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私が結婚式の中止を訴え、失敗し、遂行するまでの道のり〜その4〜

晴れたり突然雨が降ったり、そんな日が嬉しかった。

笑ったり泣いたり、そんな日もあるよね、というのを1日に凝縮しているようだし、

どう見ても雨なんか降らない空なのに、晴れ空から大雨が降るとそれだけでお祭り気分になれた。

からりと光る太陽によって、雨の雫がキラキラしているのを見つけるのはとっても簡単な宝探だ。

そんな気まぐれとも情緒不安定とも言える天気の日に、生まれて初めて手術台に乗った。

顔にカバーがかけられる。


変われる喜びと思い通りにならなかった時の恐怖、自分の決意と周りの反応、色んなことを考えて心は玉虫色だった。

私は健康で、本来なら手術する必要のない患者だ。

まあ手術と言っても、そんな大掛かりではなく、慣れた先生なら10〜20分くらいで終わらせてしまう、いわゆるプチ整形というものだけれど。

それでも私は全人生を賭けてきたの、、
先生、全経験技術を結集して最高傑作を作ってください。

武者振るいまでしたのに、

先生は術前、私と同じようにソワソワして待っている患者の部屋を忙しそうに「はしご」していて、私は苦笑してしまった。

居酒屋で店員さんがいろんなテーブルを回ってオーダーを聞いているみたいだった。

テーマパークに繁忙期閑散期があるように、美容クリニックにも患者が整形しに群がる時期落ち着く時期がある。

私はまさに大繁盛満員御礼の美容クリニックにいた。

整形のことを本気で考えるまで知らなかったのだが、手術したら即完成という訳ではなく、一定の「ダウンタイム」と呼ばれる時期を乗り越えて完成に向かう。

ダウンタイム中に腫れや浮腫と戦って、

その間本当に思い通りの姿になるか不安で精神は浮き沈みを繰り返し、

そのうち術部はとりあえず落ち着いてゆく。理想通りになるかは分からない。

とりあえず、ダウンタイムの期間が取れる長期連休前は一番人気の時期となる。

私が結婚式を無事遂行するには整形をすればいいのではないか?と考え始めて手術をするまでの期間は約1ヶ月。

私の意思は鋼のように固く、あとは本能の赴くまま行動するだけだった。

慎重に下調べを行い、高ぶる気持ちを勇気に変えて手術の日を迎えた。

カバーがかけられた顔。目を瞑っているのにライトの光を感じた。

明るいと感じるのに太陽と違うと判るのは何故だろうと、どうでもいいことを考えた。笑気麻酔のおかげでだんだん、恐怖は湯気のように身体から逃げていった。

意識は飛ばなかったので、「縫う」「引っ張る」「戻す」という一つ一つの先生の動作を、痛みを除いた微かに残る感覚から理解しようとした。

「昔の自分とはさよならだ」「これで綺麗な花嫁になれる」これまで自分を奮い立たせていたおまじないの言葉は全く登場しなかった。

ただ、今どうであるか。それだけが気になった。



「終わりましたよ」



先生が声をかけてくれた。麻酔が取れていく。

その直後、自分の意思とは無関係に涙を流した。安堵か、目が乾燥していたのか、光が強すぎたのか。

いつまで経っても自分の行動の一つも分かりやしない。

鏡が出てきて、私は顔を覗き込んだ。

(続く)

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