言語化は生成AIの得意科目!?
ビジネス教養コーナーを訪れると、「言語化」という言葉を冠した書籍が数多く並んでいます。「伝えられる能力」を持つことが高く評価されるようになり、言語化スキルが高い人が、より多くのチャンスをビジネスでもプライベートでも掴んでいるようにみえます。
じつは、まだモヤモヤっとした状態の考えや気持ちを言語化するのは、生成AIの得意科目の一つです。前回の記事では、文章を編集するための生成AIとの話し方やインスタ投稿案を考えるときの生成との話し方についてみましたが、今回は、漠然とした考えや感情を言語化するとき、生成AIとどう話せば良いのか説明します。
言語化はなぜ難しい?
言語化とは、経験や感覚、考え、感情などを言葉に変換する行為です。私たちは普段何気なく言葉を使っているにも関わらず、なぜ言語化は難しいと感じたりするのでしょうか。
そもそも「言葉に変換する行為」とは複数の機能を伴った複雑なプロセスなんです。言語学理論の一つ、選択体系機能言語理論と呼ばれる理論では、言語化には、1. 経験を解釈する機能、2. 対人関係を築く機能、3. 会話や文章として意味を形成する機能、これら3つの機能が備わっていると考えられています。しかも、多くの場合、私たちは言語化する際に、この3つの機能を同時に実行しています。もっと言葉の機能について知りたい方は、「生成AIスキルとしての言語学」の第2章を参照してみてください 🐈⬛。
経験を解釈する機能
経験したことを言葉にするという行為は、その経験を意味ある要素に分解し、また、関連づけることに繋がります。言語化する際には、ある経験を構成する行動や出来事、関与した人や物、そしてその行動や出来事が起こった場所や時間、そしてそれを取り巻く条件や文脈が考慮されます。
例えば、友人と過ごした楽しい週末のハイキングを思い出すとき、「土曜日の朝、友人たちと山へハイキングに行き、途中で野イチゴを見つけた」といった表現を使ってその経験を言語化します。ここでは、週末のハイキングの経験の中から「行き」や「見つけた」といった出来事、「友人」「野イチゴ」といった人や物、「土曜日の朝」「途中で」といった時間などを選択して言葉として表し、私たちは自らの経験を解釈し、それを他者と共有します。言語化は、私たち自身が経験を振り返り、理解することを手伝ってくれるプロセスです。
対人関係を築く機能
同時に考えや気持ちを言葉にするということはまた、話し手と聞き手の関係を築いたり、壊したり、強くしたり、弱くすることにも繋がります。例えば、感謝の気持ちを「いつもありがとう」と表現して伝えることは、話し手と聞き手の絆を強化してくことに繋がっていきます。言語化のプロセスはそれ自体が人と人との関係性に影響を与える力を備えています。
会話や文章として意味を形成する機能
さらに、私たちが経験や気持ちを伝えるとき、それらは独立した断片として提示されるのではなく、物語のようにつながり合って文章や会話の形に編み上げられます。言語化は、個々の出来事や感情に脈絡を持たせ、聞き手に伝える効果もあるわけです。
例えば、「昨日、古い友人と偶然再会して、昔話に花が咲き、時間がたつのを忘れてしまった」という話では、偶然の再会、喜びの感情、そして時間の流れを忘れるほどの没入という経験が総合的に語られます。それぞれの要素は単独で意味を持つものの、一つの流れるような語りの中で結びつけられることで、聞き手は話し手の経験や気持ちの豊かさを理解することができます。
このように考えや気持ちを言葉にすることは、いくつかの機能が絡み合って成立しているプロセスであり、それらを適切に言語化するためには多数の言葉の選択肢を知り、またその中から、目的に応じた選択肢を選べるようになることが必要です。
未整理の思考を他者に伝える際には、自己の不確実性や脆弱性をさらけ出すことにもなりかねず、ためらいや恥じらいを感じることもあります。また、内面の思考や感情を外部に向けて言語化するための助言を他人に求めることは有益ですが、そのプロセス自体が困難であることが多くあります。
今までは、考えや気持ちを話し手に響く言葉として言語化するためには、時間と練習、そして時には他者の洞察が求められました。しかし、今は生成AIと一緒に、まだモヤモヤの状態の考えや気持ちを言語化することがきます。
生成AIと一緒に言語化してみよう
では、早速生成AIを活用して、モヤモヤ状態の経験、考え、気持ちを言語化してみましょう。言語化と言うと、ビジネスシーンを思い浮かべますが、今回はもう少し日常的なシーンで考えてみたいと思います。
例えば、次のようなまだモヤモヤ状態の誕生日のプランを考えているとしましょう。このままだと、家族に誕生日プランを伝えるにも、漠然としていて伝えられた方も困ってしまうでしょう。もっと具体的なプランへ、生成AIと一緒に言語化してみましょう。
選択肢: まずはシンプルに
では、どうやって生成AIに言語化を手伝ってもらえるようでしょうか。まずは、シンプルに、例えば、以下のように生成AIに話しかけてみましょう。
この会話を、GeminiやChatGPTといった生成AIに伝えると、以下のように言語化を手伝ってくれます。
生成AIが、モヤっとした誕生日プランを"たき焼きパーティー v.2"プランとして言語化してくれています。これらの案をもとに、さらに自分なりの調整や変更を加えれば、家族に相談しても恥ずかしくない誕生日プランを伝えることができます。
選択肢2: 経験を解釈する機能について、注文をつける
シンプルに、「具体的なプランを考えてくれる」といって、言語化の手伝いを生成AIにお願いするのも良いのですが、先ほど紹介した通り、言語化するという行為には、3つの機能が関わっています。そこで、生成AIと話すときに、明示的にどういった言語化をしたいのか、機能ごとに注文をつけてみましょう。まずは、経験を解釈する機能に関する注文を追加してみましょう。
経験を解釈する機能に関する条件を加えて、まずは、Geminiで試してみましょう。
次に、ChatGPTでも試してみましょう。
GeminiとChatGPT、ともに、経験を解釈する機能に関する条件を踏まえつつ、先ほどとは、異なった言語化がなされています。
選択肢3: 対人関係を築く機能について、注文をつける
つづいて、対人関係を築く機能に関する注文を追加してみましょう。
ここでは、ChatGPTで試してみましょう。
プロンプトに対人関係を築く機能に関する条件追加したことで、叔父・叔母と娘さんが仲良くなれるようなプランとして、言語化がなされています。
選択肢4: 意味を形成する機能について、注文をつける
つづいて、意味を形成する機能に関する注文を追加してみましょう。
今度は、Geminiで試してみましょう。
Geminiは、意味を形成する機能に関する条件を踏まえて、表形式でプランを整理して言語化してくれています。このように、それぞれの機能に基づいた条件を生成AIに伝えることで、どのような点に着目して言語化するのかをコントロールしてあげることができます。
もっと挑戦、言語化プロンプトスキル
本記事では、生成AIを活用して、漠然とした考えや感情を言語化するとき、生成AIとどう話せば良いのか説明しました。生成AIを活用することで、まだモヤっとした状態の考えや気持ちでも言語化できるようになります。
ここで紹介した以下の4つの選択肢「まずはシンプルに」「経験を解釈する機能について、注文をつける」「対人関係を築く機能について、注文をつける」「意味を形成する機能について、注文をつける」は言語化プロンプティングの出発点です。この他にも、例えば以下のような選択肢が活用できます。
選択肢5: Reverse Dictionaryで、モヤモヤにピッタリな表現を探す
選択肢6: 組み合わせの言語化: 部品から設計図へ
選択肢7: アイディア整理のバリエーション: 最適化のための言語化
生成AIの力を活用し、モヤモヤ状態の考えや気持ちをどんどん言語化してみましょう。今回は、誕生日パーティーの企画を例にしましたが、もちろんこのテクニックは、ビジネスシーンで、企画書を書いたり、プレゼンスライドを作成したりする際にも利用できます。AIの技術を使うことで、今までの自分の言語化の引き出しが、きっと広がっていきます。
参考文献
佐野大樹 (2024) 生成AIスキルとしての言語学 かんき出版
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