超条件世界{終章、世界たる者}
これは、全能の彼が返納の答えを示すまでの物話・・・。
「霹靂の皆さん!御在宅ですか?」
「・・・何の用だ?」
「力の返納の件で参上致しました。」
「暫く成り行きに任せるってやつだろ?それなら——。」
「違います。私が今回ここに参上したのは、力の返納を静観することが納得出来るかどうか伺いにここに来ました。」
「・・・とりあえず、入ってくれ。」
「感謝します♪」
「で、何だっけ?」
「力の返納が静観されるということについて思うところがないか伺いに来ました。」
「・・・ヴァティーラはどうなんだ?」
「私は、納得していません。」
「俺達も納得していない。」
「けど、私たちだけじゃどうしようもないじゃないですか。」
「それについては、妙案があります。」
「・・・というと?」
「私にはどの使役者だろうと関係なく通用する力があります。」
「本当か?」
「嘘ではありません。なので、少し、私たちに協力して頂けませんか?この協力次第では力の返納は直ぐにでも行うことが可能になると思います。」
「・・・話してみなよ。」
「ええ、では早速、話をさせて頂きます。私たちの考える力返納計画について。」
~~~~~
「(セフィラ様の元を勢い余って出てきてしまったが、まさか今の自然神付与者がこんなにも平和的になっているとはな・・・まあ、嬉しい誤算だが。それに、今が平和だからといってまた付与者が介入してこないとも限らない。今度こそ、彼らを理不尽から守らなければ・・・!)・・・ん?あれは・・・。」
「浄煌。そこの薪取ってくれない?」
「これか?」
「ええ、それ。」
「祓火ー!肉焼けた?」
「まだよ。これから焼くところ。」
「夜藝速一族か。(・・・平和的に暮らしているようだな。)・・・ん?あれは・・・。」
「夜藝速一族の皆さん。こんなところで何をしているのですか?」
「ヴァティーラ。あなたこそ、ここに何しに来たの?」
「力の返納のことでお話ししておかなければならないことがありまして。」
「それなら、もうフェルトから聞いてるわよ?」
「それに追加する形になります。皆さん。今すぐ力の返納に向かって頂けませんか?」
「何故だ?」
「何でもです。今すぐ、力の返納を行うことを約束してください。」
「(・・・フェルトの予想が当たったかもね。)何でもはちょっと無茶苦茶じゃない?」
「そうでしょうか?それを言うならあなた達もかなり無茶苦茶な態度をとっていると思いますが。」
「・・・それは分かっている。」
「本当にそうでしょうか?返納の和を乱し、親切にも説得に向かわせた使役者を殺してしまうのですから、これでも我慢している方だと思いますが?」
「・・・何が言いたいの?もし、私たちを焚きつけて、悪者にしたいならそう言いなさいよ。」
「悪者にしたい以前に、もう悪者じゃないですか?」
「どうやら、化けの皮が剥がれたみたいねぇ。今まではそうやって愛想良くしてれば、生きてこれたんでしょうけど、私たち相手には通用しないわよ?」
「そうやって強がったって、返していないことに変わりはないんですから、もう殊勝になったらどうなんですかねぇ。」
「・・・。」
「浄煌!」
浄煌は無言で炎をヴァティーラへと放った。
『止まれ。』
しかし、ヴァティーラの一言によって夜藝速一族は体の自由を奪われた。
「(・・・な、体が・・・動かない。)」
「・・・ヴァティーラ。あなた何をしたの⁉」
「何もしてませんよ?」
「嘘よ!あなたが止まれって言ってから、指一本動かせなくなってるもの!」
「あら、動けないのですか?私はてっきり動かないのかと思いましたよ。」
「(・・・まずいわ。まさか、こんな形で形勢が逆転するなんて・・・。)」
「さあ、付与者にも刃物は通じるのでしょうか?」
「おい!」
「デリット!」
「ヴァティーラ!貴様、今彼女たちに何をしようとしていた!その手に持っているものは何だ⁉」
「・・・。」
「何とか言ったらどうなんだ⁉」
「・・・実は、今私は彼らに襲われそうになりまして泣。」
「(・・・こいつ!いけしゃあしゃあと嘘を!)」
「火で襲われそうになったので、咄嗟に護身用の刃物を・・・。」
「・・・そうか。良く分かった。」
「待って!違うの!本当は・・・。」
「攻——。」
『止まれ。』
ヴァティーラは神力言語でデリットの体の自由を奪った。
「グッ!(・・・成程、彼女に命令されると、その指示通りになるということか!)」
「分かったと言ったのに、何故攻撃してくるんですか?」
「私は・・・貴様が彼女たちを焚きつけ、攻撃させるまでを最初から見ていたんだ!」
「な~~んだ。そういうことだったんですね。」
「何故、貴様は力の返納をそこまで強制的にしようとしている!彼女たちの生活を邪魔してまで、急いで返すものでもなかろう!」
「(・・・デリット。)」
「急いで返してくれれば、邪魔は致しませんよ?逆に言えば、急いで返さなければ、何が何でも介入するということです。」
「・・・その傲慢さ、私が今正してくれる!」
「動けもしないのに、どうやって正すというのですかねぇ?」
「・・・クッ!」
「ヴァティーラ。お前は彼らに何をしているんだ?」
「世全視!どうしてここに・・・?」
「なに、気になってお前をつけていたんだ。」
「レディの後をつけるとはとても良い趣味ですね。」
「お前こそ、天使の力で彼らを拘束するなど、随分と使役者とは思えない力の使い方だな。」
「・・・力の返納が終われば、こんなこともしなくていいんですよ。」
そう言うとヴァティーラはその場を去った。
「あ、おい!・・・行ってしまった。」
「ねえ、これって一生動けないの?」
「いや、今俺が解く。」
そう言うと世全視は神力言語の拘束を解いた。
「・・・ふう、やっと動けるわね。」
「皆の者、済まん!私が油断したばかりに・・・!」
「何故デリットが謝る。お前は俺達を守ろうと動いただけじゃないか。」
「そうよ、それにあなたがあそこで割って入ってくれなきゃ私たちは無事じゃなかったわ。」
「・・・しかし!」
「そう自分を責めないで。あの時のあなたは油断なんてしてなかったわ。あの速度で反応されたら、誰だって対応出来ないわ。」
「・・・。」
「俺からも済まない。俺が不甲斐ないばかりに、ヴァティーラにあのような愚行を・・・。」
「それはあなたのせいじゃないわ。あれは彼女自身の問題でしょ?あなたは私たちの為に、返納を一旦休止にしてくれたじゃない。あれは私たちの責任の重荷を少しでも軽くする為に決断してくれたんでしょ?」
「いや・・・あれは俺の責任逃れの決断でもある。」
「どういうことだ?」
「俺は、ここ最近お前たち自然神に対し、あらゆる方策で介入してきた。しかし、その時セフィラから天使の付与者がそのような状況が耐えられないと言い残し、それぞれ分かれたと聞いた。そしてセフィラから、暫く働きかけは控えないかと言われ、俺はそれに乗っかっただけなんだ。だからそんな誇れた決断ではないんだ。」
「けど、それは少しでも私たちに対する配慮がなければしないわよね。」
「そうだ。それに、今回の襲撃はある程度予想していた。」
「・・・本当か⁉」
「ええ。フェルトからヴァティーラが怪しいって忠告を受けてたから。まあ、あそこまで一方的になるとは思ってもなかったけどね。」
「・・・世全視。彼女は何をしたんだ?」
「彼女は神力言語を使ったんだ。」
「神力言語?」
「神と天使フェアのみが使える言語。神力言語を耳に入れた者はその言葉を発した者に逆らえないというものだ。」
「成程・・・だからあの時動けなくなったのね。」
「ああ。だが、俺の周りにいればそれは食らわない。」
「けど、あなた以外にはみんな効くってことでしょ?」
「ああ。つまり、俺は常に彼女を見張っていなければならないということだ。まあ、さっき襲撃をされたから、今暫くは大丈夫だと思うが・・・。」
「・・・大変ね。」
「しかし、これが俺の役目だ。」
「・・・そう。」
「じゃ、失礼する。」
「ああ。気を付けてな。」
~~~~~
「(最近は、こんな風に自分だけの時間を取ることを忘れていたので、何だかほっとしますね・・・)・・・なっ!まさか⁉こんな一瞬で・・・急がなければ!」
~~~~~
~~~少し前~~~
「ってことがあったのよ?」
「あの時は俺も間知郎も死ぬかと思ったよ笑。」
「ああ笑。」
「そうか。」
「まあ、今となっては笑い話だけどね。」
「それ、俺たちのセリフじゃね?」
「だな笑。」
ドン!
「ん?何の音だ?」
「・・・俺が見てくるよ。」
~~~~~
「(・・・これは、セフィラ様の守紋が一撃で壊されている!)」
「あれ?ここは如月の家だよね。何故禊護がいるんだい?」
「一緒に住んでいるからだよ。それより、これは何の真似だ?守紋を破壊するほどの攻撃をいきなり仕掛けてくるなんて。」
「何だ。如月の家にも印紋を施していたのか。どうりで無傷なわけだ。」
「お前・・・守紋がなかったら、どうなってたと思ってんだ。」
「家は壊れていただろうね。」
「ああそうだ。そしたら、中にいる智心や未知子、過智たちは無事じゃすまなかった。」
「でも、死にはしないだろう。なんたって全知の一族だ。」
「けど、体は普通の人間と同じなんだよ。」
「禊護、何かあったのか?」
「何だ。ちゃんといるじゃないか。」
「お前ら、家の中に隠れてろ!」
「今、人質に取ってあげるからね。」
そう言うとデチーレは拳を振りかぶり、殴りかかってきた。
「守紋{三連}!」
禊護がそう言うと黄色い印紋が三つ重なるように出現した。
「おっと、中々頑丈だね。」
「(守紋の三連でも二枚は破られ、残りはひびが入るのか・・・。)想像以上の身体能力だな。」
「褒めるのはまだ早いよ。今のはウォーミングアップだ。」
「(マジかよ・・・)そうか。なら破られないように気をつけねーとな。」
「勝手に頑張れ。」
そう言うと、今度は蹴りをかましてきた。
「守紋{五連}!」
禊護がそう言うと、黄色い印紋が五つ重なって出現した。
「・・・ほう。まだ重ねられるとはね。」
「へっ、付与者の力は伊達じゃないのさ。」
「けど、次は止まらなければいい話だ。」
そう言うとデチーレは拳を振りかざした。
「(・・・こいつ!)守紋{五連}!」
「・・・。」
続けてデチーレは掌底を打った。
「守軟紋!」
「まだまだ行くよ。」
さらに続けてデチーレは神の鎖を禊護に放った。
「(だったら・・・!)強攻印{七連}!重爆印{三連}!」
禊護は左手に攻印に強硬印の効果を付与した印紋を七つ重ねて出現させ、右手に爆印を二つ重ねた印紋を三つ出現させた。
「グッ・・・。」
デチーレは禊護の放った印紋に少し怯んだ。
「(よし、食らった!これで少しは・・・!)」
しかし、すぐに体勢を立て直し、禊護に殴り掛かった。
「甘いよ。」
「(なっ、止まら——。)」
「じゃあね。」
そして、禊護に拳が当たる瞬間——。
「それはあんた。吹っ飛びな。」
ドン!
突如、ビュージュがその場に現れ念力でデチーレを吹っ飛ばした。
「ビュージュ!何でここに⁉」
「女の勘♪・・・にしても禊護。良く如月を守り抜いたわ。お陰で間に合った。」
「だが、俺の体力はもう殆ど残っていない。」
「そしたら、あなたの残りの体力は如月を守る為に使ってくれる?私はあいつを止めるから。」
「分かった。」
「・・・やれやれ、この僕に勝てると思っているのかい?」
「さあね。でもやれやれなのはあんたの方よ。何の力も持たない如月を攻めるなんて、あんたも一線を越えたのかしら?」
「何の力も持ってないなんて、よくもまあそんな嘘が言えるね。」
「私が言ってんのは、戦う力も持たない相手に武力行使なんて堕ちたもんねって言ってんのよ。」
「戦い方は一つじゃないだろ?」
「それはそうだけど・・・まあ、そんなことはどうでもいいわ。あんたは何故如月を襲ったの?」
「力を返してもらう為だ。」
「それは様子見って決まったじゃない。」
「けど、僕は納得いっていない。」
「そういえば反対してたわね。けど分かってるでしょ?力の返納は全付与者と使役者が集まらなければ意味がないって。」
「分かってるよ。」
「じゃあ、如月を無理やり従わせたところで意味なくない?」
「如月だけならね。」
「(・・・グラント!)」
「(何?)」
「(今すぐ全天使に状況を確認!)」
「(分かった!)」
「それと、もう君と会話するつもりはない。じゃあね。」
そう言うとデチーレは神の鎖をビュージュに向けて放った。
「(テレポート!)」
ビュージュは瞬間移動で咄嗟に空に飛んだ。
「上手く空に逃げたつもりだろうけど、意味ないな。」
「(・・・これは、無数の鎖が・・・テレポート!)」
ビュージュは瞬間移動で地上に逃げた。
「ほらほら、地上に逃げたらもっと危ないだろ?」
「(・・・クッ!)」
デチーレは神の鎖でビュージュを追い込みながら、拳を振りかざした。
ビュージュは念力で神の鎖をいなしながらも徐々に追い込まれていった。
「さあ、終わり(・・・。)」
そして、デチーレの拳がビュージュに当たる瞬間、突如デチーレの拳が止まった。
「(・・・?)」
「(・・・。)どうやら、君との勝負はお預けになりそうだね。失礼するよ。」
そう言うと、デチーレはその場を去った。
「ちょ、どういうこと!待ちなさい!・・・くそっ!」
「ビュージュ。大丈夫か?」
「あなた達こそ、けがはない?」
「禊護がずっと守っていたから問題ない。」
「そっか。」
「とりあえず、家に入って休んだ方がいいぜ。」
「ありがと。今回ばかりはそうさせてもらうわ。」
~~~~~
「禊護。あんた私が来るまでの一部始終知ってる?」
「ああ。」
「じゃあ、話してくれない?」
「分かった。まず、俺たちはさっきまで普通に家の中で談笑していた。」
「そしたら、ドン!って凄い物音がしたから禊護が見に行ったのよね。」
「ああ。そしたらセフィラ様が施した守紋が破壊されていた。」
「え?マジで?」
「マジだ。」
「え、セフィラ彼女たちの家に守紋施していたの?」
「らしい。守紋を施した形跡と破壊された形跡があった。恐らく最初に聞いた凄い物音というのはデチーレが守紋を破壊した時の音なのだろう。」
「けど、セフィラはそう簡単に守紋が破壊されることはないって言ってたぞ?」
「そういえば言ってた。」
「・・・というかそもそも何で守紋なんて施されてたの?」
「それは、前にもうちが襲撃されたことがあってな。その時にセフィラが施してくれたんだ。」
「あ、昇旋と祓火の時?」
「そうだ。」
「セフィラは次襲撃されても30分くらいは持つ仕様だって言ってたんだけどな・・・。」
「普通のより強力に張ったって言ってたわよね?」
「ああ。」
「けど、壊されてんじゃない。」
「・・・ビュージュ。それについてはしょうがない部分がある。」
「何で?」
「俺はあいつと戦う前、セフィラ様が施した守紋が一撃で破られているのを知って、最初から全力で戦った。その時守紋を重ねて使ったが、二つは即座に破られ、残った一つにはひびが入った。」
「それが何だっていうのよ?」
「理由はここからだ。俺達印紋師の印紋はセフィラ様が一番卓越している。しかし、重ねて使えば当然だがそちらの方が力は上回る。つまり、俺が使った守紋{三連}のほうがセフィラ様の守紋単体よりも効果はずっと高い。セフィラ様は通常より強い守紋を施したと言っていたな。」
「ああ。」
「恐らく、守紋の効果範囲を狭めたのだろう。確かに範囲を狭めれば効果の向上は望める。しかし、重ねがけほどは向上しない。」
「成程、あんたの守紋{三連}が易々と破られるなら、いくらセフィラのかけた守紋とはいえ単体で破られないのは無理があると。」
「ああ。寧ろ無傷で済んだのは幸運だっただろう。」
「そうなのね・・・。」
「で、その後だが俺は暫く交戦。その後、お前が助太刀に入るという流れだ。」
「成程ね。」
「そういえば、セフィラ来ないね。」
「ん?何でセフィラが来るの?」
「だって、守紋が壊れたら分かるようになってるってセフィラが言ってたから、てっきりすぐ来るのかと。」
「あ・・・それは多分、今使役者がバラバラだからだわ。」
「陰間が捕まらないってことか?」
「多分ね。少し前だけど返納は成り行き任せになったから。」
「そうなのか・・・。」
「とりあえずさ、今日はここに泊めてくれない?さっきデチーレと戦って、力枯渇してんのよ。」
「全然いいぜ。守ってもらったしな。」
「ありがと。」
~~~~~
~~~一日後~~~
「如月の皆さん!如月の皆さんはいらっしゃいますか⁉」
「・・・ん、何だ?こんな朝早く。」
「あ、セフィラ!」
「ビュージュ!それに、禊護もいるではありませんか⁉」
「こんな朝早くにどうしたんですか?」
「守紋が破壊されたので、急いできたのですが・・・良かった。皆さん無事のようですね。」
「お陰様で・・・汗。」
「禊護。あなた、ここに居たんですね。」
「ええ。まずは彼らに予知をやめてもらおうと、ここまで来ました。」
「流石、私の弟子のひとりです♪」
「そんな・・・照れます汗。」
「笑。(・・・何?)」
「(ビュージュ。まずいわ!今度は風が襲われてる!)」
~~~~~
~~~少し前~~~
「・・・偶には川で魚を釣るのもいいもんだな。」
「ですね。最近は育てた穀物しか食べていなかったので新鮮です。」
「やっぱ、肉か魚は定期的に食べないとね!」
「笑。・・・あれ、あいつら・・・。」
「志那都一族の皆さん。ご機嫌よう。」
「ヴァティーラ。」
「それに、祆矢たちも・・・何の用?」
「何の用って・・・おいおい、良いご身分だなあ。俺達を散々振り回しておいてよ!」
「そうですよ。力の返納で遅れる原因を作っておいて、さんざん憂さ晴らしをした後はこんなところで呑気に食事とは・・・力の返納に向かってもらいましょうか?」
「・・・やるってのか?」
「勝てると思ってるのか?俺達霹靂に。」
「勝てなくても、黙ってやられてやるほど俺たちは優しくねえんだ。」
「そもそも、今回に限っては私たちに非はないですしね。」
「本当にそうでしょうか?」
「は?何言ってんの?仕掛けてきてるのはそっち——。」
「その原因を作ったのは嵐花さんたちですよね?」
「それなのに自分たちに非がないとはよく言えたものですね♪」
「・・・それは。」
「霹靂御雹矢。」
雹聚がそう言うと無数の雷が降って来た。
「なっ・・・。」
「陰間!」
「はいだナ!」
しかし、突如陰間とフェルトが現れ、その雷は全て無効化された。
「(・・・地球外に逃がされましたか。)」
「大丈夫か⁉お前たち!」
「フェルト!」
「・・・私もいるゾ?」
「ええ、ありがと汗。」
「助かったぜ・・・!」
「いや、礼はいらない。・・・ヴァティーラ。これはどういうことか、説明あるよな?」
「どういうこととは?」
「何故お前が雷と一緒に風を襲っている。」
「襲っていません。」
「じゃあ、さっきの雷はなんだ?とても戯れの威力には見えなかったぞ。」
「・・・。」
「だんまりか。なら力ずくでも——。」
『動くな。』
ヴァティーラがそういうと志那都一族とフェルトたちは体の自由を奪われた。
「!」
「お、おいどういうことだ⁉」
「体ガ、まったく動かないヨ汗。」
「残念でした♪」
「・・・あなたは何をするつもりなんですか?」
「全員仲良く力を返納するんですよ。」
「待たせたね。」
「あら、デチーレ。良いタイミングですね。」
「済まない、如月は失敗した。」
「(・・・こいつら、組んでるな!)」
「大丈夫ですよ。また改めて行けば。今は彼らです。」
「どうするんだい?」
「連れていきますよ。あ、そうだ。デチーレ。連れていく前に少し痛めつけておいてください。」
「分かった。」
「(万事休すか・・・!)」
「じゃ、死なない程度に——。」
ドン!
「今度は何ですか?」
突如爆発すると、その爆煙の中からビュージュとセフィラが現れた。
「・・・間に合った?」
「恐らく。」
「今度はビュージュとセフィラですか。」
「また会ったわね。」
「そうだね。」
「ヴァティーラ。これは一体どういうことですか?」
「答えるつもりはありません。」
「ヴァティーラ。ここは僕に任せてくれ。」
「・・・早くして下さいね。」
「ああ・・・。」
そう言うとデチーレは拳を振りかざした。
「守紋!」
そう言うとセフィラが守紋を繰り出した。
「効かない。」
しかし、その守紋はデチーレによって簡単に砕かれた。
「(テレポート!)」
ビュージュはデチーレの拳がセフィラに当たる前に瞬間移動によって空に回避した。
「また上に逃げるのか・・・。」
デチーレは神の鎖を空に回避したビュージュたちに放った。
「鎖は任せてください!重守紋{七連}!」
セフィラは七本の神の鎖をそれぞれ二つ重ねた守紋を七つ出すことで守った。
しかし、その守紋は全て貫かれた。
だが、貫かれたのを利用してセフィラは神の鎖を守紋で固定した。
「はっ!」
ビュージュは空から念力を放った。
「効かないよ。」
しかし、念力はデチーレによって簡単に弾かれた。
「(テレポート!)」
ビュージュは空中からデチーレの背後に瞬間移動した。
「(背後に回ってからの・・・)強攻爆滅紋!」
セフィラは攻紋に強硬紋と爆紋と滅紋の効果を付与した印紋をデチーレの背中にかました。
「・・・ぐっ。」
デチーレは吹っ飛ばされた。
「(手ごたえ、アリね・・・!)」
『動くな。』
セフィラとビュージュがデチーレを追撃しようとした時、ヴァティーラが神力言語によって二人の動きを封じた。
「なっ・・・。」
「まったく・・・危なかったですね。デチーレ。」
「でも何とか致命傷は避けたよ。」
「そうですけど・・・。」
「(ヒュプノ。)」
「さて、形勢逆転したと思ったのも、束の間だったね。」
「・・・くそ・・・。」
「じゃ、このまま、祠に向かってもらうよ。」
「(・・・誰か・・・誰かいないのか・・・!)」
「やれやれ、せっかく自由に過ごせると思ってゆっくりしていたら、凄く騒がしい場面に遭遇しちゃいましたー。(イプノ。世全視呼んできてもらえますー?)」
「(了解だよ♪)」
「あら、誰かと思えば、付与者を止める為に同じ付与者にやらせたルチークさんじゃないですか?」
「響さん、ちょっと会わない間に随分とアイロニーな性格になりましたねー。」
「それで、こんな場所に一人で来てなんのつもりだ?」
「まさか、私たちを止める気ですか?」
「デチーレさんー。ここは退いてもらったりって出来そうですかー?」
「無理だね。というか、今君はそんなこと提案出来る立場じゃないはずだ。」
『自由にし給え。』
突如ヴァティーラは神力言語で拘束したビュージュたちを自由にした。
「え⁉ヴァティーラ・・・何言ってるの?」
「あ・・・動けます!」
「やっト、解放されたんだナ!」
「ヴァティーラ!これは一体どういうことだい⁉」
「・・・え?何がですか?」
「皆さんー。早く小指を耳に刺してくださいー。」
「な、何で彼らが動いているんです⁉」
「それは、君が自由に動くように命じたからだろ!」
「そんなこと、私は命じていません!」
「嘘をつかないでください!さっき、命じていました!」
「(・・・どういうこと?私は確かにそんなこと命じていないのに・・・彼らの様子から察するに、言ったのは本当みたいです。ということはその部分の記憶だけ抜け落ちている?)」
「じゃ、皆さんー。クランクアップですー。」
「あ、ちょっと!(い、一体、何がどうなって・・・。)」
~~~~~
「ルチーク。さっきは助かったぜ!」
「本当よ!あの時に割って入ってきてもらって助かったわ!」
「いえいえー。」
「それにしても、ヴァティーラの奴、何であそこで自由にし給えなんて言ったんだろうな?」
「本当ね。あそこで変に口滑らせなきゃ、全て思い通りだったろうに。」
「でモ、口を滑らせてくれなかったラ、私たチ、今頃どうなっていたカ・・・。」
「まあ、不幸中の幸いということですかね汗。」
「運が良かったみたいですね。私たち。」
「あ、お前たち大丈夫だったか⁉」
「世全視遅いですよー。もう全部撮影終わっちゃいましたよー。」
「撮影?何それ?」
「ただのジョークですー。」
「どうやら、みんな無事のようだな。」
「今回はルチークに助けられた。」
「・・・そうか。」
「まあ、あれだけプライドを粉々にされたら、暫くは何も出来ないでしょうねー。」
~~~~~
「・・・つまりこういうことですか?私が一言自由にし給えと言って、全ての計画は崩れたと・・・?」
「そういうことだよ。」
「まったく、自分が立てた計画を自分でおジャンにするとはな。」
「自分の力を過信し過ぎたようだな。」
「私たちはもう帰りますから。」
「あ、そんな・・・。」
「僕も、暫く一人にさせてもらうよ。」
「返納はどうすんですか⁉」
「・・・もういいよ。じゃあね。」
「そ、そんな・・・(・・・何で、自由にする言葉を言ってしまったんでしょう・・・。)」
~~~~~
そして、この一件を機に世全視を含め全ての付与者&使役者たちが、力の返納のことを考えなくなっていく。
如月一族は禊護と共に過ごし、自然神付与者たちは力を使わなければいいと考え始める。
天使の使役者たちは今まで自分の時間を割いていた分、休む時間が欲しいと考え、方々へと散っていく。
天使の付与者であるセフィラやデリットも 次第にのほほんと過ごすようになっていく。
世界の時間がゆっくりと過ぎていくうちに各々これはこれでいいこと、平和だということを感じ生きていく。
そして次第に皆返納のことを忘れていったのだった。
天使の使役者たちも次第に今まで自分たちは色々と世界の事象に対して邪魔をしてきたのかもしれないと思うようになる。
しかし、これに天使たちは黙っていなかった・・・。
~~~~~
「・・・もう、全員返納に対する意思はなくなってしまいましたね。」
「・・・そうだな。」
「だからあれだけ言ったではありませんか!譲渡は危険だと!」
「それは・・・アプリオリ様に言ってくれ。」
「とりあえず、今の状況をアプリオリ様に伝えて判断を仰ぎましょ?」
「そうね。そうしないと始まらないし。」
「じゃ、イプノ。確認しに行ってくれる?」
「(・・・)分かった。」
~~~~~
「アプリオリ。判断を仰ぎに来た。」
「・・・。」
「どうすればいい?」
「・・・おぬしたちも暫く返納のことは忘れて過ごせと伝えよ。」
「了解。・・・ねえ、一つ聞いておきたいことがあるんだけど。」
「何じゃ?」
「あの予知。もう話してもいいかな?」
「・・・。」
「今の状況だと、隠している方が色々と良くないと思うんだけど?」
「・・・分かった。許可する。」
「ありがと。じゃ、またね。」
「ああ。」
~~~~~
「アプリオリ様なんだって?」
「僕たちも人間たちのように暫く返納のことは忘れて過ごせだとさ。」
「何ですか!それは!無茶苦茶過ぎます!」
「それと!力の返納の予知に関する詳細を話す許可が下りた。」
「それって・・・いつ返されるかってことよね?」
「ああ。」
「・・・何日後ですか?」
「いや、何日後とかじゃない。」
「じゃあ、何年後とかか?」
「・・・約二千年後だ。」
「二千年って・・・。」
「あと、二千年もこの状態が続くってこと?」
「そういうことになる。」
「・・・。」
「・・・とりあえず、自然神にもこの話は通すわよ。」
「ああ。」
「それと、今回ばかりはアプリオリ様の指示に大人しく従いましょう。私たちも今混乱しているから、それが収まったら今後を考えましょう。」
「・・・了解。」
~~~~~
「(そういうことじゃから、もう暫くは返納のことは考えんでええよ。)」
「・・・。」
「(・・・世全視?)」
「いや、力の返納を忘れる前に最後に一つやらなければいけないことがある。」
「(・・・?)」
~~~~~
「やあ、如月の諸君。元気かな?」
「まあ、ぼちぼちだな。」
「で、今回は何の用?」
「君たちに一つだけ、俺と約束してほしいことがあって来た。」
「・・・何?」
「君たち一族の全知を未来に繋げてほしい。」
「それって・・・。」
「子孫を作り、その子孫たちを君たちが見た未来まで届けてほしい。」
「・・・。」
「それだけだ。あと禊護も、その力を受け継ぐ者を作ってほしい。」
「でも・・・元々天使に与えられた力ですよ?」
「大丈夫。きっと見つかる。だから頼む。」
「まあ、俺は元々自分の意思を引き継ぐ者は作るつもりですが・・・。」
「そうか。」
「私たちも、自分たちの代で終わるつもりはないけど・・・子供はまだちょっと・・・。」
「今はその返答で十分だ。では、失礼する。」
「え、もう行くんですか?」
「ああ。それと、今生で会えるのは恐らくこれで最後だろう。皆、達者でな。」
~~~~~
「・・・ということだ。」
「まあ、そんなことはあんたに言われなくても何れ考える。」
「そうか。邪魔したな。」
「あ、もう行くんですか?」
「ああ。俺にはこれくらいしか出来ない。」
~~~~~
「(・・・やはり使役者たちには会えないか。仕方ない。次だ。)」
~~~~~
「ということだ。だから、もし今後禊護やデリットと会うことがあれば、三人で協力して力を後世まで残していってほしい。」
「・・・そうですか。分かりました。神からの最後の頼みということで、考えてみましょう。」
「ありがとう。」
~~~~~
「(世全視よ。何故、あのような行動をとったのじゃ?)」
「・・・何がだ?」
「(恍けるでない。わしが返納を忘れてくれて構わないと伝えた後、如月一族、自然神付与者たち、使役者たち、付与者たちにそれぞれ、子孫や技術の継承を頼んでいったじゃろう!)」
「使役者たちは見つからなかったがな。」
「(おぬしは何故あのような行動をとった?)」
「それはな・・・力の返納を諦めたからだ。」
「(諦めた?)」
「正確に言うと託した。最初俺は俺たちの代で返せなければこれから先永遠に返せないと思っていた。」
「(それが、わしの予知によってそうではないと思ったのか?)」
「いや、アプリオリの予知を聞いても考えは変わらなかった。何故なら俺たちは天使によって選ばれた、優秀な人間だからな。」
「(それ・・・自分で言うかの?)」
「笑。まあ、優秀とされている人間だ。これも自分で言うか?になってしまうがその優秀な人間で返せないものが後の世で返せるなんてとても考えられなかった。何故なら優秀な人間とはそうそう生まれないからだ。そう簡単に生まれない我々で返せないのなら普通とされている人間なら尚更返せない。ならば、俺たちと同じように優秀な人間が生まれ返すまで待つか?答えはNOだった。」
「(何故じゃ?)」
「俺達には優秀という以外にも更なる稀有な特性がある。それは人外の力に対する熟練度。後に返す者は俺たちと違い、その力に対する所謂慣れのようなものが足りないと思ったんだ。」
「(しかし、それは力の返納とは関係ないのではないかの?)」
「ああ。関係ない笑。」
「(どういうことじゃ⁉)」
「ここまで長々と語ったが、俺たちは何故力を返せないのか?それが今の語りの中に含まれているんだ。分かるか?」
「(力は強い方が良い・・・という感覚かの?)」
「流石だ。その通り。俺たちには力は強くて当たり前、使って当たり前、あって当たり前なんだ。これがどういうことか。つまり、力が無くなるという話を力がある前提で今まで進めていたんだ。」
「(そしたら、ない前提で考えればいいんじゃないかの?)」
「それは出来ない。」
「(何故じゃ?)」
「勘違いしないでほしいんだが、したくても出来ないんだ。理由は長い間、力と共に生きてきたからだ。そのせいか同じ人間のことを無意識に普通の人間と区別したり、力がないという感覚が分からなくなってきている。そしてこの感覚は時が経つほど顕著になっていくだろう。そして何れ、思考の歪みに気づくことも出来なくなっていく。」
「(・・・成程の。それで、各一族に血を繋ぐことを約束させたのじゃな?)」
「ああ。新しく生まれた者なら、また違った視点から力を見ることが出来る。俺たちに見えなかった方法が見えるかもしれない。そしてそれは代を重ねるほど確率が上がる。俺は今回、その方法に賭けることにしたんだ。」
「(・・・そうか。)」
「だから、アプリオリ。俺たちはもう力の返納については考えない。・・・いいか?」
「(・・・ええよ笑。)」
こうして力の返納は彼らの遠い子孫たちへと託されることとなったのだ。
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