好きだった。

おすすめできる人


・読みやすく哲学的な小説を読みたい人
・演劇が好きな人
・会話が良い小説を読みたい人
・登場人物がそれぞれの思惑の元で物語を動かしていく小説が好きな人
・かっこよくておしゃれでどこか虚しさを含んでいる小説が読みい人
・寂しい人

好きな文章、セリフ

「この音楽はこんなに大きな声で聴くものなのかね」
「質が変わるのよ。あるレベルを超えると。何だってそうよ。あんた…

「永遠も半ばを過ぎて」

詐欺師とその彼女の会話。確かに、頭が張り裂けそうな大音量で音楽を聴く時、音楽の内容が変化する感じがある。全ての音が暴力的になり音に世界を支配される。そこにはトランス状態がある気がする。


えー」と言った。
その後、異常に長い沈黙が訪れた。
間があまりに長いので、理事たちは不安になったのだろう。相川を凝視して次の言葉を待っている。相川はさっきと同じように天井を眺めている。ぼんやりよした表情ではなく、なんとか自分の言葉をまとめようと苦しんでいるようにも見える。
「私は…」
やっと最初の一言がでた。次にまた二秒間ほどの沈黙が訪れた。
「本というものはね…近い将来に失くなるんではないかと思っているのです」
理事たちは凍りついたようになって相川を見ている。

相川の詐欺師としての才能が遺憾なく発揮された台詞。相川は本造りの専門家としてプレゼンをしているが、実際は本を作ったことは一度もないし、知識も一夜漬けのものしかない。それでも、話し方や内容でいつの間にか相川の言葉に引き込まれてしまう。沈黙を大事にするのはヒトラーの演説のようだ。相川曰く、自分の成りすましたい人物を決め、そいつの好きなものや経歴を考え、当日はそいつを自分の中に降ろすことが架空の人物になりすます時のやり方らしい。

孤独というのは、「妄想」だ。孤独という言葉を知ってから人は孤独になったんだ。同じように、幸福という言葉を知って初めて人間は不幸になったのだ。
人は自分の心に名前がないことに耐えられないのだ。そして、孤独や不安の看板にすがりつく。私はそんなに簡単なのはごめんだ。不定形のまま、こんとんとして、名を連れられずにいたい。この二十年、男と暮らしたこともあったし一人でいたこともあったけれど、私は自分を孤独だと思ったことはない、私の心に名前をつけないでほしい。どうしてもというなら、私には一万語くらいの名前が必要だ。

物語の後半に出てくる出版社で編集をしている美咲という人物の独白。この文章に惹かれた点は2点ある。
1つは言葉の不可思議さを言い表しているという点。寂しさという言葉を知る前に「寂しさ」自体を知っていたのか、それとも寂しさという言葉のせいで「寂しさ」が生まれたのだろうか。そして何よりも不思議なのは寂しさという言葉を学習し、それを使っている現状では前者なのか後者なのかを思い出すことができないということだ。
2点目はこの言葉が美咲の性格を端的に表している点だ。本当に寂しくない人はこのようなことは考えないだろう。

まとめ
・いつの間にか作品に引き込まれている作品なので多くの人にオススメできる。
・おしゃれで独特な文体や会話に引き込まれるのでオスス 
                            以上

今後も日記や文章を投稿していこうと思うので高評価とチャンネル登録、納税をよろしくお願いします。


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