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天使たちとの能力戦線(四章、セイの誤認術)



セイ「お久しぶりです。ミィディア。」

ミィディア「あ、セイ。」

セイ「順調に魂の損傷も回復しているようですね。」

ミィディア「魂の損傷?」

セイ「気づいていないようですが実は君の魂はあの毒ともいえる父親に虐げられたせいで本来の機能を今まで損傷していたんですよ。」

ミィディア「その本来の機能ってなんだ?」

セイ「思考能力、感情・情緒的能力ですね。初めて会った時君は知恵を奪われた人間そのものでした。表情一つ変化のない。何も望まなければもうこれ以上傷つくことはない。そんな顔をしていました。」

ミィディア「・・・あの時はほんと地獄だった。まぁ今が天国とはいえないんだけどな笑。」

セイ「笑。でも地獄でもないことは確かですよ。今の君は徐々に知恵が戻ってきている。」

ミィディア「知恵が完全に戻るとどうなるんだ?」

セイ「まぁそのままなんですが思考能力、感情・情緒的能力が戻ります。今よりも深い思考を行うことが出来るようになり他者の情緒や感情を推量し尊ぶことが出来るようになります。」

ミィディア「所謂出来た人間になるってことか。」

セイ「そうです。」

ミィディア「で、セイは今回何しに来たんだ?」

セイ「今回私が来たのは誤認術をミィディアに教える為です。」

ミィディア「誤認術?何それ?」

セイ「ある対象物や存在に対する認識を誤認させる術のことです。」

ミィディア「それってどういう場面で使えるの?」

セイ「ミィディアの住まう島国ではかなり役に立つ技術だと思いますよ?」

ミィディア「何で?」

セイ「隣の芝生は青い。出る杭は打たれる。こうした言葉が存在する地上でこそ使う技術だからですよ。他人を羨み、蔑み、嫉妬し、制裁を与え、快楽を得る。こんなにも欲望に忠実な人間たちが周囲にいてはミィディアも生きづらいでしょう。」

ミィディア「まぁ生き易くはないな。」

セイ「でしょう?しかしこの誤認術をマスターすればそんな生きづらい地上も幾分か楽に過ごせるようになるのです。」

ミィディア「・・・そうなのか。」

セイ「興味を持って頂けましたか?」

ミィディア「・・・幾分かは。」

セイ「ありがとう御座います。では興味を持ってもらえたということで早速説明させて頂きます。まず誤認術とは全般的な偽りのテクニックのことを示します。有能さを隠し無能を装う。逆に実力以上の存在感を相手に与える。こうしたことを行うことが出来る技術です。」

ミィディア「それってどういった時に使えるの?」

セイ「そうですね。ミィディアの状況に合わせて説明しましょうか。まず君は毒親を良く思ってませんね?」

ミィディア「当たり前だろ。こんなことしておいて良く思ってる方がおかしいだろ。」

セイ「ごもっとも。しかしあなたが良く思っていないのと同様に毒父もあなたのことを良く思っていません。」

ミィディア「・・・何でそんなことが分かるの?」

セイ「相手の立場、視点になって考えてみれば分かります。」

ミィディア「・・・。」

セイ「あ、相手の立場になってというのは決して相手の立場に立って思いやれなんて聖人気取りな考えを言っているわけではありませんので悪しからず。ここで言っているのは相手の置かれている状況に視点を移しもし毒父の状況に立たされた時どう見えるのか考えてみれば自ずと答えは出るという意味です。」

ミィディア「・・・そんなの感情が邪魔して出来ないんだけど?」

セイ「大丈夫ですよ♪私も毒父の視点に立ってとは言いましたが立って見ているわけではありませんから。」

ミィディア「どういうこと?」

セイ「知恵の弊害の一つに他人にアドバイスをする時は冷静でもそれがいざ自分ごとになると冷静に判断出来なくなるというものがあります。ですがこの弊害は少し知恵を絞れば簡単に乗り越えられます。」

ミィディア「どうやって?」

セイ「少し考えれば分かります。他人にアドバイスをする時は冷静なんです。ということは?」

ミィディア「・・・自分事を他人にアドバイスするかのように考えれば冷静な判断が下せるってことか?」

セイ「そうです。なので相手視点に立って考えるとは相手と同じ視点に立つことではなく相手の状況を客観的に見た後感情を推量することを言うのです。決して同じ視点に立ち同情したり感情に流されることを言うのではありません。見るのは感情の種類ではなく関係性です。その者とその者の関係性。そして感情の方向性。これらを関係の外から見たうえでこの外から関係性に入り込むとしたらどこが一番効果的か。そして入り込む前に準備しておくことは何か。それらを考えることが誤認術には必要です。」

ミィディア「・・・つまり誤認術に必要なのは感情・情緒的統制能力と冷静な思考能力ってことか?」

セイ「そうです。段々分かってきましたね笑。では試しにミィディアの家族構成でそれらを練習してみましょうか。君の家族構成は四名。初期の状況としては毒父と毒母が存在。そして小学生の虐待を疑われる男児と赤子の女児が存在。この状況に対して効果的な介入方法は何でしょう?」

ミィディア「・・・現時点では現場を押さえることしか出来ない。何故なら疑われる段階では下手な対応を取ると返って状況が悪化しかねない。実際問題として毒父母には虐待の自覚がないこと。毒母も毒父から経済的精神的虐待を受け居ている現状があること。そして虐待を疑われる男児にこれらの状況を周囲に知られたくないという意思がある以上アプローチはかなり限られる。」

セイ「ええ。そして実際、介入する大人が皆無。同級生も半ばいじめてくる状態。毒母は毒父からのストレスで男児が出来ないことがある度に激しく恫喝や足蹴りにするなどの暴行を加えている。しかしそれを目撃する者も内情に関わろうとする者もいないまま長い時間が経ちます。その間毒父は毒母の貯金や子供の貯金を転職に使い散財。それを毒母に言われれば逆ギレし支配下に置き続けます。」

ミィディア「そして時は流れ男児が高校生になり女児が小学生となった時状況は変化する。」

セイ「堕天使の介入により毒父との関係性は一変。男児改め男性が毒父の精神を破壊。そのことにより毒母の洗脳が解けパワーバランスが変化。女児の生育環境も男児の頃と比べれば幾分か良くなる。」

ミィディア「しかしこの頃には男性は今までの無理がたたったのか精神と肉体が衰弱しただ寝て起きては食べの生活が続く。」

セイ「その後様々な天使たちの介入により何とか衰弱から回復。そして現在に至る。という感じですかね。」

ミィディア「改めて振り返ってみると壮絶だな・・・俺の人生。」

セイ「ええ。特に小学生の頃から高校生になるまで死ななかったのがある意味奇跡です。」

ミィディア「だなぁ・・・。」

セイ「ここからですよ?じゃあ今の段階でこの家族に存在する男性が取れる方策は何でしょう?」

ミィディア「まず精神的肉体的な回復の継続だな。」

セイ「それは何故でしょう?」

ミィディア「確かに様々な天使たちのお陰で衰弱からは回復しただろう。しかし完全回復には程遠い。何故なら今まで生きてきた中でこの男性は安全に過ごせた期間の方が短いからだ。だからまず安全に過ごせたという期間を増やす必要がある。」

セイ「成程。では他に方策は何かあるでしょうか?」

ミィディア「貯蓄の確保。」

セイ「それは何故?」

ミィディア「何れこの家を出ていく為だ。そもそもここまで至った原因のような場所に居続けるのはどう考えてもリスクが高い。」

セイ「しかしすぐには出られませんよ?」

ミィディア「何故だ?」

セイ「貯蓄は毒父にむしり取られています。その場合の目標に至るまでの方策は何かあるのですか?」

ミィディア「・・・毒父母を利用する。」

セイ「というと?」

ミィディア「今まで養育の義務を無視してさんざんむしり取って来たんだ。俺の金が溜まるまで家に居させてもらう。」

セイ「しかし家にいるのはリスクが高いんじゃありませんか?」

ミィディア「大丈夫だ。昔とは状況が違う。毒父は憔悴してるからもう何もしなくても抑え込まれたままだ。まぁ油断はしないけどな。毒母は大分洗脳が解けてるから何かあった時女児のことも考え味方に付けることが出来る。それに家に金を入れたり生活費、女児の学費の補填をしてるのは俺だ。だから俺を追い出すと一瞬で生活が立ち行かなくなるのが目に見えてる。だから毒父はもう俺に何も出来ない。出来るのはせいぜい嫌がらせくらい。家のものを盗んだり奇声を挙げたりしてこちらの情緒を刺激しやり返す口実を作ろうとするくらいだ。それにさえ乗らなければ毒父は永遠に封印出来る。」

セイ「・・・そうですね。」

ミィディア「毒父は男性が男児だった時転職に“子供の金を使っとけ。”と言っていたようだがその報いは絶対に受けさせてやる。」

セイ「はいストップです。そこからは個人的理由になってしまいます・・・ですが良くここまで冷静に判断出来ましたね♪」

ミィディア「めっちゃ疲れた・・・。」

セイ「でしょうね汗。ですが誤認術を使う時の思考方法はこのような感じです。ひたすら冷静に仕組みを分析し効果的な方策を生み出す。これが基礎になります。」

ミィディア「これで基礎か・・・。」

セイ「次は応用編です。実際に介入せざる負えない。またはもう介入していてそこから逃げられない場合に必要になる思考についてお教えいたします。」

ミィディア「頼む。」

セイ「まず大前提として不安定な環境に自ら身を置かなければいけないというのは圧倒的に危ういということを覚えておいて下さい。」

ミィディア「分かった。」

セイ「取らなくてもいいリスクを取っている。戦況的に常に不利。つまり弾丸雨注の戦場を駆けていると思ってください。これが基本的な心構えです。」

ミィディア「弾丸雨注の戦場を駆けていると思うのが基本的な心構え・・・。」

セイ「なるべく止まらず。しかし焦らず。確実に捌いていく・・・そんな感じです。」

ミィディア「成程な。」

セイ「では介入の際に気を付けることですがそれは第一印象です。」

ミィディア「第一印象?」

セイ「地上では初頭効果とも言うんでしたね。誤認術の成果は八割がこの初頭効果で決まります。」

ミィディア「マジか・・・。」

セイ「マジです。そして介入する状況によって相手に植え付ける印象というのは変えなければならないのですがもしどうしても最初に植え付ける固定観念が思い浮かばない状況のような場合はとりあえず当たり障りのない相手にとって都合の良い人物を演じてください。」

ミィディア「え、何で?」

セイ「敵として認識されない為です。ここで敵と認識されてしまってはその後何も出来なくなってしまうのでここだけは絶対に好印象または敵視されないようにしてください。」

ミィディア「でも入るコミュニティコミュニティによって抱く印象は違うだろ?」

セイ「そうですが今現在ミィディアにはもう入っていて抜け出せない悪印象のコミュニティはありませんので最悪好印象を抱いてもらえなければさっさと抜けることをお勧めします。」

ミィディア「どんなに保持コミュニティがなくても?」

セイ「どんなに保持コミュニティがなくてもです!あなたとって悪影響を与えるコミュニティは存在だけでかなりのデメリットなのでいるメリットは全くありません。小中学校の頃のコミュニティを想像してもらえれば分かると思います。」

ミィディア「あ・・・成程。」

セイ「君にとって邪魔でしかなかったはずです。メリットがないだけでも勘弁してほしいところに君の生活を脅かす者が定期的に沸いて暴れだす。保持しているのがばかばかしいでしょう。」

ミィディア「その通りだな。」

セイ「まぁ今現在入っていて抜け出せない場合は悪印象好印象関係なく抜け出すことを第一に行動するべきなのですがこれは今回の話の本筋ではありません。」

ミィディア「そうだったな。」

セイ「話を戻しますね?運良く好印象でコミュニティの潜入に成功したとしましょう。その後は本当に様々な立ち回りが必要になります。」

ミィディア「例えば?」

セイ「目立つことを美徳としない出る杭は打つようなコミュニティに入った場合にはとにかく目立たず黙っておく。そして周囲に気づかれないように周囲の人間がどこまで見えていてどこまで見えていないのか・・・こちらの能力や世間一般的な考え方だったり本当にジャンル関係なく様々な情報ですね。これをいち早く把握するよう努めます。そして把握が出来たら利用出来る状態にして頭の中でデータ化しておいてください。」

ミィディア「そして相手に仕掛ける・・・と。」

セイ「いいえ違います。」

ミィディア「へ?」

セイ「介入潜入の目的はあくまで誤認です。基礎編ではその情報収集や情報判断の思考形式を君の実体験をもとに伝えましたが基本周囲の状況は君一人の判断や決断、行動では変わりません。」

ミィディア「え⁉じゃあ今までのは何だったんだ?」

セイ「勘違いしないでください。変えていくのではなく利用するのです。目の前の仕組みや構造を分析し上手く自分に好転するよう利用する。そして介入が成功した時点で誤認はもう成功しているので次はこの誤認をどう保つかに思考の重きが置かれます。」

ミィディア「・・・でも保つことってそんなに難しくないんじゃないか?」

セイ「いえ少なくとも意識して保たなければならない程度には難しいですよ?まず定着した誤認を保ち続けること。これをすることによって誤認を疑う者を極端に減らすことが出来ます。そしてこれを保ち印象を定着出来ればいいのですが場合によっては印象が定着する前に周囲の影響によって崩されてしまうということが起こりえます。」

ミィディア「化けの皮が剥がれたって感じのやつか。」

セイ「そうです。こうした場合は事前にある程度対策を打つことで防ぐことが出来ます。そして同時にこの事態をきっかけに誤認が促進してくれる場合があります。」

ミィディア「で、具体的にはどうやってやればいいんだ?」

セイ「例えばですが変な勝負事を仕掛けてきて周囲に君の強さを認識させようとしてくる輩がいたとしましょう。」

ミィディア「ああ。」

セイ「こうした場合君がとるべき選択は一つ。必ず負けてください。たとえ余裕で勝てる勝負だとしても。」

ミィディア「でも少しくらいは抵抗しないと怪しまれたりするんじゃないのか?」

セイ「いえそんなことはありません。君は同じ地球にいるので気づけていないと思いますが人間の殆どは結構頭が悪いです。なので君が少しでも接戦の空気を出すと変に印象が強くなってしまいます。君は自分が思っているより周囲に与える影響が良くも悪くも大きいことを自覚してください。」

ミィディア「あ、あぁ・・・。」

セイ「そして君への印象が周囲に定着したらようやく一段落という流れです。この時に一旦介入などに使った体力や精神力を回復しておきます。」

ミィディア「なんかめちゃ労力使うな・・・。」

セイ「ばれるデメリットを考えれば仕方ありません。一度ばれてしまえばもう二度とそのコミュニティで誤認術は使えないのですから。分かり易く言うならば誤認術とはマジックです。」

ミィディア「マジック?」

セイ「秘密が守られている間のみ効果を発揮する。種が明かされるまでは面白いマジックです。君が持っているのは一度切ってしまえばもう二度と使うことの出来ないカードだと思ってください。」

ミィディア「そしたらなるべくその手札は切らない方向で考えた方が良いな。」

セイ「そうですね。なので定着した印象は変えなくていいのであれば最悪永遠に変えなくていいです。変えずにそのコミュニティが回るのであればそのまま放置してください。変にいじって印象が変わるよりよっぽどいいです。」

ミィディア「成程な・・・。」

セイ「最後に君にはコミュニティに入った際の誤認のさせ方を伝授しましょう。」

ミィディア「マジで⁉正直そこが一番聞きたい!」

セイ「笑。これは所謂演技をする時の考え方です。いいですか?演技をする時感情は服を着るように表現してください。」

ミィディア「服を着るように?」

セイ「ええ。服を着替えるように感情を着飾るのです。心を、思考を、行動をまるで服を着替えるかのように臨機応変に着替え、着飾るのです。」

ミィディア「・・・それってつまり感情を衣服に置き換えてまるで上着を羽織るかのようなスムーズさで感情を表出しろってことか?」

セイ「そういうことです。状況に応じて喜怒哀楽を上手く表出するのです。まぁこれにはかなり精密な自己統制能力が必要になりますが。」

ミィディア「・・・。」

セイ「出来そうですか?」

ミィディア「・・・喜怒哀楽の感情を服に例えてってところまでは頭では理解出来るが実際やるとなると・・・ちょっとイメージ出来ないな・・・。」

セイ「・・・どうしたらイメージ出来そうです?」

ミィディア「・・・喜怒哀楽を表出する時のパターンを予め固定してしまえば武器を切り替えるように出来ると思うんだけど・・・。」

セイ「成程。であれば喜怒哀楽ごとに取る行動を予め決めてしまいましょう。そうすれば表出する時迷うこともないでしょう。」

ミィディア「・・・そうだな。でもその行動は何にすればいいんだ?」

セイ「私が喜怒哀楽ごとに自然に取るであろう行動を挙げていくのでその中でミィディアが一番しっくりくる行動を挙げてください。」

ミィディア「分かった。」

セイ「ではまず喜から。喜ぶ、笑顔を見せる、はしゃぐ、ガッツポーズ、楽しそうにする、社交的になる、親和的になる、距離感が近くなる・・・まぁ楽と被る部分もありますが大体このあたりですね。どうでしょう?」

ミィディア「・・・社交的になる。かな。」

セイ「それは何故ですか?」

ミィディア「これが一番喜と楽を相手に印象付けられると思ったからだ。」

 セイ「いい考え方です。そう喜怒哀楽の感情を選ぶ目的は相手にどう印象付けるか決めること。なのでこの調子で残りの怒と哀の感情も選んでみてください。」

ミィディア「ああ。」

セイ「では次、怒。黙る、怒鳴る、狂気を見せる、ゾーンに入る、強い口調で笑みを見せる、ひたすら畳み掛ける。目つきを鋭くする。どうでしょう?」

ミィディア「ゾーンに入る・・・かな。」

セイ「・・・ミィディアはゾーンに入ることが出来るのですか?」

ミィディア「まぁまだ練習中だけどな。ある天使に仕組みを教えてもらって何とかなりそうなんだ。」

セイ「・・・その天使は誰ですか?」

ミィディア「ネニアって言うんだけど知ってる?」

セイ「〝ネニアが・・・〟知っています。」

ミィディア「やっぱり知ってるんだ。」

セイ「まぁ私やイプノなど熾天使は比較的彼女のことを知っていますがそれ以外の天使は彼女を知らない者も多いですね。」

ミィディア「え、何で?天使長候補だったんだろ?」

セイ「〝イプノあたりから聞いたんですかね・・・〟そうなんですが彼女は自らその任を降りたのであまり知られていないんですよ。元々彼女は他の天使と関わりが深くありませんし。」

ミィディア「あ、それでか・・・。」

セイ「それでそのゾーンに入る技術をミィディアは教わったんですか?」

ミィディア「ああ。」

セイ「どんな技術ですか?」

ミィディア「んー・・・一言でいうなら天使たちと別れた後も天使を擬餌使役出来る技術かな?」

セイ「どういうことです?」

ミィディア「仕組みによって天使を使役している時と同じ効果を発揮させる技術だよ。」

セイ「・・・その仕組みとはどのようなものなのですか?」

ミィディア「古典的条件づけっていって動物が先天的に持っている反応を利用して天使の行動や思考、感情を再現するものなんだ。」

セイ「・・・であればその技術を使って喜怒哀楽を統制した方が早くないですか?」

ミィディア「・・・あ、確かに。」

セイ「そしたら先程まで話した喜怒哀楽の固定は忘れた方が良いかもしれません。その技術は要するに動物であれば誰もが持っている反応を逆手に取り天使の技術を体に覚えこませてしまおうということですよね?」

ミィディア「そんな感じだ。」

セイ「ネニアはその技術で何を教えていきました?」

ミィディア「心を守る技術。」

セイ「・・・他に天使に教わった技術はありますか?」

ミィディア「他には・・・オッソの剣術とイプノの精神を把握する術かな。」

セイ「そうですか。そしたらミィディア。今まで私たち天使堕天使に教わった技術は全てネニアの伝えた仕組みの形で習得してください。」

ミィディア「え、何で?」

セイ「箱を統一し引き出しから技術を出し易くする為です。ネニアの編み出した技術・・・名前があるかは分かりませんがそれは技術を習得する為の技術です。なのでこれからどんな技術もその・・・。」

ミィディア「人格術だ。」

セイ「人格術・・・成程。人格術を使って習得すれば覚えておける技術は格段に増えます。」

ミィディア「・・・何で?」

セイ「その人格術が全ての技術を使う時のトリガーになるからです。ミィディア。拳銃を想像してみてください。」

ミィディア「ああ。」

セイ「君がネニアから教わった人格術というのはいわば拳銃そのものです。そしてオッソやイプノが教えた技術は拳銃の弾丸。わたしのも弾丸です。なのでこれから先ミィディアはあらゆる種類の弾丸を覚えることで出来ることの幅が格段に広がるのです。」

ミィディア「・・・そんな凄い技術なのか。」

セイ「ええ凄いですよ。なんせその人格術とはあらゆる技術の習得に対応した技術なのですから。ネニアは激しく変わりゆく地上の需要供給関係の中で唯一変わることのない部分を君に教えたのです。」

ミィディア「確かに覚えた方が良い必要な技術は時代によって違う。けど技術の覚え方は人間が人間を辞めない限り変わらないからな。」

セイ「半永久的に使えるものを君は持っているんです。なのでこれから覚える技術もなるべく人格術で習得してください。」

ミィディア「分かった。」

セイ「そういえば何故人格術というのですか?」

ミィディア「それは人間界で言う人格を作り出す術って意味を込めてそう名付けたらしいよ。」

セイ「・・・成程。〝ネニアが天界で一番強いと言われる理由が分かった気がします。〟流石本来天使長になるはずだった天使なだけありますね。」

ミィディア「着眼点が違うよな。」

セイ「ええ。では私が教えられることはこれで全てになります。ミィディア。何か他に聞きたいことはありますか?」

ミィディア「いや今は大丈夫だ。」

セイ「そうですか。では無理せず頑張ってください。」

ミィディア「ああ。」

そういうとセイは消えていった。

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