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前提条件世界{終章、命の重さ}

これは、俺と邇邪那(にざな)の命の物語。


「では次、前へ。」

「はい。」

俺たちの村では24歳になると火山の火口へ連れていかれ、神の子を選別する儀式が行われる。

神の子を選別する方法はいたって簡単だ。

一人一人、火口までゆっくり降りていき、熱さや痛みを感じるかどうか確かめるのだ。

普通の人間ならば、火山の熱で息も出来ないが、神の子は特殊な空気に守られており、スイスイと通りていくことが出来る。

俺たちの村ではそうして、毎年神の子が村にいるか確認しているのだ。

そして幸か不幸か、その神の子に俺は選ばれてしまう・・・。

「・・・次、邇邪那!」

「はい!」

「・・・どうじゃ?」

「もう無理です!」

「分かった。次、別備(ことび)!」

「はい!」

「・・・どうじゃ?」

「・・・特に、何とも。」

「・・・降りられるか?」

「はい。少しごつごつしてて降りにくいですが・・・。」

「・・・決まりじゃな。別備。お前は正真正銘神の子じゃ!」

「(・・・そんな!)」

「別備よ。辛いじゃろうが、これも運命じゃ。受け入れい。」

「・・・はい。」


~~~~~


そして俺は、出たくもない村を神の子の運命ということで出ることとなった。

「・・・では、お役目。全身全霊をもってはたしてくるのじゃ。」

「・・・はい。」

「生きて帰ってくることは許されぬ。良いな?」

「・・・はい。」

「では——。」

「私も行きます!」

「何じゃと?」

「私も別備と・・・いや、神の子とお役目を全うする為、行かせてはもらえないでしょうか?」

「・・・しかしの。」

「わしからも頼もうかの。」

「長老!」

「元来、神にはお付きがいるのが通例じゃ。ならばその神の子である別備にもお付きは必要じゃろう?神の役目を守る為の従者。その従者として邇邪那を同行させてはもらえんかの?」

「・・・長老がそういうなら、わしは構いませんが・・・。」

「決まりじゃの。別備そして邇邪那。おぬしら二人は神の子として使命を全うしてくるのじゃ。」


~~~~~


「・・・。」

「・・・ねえ、別備。なんか話さない?ずっと沈黙だと辛いし・・・。」

「元々、楽しい旅じゃないだろ?」

「まあ、そうだけど・・・。」

「・・・邇邪那は何で俺と一緒に行こうと思ったんだ?」

「何でって、あなたと離れたくないから。」

「・・・?」

「それに、長老から頼まれたからかな。」

「・・・そうか。」

「・・・今どんな気持ち?」

「・・・どんな気持ちって・・・最悪だよ。村から追い出されるし、しかも生きて帰ってくるなって言われたんだ。もう頭の中ぐちゃぐちゃだよ。」

「・・・そうだよね。」

「生きて帰ってくるなってことは、死んで来いってことなんだろ?こんなの村の人間総出で俺を殺しに来てるもんじゃないか!」

「・・・まあね。」

「そもそも、神の子だから何なんだよ!神の子は普通に暮らしちゃいけないのか⁉野菜育てて、牛を飼って・・・。」

「別備。私さ、思うんだけど・・・あの村に帰らずに生きていちゃダメなのかな?」

「・・・どういうこと?」

「だから、あの村に帰らなければいいんだよ。あの村に帰んなきゃ、どこで生きてても分かんないし、殺されるかも!って思ってビクビクすることもない。なんなら、新しく村を作ってそこで暮らせばいいじゃない!」

「・・・まあ、そうなの・・・かな。」

「それに、長老が言ってたんだけどね。確かに、神の子は代々命を懸けることを定めとして村を出たけど、それが必ずしも正しいことだとは言えないって。何故なら、今まで何人もの神の子が村を出たけど一向に世界は救われないでしょ?だから、そもそも神の子という存在自体が幻想なんじゃないかって思ってるって。」

「・・・そしたら何で、俺を村から追い出したんだ・・・。」

「それは・・・長老一人じゃ止められないでしょ。あれは。」

「まあ、神の子の儀式に関してはみんな狂気的になるからな・・・。」

「そう。それに、もし長老一人があなたをかばったら村の中で争いが起こるかもしれないし。」

「・・・そっか、あれは長老が出来る最大限の機転を利かした行動だったのか。」

「・・・そうよ。」

「それに、邇邪那も付いてきてくれたし。」

「そりゃ、昔からいつも一緒だったから。」

「・・・だからって、並みの覚悟じゃついていこうなんて思わない。」

「流石、別備ね。」

「長いから。」

「さっきまでの泣き虫も戻ったみたいね笑。」

「う、うるさいよ!」

「笑。でも、並みの覚悟じゃないのは本当よ。私はあなたの物語を・・・生きた証を書物にして残そうと思ってる。」

「・・・どういう書物?伝記か何か?」

「神話よ。題名はもう決めてるの。神の子神話。あなたを本当に神にしてあげる笑。話のなかだけだけどね。」

「それは嬉しいな・・・笑。」


~~~~~


暫くあてのない旅をしていく中、俺と邇邪那はある二人の子供と出会うことになる。

「・・・もう無理だよぉ。」

「そんなの私だって同じよ。いいから歩きなさい。」

「でもぉ・・・。」

「こらこら、あんまり小さい子をいじめちゃいけないよ?」

「そうよ。その子嫌がってるじゃない。」

「・・・いじめてなんてないです。というか、あなたたちは誰ですか?」

「俺は天御巫(あまみふの)別備。あてのない旅をしている者だ。」

「私は咫瓊狗(たにくの)邇邪那。同じくあてのない旅をしている者よ。」

「別備さんに邇邪那さんですか・・・。」

「君は何て名前なのかな?」

「颯です。」

「ちょ、颯!」

「大丈夫だよ、灯華さん。この人たち悪い人には見えないし。」

「あら嬉しい!」

「(・・・まあ、なんかあったら力を使えばいいか。)」

「そう警戒しないでくれ。・・・君たち、両親は何処にいるのかな?」

「・・・それは・・・。」

「・・・別備。」

「・・・済まない。初対面でいきなり触れる話題じゃなかったみたいだね。」

「いいですよ。誰だって最初見た時はそう思いますから。」

「・・・ねえ。もし行くあてがないなら私たちと一緒に来ない?」

「・・・え?」

「子供だけじゃ、危険でしょ?どうせ旅をするなら多い方がいいわ!ね?」

「俺は構わないけど・・・彼らは・・・」

「僕行きたいです!」

「ちょ、颯!」

「灯華さんも一緒に行こうよ。どうせこのまま二人で旅してたら不審な目で見られるし。」

「・・・そうね。確かに、この二人が居たら、家族と勘違いしてくれるかも。」

「(・・・正直な子だ笑。)じゃ、行こうか。」

「うん!」

「よろしくね♪邇邪那おばさん!」

「おっ・・・おばさん⁉」


~~~~~


「・・・わたしってそんなに老け顔かしら・・・。」

「(この人、メンタル弱・・・。)そ、そんなことないですよ!」

「そうだよ!邇邪那はいつもきれいで可愛いよ!」

「そう・・・?」

「(・・・こっちはこっちでセリフがクサイし・・・。)そうですよ!特に颯と並ぶときれいなお母さんって感じです!」

「やっぱ、老け顔じゃない・・・‼」

「(この人めんどくさ・・・‼)颯!あんたもなんか・・・颯?」

「どうしたのかな?」

「前から歩いてくる人。誰かな?」

「珍しいね。こんなところ歩いている人なんて。」

「(・・・何か、嫌な予感がする。)別備さん。邇邪那さん。少しゆっくり歩きましょう。」

「何で?」

「あの人。多分普通じゃないです。」

「俺には普通のおば・・・(今これは禁句だな。)人に見えるけど?」

「いや、灯華さんの言う通り、あの人は普通じゃないです。」

「・・・普通じゃないってどういうこと?」

「血の匂いがします。」

「血の匂いって・・・(・・・この子たち一体・・・?)」

「・・・・・・・。」

「(・・・ふう。通り過ぎ——。)」

「おい。お前たち。」

「・・・何ですか?」

「そのガキどもは何だ?」

「・・・何だって・・・。」

「攫い子か?」

「・・・違います。あたしの・・・」

「嘘をつくな。お前の子供のわけがないだろう。子供にしては親と身なりが違い過ぎる。・・・悪いが消えてもらおう。攻——。」

妙な雰囲気を放つ女性が手を前に出し、何かしようとした瞬間。

「大火炎!颯!」

「はい!風壁!」

灯華ちゃんが手を前に出し俺たちと女性に一線を画すように炎を出した。

加えて、颯君がその炎を大きくした。

「大丈夫ですか⁉別備さん!邇邪那さん!」

「だ、大丈夫だ・・・しかし、これは?」

「それは後で説明します!」

「・・・これは、驚いた。(この炎は昔私が戦ったことがある五神の力だ!)お前、毘之家の者だな?」

「(・・・何で毘之の名を知ってるの⁉)・・・その問いには、答えることは出来ません!」

「それに、そっちのガキは須羽家の者か。」

「(・・・この人、五神家を知っている・・・?)・・・何のこと?」

「まあいい。それより、さっきのコンビネーションは良かったぞ。毘之家の娘の技を須羽のガキの技で強化する。流石五神家だ。」

「(・・・やっぱり知ってる!)あなたは何者ですか⁉」

「それは、答えられんな。」

「(・・・五神家って・・・‼)」

「あなたからは危険な匂いがします。これ以上私たちに危害を加えるというのであれば、こちらもそれなりの対応をせざるを得なくなります。」

「それは安心しろ。寧ろ済まなかったな。こちらの早とちりで攻撃してしまった。」

「・・・どういうことですか?」

「私は最初お前たち二人を人攫いと思っていたが勘違いだったようだ。済まないな。」

そういうと見知らぬ女性はその場を後にした。


~~~~~


「・・・ふう。何とか助かったわね。」

「そうですね。」

「凄い怖い人だったね。」

「はい。」

「・・・ねえ、灯華ちゃん。颯くん。君たちって五神家の出身なの?」

「そうです。」

「・・・それにさっきの炎は何?」

「・・・あれは・・・。」

「邇邪那。あまり問い詰めるように聞いちゃだめだ。この子たちにも言いたくないことの一つや二つある。」

「・・・そうね。ごめんなさい。根掘り葉掘り聞き過ぎたわ。」

「いえ・・・。」

「・・・灯華さん。もう黙っててもしょうがないよ。話そう。」

「・・・でも。」

「このまま隠しておくのはお互いの為にもならないと思うんだ。それにさっき、後で説明するって言っちゃったし。」

「そうね・・・分かった。話します。私たちのこと。」

「・・・いいのかい?」

「なんだかんだ言って別備さんと邇邪那さんにはお世話になってますし。」

「そうか。」

「では早速。邇邪那さん。五神家のことについてはどの程度ご存じですか?」

「言い伝え程度よ。自然の均衡を司る五つの神の一族がいると。」

「別備さんは?」

「俺は全く。」

「そうですか。・・・その言い伝えの五神家ですが、まずは実在します。」

「そして、その五神家。その名前にもある通り、神の力を扱う一族です。僕と灯華さんはそれぞれ、僕が風神。灯華さんが火神の力を使います。」

「・・・ごめん俺、話についていけないんだが・・・。」

「・・・どこから分かんないの?」

「最初から・・・かな。」

「・・・ごめんね?灯華ちゃん。ちょっと時間頂戴?」

「はい。」

「いい?別備。これから、彼女たちについて簡単に説明するからよく聞いてね?」

「ああ。」

「まず、言い伝えから。この世界にはそれぞれ物質や現象を司る神様がいるの。その中でも、五神と言って、この世の何処にでも存在する、自然を司る神様がいるの。その神様は世界に五種類しかいないわ。風神、雷神、土神、火神、水神。この五種類。この五種類の神様。実はその力を使うことが出来る一族がそれぞれ存在するの。」

「うん。」

「風神は須羽一族。雷神は建侯一族。土神は城堂一族。火神は毘之一族。水神は檜河一族。それでさっき、灯華ちゃんは自分が火神の力を使うこと。颯くんは風神の話を使うことを明かしてくれたじゃない?これがどういうことか分かる?」

「・・・彼女たちは五神の一族ってことか。」

「そういうこと。」

「・・・ここからは話しても・・・?」

「あ、ごめんね汗。いいわよ汗。」

「ありがとうございます。・・・さっきも話した通り、私は火神の力を使い、颯は風神の力を使います。」

「・・・そっか、だからさっき炎が出たわけだ。」

「そうなんです・・・隠していてごめんなさい。」

「いや、謝ることじゃない。・・・俺たちを思って隠してくれていたんだろ?」

「まあ・・・そうじゃないと言ったら嘘になるかな・・・?」

「笑。・・・邇邪那。俺たちも話そう。」

「・・・?」

「・・・そうね。分かったわ。・・・灯華ちゃん。颯くん。私たちもあなたに言ってなかったことがあるの。」

「・・・何ですか?」

「俺たちは君たちと会った時、あてのない旅をしていると言ったが、あれは半分嘘なんだ。」

「どういうことですか?」

「あてのない旅だが、目的はあるんだ。」

「目的?」

「ああ。俺の村では24歳になるとある儀式が行われる。」

「どんな儀式なんですか?」

「火山の火口まで連れていかれ、何事もなく降りられるか。というものだ。」

「そして、それを難なく出来た者は神の子として選ばれるの。」

「・・・神の子?」

「神が地上の災厄を解決する為現世に遣わした存在。神の子。」

「それが俺なんだ。」

「・・・別備さんが⁉」

「ああ。けど、俺は何をどうしたらいいか分からない。俺より前に生まれた神の子もみんな村を出て使命を果たしに行ったけど、結局世界は平和には程遠い。」

「・・・村に帰っちゃダメなんですか?」

「それはダメなの。生きて帰ってくるなって言われてる。」

「そんな・・・。」

「・・・あなたたちは、帰る場所ないの?」

「・・・ないことはないですが・・・。」

「あるのかい⁉」

「え?ま、まあ・・・旅に出る前、戻るって約束した場所ならありますけど・・・。」

「そしたら、そこに一緒に行かないかい?」

「でも・・・。」

「・・・危険だと思います。」

「・・・もしかして、今の五神家って争ってるの?」

「はい。」

「・・・それは、あなたたちが二人で旅をしなければならない状況と無関係ではないのね?」

「・・・そうです。」

「・・・行くだけ言ってみないか?」

「別備!」

「ごめん。邇邪那。でも、俺はこの子たちに旅を続けさせたいとは思えないんだ。帰る場所があるなら、帰ってほしい。俺はその為なら、命を張れそうなんだ。」

「・・・別備さんの神の子って、どういう力があるんですか?」

「・・・詳しくは分からないけど、何者も脅かせない存在と言われている。」

「そうだ、灯華ちゃん。別備に火の力使ってみてよ。何か分かるかも。」

「・・・私が言うのもなんですが、流石に無茶苦茶過ぎませんか?」

「大丈夫大丈夫。火口に入っても平気だった男よ。多分大丈夫よ。」

「(・・・なんか俺の扱い雑になってきてるな・・・)大丈夫だよ。理解の足しになるならぜひやってくれ。」

「・・・まあ、本人がそういうなら・・・蛍火。」

灯華ちゃんがそう言うと、蛍のように炎が周囲を漂い始めた。

「まあ、きれいな火!」

「お母さんの技です。・・・どうですか・・・⁉」

「・・・いや、大丈夫だね。」

「(・・・別備さんに蛍火が近づくと一定の距離で消される。)」

「・・・どう?灯華さん。」

「・・・颯。試してみ。」

「分かりました。・・・別備さん、失礼します・・・風球散。」

颯君がそう言うと、某忍者漫画の主人公の技のような風の玉が複数出現した。

「涼しい風ねえ~。」

「(・・・手ごたえがまるでない・・・。)・・・どうですか?」

「何ともないよ?・・・でも、少し疲れたな。」

「どう?二人とも。何か分かった?」

「・・・凄いですね。」

「・・・ええ。」

「何が凄いの?」

「まず、別備さんは普通なら火傷するはずの炎を食らっても何ともない。」

「そして、別備さんの周囲には目に見えない空気の膜があります。」

「そう。それが全ての現象や事象を無に帰してる。だから、雷に打たれても影響を受けないし、大洪水にみまわれても飲まれることはない。」

「・・・そんなに凄いんだ・・・。」

「ええ。ですが、その力の源が切れない限りはです。」

「・・・どういうことだい?」

「別備さんはさっき、私たちの技を食らった後、少し疲れたと言ってましたよね?」

「言ったね。」

「これは推測でしかないのですが、恐らく、別備さんの力の源は別備さんの生命エネルギーだと思います。」

「・・・ってことは・・・。」

「はい。あまり多用すると早死にする可能性があります。なので、一緒に来てくれるのは嬉しいですが、その力はどうしても守り切れない場合にのみ使った方がいいかも・・・。」

「・・・そうか。じゃ、俺は君たちが本当に危険にさらされた時のみ前に立とう!」

「・・・ありがとうございます。」

「それと邇邪那。君を守る時ににね!」

「ありがとう、別備!」

「(・・・なんか、ウザ。)」

こうして俺たちは、五神家の故郷を目指し旅を続けることとなった。


~~~~~


そして、俺たちは旅を続ける中、不思議な現象を目の当たりにすることとなる。

「・・・そうなんだ。そんなことが・・・。」

「はい。父と母が死んでからは一度も戻っていないので、あそこがどうなっているかは分からないんです。戦いが終わっているのか、それとも更に死者が出ているのか・・・。」

「(・・・これは、思ったよりも大きなことに首を突っ込んだかもしれないわね。)」

「・・・でも、僕、また水正さんや迅雨さんに会いたい!」

「・・・そうね。(・・・あいつら死んでなきゃいいけど。)」

「そしたら、なるべく慎重に行った方がいいね。」

「はい、ですので——。」

「・・・何あれ?」

俺たちが話をしていると、突如、目の前に大きな渦が現れ、そこから一人の男性が出てきた。

「・・・ここか?ビランチ。」

「(ええ。あなたが一国の王として見ておかなければいけないことがあるわ。)」

「・・・誰⁉」

「あ、驚かせてしまったね。俺はレ・ビジラ。国王をしている者だ。」

「・・・で、そんな一国の王様がこんなところで何をしているんですか?」

「それに、さっきの力は何ですか?」

「ん~~・・・何をしていると言われると困るなぁ。俺は此処に見ておかなければいけないものがあると言われてここに来たんだ。それより君たちこそこんなところで何をしているんだい?」

「・・・旅ですけど。」

「こんな何もないところで?」

「悪いですか?」

「 いや、悪いというか・・・。」

「ですよね。じゃ、邇邪那さん。別備さん。先を急ぎましょう。」

「・・・行っちゃうのかい?」

「ダメですか?」

「ダメじゃないけど・・・そう怒らずに話を聞いてくれないか?」

「なら、さっき何で突然目の前に現れたのか教えてもらえますか?」

「それは私も聞きたいわ。あれは何?」

「・・・あれは、神の力だ。」

「神の力?」

「ああ。最高神ビランチ。知っているかい?」

「・・・私は知らないです。」

「僕、その名前聞いたことあります!この世界で一番偉い神様の名前ですよね?」

「・・・まあ、そうかな?」

「で、その神様の力を使う人が私たちに何の用ですか?」

「・・・さっきも言ったが、俺は此処に一国の王として見ておかなければならないものがあると言われてここまで足を運んだんだ。そして、足を運んだ先に君たちがいた。だから俺は君たちから話を聞くことがまず、国王としてするべきことだと思っているんだ。」

「・・・どうする?」

「どうするって言ったって・・・。」

「・・・もし君たちに向かわなければいけない場所があるなら、そこに向かいながらでも構わない。・・・それでもダメかな?」

「歩きながら、話すくらいなら・・・いいんじゃない?灯華さん。」

「・・・もし少しでも不穏な動きがあったら、ただじゃおかないから!」

「心得ておくよ。」

こうして俺たちは、ビジラさんを加えて暫く旅をすることとなった。

五神家の故郷に向かう中でビジラさんは色々な話をしてくれた。

自分以外にも神の力を使う人間がいること。

神の力を使えるからといって、全てが上手くいくとは限らないこと。

こうした話は、村にずっといたら決して聞くことがなかったであろう新鮮なものばかりであった。

俺はここで初めて、村を出て良かったと少しだけ思えるようになっていった。

同時に、どこか心の中で抱いていた恐怖感が薄れていくのを感じた。

俺だけじゃない。

俺一人が、特別な運命を背負っているわけじゃないという共同感が心を満たしていった。

少し前までは、普通に生活出来る人を恨めしく見ていたけど、今はあまり、気にならなくなっていた。

確かに、自分は普通じゃないけれど、特別な存在であるのだけれど、その特別を当たり前のように抱え生きている人たちの話を聞くと、とても安心する。

この感覚は、俺だけではなかったようで、俺と一緒に聞いていた颯君たちも最初こそ警戒していたが、別れる最後の方にはビジラさんの話に目を輝かせて、聞いていた。

そして、別れの時・・・。

「・・・ビジラさん。」

「そう悲しむな。俺は国王としてこれ以上国務を放っておくことは出来ないんだ。それに、また会いたくなったら、ビランチを心の中で呼んでくれれば、俺がまた迎えに行くよ。」

「(・・・それって、あたしをパシるってこと?)」

「まあ、そういうことだな。」

「(まったく、最高神をそんなふうに使役するなんて前代未聞よ。)」

「でも、嫌じゃないだろ?」

「(戦争の道具に使われるよりはね。)」

「・・・じゃ、また会おうね。」

「うん!」

「はい!」

「ええ!」

「ああ!」

「・・・別備君。世界が広いこと。忘れるなよ。」

そういうと、ビジラさんは空間を超える力で国へと帰っていった。


~~~~~


「済まない。ここの国王に話があるのだが。」

「・・・そういった話はまず、俺が対応することになってる。何の用だ?」

「・・・私の力を、女子供に教える許可をもらいに来た。」


~~~~~


「今日は沢山魚が釣れたね。水正。」

「そうだな。おふくろ。・・・争いをやめてから、魚も肉も上手く感じるぜ。」

「・・・それは良かった。(・・・水面に影!)水正!蒸雨!上から奇襲だ!」

バシャッ‼

「あ~~あ。外した。何でそんなに勘がいいのよ。あんたら。」

「(・・・何者?)撤退準備。」

「了解。・・・霧雨・昇華。」

「効かないわよ。」

戦争屋は檜河家の技を目に見えない力でかき消した。

「(おふくろの技が、かき消された・・・⁉)」

「水正。援護しろ。氷化。」

檜河家は戦争屋の体を凍らせて身動きを止めようとした。

「了解だぜ。海水波‼」

もう一人は、その氷化の効果を利用し、水を飛ばすことで氷を纏わせて、地面に落とそうとした。

「だから、水や氷みたいな柔い攻撃じゃ、何ともないのよ‼」

しかし、戦争屋の目に見えない力によってその企みは水泡に帰した。

「(・・・水場というアドバンテージがありながらこうも一方的とは・・・。)水正!蒸雨!流れるぞ‼」

「了解!」

「(・・・全員が何故か逃げ場のない川の方に?・・・まさか‼)逃がさないわよ!」

「波水壁!」

檜河家は水の壁を作った。しかし・・・。

「そんなもんで防ぎきれるわけないでしょ!」

戦争屋の目に見えない力はその水の壁を破った。

「(まずい、やられる・・・‼)」

檜河家が目に見えない力にやられそうになったその時。

「強硬印。」

「(・・・何だ。何が起こった?)」

「おい、ヨルディエ。何をやってる。最初の遠征場所をここにしたいとお前が言ったから、ここにお前の弟子たちを連れて遠征に来ているんだぞ。」

「済まんな。ちょっと知人に頼まれていてな。“五神家に友人がいるから、もし訪れることがあればよろしく”と。」

「・・・知り合いでもいたか?」

「いや、ただの・・・罪滅ぼしだ。」

このやり取りの間に檜河家は川に入り、その流れを利用してその場を後にした。

「(・・・何で、ソロモン王国のイモータと冷酷のヨルディエがこんなところにいんのよ⁉)」

「(・・・ん?空にいんのは破壊の小娘か?)」

「・・・立ち止まり過ぎたな。先を急ごう。」

「そうだな。」


~~~~~


「今日は久々に先守さんが家に来る日だな。」

「そうね。だから、母さん少し奮発しちゃった笑。」

「だよな笑。」

「じゃ、さっさと帰って支度——。」

「ゔゔおおぃぃ‼死ねえ‼」

「・・・坦坑。」

「あいよ‼泥濘。」

「(・・・足が、地面に取られやがる・・・⁉)」

「誰だ?こいつ・・・⁉」

「(剣を持った青年・・・)まさか、他国の青年剣士かしら?」

「だったら、何だ?」

「目的は何?」

「・・・教えるわけねぇだろ‼」

「ほい、坦坑。夕飯。・・・援護しな。」

「・・・はいよ。泥・土石流。」

「しゃらくせぇ‼」

「どうせ、あたしたち五神家が争いをやめたことを聞きつけて、どこかのお偉いさんに“いい機会だ”とか言われて各個撃破しに来たんでしょ?」

「どうだろうなぁ・・・。」

「図星ね。(ということは・・・襲撃されているのは私だけじゃないわね・・・。)」

「(そしたら、迅雨や水正のところもやばいんじゃ・・・)」

「(・・・‼)隙あり‼」

「砂槍雨‼」

「脆い、脆すぎるぜぇ‼」

剣帝は城堂家の攻撃を砕き、そのまま城堂家を殺そうとした。

「(・・・‼)」

「守印。」

「・・・ッ‼」

「やれやれ、殺し屋風情が私の友人をあまり困らせないでほしいな。」

「先守さん!」

「大丈夫かい?二人とも。」

「・・・ええ。何とか。」

「・・・流石だ。」

「先守!てめぇには関係ねえだろ!引っ込んでろぉ‼」

「関係なくはないな。さっきも言ったが、この人たちは私の友人だ。殺させるわけにはいかない。」

「・・・チッ‼」

「・・・退いたか。」

「やべぇ。」

「・・・どうしたんだい?」

「水正と迅雨があぶねえんだ‼」

「大丈夫よ。」

「何でそんなこと言えんだよ‼母さん‼」

「殺し合いを演じた相手の力を信じなさい。・・・生き残る為に究めた力は、才ある者でさえ簡単に破ることは出来ないわ。」

「(・・・俺でもヒリつく気迫だ。流石、五神家の一角を担うだけはある。)」

「・・・そうだけどよ。」

「そんなに気になるなら、会いに行けばいいじゃないか。会えば無事かどうかすぐ分かる。」

「・・・どうするの?」

「行きてえ‼」

「・・・分かった。けど、どうやって会うの?」

「それは心配いらねえ‼水正の家だけは知ってんだ!」

「そうか。じゃ、行こう。」


~~~~~


「(灯華さんと颯どうしてるかなぁ・・・。)」

「迅雨ー‼そろそろ帰るわよー!」

「(早く会いたいなー・・・。)」

「迅雨‼」

「はひっ⁉な、何?」

「もう帰るわよ。いつまでも川で遊んでんじゃないよ!」

「はーい。」

「(・・・幸せだ。)」

「(本当にそうですか?)」

「(・・・?)」

「(あなたはこれで本当に幸せですか?)」

「(何だ?頭に直接・・・。)」

「(あなたはこれが幸せと言いましたね。ならばこの幸せが壊されることがあった場合、どうしますか?)」

「(どうするって、決まってる。その幸せを壊すやつを倒す。)」

「霜太。帰りましょ・・・霜太?」

「・・・伝雷・通水。」

「・・・ッ!(う、動けない・・・。)」

「お父さん!痛いよ・・・。」

「・・・。」

「(・・・霜太の意識がはっきりしない・・・まさか。)・・・あんた誰⁉」

「(・・・流石、五神家。イプノの力の催眠洗脳をこうも早く見抜くとは。やはりもたもたしていられませんね。)・・・蓄電」

「(・・・まさか、霧散身を?やばい‼)」

「霧散——」

「風竜・嵐‼」

誰かがそう言うと、竜を模ったかのような風が霜太と迅雨たちの間を駆け抜けた。

「(・・・⁉)」

「大丈夫ですか⁉」

「・・・あなたたちは・・・。」

「須羽颯です。」

「それに、毘之灯華です。」

「(・・・それじゃ、この子たちが迅雨の言ってた子たち・・・‼)」

「邇邪那さんと別備さんは下がっててね。」

「あ、ああ・・・。」

「灯華さん・・・‼」

「ごめんね、帰ってくるの遅くなっちゃって汗。」

「いえ、帰ってきてくれただけで嬉しいです!」

「ありがと♪間に合って良かったわ。あんたも下がっててね。」

「・・・はい。」

「状況はどんな感じですか?」

「・・・目の前にいる霜太の中に、正体不明の精神が入ってるわ。つまり、誰かに操られている。」

「・・・ということは術者の類ですね。」

「(・・・焔が隣にいるみたい。)」

「・・・ですよね?」

「え?あ、そ、そうね。その通りだわ。」

「なら、術者を探さないとですね。」

「ええ。」

「・・・颯。このあたりの木を全て切り倒せる?」

「出来ますけど・・・それでどうするんですか?」

「術者が霜太さんを操っているということは、術者もそう遠くにはいないはず。だから颯がここら一体の木を切って障害物をなくせば、出てこざる負えない。だから、私と・・・」

「天露よ。」

「天露さん。この二人でその瞬間を捕らえるから、颯は他の動物とかを殺さないようにここら一体を更地にして。」

「・・・分かった。」

「(・・・動きがありませんね。一体、どうするのでしょう。)」

「・・・鎌風・断!」

颯君がそういうと、周囲の大木が次々と切り倒されていった。

「(・・・‼)」

「(さあ、姿を現しなさい・・・‼)」

「(・・・何処にいる⁉)」

「灯華さん!上‼」

「そこか‼穿雷矢‼」

天露さんがそういうと、矢の形をした雷が謎の少年へと飛んで行った。

「(・・・ッ‼意識が逸れたせいで洗脳が解けてしまった!)」

バタッ‼

「・・・灯華さん!霜太さんが!」

「颯!天露さんが霜太さんを連れてくるまで援護!」

「了解!」

「火柱!」

灯華ちゃんがそう言うと、飛んでいる謎の少年の真下から文字通り火柱が上がった。

しかし、その火柱は何故か少年に届く直前で当たらずそれてしまった。

「効きませんね。」

「風球散!」

「だから効きませんよ。」

「(・・・力が通らない?)」

「灯華ちゃん!颯君!もう大丈夫よ!」

「分かりました!」

「・・・攻撃、通らないでしょ?」

「天露さんもですか?」

「ええ。彼に届く前に力が消える感覚があるの。」

「・・・厄介ですね。」

「でも、こうした都合がいい能力は大抵スタミナ切れを起こしやすいの。だから、こっちの力消費が少ない技で効率よく力を使わせ続けることが出来れば・・・」

「勝機が見えてくるってことですね。」

「そう。」

「なら、それあたしも参加させて!」

「迅雨‼」

「もう大丈夫だよ。お母さん。いけるよ。」

「作戦会議は終わりましたか?では、行きますよ・・・!」

「颯!」

「分かってるよ!脈風・鋭風!」

颯君がそう言うと、さっきまで無風だった森の中で突然風が吹き始めた。

「(・・・動けない!)」

「(そして、その風に乗せた・・・)灯・千蛍!」

灯華ちゃんがそう言うと、まるで風が導いているかのように小さい球体状の炎が全て謎の少年へと向かっていった。

しかしそれは全て少年にあたる寸前で消えていた。

「(・・・ッ!念膜!)」

「(・・・よし、これで拘束出来た!後は・・・)迅雨‼行くよ!」

「うん!お母さん!連迅雷!」

迅雨という少女がそう言うと、目で追えない程の速さの雷が次々と少年に飛んで行った。

しかし、その攻撃は一つも当たらず少年の直前で消えていた。

「穿雷・槍雨!」

天露さんが槍の形をした雷を雨のように降らせても、少年には当たっていなかった。

しかし、4人は当てることではなく、消耗させることを目的として力を使い続けた。

「(・・・凄い、動きに無駄がない。これが・・・五神家なのか・・・!)」

「(・・・これなら、流石にやれたでしょ!)」

「・・・ハアアアアアアアッッッッ!」

「(・・・そんな!あれだけの攻撃が一瞬でかき消された・・・!)」

「・・・ふう。完全に私を怒らせてしまいましたね。大人しくしていれば楽に殺してあげたんですがね・・・。」

「(空気が変わった・・・⁉)迅雨!灯華ちゃん!颯君!私のそばに!」

「あの人を包む空気が変わりましたね・・・。」

「(流石、10歳という若さで生き残るだけあるわね・・・。)ええ。ここからはもっと気を引き締めていくわよ。」

「クフフフッッ。(この五神家の隙を作るには少々心の隙を作る必要があるようですねぇ。)・・・そろそろ、戦えない者には退場してもらいましょうか。念力弾。」

「(・・・まずい!)別備さん!」

「・・・?」

「(・・・そうか。別備さん、神の子の力のお陰で何ともないんだ!)」

「・・・大丈夫ですか?」

「え、ええ・・・。」

「(・・・どういうこと?あの少年、ワザと外した?)」

「天露さん。別備さんについては後で話すので、まずはあの少年を倒しましょう。」

「え、ええ。分かったわ。」

「(・・・どういうことだ?力が・・・通らない?)・・・!」

4人は動揺している謎の少年の隙を突いてさらに力を叩き込んだ。

「穿雷・針糸!」

天露さんがそう言うと、糸のように細い雷がその場を折れ曲がりながら少年目掛けて穿ちに飛んでいった。

「迅雷・二槍!」

迅雨少女がそう言うと、槍の形をした雷が一瞬にして少年の元へ飛んで行った。

「大火炎!」

灯華ちゃんがそう言うと、火柱とはまた違った炎が少年目掛けて立ち昇った。

「風竜・嵐!」

颯君がそう言うと、竜を模った風が少年目掛けて飛んでき、その攻撃を皮切りに、少年は滞空高度を少しずつ落としていった。

「(・・・ッ!そろそろ体力が・・・。)」

「穿雷矢!」

「(・・・瞬間移動!)」

天露さんが雷を放った時、何故か少年は今までの優勢を捨て、どこかに消えてしまった。

「消えた・・・⁉」

「退いたみたいね。」

「・・・ふう、助かった。」

「そういえば、霜太さんは?」

「大丈夫。気絶しているだけだよ。」

「別備さん。邇邪那さん。まずはお礼を。主人を守って頂いてありがとうございます。」

「い、いえ。こちらこそ守っていただいて・・・。」

「ですが、あなた方二人が主人を介抱してくれたお陰で戦いに集中することが出来たのは事実です。それと、灯華ちゃん。颯君。助けてくれてありがとう。あそこであなたたちが来なかったらあたしと迅雨は殺されていたわ。」

「いえ、当然のことをしたまでです。」

「・・・あなたを見ると昔の焔を思い出すわ。」

「母さんを?」

「ええ。雰囲気といい、そっくり!」

「・・・そうですか。」

「それと、颯君。あなたは随分と苦労したわね。」

「いえ、灯華さんが一緒だったので・・・。」

「・・・あなた達さえ良かったら家で暮らさない?」

「・・・え、良いんですか?」

「私は嫌だ!」

「(・・・迅雨。そりゃ女の子だもんね・・・。)」

「え?ダメなの?」

「いくら颯でも、うちはちょっと・・・。」

「・・・そんなぁ・・・。」

「・・・灯華さんなら、良いけど。」

「何その差?」

「アンタも大きくなれば分かるわよ笑。」

「颯は水正さんか坦坑さんに頼めばいいじゃない。」

「分かったよ・・・。」

「・・・邇邪那。」

「何?別備。」

「来てよかっただろ?」

「・・・そうね。」

「・・・ん?ここは?」

「お父さん!」

「迅雨!痛い、痛いよ・・・。」

「良かった・・・!」

「・・・万事解決ね。」

「・・・そうですね。・・・誰⁉」

「お、いたいた。どうかな?塵鳳さん。彼らが建侯家かな?」

「ええ。そうです。」

「・・・無事か!迅雨!」

「・・・坦坑さん!それに水正さん!」

「・・・良かった。無事みたいだね・・・って、灯華⁉それに颯君もいるじゃないか⁉」

「・・・私たち、颯たちに救われたんです。」

「そっか。やっぱ迅雨のところも襲われたか。」

「とこもってことは・・・坦坑さんのところも?」

「ああ。けど先守さんに助けてもらった。」

「・・・よろしく。結野先守だ。」

「・・・先守って・・・この人いくつよ・・・塵鳳。」

「天露。そう怯えないで汗。大丈夫、初代様じゃないわ。」

「名前は世襲制でね。」

「あ・・・何だ。そういうこと・・・。」

「で、水正さんのところは大丈夫だったんですか?」

「俺のところも襲われた。けど、先守さんとよく似た服着た女の人に守ってもらってその隙に川に逃げた。」

「(・・・やはり、あの時探知した力はヨルディエのものだったか。)」

「にしても、私たちがここにいるのがよく分かったわね。」

「それは、こんな派手な戦い方すればね・・・。」

「雷やら炎やら空に向かって飛んでくのが見えましたし。」

「そりゃ、必死だったし・・・。」

「・・・そしたら、灯華ちゃんと颯君とはここでお別れだね。」

「・・・そうですね。」

「じゃ、また会おうね。」

「・・・はい!」

こうして俺と邇邪那はまた二人に戻り、旅を続けることになった。

しかし、最初の二人旅と違って俺はとても晴れやかな気持ちになっていた。

そして、暫く経ったある日、俺たちは不思議な少年と会うことになる。


~~~~~


「これからどうしようか・・・。」

「やっぱり、あたしと別備で村を作るしかないわよ~~♪」

「二人だけの集落なんて聞いたことないよ笑。」

「それは、何れ一人ずつ増やしていけばいいじゃない。ゆっくりと・・・ね♪」

「(・・・なんか知らないけど、少し鳥肌立った汗。)・・・そ、そうかな?」

「そうよ!なんなら、今その一人目を作ってもいいのよ?」

「(・・・やっぱそういうことか汗。)考えておくよー。」

「あっ、別備。今日は積極的なのね・・・でも、今は・・・。」

「(・・・?)・・・邇邪那。その子誰?」

「あっ・・・えっ?」


~~~~~


「ひどいなぁ。いきなり頬ビンタなんて、そんな怒ることないじゃないかぁ。」

「怒るに決まってるじゃない!あんたに触らせる乳じゃないのよ!」

「でも誘ってたじゃないかぁ。」

「あんたを誘ってたわけじゃないわよ!」

「・・・それより、君は誰かな?」

「それより?それより⁉あなたの最愛の人が貞操の危機に晒されたのに、それより⁉あんまりだわ‼」

「(あー・・・これは、久々に地雷踏んだな。)ごめんよ?君がそんなに真剣に考えてくれていたなんて知らなかったんだ。」

「そりゃ、あんな生返事するくらいですもんね!」

「ごめんって汗。でも、今その気持ちが伝わったよ。だから俺もちゃんと改めて時間を取って考えようと思う。だから、今だけは少し辛抱してくれないかな?」

「・・・本当?」

「本当さ!だから、今だけは・・・ね?」

「・・・分かったわ。別備が言うなら・・・我慢する。」

「(良かった・・・収まった汗。)」

「(・・・苦労するね・・・お兄さん汗。)」

「で、改めて聞くけど、君は何者なんだい?」

「僕はヨハト!よろしくね!」

「よろしく。で、そのヨハト君は何で邇邪那にあんなことをしたのかな?」

「(・・・もしかして怒ってるのかな汗。)・・・挨拶代わりというか・・・なんというか・・・。」

「あんな変態じみた挨拶、私初めてされたわ。」

「・・・まあ、それは村で暮らしてたらそうだろうね・・・。」

「ん?何で、俺たちが村で暮らしてたことを知ってるんだ?」

「それはね、神様から聞いたんだ!」

「・・・神様⁉」

「うん!」

「・・・嘘くさいわね。」

「邇邪那お姉さんだよね?」

「え?(・・・この子、何で、私の名前を・・・)」

「それに、別備お兄さん。お兄さんは不思議な力が使えるんだよね?」

「あ、ああ・・・そうだが、何故ヨハト君がそれを?」

「神様から聞いたんだ!」

「その神様って・・・最高神かい?」

「違うよ。」

「そうなのか。」

「ビランチは神様じゃないよ?」

「そうなのか⁉」

「うん。あの人は天使だよ。」

「・・・え、だってビジラさんは・・・」

「え?ビジラさんを知ってるのかい⁉」

「知っているというか、向こうから突然現れたというか・・・。」

「成程、ビジラさんらしいや笑。」

「ビジラさんを知ってるのかい?」

「うん。あの人はある国の王様なんだけど、王様らしくないんだ。」

「それって、どういうこと?」

「あの人は、国民の為に体を張れない者は王じゃないって言っててね。兵士よりも前に立つちょっと変わった王様なんだ。」

「・・・何で、兵士より前に立つのかしらね・・・。」

「それについても言ってたよ。“兵とて国の民。その民を守る為に王が動くのは当然だ。”って。」

「・・・もの凄い覚悟ね。」

「(・・・邇邪那?)」

この他にも、色々な話を俺たちはヨハトという少年から聞いた。

その中でも、世界的に指名手配されているクルデーレという女性がいること。

そして、目に見えない力を使う霞のような少年。

この二人には、俺たち自身会っているかもしれないことをヨハトという少年に伝えた。

「ははっ。多分それクルデーレおばさんだ笑。長い髪で、僕と同じくらいの身長の人でしょ?」

「そうそう。めちゃくちゃ怖かったよ汗。」

「それでその後会った少年がこれまた、強くてね。」

「その少年って何か変な杖というか槍みたいの持ってなかった?」

「そう!持ってたよ!」

「(・・・多分、オビリオお姉さんを気絶させた人だ・・・。)何かされなかった?」

「天露さんって人の旦那さんが、精神を乗っ取られたけど、何とかなったよ。」

「・・・あの時ばかりは、死ぬかと思ったわ・・・。」

「・・・ああ。色んな意味で壮絶だったからな・・・。」

「そうなんだ・・・。ところで話は変わるんだけどさ、別備お兄さんはどうして旅を続けているんだい?」

「・・・何でだろうね。」

「・・・神様から聞いたんだけど、神の子に選ばれた時はすごく嫌だって言ってたんだよね。」

「ああ。」

「そりゃそうでしょ。村をいきなり追い出されて、“死んで来い”よ?それを進んでいく方がどうかしてるわ。」

「それについては僕もそう思う。だって、個人の命を投げうって世界を救わなきゃいけないなんて、おかしいもん。もし仮に世界がそれで救えたとしても、その命を投げうった人は救われない。」

「・・・でも・・・。」

「でも、自分なら世界を救えるって言いたいのかい?」

「・・・いや、そこまで言ってない。けど・・・かもしれないのかな?って最近、思ってるんだ。」

「・・・別備。」

「僕は、そう思わない。」

「ちょっと、ヨハト君!何言って・・・。」

「邇邪那お姉さん。ここは、ここだけは聞いてくれないかな?僕の話を。僕はこの話をアプリオリから聞いた時からずっと引っかかってたんだ。別備お兄さんのことが。だって考えてもみてよ?神様が創ったこの世界。神様ですら平和に出来ていないのに、一人の人間がどうにか出来るなんておかしいと思わないかい?」

「・・・まあ、それは・・・。」

「幾ら神様の力を人間が与えられたとしても、神様でさえ途方もない時間をかけてやっと今みたいな時代まで持っていった神様より、早く平和に近づけると思うかい?」

「・・・何でそんな急ぐ必要が・・・」

「僕たちの時間は無限じゃないんだよ?それまでに何人の神の子が命を捧げなければいけないの?その捧げた命は本当に平和に近づく為に捧げなければいけない命なの?神様は言ってたよ。人の命はそんな捨てるように使うのが目的で与えたんじゃないって!いつか神の考えを超える為に与えたものだって!神ですらなし得なかった平和を実現する為に与えたものだって!だから、別備お兄さん。自分の考えを消そうとしないでほしいんだ。なかったことに、見なかったことにしないでほしい!別備お兄さんが本当に思う道を僕は進んでほしい!」

「・・・別備!」

俺は、ヨハトという少年の言葉を聞いて、涙が止まらなかった。

今まで俺の心をここまで真剣に見てくれる人はいなかった。

村を出てから、自分の存在を様々な人と出会い、認められるようになっていっている気がしたが、それは勘違いであったことに気づいたからだ。

俺は人の為に動くことで、自分の存在意義感を一時的に満たしているに過ぎなかったのだ。

俺が本当の意味で不安から、恐怖から解放されるには自分が目を背けてきた自分自身の声に耳を傾けなければならなかったのだ。

そしてそれには覚悟がいる。

俺はそこで初めて、神の子という存在に執着していることを実感した。

口では、嫌だと言いながらも、心の何処かでは俺が放棄してしまったら救いのない人たちはどうなってしまうのか。

実際に、俺たちが颯君たちの故郷にタイミングよく帰ったことも責任感という心の縛りを強くしていた。

「・・・ヨハト君。君が俺の立場だったらどうする?」

「僕だったら、神の子の使命関係なく力を使うかな。僕には好きな人がいっぱいいるんだ。ビジラさん。ツィオお姉さん。オビリオお姉さん。イモータおじさん。クルデーレおばさん。先守お兄さん。ヨルディエお姉さん。みんな、僕が守る必要がない程強いけどね。」

「・・・そうか。ありがとう。ヨハト君。今のを聞いて俺は覚悟が決まったよ!」

「別備!」

「俺は、いつか村に戻る!それで、神の子の儀式を止めさせる!勿論、俺も神の子として死ぬつもりはない!力をもって生まれてしまうとしても、その力を使いさえしなければ、普通の人と同じように生きていけるんだ!」

「・・・そうね!」

「・・・邇邪那!何で君が泣くんだよ汗。」

「だって、こんなに前向きな別備、久しぶりなんですもの・・・。」

「(・・・そっか、こんなにも彼女には負担をかけてたのか・・・。俺ってやつは・・・今まで、苦労を掛けたな、邇邪那。)」

「良かったね!別備お兄さん!」

「ああ!ありがとう!ヨハト君。」

「それで、これから別備お兄さんはどうするの?」

「自分だけの村を作るよ。そこは颯君たちみたいに行く当てのない子たちや人たちを受け入れていこうと思う。そうして、自分たちの生活を担保してから、村長に会いに行こうと思う。」

「じゃあ、僕をその村の第一村民にしてよ!」

「ダメよ。」

「へ?」

「あなたは第二。第一は私よ!変態坊や。」

「そんなぁ・・・。」

「まあ、とりあえず歓迎するよ。ようこそ。俺の村へ。」

「うん!」

こうして俺たちは、神の子の使命を捨て真の神の使命を拾い上げ生きていくのだった。

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