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重野安繹と弟子・岩崎弥之助(中編)

2021冬アニメのシーズン到来、しかも期待作目白押しでほぼほぼ先週は浮かれて過ごしました。そろそろこちらもテコ入れしなくては。

さて先週アップした前編では、重野の立派な経歴と、岩崎弥之助とはどういう知り合い方をしたか、交渉術は一体どこで身につけたのか、という内容だけでもどんどん長くなりました。

今回は短くします!
「岩崎弥之助と渋沢栄一の交渉に見え隠れした重野の影響」
これだけ。
(こないだ吹っ飛ばした下書きはもっと色々書いてたけど)

先週の「青天を衝け」第37回では、渋沢栄一の共同運輸が三菱弥太郎と価格値引き競争をエスカレートさせて共倒れ寸前のチキンレース展開になっていたところ、弥太郎が病魔に襲われ後継となる弟・岩崎弥之助が病身の五代友厚を挟んで栄一との会談に臨み、弥之助の方が「三菱は一年持つ。共同は百日。ですが三菱が勝っても満身創痍、その後は外国汽船がやってきて、手もなくとどめを刺すでしょう」という合併交渉を行います。

ここでポイントは3つ
①:三菱は勝とうと思えば勝てる(優位に立つ)
②:そうなると次に何が起こるかを説明する(想定出来る近い将来の現実的な懸念材料を説明する)
③:結局両者とも損する、そうならないために手打ちにしましょう

そして薩英戦争時に重野がやった交渉はというと
①:「先に薩摩の船を奪って国際法違反したのはイギリスが先」と相手の落ち度を突いて優位に立つ(英軍側が英国議会の承認を得ずに戦闘行為に出たことを重野は把握してた模様)
②:①で優位を取ったのちに薩摩側の言い分を呑まねば自国で不利になるのはそっちだぞ、と脅迫懸念材料を説明。
薩英戦争の戦闘行為での損害はお互い痛み分け、生麦村での英国人遺族への賠償問題のみと交渉範囲を小さくして外交問題から民事問題に切り替える。
③:英国とはまあそんなところで手打ちにしましょうや、とまとめつつ、交渉が長引くのを敬遠していた江戸幕府の思惑を逆手に取り「うちの藩、そんな賠償金払う余裕が今ないんでー、とっととこの問題を終わらせたかったら幕府の方で賠償肩代わりしといてください」とばかりに幕府に遺族への賠償を押し付ける(ちなみに結局この賠償金を薩摩藩から幕府に返すことはないまま明治維新が起きた)、などと言いつつ英国には「いやーエゲレスさん見事な戦艦でしたわ、一隻売ってください」という不敵な発注まで行う(これで英国は薩摩藩の外交力を認めるという皮肉なオチがつく)

ここまで幕府も英国軍も見事に言いくるめた手腕を持ちながらも、重野はこの後外交には見向きもせず、元々学んでいた漢学と、国史編纂の道を歩き始めます。

ところが
まずは史料集め、と重野が全国の元藩主に(半ば無理やり)協力してもらって集まった史料チェック作業を行うと、どうしても「うちのご先祖の美談(フィクション)」「これ本当にあったことか?」と疑わしい記述が多い。膨大なデータから「これは事実じゃない」「これも違う」とチェックしていくうちに、重野は「抹殺博士」という有難くないあだ名までつけられる始末。
その後も実証主義に基づき、とにかく正確に歴史編纂を行いたい重野と、維新以降、なんとか皇室の威光を盛り立てたい神道主義者とぶつかり合い、論争に敗北した重野は編纂事業から身を引きます。

が、基本的に学者肌で頑固な重野は諦めていなかった。
「内側の史料が集められないなら、国外の史料との擦り合わせを行うまでよ!」とばかりに、その熱意をずっと滾らせていたのでした。

(もうちょい続く)

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