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伊坂幸太郎氏の「777(トリプルセブン)」圧倒的な悪とバランス

先日発売された伊坂幸太郎さんの単行本「777(トリプルセブン)」

過去の作品である『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX(アックス)』の殺し屋シリーズであり、過去に出てきたキャラクターがストーリーの中にも出てくる

舞台は超高級ホテルのウィントンパレスホテル。”死にたくても死ねないホテル”と呼ばれるこのホテルは、宿泊すると幸せな気持ちになるため、死にたかった人も死にたくなくなるらしい

そんなホテルで繰り広げられるストーリー。ネタバレは避けつつ、登場人物とあらすじを簡単に紹介していこう

簡単なあらすじ

超高級ホテルには自分が持つ記憶を追われる女性が潜む。その女性を確保するために物騒な業者が送られる
時を同じくして、裏稼業を営む不運な殺し屋「七尾(天道虫)」が"簡単な仕事”とホテルへ届け物の依頼を受ける

裏の仕事を生業とする人間たちが集まる中で進む、それぞれの思惑がどのように進んでいくのか?過去作との繋がりも見える伊坂幸太郎氏の「殺し屋シリーズ」

登場人物

紙野結花:驚異的な記憶力を持つ女性。その能力ゆえに、過去の嫌な出来事も忘れられない苦悩も持つ

■裏家業に関わる人たち
モウフとマクラ:高校時代の女子バスケットボールチームに共に所属。一度は疎遠になるもあるきっかけで再開し、その後ある事件がきっかけで裏家業として一緒に共にするようになる

乾:高いコミュニケーション能力を持ち、多くの人脈を持ち仕事をする。政治家関連の人脈も強い。自分で手を動かすよりは他者を動かす事に長けた人物

真莉亜:仲介人。七尾に仕事を依頼する人物

七尾(天道虫):不運な殺し屋。予期せぬ事ばかり起こる

ココ:初老の女性。逃がし屋とも呼ばれる。ハッキングなどの情報操作が得意な人物

奏田 (ソーダ)と高良(コーラ):爆発物の取り扱いが得意な業者。2人組で活動

六人組:他者を嬲りいたぶる事が好きな暴力的な集団
①エド:35歳、5人を集めグループを仕切る人物
②センゴク:30歳で筋骨隆々な体格の持ち主
③カマクラ:26歳の男性で男性ファッション誌のモデルにスカウト経験も
④ナラ:23歳の女性で175センチの長身。容姿端麗
⑤ヘイアン:28歳で頭の回転も速く、合理主義者
⑥アスカ:23歳の女性で細身のモデル体型で容姿端麗

元政治家:蓬実篤(よもぎ さねあつ)
現在は情報局の長官。元政治家、議員数の削減や若者に向けた政策等を首尾一貫で訴え、国民からの信頼も厚い人物

蓬実篤の秘書:佐藤
屈強な人物。蓬実篤の近くで彼を守る役割を担う

記者:池尾充
政治部の記者。蓬実篤への取材でウィントンパレスホテルに訪れる

読後の感想

率直な感想は2つ

1つは完全な悪とそのバランスを取るような正義という構図が絶妙だという事

そして2つ目は、これぞ伊坂幸太郎の醍醐味と言わんばかりの伏線回収だった

1つ目の「悪」の描き方は、過去の作品でもある『逆ソクラテス』でも感じた部分だった(こちらも個人的には素晴らしい作品なので是非読んで欲しい)

本作は裏の仕事を生業とする人間が、様々な手段を用いながら目的を達成しようとする。ストーリーを読み進めていく中で見えてくる圧倒的悪の存在と、そこに対して抵抗しようとする対比的な存在

それが誰かを救う、「正義」というヒーロー的な存在ではなく、各々が自分の生きる理由を模索しながら向かっていく姿が、ちょうどよく読者を客観的な立ち位置から物語を読ませてくれる

登場人物には分かりやすい特徴がいくつもある
物語中ではスイスイ人と揶揄されるような、世の中でいうところの「勝ち組」と呼ばれる見た目や能力が高い人物が裏稼業の中で躍動する

悪者と正義のヒーローというように、セットで対比を思い浮かべてしまう
自分より優れた要素を持っている人がいれば、比較をしてしまう

光があれば陰という存在があるのは事実かもしれないが、その捉え方や考え方について絶妙なバランスでキャラクターたちや、その考え方を描いてくれる
だからこそ、考える余地がある。ストーリーに没頭する時間がある中で、何かを自分に問いかけてしまう余白が生み出される

自然と考えてしまうような、そこに誘われているようなストーリー展開と登場人物のキャラクターの投げかけを是非体感してみて欲しい

そしてもう1点の伏線の回収
伊坂幸太郎氏はとにかく、点を線で繋ぐのが上手い
そして、その点はいつどこにあったのか、その線は細く、いつそこにあったのか分からないくらい存在感を潜めながらそこにある

同情人物の言葉も、立ち振る舞いも、そこには隠された意味がある
そしてそれは筆者の個人的な自己満足ではなく、読者に対してのプレゼントのような物事だったりする

そのプレゼントは開けても良いし、開けなくても良い
開けて何かを受け取っても良いし、受け取らなくても良い

そうした読者との見えないコミュニケーションを多くの箇所で張り巡らせてくれている。そこがまた、少し悔しくもあり、やっぱり面白いと感じる部分でもある

タイトルでもある「777(トリプルセブン)」ストーリーの中に出てくる殺し屋の1人七尾(天道虫)
「7」は縁起の良い数字と言われ、てんとう虫は幸運を運ぶとも言われる

「運」という目に見えない、再現性のないモノにすがる事も多い
私たちはお守りも手にするし、神頼みもする。日常の中で、そうした事を引き寄せようと思う人たちもいるし、私も不運よりは幸運な方が良いと思う

幸せや不幸という感覚は自分で決める。スロットを回して、ジャックポットが出るような人生が幸せだと思うのも、全ては自分次第

ただ、何かを引き寄せるためには自分で動く事。その結果の果てにあるのだということをより強く感じる事ができた一冊

超高級ホテルで起こる、出来事を想像しながら、是非お楽しみください

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