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天使たちの日常戦線(一章、もう一人の天使長)


ヌーラ「ふぅ。寂しくなりますね。」

ビランチ「・・・それってミイディアのこと?」

ヌーラ「ええ。あんなに素直な人間は初めて見ました。」

フォルテ「確かにね。人間は何処で覚えたのか一見素直に見えても心の中でどこか作っているからね。」

スパヴェンタ「ほんと何なんでしょうね。あれは。」

ヌーラ「我々も似たようなことはしますがそれはあくまで配慮ですからね。」

ヴェン「ええ。他者を尊重し円滑に進める為の配慮。」

ウーノ「まぁでも嫌みでとるならば中々に的確な態度ではある。」

フォルテ「確かにね・・・でもそれを素で取る奴がいる。」

プーロ「・・・ネニアっすね汗。」

フォルテ「そうだ。ビランチ。あいつのところに久々に行ってもいいかい?」

ビランチ「・・・いいけど結果は同じだと思うわよ?」

フォルテ「それでもいい。行かせてもらうよ。」

ビランチ「了解。くれぐれも怒らせないようにね。」

フォルテ「分かってるよ。」

トゥオ「ネニアとフォルテってどうしてもそりが合いませんね。」

ビランチ「それは対極にいるからねぇ。あの二人。」

デーチ「規律と自由ですからね。」

ビランチ「そう。でも誤解してほしくないんだけど仕事をしてないわけじゃないのよ。彼女・・・ただ趣味に生きる天使なのよ。」

カリタル「・・・まぁ天使長を自ら断るくらいだからな。」


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フォルテ「やぁ久しぶりだね。ネニア。」

ネニア「また来たのか。フォルテ。悪いけど結果は同じだよ。」

フォルテ「そうはさせないよ。今度こそ何処かの部門に入ってもらう。」

ネニア「ビランチは“好きにしなさいな。”って言ってくれている。」

フォルテ「それは誰も君のわがままに口を出せないからだ。」

ネニア「・・・もう地上もかなり理想的な形に近づいているんだから今更良いでしょ?」

フォルテ「良くない。君程の天使で自由は困る。」

ネニア「何が困るの?」

フォルテ「下位の天使たちのモチベーションに関わる。せめて形だけでも所属してほしい。」

ネニア「その形だけの所属だったら余計に下がるでしょ。モチベーション。」

フォルテ「・・・。」

ネニア「それに最初の部門所属は天使の自主性を重んじたものだった。上がそんな調子じゃまた堕天使が出るのも時間の問題かもね。」

フォルテ「そんなことはさせないよ。」

ネニア「・・・イプノもセイもフォルテのそんな雰囲気が嫌で天界を出て行ったのかもね。」

フォルテ「・・・何が言いたいんだい?」

ネニア「フォルテは正しいことをしてると思う。でも世界は正論では変わらないんだよ。いくら正しくてもそんな押し付けるような言い方や態度をとっちゃだめだ。誰だって過ちを犯す。フォルテの周囲を包む空気は“反論は認めない。”って言っているかのように威圧的だ。」

フォルテ「・・・自覚はあるさ。」

ネニア「だったらちゃんと制御しないとね。自分の心を。熾天使は全天使の見本なんだから。」

フォルテ「・・・最後に一つ聞いてもいいかい?」

ネニア「何?」

フォルテ「何故大逆の時参加しなかったんだ?」

ネニア「それはどっちも正しいと思ったから。イプノの“人間を完璧に作り直すべきだ。”って主張もビランチの“一度生み出したからには神力でチャチャっとやり直して天使の責任をチャラにしようなんてズルはとるべきじゃない。たとえ罪の意識に苛まれても最後まで完遂させるべき。”って主張もどちらも理解出来ない訳じゃない。」

フォルテ「・・・それはそうだけどね。」

ネニア「とても難しい問題だ。どちらも主張は正しい。おかしいことを言っているわけじゃない・・・でもその主張を通す為に取った手段がイプノは間違っていた。イプノは意図的に天界を分断するように仕向けた。結果ビランチは天使長として迎え撃つしかなくなった。」

フォルテ「・・・そうだね。」

ネニア「もういいでしょ。」

フォルテ「・・・ああ。今回はこれでお暇するよ。」

ネニア「毎回言ってるよね笑。それ。」

フォルテ「・・・本当だね笑。」


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イプノ「あ~あ。最近つまんないなぁ・・・。」

ディストル「そりゃ最近の人間はこっちが何かしなくても勝手に堕ちていきやがるからなァ。弱くなったもんだぜ。」

セイ「・・・それは少し違う気がしますがね。」

ディストル「どういうことだ?」

イプノ「彼らが弱くなったんじゃない。環境が強くなったのさ。」

フルート「環境が強く?どーゆーこと?」

イプノ「知恵を持て余しているんだ。彼らは僕らと同じく知恵を持っている。僕らはその知恵で自身を取り巻く環境を作り出せるだろ?彼らも僕らの助けによって出来るようになった。しかし不完全な彼らは天使と同じ知恵で作った環境に振り回されているんだ。自身が作った世界に雁字搦めになっている。自滅とでもいうのかな。つまり知恵を得る以前より不自由な状態になっているという奇妙な事態になっているのさ。」

ネラ「情けない話っすね。」

イプノ「ほんとだね笑。」

セイ「あ、そういえばイプノ。今の話を聞いていて思い出したのですが大逆の際何故あんなに合流が遅かったのですか?」

ムジカ「それは俺も思っていた。俺たちより先に下神域を抜けたあんたが何故最後に合流したんだ?」

イプノ「あー・・・あれか。あれはね。ネニアとかち合ったからだよ。」

オンブ「ネニア?誰ですか?それは。」

イプノ「んーなんて言ったらいいのかな・・・もう一人の天使長ってとこかな。」

オッソ「それは私も初めて聞くわ。詳しく聞かせて。」

セイ「基本的に力はビランチと同格。天界序列ではビランチ、私、イプノの順で神力を有していることになっていますが実は違うのです。私とビランチの間にネニアが入るのです。正確には並ぶのです。」

イプノ「このことを知ってるのは熾天使上位三名と数少ない天使のみ。天使長は熾天使の中でも最大の神力を有している者としているがあいつはその座の候補を自ら降りたんだ。」

オッソ「・・・何で?」

イプノ「さあね。こればっかりは僕にもわからない。」

ロッサ「にしてもそのネニアという天使は大逆中見たことがないぞ。」

イプノ「そりゃそうだ。あいつは大逆に参加してないからね。」

セイ「え、でもさっきかち合ったと言っていたではありませんか。」

イプノ「ああ。でもかち合っただけ。戦いにはなっていない。戦いになっていたら僕たちは今頃全員存在を消されているよ。」

ムジカ「・・・だったらそのネニアは何しに来たんだ?」

イプノ「“大逆の真意を確かめに来た。”と言っていたな。」

セイ「・・・大逆の真意ですか。」

イプノ「ああ。“何でこんなこと起こしたの?”って聞かれたから人間を一から完璧に不完全に作り直してあげる為だって言ったんだ。」

ディストル「・・・捻くれ者のあんたがよく正直に答えたな。」

イプノ「・・・君も同じだろ?笑。まぁネニアは嘘を嫌うのさ。それにネニアに嘘は通用しないからな。」

ディストル「・・・そうなのか。で、何て返ってきたんだ?」

イプノ「“成程ね。”だけだったよ。その後に“イプノは人間嫌いでしょ。”って言ってきた。」

ロッサ「・・・勿論嫌いだって答えたんだよな?」

イプノ「ああ。そしたらネニア何て言ったと思う?」

オッソ「・・・分かんないわ。」

イプノ「“私も嫌いだ笑。”だってさ笑。思わず笑ってしまったよ。でもその後こうも言っていた。“正確には興味がない。でもイプノお前は違う。お前の嫌いは愛情の裏返しだ。だからこれから先長い時の中で何を間違えたのか。お前は人間を好きになる。そして好きになった時ただ生きていくことも悪くないと思えるようになる。だから今回私はお前を見逃す。”って言って姿を消したんだ。」

オンブ「・・・よく分からない天使ですね。」

イプノ「本当だね笑〝・・・にしてもネニアの言っていたこと。意外と当たっていたかもな・・・。〟」


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リスパリオ「・・・。」

ヴェッキ「おいどうした?こんなところで会うとは珍しいな。」

リスパリオ「・・・あんたはヴェッキ!」

ヴェッキ「天界の参謀ともあろう者が随分と隙だらけだな。」

リスパリオ「煽てるのはよしてくれ。その名は大逆の時だけだ。」

ヴェッキ「・・・そんなことはない。あの時のお前は正に参謀だったよ。今でこそ堕天使は人間を狙うのが共通認識となっているがあの頃はそんな発想誰にもなかった。それに下神域と地上の間を戦いの要とすることで大逆に参加した殆どの堕天使の捕縛または抹殺を叶えるとともに地上の人間を守ることも叶えた。極めつけは大逆の可能性の周知だ。お前は上天使以外への周知は始まるまでするなとビランチに命じた。その結果イプノは最後までこちらの出方を知ることが出来ず物量の正面突破しか方法がなくなった・・・これものちに分かったことだがイプノは催眠が使えた。つまりあの時周知を留めていなければこちらの作戦が漏れ裏をかかれていた可能性がある・・・リスパリオ。お前はイプノが催眠を使えることを知っていたのか?」

リスパリオ「・・・フッ。知っていたら真っ先に報告しているさ。知らなかったよ・・・ただ、だからこそ用心していたんだ。何せ相手は熾天使二人。作戦はどれだけ考えても足りない。ならば打てる手は全て打っておく。こちらが作戦を知られたくないように相手方も自分たちの作戦を知られたくないはず。そうした状況では大抵行動は慎重を期す。戦力がないなら尚更な。だからあいつらの立場になって考えてみた。俺がもしあいつらの立場で天界を攻め入るとするならばまず何をするのか。答えは単純だった。情報を集めることだ。何でもいいこちらに有益となる情報をなるべく密かに集める。これに尽きる。ならば天界としてとれる策は一つだ。単純に情報を流さなければいい。そうすれば天使をどれだけ拷問しようとも本当に知らないのだから情報は得られない。」

ヴェッキ「・・・流石だな笑。」

リスパリオ「いえいえ笑・・・あの時はイレギュラーな出来事が多かった。最高戦力のグラントの不在。シェンスの不参加や無所属天使たちの動向。」

ヴェッキ「・・・グラントの件しょうがない。あいつはイプノのことを本当に好いていたからな。シェンスは“私まで戦ったら誰が戦えない天使を守んのよ!”と言っていた。あの時ばかりは俺たち天使も堕天使だったかもな・・・。」

リスパリオ「・・・そうかもな。」

ヴェッキ「そういえばあの時お前だけ下神域に来るのが遅かったな。」

リスパリオ「ああ大逆直後のことか?」

ヴェッキ「そうだ。」

リスパリオ「それはネニアに捕まっていたのさ。」

ヴェッキ「あいつに・・・?」

リスパリオ「ああ。“何があったの?”って言われてな。イプノとセイが反逆を起こした。って言ったら“そうなんだ。”とだけ言って消えてしまってな。一瞬だったがその後堕天使たちがわいてくるのを捌きながら向かっていたら思っていたより時間がかかってしまった。」

ヴェッキ「・・・何しに来たんだろうな。」

リスパリオ「さあな。まったく何を考えているんだか・・・。」


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フェア「いやぁもっとミィディアとお話ししたかったですねぇ。」

ドラーク「そりゃ初めて会話出来た人間だものね。」

プロイビー「私は二人目だけどねぇ~~。」

フェア「ムッ。妙に引っかかる言い方ですねぇ・・・。」

プロイビー「だって本当だもん~~♪」

フェア「ムキーーー‼」

グラント「〝またプロイビーの悪い癖が出たわね・・・〟そ、そういえばアレはどうなったのかな?」

プロイビー「アレ?」

グラント「ほら災厄の箱の中身。確かアレって前作った世界の災厄の一部が入ってたんでしょ?」

ドラーク「あぁそれね。それならネニアが“一応弱めといたからビランチに伝えといて。”って言ってたわね。」

フェア「弱めた・・・?どういうことですか?」

ドラーク「正確には“人間が死なない程度に弱めておいたからとりあえず絶滅の可能性は限りなくゼロに近くなった。だからむこう千年はこのままで大丈夫だよ。”って言ってたわ。多分彼女の神力である程度災厄を壊したのよ。」

グラント「・・・災厄を壊すなんてそんなのビランチでも骨が折れるのに・・・良く彼女が出来たわね。」

ドラーク「そうね〝・・・そりゃネニアはもう一人の天使長候補だからね・・・ってこれはビランチに口止めされてるから言えないんだけど。〟」

フェア「でもその災厄を弱体化させることが出来るなら一つ疑問がわきますね・・・。」

ドラーク「な、何?」

フェア「何故ネニアは完全に災厄を破壊しなかったのでしょうか?弱体化が出来るなら完全消滅も出来るのでは?」

ドラーク「そ、それは・・・ビランチでも骨が折れる作業なんだからそれがネニアの限界だったんじゃない?」

フェア「・・・成程。確かにそうですね♪いくら熾天使といえどビランチの神力量には敵いませんからね♪〝・・・怪しい。〟」

ドラーク「〝・・・ホッ。納得してくれたみたい。〟」

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ネニア「それはね。人間とそれ以外の生物のためだ。」

ヴィーゴ「・・・どういうことだい?」

ネニア「つまりね。地上に災厄が放たれてしまったのならこれを利用しない手はないと思ったんだよ。人間は天使を模して造られているんだ。災厄にも多少の耐性がある。けど一部といってもその原型のままじゃ流石に人間は滅亡してしまうかもしれない。だから極限まで弱めて災厄を残すことで人間がどう災厄を克服するのか観察することにしたんだ。」

ヴィーゴ「・・・つまり人間が災厄を克服することが出来ればそれを他の世界でも応用出来るからその為に人間たちを災厄克服の実験台にしたんだね?」

ネニア「そうだ。災厄を人間が克服出来れば人間以外の生物にとっても喜ばしいことだ。」

ヴィーゴ「・・・けどそれを克服するのに人間の貴重な有限時間を沢山奪ってしまった・・・僕はその役割は天使がやるべきだったと思うよ。」

ネニア「奪ってないよ。彼らにとっても有益な時間だ。それに今地上は嘗てない程成長している。医療というものが出来始め体に直接的に作用を及ぼす災厄を病や障害と呼びさらにその対処を人間なりに次々と見つけ出している。天使がやっていたらここまで上手くはいかなかっただろう。何故なら私たちは不死だから。老化だって自分の好きな年齢に調整出来る。だから幾らでも問題を先送りに出来る。けど人間は違う。彼らは有限なんだ。だからいつも急いている。私は千年前彼らを実験台にしたけどまったく期待していなかった。けど人間は成しえたんだ。災厄と渡り合う方法を。私たちにとっては一瞬ともいえる時の中で。」

ヴィーゴ「・・・まぁネニアさんの言っていることは間違いじゃないけど。」

ネニア「認められない?まぁそれはそうだろうね。自分よりありとあらゆる面において劣っている者に賞賛を送るなんて中々出来ることじゃない。」

ヴィーゴ「そりゃネニアさんも最初は嫌いって言ってたからね。」

ネニア「うん笑。けど最近は前よりは思わなくなったな。」

ヴィーゴ「・・・どうしてだい?」

ネニア「・・・一つはさっき言ったように人間が災厄と渡り合えるまでに成長したから。もう一つは前よりも天使を頼らなくなったからだ。」

ヴィーゴ「・・・?」

ネニア「ヴィーゴ。ビランチがプーロたちに神社を作らせた最初の目的って何だったか覚えてる?」

ヴィーゴ「・・・確か何れ天使の力がなくなって地上の人間たちだけで地上を回す為に・・・だっけ?」

ネニア「そうだ。今地上にある神社やお寺は次々と廃れていっている。人間たちにとっては私たちの力が借りれなくなるから不都合なことかもしれないけど私たちにとってはいいことだ。何故ならそれだけ天使に頼らなくても生きていける人間が増えてきている証でもあるからだ・・・ビランチは元々廃れさせる為に作ったみたいだから順調に目的の方向に舵は切られている。」

ヴィーゴ「まぁ独立するまでの繋ぎ・・・だからね。神社は。」

ネニア「うん。」

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