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天使たちの日常戦線(八章、言葉の女神と邪視の始祖)

フェア「ちょっと出かけてきますね。」

グラント「あらあなたが地上に行くなんて珍しいわね。」

フェア「偶には地上を見回ってみたいんですよ。」

ミスティオ「でも堕天使とか出たら対処出来るんすか?」

フェア「まぁ何とかしますよ。言葉の女神として。では。」

タッソ「行っちゃったね。」

ヴェール「ええ。でも大丈夫かしら?彼女。戦う力もないのに。」

プロイビー「どうだろうね・・・でもフェアを傷つける堕天使がいるとしたら強い奴よりもイカれた奴でしょうね。」

タッソ「・・・何で?」

プロイビー「言葉の女神だからよ。言葉が通じる奴なら会話では誰も彼女には勝てない。声を発したら最後。沈黙もさせないし優位にも立たせない。武器を必要としない今の時代じゃ一番手強い天使よ。」

ドラーク「・・・確かに言葉が武器の現代じゃ最強の天使だわ。」


~~~~~


オッソ「イプノどこ行くの?」

イプノ「最近位の低い堕天使が僕たちの名を語って場所を選ばずに暴れてるってフルートやディオから聞くからちょっと締めに行く。」

オッソ「あたしも行こうか?」

イプノ「いやいいよ。ちょっと懲らしめるだけだから。オッソが行ったら容赦なく消しちゃうだろ?」

オッソ「まぁそういう奴って常識が通用しないから消したほうが早いし。」

イプノ「確かに熾天使の名を語るって時点で頭のねじは外れているみたいだからね。けどそういう奴に態々裁きを与えるのももったいないだろ?」

オッソ「そうね。反省の余地もない奴に裁きはもったいないわね。裁かれずに惨めに存在してるのがお似合いね。」

イプノ「そういうことだ。じゃ行ってくる。」

オッソ「気を付けて。」


~~~~~


フェア「ふぅ・・・やっぱり偶には地上で一人ゆっくりとするのもいいですねぇ。」

堕天使1「おいこんなところに言葉の女神様がいるぜぇ?」

堕天使2「本当だ!やっちまおうぜ!」

フェア「あら何か用ですか?」

堕天使1「用も何もねぇ!言葉の女神様にはここで死んでもらうぜ?」

フェア「そんなことしたら困るのはあなたたちですよ?」

堕天使1「あ?何言ってんだ?」

フェア「だって私を消すということはこの世界から言葉を消すと同義ということですから。言葉を消すということはこの世のありとあらゆる言語がなくなりあなたたちは話をすることが出来なくなりますよ?」

堕天使1「・・・?」

フェア「おかしいですねぇ。私はまだ存在しているのに言葉が通じませんか。それとも扱う言語が天使と堕天使で違うのでしょうか?人間と違うのであれば種が違うので分かるのですが・・・。」

堕天使2「てめぇ!バカにしてんだろ!」

フェア「良かった。貶しているということは辛うじて伝わるみたいですね♪」

堕天使1「消えちまえ!」

堕天使2「・・・グッ!」

イプノ「消えるのはお前たちだ。というか目障りだからまずはこの場から消えてもらうよ。」

堕天使達「ウッ・・・——。」

イプノ「ふぅ・・・ちょっと痛めつけるつもりがあんまりにも低俗だから消しちゃったよ。」

フェア「あなたでも低俗かどうかの区別はつくんですね?」

イプノ「それどういう意味だい?怒」

フェア「そのままの意味ですよ♪堕ちた天使のあなたでもそういった区別は出来るんだなぁと思いまして。」

イプノ「〝・・・こいつせっかく助けてやったのに言うに事欠いて・・・怒。〟フッ・・・でもその堕天使に堕天使を消してもらった言葉の女神様は天使としてどうなんだろうね~~恥ずかしくないのかな~~?」

フェア「別に“助けてください邪視の始祖イプノ様~!”と頼んだ覚えはないのですがねぇ?それよりも元とはいえ熾天使という最高位の天使の一人でもあったあなたがあの程度の天使も懲らしめられないなんて・・・そっちのほう恥ずかしくないのですかねぇ?〝久々に憂さ晴らしをさせてもらいますよ。イプノ・・・!〟」

イプノ「懲らしめられないなんて一言も言ってないけどね!それに実際あそこで僕が助けなきゃ君は消されていたんじゃないのかい?ドラークやグラントと違って戦う力はないんだからさ!〝ほんと言葉に関しては油断ならないな・・・フェア!〟」

フェア「あらそうなんですね?私はてっきり懲らしめることが出来ないから消したのかと・・・それと私に戦う力がないなんてイプノの見る目も堕ちましたね。まぁ堕ちているから堕天使なんでしょうけどね~。」

イプノ「〝・・・怒。〟実際そうだろ?言葉しか扱えない君に何ができるんだい?」

フェア「戦い方は色々あるんですよ?まぁそれに気づかず負けたイプノには分かりませんか~~♪」

イプノ「〝大逆のことか・・・怒。〟じゃあ今ここで僕を抑えられたら君にも戦う力があることを認めてあげるよ!」

フェア「あら~~熾天使が智天使に実力行使ですか~?なんの神力も使えない私にグラントでも怪我をする程の神力を使うんですか?この幼気な私に?」

イプノ「・・・クッ!〝戦い方はあるって言った舌の先も乾かないうちにか弱いアピールかよ!〟」

フェア「それにイプノを抑えるという条件であるならばもうあなたは負けていますよ?」

イプノ「・・・どういうことだい?」

フェア「私は今大逆の主犯を前にして未だに存在しています。何故でしょう?理由はただ一つ。言葉で抑え込んでいるからです。言葉という武器を行使し私は何度もあなたの首元に刃を突き立てている。確かに私には直接的な戦闘に使える神力はありません。しかし今の時代。言葉を行使する前に手が出るのは地上では恥ずべき行為とされます。知恵を扱う者として知恵を有する者として戦いにも節度というものがある。知恵を与えた天使ならば尚更でしょう。それなのに熾天使が智天使より先に手を出そうとするとは・・・。」

イプノ「〝・・・むかつくが正論だ怒。〟」

フェア「さぁどうします?ここまで言われてもあなたは実力行使に出ますか?」

イプノ「〝・・・こうなったら仕方ない。あれしかない!〟」


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プロイビー「〝・・・・・・何してるのかしら。フェア。〟」

シントス「〝どうしたんだろ。何故か分からないけどプロイビーさんの目が座ってる。〟」

ミスティオ「プロイビーさん。そんな遠い目してどうかしたんすか?」

プロイビー「・・・何だろうね。」

ドラーク「何だろうねって何よ笑。悟ったようなこと言ってるけど・・・何を見つけたの?」

プロイビー「途轍もなくくだらないものを見つけたのよ。」

シントス「途轍もなくくだらないものですか?」

プロイビー「ええ。」

ミスティオ「何すか?それ笑。」

プロイビー「フェアとイプノ。」

グラント「え⁉イプノ?」

タッソ「はいグラントストップ~。」

グラント「・・・はい。」

ドラーク「で、それってフェアとイプノが接触してるってこと?」

プロイビー「そう。でも安心して。フェアのほうが優勢だから。」

ヴェール「優勢ってどういうこと?」

プロイビー「レスバしてるのよ。あの二人。」

ミスティオ「・・・マジっすか笑。」

プロイビー「ええ。今のところフェアが圧倒的に優勢ね。やり方はとても言葉の女神とは思えない程卑怯なやり方だけどね。」

ヴォルティ「そうなんですね・・・汗。」

ドラーク「まぁでもそうでもしなきゃ勝負にならないからね。彼女の場合。」

プロイビー「そうなんだけど今回ばかりは流石にちょっとイプノに同情しちゃった。なんせ貶されまくりだもん。」

タッソ「ストレス溜まってたのね。フェアも。」

ドラーク「まぁずっと天界にいるのは彼女にとっては退屈なんじゃない?」

プロイビー「かもね・・・で、どうする?連れ戻す?」

ドラーク「ん~~・・・どうしよっか?」


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ヴィーゴ「・・・何してるのかな。フェアは。」

ネニア「レスバだね。」

ヴィーゴ「レスバ?」

ネニア「レスバトルだよ。つまり言葉という武器を使った戦いだ。」

ヴィーゴ「・・・なんというか途轍もなくくだらない戦いだね。」

ネニア「そうかな?私は見てて楽しいな。」

ヴィーゴ「何でだい?」

ネニア「見てみなよ。フェアが生き生きしてる。」

ヴィーゴ「〝・・・ほ、ほんとだ。目がキラキラしてる。〟」

アルジェント「ネニア何見てんの?」

ネニア「フェアとイプノが戦っているんだよ。見る?」

アルジェント「え⁉マジで⁉見る見る!」

ヴィーゴ「〝アルジェントまで・・・。〟」

ジョナルタ「どうしたんだ?」

クオーレ「何かあったんですか?」

ネニア「下界を見てみれば分かるよ。」

ジョナルタ「これは・・・」

クオーレ「・・・フェアとイプノですか?」

ネニア「そう。」

アルジェント「なぁこの勝負どっちが勝つか賭けようぜ!」

ジョナルタ「・・・はぁ?」

アルジェント「いいじゃんよ~~天界にいるだけじゃ退屈なんだ。少しくらいこうした遊びがあってもよ~~。」

クオーレ「〝やる気なし働く気もなしけど賭け事大好き・・・何だろ。何にも悪いことはしてないはずなんだけど一度締めたいわ。ってか階級が上じゃなかったら締めてるわ。〟」

ジョナルタ「いいわけなかろう!お前のような天使ならいざ知らず他に誰がこの状況を楽しんでいるというのだ。」

ヴィーゴ「ネニアさんも楽しんでるよ・・・。」

ジョナルタ「なっ⁉本当ですか?」

ネニア「まぁ見ててちょっと面白い程度にね。」

ジョナルタ「そ、そうなのですか・・・。」

グラヴィーネ「頑張れ・・・!フェア!(小声)」

ネニア「あとグラヴィーネも。」

グラヴィーネ「へっ⁉」

ジョナルタ「・・・グラヴィーネ。胸の前のガッツポーズはなんだ?」

グラヴィーネ「こ、これは・・・お、応援よ!応援!フェアに頑張ってもらいたくて・・・ね?」

ジョナルタ「ほほう・・・?」

ヴィーゴ「〝・・・まぁグラヴィーネにとってはいい傾向なのかな。ネニアさんに話を聞いてもらってからは笑顔も増えたし。〟」

アルジェント「グラヴィーネはフェアを推すのか!俺はイプノだ!今までは劣勢だがこれから巻き返すほうに賭けてるぜ!」

クオーレ「そういうあなたは賭けをやめなさい!」

アルジェント「痛っ!何も殴ることはね~だろ~。」

ジョナルタ「あるな。フェアに賭けるならまだ一万歩譲って見逃してやらんこともなかったが天使でありながら堕天使のイプノに賭けることは何事か!」

アルジェント「固いこと言うなよ~。遊びじゃんか~。」

ヴィーゴ「・・・やれやれ。困った天使たちだね。」

ネニア「でも私たちにとってもいい発散になっているでしょ?」

ヴィーゴ「・・・そうだね汗。」


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フォルテ「・・・まったく。揃いも揃って何をしているんだ。」

ヌーラ「どうしますか?ビランチ。」

ビランチ「お互い何してるんだ感はあるんだけど・・・呼び出すのは少し違うと思うのよねぇ・・・。」

スパヴェンタ「まぁ実害は出ていませんしね。」

ビランチ「ええ。ただちょっとあんぐり。」

カリタル「笑。でもあれにイプノが付き合うなんてちょっと意外だな。」

フォルテ「ああ。僕はてっきり言葉に耳を貸さずに消し去るのかと思ってたよ。」

ウーノ「まぁ彼女には神力言語がありますからね。」

フォルテ「・・・成程。いくら熾天使といえど彼女の言葉の拘束力にはそう簡単に抗えないってことか。」

ウーノ「そうでしょうね。」

ビランチ「とりあえず彼女は放置しましょ笑。まぁ見るに耐えかねた者たちが止めるかもしれないけどそれは特に制限しないわ。」

トゥオ「了解です笑。」


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イプノ「ディベートで勝負だ!」

フェア「はい?」

イプノ「だから君と僕でディベート勝負をするぞ!確かに知恵を有する者として言葉より手が先に出るのは恥ずべき行為だね!それに僕は熾天使だ。君より位が高い!だから今回は君に有利な言葉という土俵で戦ってやろう!流石の君も頼みの言葉勝負で負ければ気づくだろう!僕のほうが優れているということに!」

フェア「聞き捨てなりませんね。言葉の女神にディベート勝負を申し込みさらにまだ戦ってもいないのに勝利宣言ですか?しかしイプノはディベートがどういうものかちゃんと分かっているのですかね?」

イプノ「どういうことだい?」

フェア「ディベートというのは肯定側と否定側の他に審判者がいなければ成立しませんよ?」

イプノ「それなら心配いらないよ!・・・ノテルナ!近くにいるのは読心で分かっているよ!出ておいで!」

ノテルナ「・・・何ですか?〝嫌な予感。〟」

イプノ「君にはこれから僕とフェアが行うディベートの審判者をしてもらうよ!」

ノテルナ「えぇ・・・。」

イプノ「おっと拒否権はないよ!熾天使である僕の命令は如何なる天使であろうと従ってもらうよ!」

ノテルナ「〝・・・なんてしょうもないことに全天使への命令権を発動させてるんだろ・・・彼。〟はいはい。」

フェア「〝・・・チッ!〟しょうがないですね。ここまでお膳立てされてしまっては退くほうが恥というもの。じゃあお題は——。」

イプノ「お題は僕が決めよう!」

フェア「はい?それは一体どういうつもりで・・・」

イプノ「あれ~~?おっかしいな~~?言葉の女神様はどんなお題でも勝てると思ってたんだけどな~~!」

フェア「‼」

イプノ「もしかして言葉が専門でない天使に言葉で戦ってもらうなんて譲歩させておいてさらにお題を譲ってもらう気でいたのかな~~?」

フェア「〝・・・油断した怒!〟」

イプノ「智天使ともあろう者が油断し過ぎじゃないのかな~?これは言葉を使った戦いなんだよ~?」

フェア「・・・分かりました。お題は譲りましょう!なんせ私は言葉の女神!この世にある全ての言語は私に味方する!なのでどんなお題がこようとも勝って差し上げましょう!」

ノテルナ「〝・・・何の茶番かしら。これ。〟」

イプノ「いい覚悟だ!ならお題を発表しよう!お題は“ビランチの天使長続投”。僕は否定派だ!」

フェア「・・・否定派肯定派まであなたが決めるのですか?」

イプノ「本当は~~譲ってあげたかったんだけどぉ~~君に配慮してあげたんだよぉ?」

フェア「・・・どういうことでしょう怒?」

イプノ「ほらもし君がこのお題で否定派に回っちゃったら天使として立つ瀬ないだろぉ?だから僕があえてありきたりな否定派に回ることで君の立場を守ってあげたんだよぉ?」

フェア「〝・・・思ってもいないことをいけしゃあしゃあと・・・!〟あらそうだったんですねぇ!ありがとうございますー!では始めましょうか‼ディベートを!」

ノテルナ「〝こんな大人げないイプノもう見たくないわ・・・泣。〟」

イプノ「じゃあ肯定派からどうぞ?」

フェア「〝私を肯定派にしたことを後悔させてあげます!〟ええ。では主張を始めさせて頂きます!私は人間の存在に焦点を当てビランチの天使長続投を肯定したいと思います!」

ノテルナ「〝あ、形式は守るのね。〟」

フェア「まずビランチの天使長続投を考えるにあたっては避けては通れないものが幾つかあります!一つが人間の存在!これは当初知恵も不死も備える予定にありませんでしたがちょっとした手違いにより知恵を備えてしまいました。しかしその後のビランチの判断により知恵だけを備えて計画を進めるに至りました。この決断が結果功を奏しました!人間たちは次第に知恵を使いこなし始めさらには二つ目の理由にも関連したものとも渡り合えるようになります!災厄です!人間たちはビランチが残した知恵によって災厄と渡り合えるまでに成長したのです!これは天使長として偉大な功績でもあります!何故なら不完全を知る為に作った人間たちが天使でも解決出来ない問題の答えに近づいている!つまりこれは人間が天使より優れていることの証明。そして不完全が必ずしも完全より劣っているわけではないことの二点を証明したからです!さらに天使にも自身より優れた者を創造したという事実が残る!これこそが天使なのだと!天使の力なのだと!声を張って言えるでしょう!以上のことから私はビランチの天使長続投を肯定します!」

ノテルナ「〝結構しっかりやってる。〟はい。じゃあ次イプノ。」

イプノ「はい!今のフェアが述べたものには幾つかの虚偽ともとれるような曲解を促すような内容があります!一つ!人間の存在についての言及の際知恵を備えてしまった理由を“ちょっとした手違い”と表現しましたが事実は違います!本当は天使長の伝え忘れです!これは天使長として大きなマイナス材料の一つです!次にビランチが最終的に正しく判断して知恵を人間に残したような言い方をしていましたが実際は当初様々な混乱を生んでいました!ヌーラは罪悪感に苛まれ熾天使たちは混乱の極み。さらには創造をお願いしたシェンスが慌ててその場に現れようやく事実が分かる始末。決断と呼べるものではありません!なぁなぁで決まっただけのこと!次に人間がビランチの残した知恵によって災厄と渡り合えるようになった。といった発言がありますが確かに今現在人間が災厄と渡り合える程までに知恵を開花させていることは事実です。しかし!これは天使長の功績ではない!ネニアの功績です!そもそも災厄は天使でも手に負えるものではなかった!それを向こう1000年弱体化させ人間に災厄を分析させるだけの時間を与えたのはネニアだ!逆にビランチはまんまと天界から災厄の箱をフルートに盗まれている。詳しくは立論で主張するがこれも天使長続投の大きなマイナス材料の一つです!以上でフェアの発言に対する反論は終了です。」

ノテルナ「〝・・・ちょっとフェアきついかもね~~〟じゃ続けてイプノ。主張をお願いします。」

イプノ「はい!わたくしはこれから上げる幾つかの事実からビランチの天使長続投を否定したいと思います!一つ!人間の創造失敗!人間を創造するということはとても大きなことです。これを伝え忘れといった初歩的なミスでしくじるとは天使長としての資質に関わると思います!さらに彼女は時間支配の神力が使える。ということは人間を一から作り直すことも可能ということ!つまり!彼女には後述する堕天使達の主張と天使たちの主張を天秤にかけ判断出来る可能性があったということ!しかし彼女はそれをしなかった。結果二つ目の理由である大逆を引き起こす結果となった!もし彼女が天使長としてしっかりと判断していれば多くの天使たちが消えることもなく災厄が盗まれ人間たちが過酷な運命をたどることもなかったでしょう!そして最後が人間の創造の可能性の奪取です!ビランチが人間を知恵だけ備えた状態で続行したことにより当時シェンスが望んでいた知恵も不死性も備えていない人間を見る可能性を奪ってしまった!以上のことによりわたくしはビランチの天使長続投を否定します!」

ノテルナ「〝これって二人とも真面目にやっているのね・・・〟はいではフェア。イプノの主張に対しての反論を開始してください。」

フェア「はい。まずわたくしの主張に対する反論から反論させていただきます。確かに人間の創造失敗はちょっとした手違いではないことは認めます。しかし現在はこうした初歩的なミスは殆ど改善されています。ビランチ自身の手によって。そこは自らの意思で失敗を試みることが出来るという点で評価出来るでしょう。そして次に人間に知恵だけ残して続行したのはなぁなぁでと主張されていましたが確かにその時熾天使を含めた多くの上天使たちは混乱していました。しかし最終的にはしっかりと決めていたことをここで言わせて頂きます。次が人間の成長が天使長の功績ではないという点について。この点に対しては確かに人間が災厄を分析する為の時間を直接的に作ったのはネニアです。ですが人間に対しての成長の促しとはそもそも個人単位で行っているものではありません。天界という組織単位で行っています。そしてネニアは天界に属しています。ビランチは天界の長です。なので天界として行った良いことも悪いこともその責任と功績は天使長に帰属する。従って人間の成長は天界の天使長であるビランチの功績となります。次に災厄の箱がフルートに盗まれた件について。これは当時熾天使という位の二名の天使が主犯となり大逆という天界の存在を根底から揺るがしかねない事件の最中に起きたこと故に情状酌量の余地はあるように思います。続けて主張についての反論を行います。創造の伝え忘れの件に関しては確かに人間創造という大きなことを伝え忘れたというのは初歩的とはいえ大変な失態です。しかしこれ一つをとって資質に関わるといった表現は誇張が入っており公平性に欠けるように感じます。次に人間の処遇についての話し合いと大逆についての関連性の件ですが確かに争いの姿勢を見せる前段階として話し合いの姿勢を見せるべきという意見はもっともだと思います。しかしこの点についてもこちら側に全面的な非があるとは言えません。何故ならそもそも論として最初に一線を越えたのは大逆を起こした堕天使側。仕掛けられれば迎え撃つのは当然の姿勢。そして少し話は戻る形になりますが災厄の箱に関しては大前提として盗むという行為自体が罪。百歩譲って管理者責任を問うにしても、盗む方が悪いのは火を見るよりも明らか。よって人間に過酷な運命を背負わせることになってしまった原因は堕天使側にある。最後に可能性に関しては所詮は可能性。今この場では事実をもとに戦っています。なので反論になっていないと判断し無視させて頂きます。以上です。」

ノテルナ「〝・・・流石フェア。全ての意見に反論しつくしたわね。〟ではイプノ。今のフェアの主張に対して質問があればどうぞ。」

イプノ「はい。では質問させて頂きますが人間創造の件に関して以降初歩的なミスは殆ど改善しているといいましたがビランチはいったいどのような方法で改善をしたのでしょう?」

フェア「それは部門設立という方法で改善しました。天地開闢から大逆が起きた時点までは天界の仕事はほぼ全て天使長がこなしていました。しかしこの方法では下位の天使たちは判断がどういった方法でされているのか。そもそもどこまでの情報が公開されているのか情報格差があることに不満を持ってしまう。一方上位の天使たちは権限を持ったことで思い上がり半ば独断的に決めてしまい判断の歪みがあった時に正すことが出来ない。そういったことに気づいたビランチは部門という熾天使から天使を満遍なく取り入れたチームを問題の種別ごとに作ることで双方のデメリットを解決するとともに自身への負担を減らし判断ミスを0に近づけたのです。」

イプノ「・・・次の質問です。私が主張したなぁなぁを否定した根拠をお教えください。」

フェア「はい。確かに当時は天使とは思えない程バタバタしていました。しかし最終的には創造を願ったシェンスは続行の許可を出していましたしノーヴェも本当に続行してもいいのか確認している。つまりビランチ以外の第三者の判断がそこには介在しているのです。」

イプノ「はい。では次の質問です。人間創造の際の伝え忘れを初歩的な失敗とはいえ大変な失敗と認めながらもその一点で資質を揺るがすのは誇張が入っていると考えたその根拠をお教えください。」

フェア「それは天使・・・いや人間の世界にも通ずる話になりますが失敗とは本来大きい小さいはありません。あるのは失敗したという事実のみ。しかし一度失敗したからといってその失敗一つで失敗した者の存在や価値全てを否定出来るという世界は間違っています。何故なら一度も失敗をしない者などこの世にはいないからです。天界にも地上にも様々なルールがあるのも失敗する者がいてそれを救い上げる方法が必要な証です。」

イプノ「・・・はい〝・・・。〟」

ノテルナ「・・・終わりであれば次はフェア。今までの主張の中で質問があればどうぞ。」

フェア「はい。では最初の質問です。堕天使は現天使長のどこに否続投の理由があると考えているのか。お教え願えないでしょうか。」

イプノ「〝・・・〟お答えします。理由は主に三つです。一つ。人間の創造に関して。堕天使達は天界が人間をやり直すのかそのまま進めるのか決める時あまりにもすんなりと決まったことに様々な負の感情を思った。最初に決めたことをあっさりと曲げる軽薄感。それに対する嫌悪感。そしてもともとが不完全で生み出す予定だったことを知らなかった困惑と疎外感。それを知らせてくれなかったという事実に対する天使長への怒り。」

フェア「〝・・・。〟」

イプノ「手違いだと分かったあとでも天使長という完璧の象徴たる存在がこんなにも儚い面があるのだと気づいた時。とても悲しくなった。同時に怒りがこみ上げてきた。」

ノテルナ「〝これは・・・本音だ。イプノの・・・。〟」

イプノ「そんなに苦しんでいたなら何故言ってくれなかったんだと。そんなに俺たちは信用ならないのかと。大逆の時も話し合いの場を設ける前に参謀を立てスパイを用意しかつての公平な姿は何処にいったのかと更に悲しくなった・・・のでしょう。三つ目は現天使長よりも天使長足り得る存在があることでしょう。」

フェア「成程。次の質問です。堕天使達は現天使長に対して本気で天使長の座を降りてほしいと思っているのでしょうか?」

イプノ「・・・思っていないと思います。理由は三つ。一つは人間の存在。彼らの成長には目を見張るものがあった。災厄と渡り合う術を見つけたことや天使を頼らなくなっていったことは間違いなく人間の優位性を表している。次が堕天使自身の存在。何故か大逆の時に生まれた堕天使に限ってはその全てが存在を放任されている。そして最後が天界全体のバランス。天界には現在部門というものがあるが全員が全員参加しているわけじゃない。しかし天使長はこうした存在も放任している。こうした縛り過ぎず緩め過ぎずといった加減はどう考えても現天使長の成せる技だ。」

フェア「・・・そうですね。」

イプノ「ま、降りてほしいとは思ってはないけど憎んではいるだろう。」

フェア「でもそれは愛情の裏返しですよね?」

イプノ「・・・どうかな?」

フェア「せっかく素直になったと思ったら一瞬だったんですね。」

イプノ「君こそそんなに僕たちの気持ちが知りたかったんだ?」

フェア「ディベートで必要だったので聞いたんですよ?」

イプノ「素直じゃないな~?」

フェア「その言葉そっくりそのままお返ししますよ♪」

イプノ「・・・さんざん言葉で戦ってあげたんだ。今度は実力行使でも恥じゃないよね?」

フェア「どうでしょうね?」

イプノ「じゃあ、覚——」

オルゴ&セイ「両者そこまで!」

二人がそう言うとオルゴはフェアの首元に剣を突き立てセイはイプノの首元に杖を突き立て其々後ろから制止した。

フェア&イプノ「!」

オルゴ「まったく。言葉の女神ともあろう者が堕天使と会話するだけでは飽き足らずディベートで罵り合うとは流石に黙っていられねぇぞ。」

セイ「それも天使長ビランチをテーマにするとは。堕天使が天使に肩入れし過ぎではないですか?」

フェア「・・・ビランチからの命令ですか?」

オルゴ「違う。だが・・・。」

フェア「分かっています。言葉を司る天使として相応しくないと。そういうことでしょう。」

オルゴ「そうだ。」

セイ「イプノもですよ。」

イプノ「堕天使のトップとして相応しくないってことだろ?」

セイ「そうです。」

イプノ「・・・分かってるよ。今回は少し羽目を外し過ぎたみたいだ。」

フェア「そうみたいですね・・・お互い。」

イプノ「ああ。」

オッソ「じゃそういうことだからここはこのまま別れさせてもらうわよ?」

オルゴ「・・・ああ。分かった。」

セイ「ノテルナ。済みませんね。巻き込んでしまって。」

ノテルナ「い、いえ・・・!」

イプノ「・・・じゃあね。」

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