天使たちとの能力戦線(二章、オッソの憑依剣術指南)
オッソ「こんにちはミィディア。調子はどうかしら?」
ミィディア「こ、こんにちは・・・誰?」
オッソ「オッソよ。よろしく。」
ミィディア「よろしく。」
オッソ「今日はあなたに剣術を教えにしたわよ。」
ミィディア「剣術を?」
オッソ「ええ。」
ミィディア「剣術ならヴェッキに教わったから大丈夫かなぁ。」
オッソ「・・・本当に?」
ミィディア「え?」
オッソ「本当に教わらなくて大丈夫?」
ミィディア「・・・そこまで言われるとちょっと心配だなぁ。」
オッソ「じゃあこの質問に答えて。この質問の答え次第では本当に大丈夫か分かるから。」
ミィディア「分かった。」
オッソ「では剣術とは何かしら?」
ミィディア「・・・剣を扱う為の術。つまり剣を上手く扱う為の技術だろ?」
オッソ「不正解。」
ミィディア「え、違うの?」
オッソ「違うわよ。それは今の剣道と言われるものの理由の一つ。剣術とは何か?に対する本質的な答えにはなっていないわ。」
ミィディア「じゃあ剣術って何だよ?」
オッソ「剣を使って如何に効率的に相手の命を奪うか。これを極めた力のことを言うのよ。」
ミィディア「・・・何かなぁ。」
オッソ「その様子だと剣術に幾分か夢を見ていたようね。」
ミィディア「まぁそりゃ・・・ね。」
オッソ「剣術は命を奪う為の技術。だから下界のフィクションのようにそんな夢のある技術じゃないのよ。」
ミィディア「そうなんだ・・・。」
オッソ「これからあなたにはそんな夢のない剣術を習得してもらうわよ。」
ミィディア「・・・何で?」
オッソ「擬きと会った時に負けない為。あなたが擬きに負ける姿は天使としても見てて気分が良いものじゃないのよね。」
ミィディア「成程・・・。」
オッソ「じゃまず立ち回りから教えていくわよ。いい?」
ミィディア「ああ。」
オッソ「基本相手からの攻撃は全て避けること。これは絶対よ。」
ミィディア「それはヴェッキから聞いた。」
オッソ「そう。じゃ次ね。次は自分から攻めようとしないこと。どう?これは聞いた?」
ミィディア「それも聞いた。」
オッソ「ならその理由が何故か分かってる?」
ミィディア「あれだろ?相手から仕掛けさせることで相手の手の内を確認しながら体力を温存出来るからだろ?」
オッソ「そう。戦いにおいて体力の残量は常に意識しておくもの。だから下手に体力を削る行為は自殺行為につながるわ。」
ミィディア「・・・ねぇこれってやっぱり俺剣術使えるんじゃねぇの?」
オッソ「どうかしらね。多分次の質問であなたが本当に剣術を扱えるのかが分かると思うわ。」
ミィディア「?」
オッソ「じゃあ次。あなたは普段どうやって剣を振っている?」
ミィディア「それは基本両手で持って相手に当たる瞬間に手の内を締めてるよ。」
オッソ「他には?」
ミィディア「他?」
オッソ「そう。他に振り方はないの?」
ミィディア「・・・他なんてあるのか?」
オッソ「あるわよ。」
ミィディア「例えば?」
オッソ「剣を何の為に使うのか。改めて考えれば自ずと答えは出るはずよ。」
ミィディア「剣は相手の命を奪う為に使う。」
オッソ「だから?」
ミィディア「・・・簡単な話最終的に相手を殺せればどんな振り方でもいい?」
オッソ「そう。人間なら失血死させたりタコ殴りにして絶命させたりとにかく最終的に死に繋がれば剣の扱いはどんな形でもいい。さっきミィディアが挙げたのは剣が流派を持ち始めて生まれた所謂大多数の剣士が一般的に使うような代表的な振り方。けどそういった振り方は少しでも才がある剣士なら誰だって対策を打ってる。というか大々的に知られているから立ち合いで破られない方が珍しい。だからそれが破られることを前提としてあなたより前に剣を扱っていた剣士たちは裏をかく為に様々な型を編み出して相手の裏をかきあって来た。」
ミィディア「薩摩の示現流だったり新選組の天然理心流。北辰一刀流だったりか。」
オッソ「そう。あらゆる駆け引きを通じて命を狙いあってきた。でもその駆け引きをするにはある程度手札がないと出来ないわ。あなたも型ほどではないにしても複数の攻め方を持ってないとすぐ死ねるわよ?」
ミィディア「そ、そういうオッソは代表的な攻め方の他にどんな攻め方が出来るんだよ⁉」
オッソ「私は下界で言う暗殺剣のような攻め方が出来るわ。まず代表的な攻め方を餌にして相手に先入観を与える。それでわざと相手に攻め込める隙を見せて入ってきたところをサクっと行くの。この攻め方のコツは武器を持つ時の力加減よ。」
ミィディア「力加減?」
オッソ「私があなたの中に入って説明するわ。その方が感覚的にも分かりやすいから。」
ミィディア「分かった。」
オッソ「(まず木刀を持ってくれる?)」
ミィディア「(え?竹刀じゃなくて?)」
オッソ「(木刀よ。竹刀だと説明に適さないから。)」
ミィディア「(何で適さないの?)」
オッソ「(刃の部分が反ってないじゃない。だから。)」
ミィディア「(成程。)」
オッソ「(じゃまず大きなのこぎりを持ってるイメージをしてくれる?)」
ミィディア「(・・・木刀なのに?)」
オッソ「(もう一々うるさいわね。)」
ミィディア「(す、済んません笑。)」
オッソ「(何でのこぎりなのかというと基本的に刀は押し引きで使うものだから。ミィディア。あなた料理したことある?)」
ミィディア「(まぁ時々してるよ。)」
オッソ「(その時お刺身切ったりとかするかしら?)」
ミィディア「(したことはあるけど・・・あんまりしたくないんだよな。)」
オッソ「(それは何で?)」
ミィディア「(あんまり上手く切れなくて・・・。)」
オッソ「(それはあなたが包丁でものを切る時上から押してるからよ。)」
ミィディア「(え、何でそんなこと分かるの?)」
オッソ「(刃物の性質からよ。)」
ミィディア「(でもそれって俺が刀を使う話とどう関係あるの?)」
オッソ「(身近な刃物という点で関係あるわよ。)」
ミィディア「(でも刀とは作りが違くね?)」
オッソ「(実際に見て確認したわけじゃないから絶対とは言えないけど違くはないと思うわよ?)」
ミィディア「(何で?)」
オッソ「(だって刀鍛冶が廃刀令によって始めたのが包丁作りだからよ。)」
ミィディア「(え、そうなの?)」
オッソ「(そうよ。だから包丁で良く切るには力より押し引きの加減を覚えるといいわ。)」
ミィディア「(で、これがどうオッソの攻め方に繋がるの?)」
オッソ「(鈍いわねぇ。この押し引きの技術をそのまま人間に使えばどうなると思う?)」
ミィディア「(あ・・・大した力がなくても相手を殺せるな。)」
オッソ「(そう。刀の刃を相手の体に触れさせて引くだけで肉を割いて出血させることが出来る。しかもこれには大した力はいらないわ。)」
ミィディア「(ああ。最悪刀を持つ力さえあれば使えるな。)」
オッソ「(そう。だから体力温存にはうってつけ。剣道のように打ち込んで力むことをしなくてもいい。だから避けられても大きな隙は出来ない。)」
ミィディア「(立ち会ってて嫌になるくらい命を取りに来てるな・・・。)」
オッソ「(当然じゃない。油断したらこっちがやられるんだから。)」
ミィディア「(まぁ確かにな・・・他にはどんな攻め方があるの?)」
オッソ「(・・・私は使わないけど知ってる攻め方を挙げるとヴェッキやラーマは遠心力を利用した剣術を扱うわ。)」
ミィディア「(遠心力?)」
オッソ「(ミィディア。半身になって刀を後ろに構えて。)」
ミィディア「(・・・こうか?)」
オッソ「(そう。その状態で上半身を捻りながら木刀を振ってみて。)」
ミィディア「(分かった・・・。)」
オッソ「(どう?)」
ミィディア「(当たったら即死しそう。)」
オッソ「(それが遠心力を利用する攻め方よ。この攻め方の特徴は普通では考えられない威力を技術によって引き出すことが出来るということ。全身で剣を振ることが出来ればこれは直ぐに使えるわ。)」
ミィディア「(成程ね。)」
オッソ「(これはある意味力みに特化した攻め方だからスタミナ温存という点ではとんでもなく不向きだけどトラとか熊を相手にするならそれなりに使える攻め方でしょうね。)」
ミィディア「(そんな機会一生ないだろ・・・。)」
オッソ「(まぁ登山でもしてればあるんでしょうけどね。次がフォールの攻め方。彼の攻め方はちょっと特殊よ。)」
ミィディア「(どう特殊なの?)」
オッソ「(彼の剣術は振らないのよ。乗せるの。)」
ミィディア「(乗せる?)」
オッソ「(ミィディア。相手に対して切りかかる時みたいに走ってくれる?)」
ミィディア「(了解。)」
オッソ「(そしたらその状態で腰を起点に思いっきり私の剣を振るってみて。)」
ミィディア「(・・・え、それってやばくない?)」
オッソ「(何が?)」
ミィディア「(それをやったらオーバーキルにならない?)」
オッソ「(なるわね。)」
ミィディア「(それやばくない?)」
オッソ「(・・・まぁ流石にそうよね。一旦止まっていいわよ。)」
ミィディア「(・・・ふぅ。)」
オッソ「(フォールの攻め方はね、私の暗殺剣とヴェッキの遠心力を利用した剣術を掛け合わせたような攻め方よ。)」
ミィディア「(これ体の負担半端ないんだけど汗。)」
オッソ「(でしょうね。基本八割で動いて時々十割発揮するような攻め方だから。)」
ミィディア「(・・・もっとスタミナ効率の良い攻め方ってないの?)」
オッソ「(そうね・・・あ、ヌーラの攻め方があったわ。)」
ミィディア「(どんな攻め方なの?)」
オッソ「(後の先を取る攻め方。相手に基本先手を譲ってその先手の隙を突くような攻め方。)」
ミィディア「(それってカウンター狙いってこと?)」
オッソ「(まぁ間違ってないわ。あとこの攻め方だとカウンター返しを喰らいやすいからヌーラは時々擬餌攻撃を仕掛けてたわね。)」
ミィディア「(擬餌攻撃?)」
オッソ「(相手を倒す気がない攻撃。カウンター狙いを隠す為の攻撃よ。この擬餌攻撃があると相手がもしカウンター狙いに気づいても崩す為のペースを作らせないよう妨害が出来るから戦いでの優位性を保ち易いってわけ。)」
ミィディア「(成程ね・・・。)」
オッソ「(とりあえず私が知ってる攻め方は伝えたから一旦抜けるわね?)」
ミィディア「(ああ。)」
オッソ「どう?今説明した四つの攻め方。使い熟せそう?」
ミィディア「・・・まぁヴェッキの攻め方は直ぐに出来そうだな。」
オッソ「さっき説明した時すでに出来てたからね。」
ミィディア「ああ。フォールの攻め方も少し練習すれば出来ると思う。」
オッソ「そう。私のは?」
ミィディア「オッソのは・・・使い熟す以前に練習が出来ないから物真似程度で終わると思う。」
オッソ「まぁそうなるわよね。」
ミィディア「ヌーラの攻め方も練習すれば出来ると思う。」
オッソ「流石ね。」
ミィディア「・・・そんな凄いことか?」
オッソ「大抵の人は聞いただけじゃ再現出来るなんて思えないのよ?」
ミィディア「だって憑依して実際に教えてくれたじゃん。」
オッソ「一度や二度教えられたくらいで出来るなら技術の習得は苦労しないわ。」
ミィディア「そういうものか・・・。」
オッソ「そういうものよ。あとそろそろ消えるから最後に言っておきたいことがあるわ。」
ミィディア「何?」
オッソ「今あなたは代表的な攻め方の他に四つの攻め方を手に入れたわよね?」
ミィディア「ああ。」
オッソ「これからはその四つの攻め方をまず代表的な攻め方と同じレベルまでに上げなさい。」
ミィディア「実用的なレベルまでにしないと意味がないから?」
オッソ「そう。そしてそれが出来たら今度は代表的な攻め方を含めた五つの攻め方の中で一つ選んで集中的に上げでいきなさい。」
ミィディア「それは強みを作る為?」
オッソ「それもあるけど攻め方のレベルがある程度拮抗し始めると今度はどれを使うのか判断がつかなくなる時期が使い手に来るのよ。だから改めて一つ一つの型を確認し直すことでどういう時に使えるかが再認識出来るのよ。その為。」
ミィディア「成程ね。」
オッソ「あと技術的な実力が拮抗した場合は知恵の勝負になるからね。」
ミィディア「知恵の勝負?」
オッソ「如何に相手の意表を突くか。如何に先んじて対策を打つか。思考や精神情緒面での勝敗がそのまま生死を分けるということよ。」
ミィディア「そういうことか。」
オッソ「そしてそれは相手も分かってるからね?」
ミィディア「相手も?」
オッソ「ええ。暫く立ち合って然程実力が変わらないと分かったら相手のスタンスは“如何にこちらの基準値を精神的環境的に揺さぶって下げるか。”に重きが置かれるわ。だから実力が拮抗してると分かったらすぐに対策を打たないと手遅れになるわ。そしてこれは戦いだけに言えることじゃないわ。」
ミィディア「どういうこと?」
オッソ「あなたが普段生きている日常でもいえること。気づいていたのに分かっていたのに対策をしないと打てる手も打てなくなっていく。そして気づいた時には死んでるわ。」
ミィディア「でもいつも対策が打てる段階で気づけるわけじゃないじゃん。」
オッソ「まぁそうね。」
ミィディア「そういう時はどうしたらいいんだよ?」
オッソ「そういう時は開き直りなさい。」
ミィディア「開き直る?」
オッソ「ええ。開き直って弱点を認めるの。“だから何?”みたいな感じで。そして同時にその時生まれた圧倒的な感情で相手を飲み込むの。」
ミィディア「圧倒的な感情って?」
オッソ「あなたの狂気を引き出しなさい。相手が弱点を突いてきたことを利用して。これは人間だけじゃないけど相手に弱点を指摘されたらあまりいい気はしないわよね?」
ミィディア「そうだな。」
オッソ「いい気がしないということは良くないものが出てきてるってことでしょ?」
ミィディア「怒りや憎しみのような感情がってこと?」
オッソ「そう。相手に弱点を攻められたのならいい機会だわ。その弱点を突くという相手の行為を自身の圧倒的な感情を引き出すトリガーとして利用するの。そしてその場をあなた自身の感情で埋め尽くすイメージをしながら多少の掠り傷は気にせず狂ったふりをしながら冷静に攻め立てなさい。相手に本能的な恐怖を知恵によって与え続けるのよ。そうすれば隙くらいは作れるわ。」
ミィディア「・・・。」
オッソ「・・・美しくないとでも思ってるんでしょ?」
ミィディア「・・・まあな。」
オッソ「そんなの戦いの場には不要よ。戦い方を少しでも着飾る余裕があるならその分どうやったら殺せるかを考えなさい。それが命を奪う剣術の本質よ。狂気すら味方に付けて相手を壊す。ここまでの覚悟があって初めて剣術は理解出来るの。それを一瞬でも覚悟さえ決められない連中が剣術とか言ってるなんてちゃんちゃらおかしいのよ。」
ミィディア「・・・でもそんなこと言ったら誰も剣術なんて使えなくなるぞ?」
オッソ「申し訳ないけど人間界ではもう随分と前に使える者はいなくなったと私は思ってるわ。剣道というスポーツが下界で聞こえ始めた頃からね。」
ミィディア「・・・。」
オッソ「まぁ分かってるわよ。こうした感覚が今の下界には合わないってことくらい。けどこれを聞けば知恵っていうのは経験ありきの技術だということが良く分かるでしょ?」
ミィディア「ああ。人を如何に効率的に殺すのか。こうした経験の中考えていったからこそ昔の剣術は極まっていったんだな。」
オッソ「そう。ただ技術の形だけを真似しても達人と同じ域にいけないのはこうした中身が伴っていないから。でもあなたなら憑依と俯瞰が使えるから今のうちにせっせとやっておけば同じとは言わずとも近い域まではいけるでしょ?」
ミィディア「・・・そうだな。」
オッソ「だから憑依と俯瞰が使えなくなる前に、ある程度練習しておくのね。」
ミィディア「ああ。」
オッソ「まぁその後はあなた次第だけど。」
ミィディア「〝・・・天使と別れた後は人格術で補うことになるか。〟分かった。」
オッソ「そしたら私は消えるわ。何か言い残したこととかある?」
ミィディア「・・・ありがとう。」
オッソ「・・・笑。じゃあね。」
そういうとオッソは消えていった。
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