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失恋小箱

高校生の時、大好きだった彼氏と別れた際、悲しさのあまり、思い出の品を箱に詰めて庭に埋めた。

2人で撮った写真とか、旅行先で買ってきてくれたお土産とか、そういう記念の品を、一緒に行ったディズニーランドで購入したプーさんの顔の形をしたお菓子の箱にぎゅうぎゅうに詰め込んで、封印をしたのだ。

大切なものをなんでも埋めるなんてリスみたいだなと思った。リスは冬眠のためにどんぐりをたくさん埋めて隠して、どこに埋めたか忘れて、他者がそれを横取りするとバチクソキレるらしい。かなり親近感がある。

彼は顔面が美しいタイプの男の子だったので、初めて家に遊びに来た時、母親が「まぁ、ずいぶん綺麗な子が来たわね」と喜び、夕ご飯を食べていけと誘った所、彼はうまいうまいと我が家の夕ご飯をたらふくたいらげ、「また来ていいですか?」と、百点満点の笑顔で笑い、本当にしょっちゅう私の家に来るようになった。人に甘えるのが上手いタイプだった。あと顔がいいので、頼まれた側も嬉しくなってしまう。齢18にして罪深い男であった。

彼の父親は早くに亡くなっていて、母親はたくさん働いていたから、実家で手作りご飯が出てきたことなんてないと言っていた。
私もこの時、父親が長く入院していたので、食卓にメンバーが増えるのが嬉しかった記憶がある。みんなでご飯を食べるのがとても嬉しかった。みんなでこたつに入って、あったかい料理を食べるのは、幸せそのものだから。
彼もきっとそう感じたんだと思う。

人と食事を食べるのが嫌になったのは、一体いつからなんだろう。昔の私は、ちゃんと「みんなでワイワイ」を楽しんでいたと思うんだけどな。


そんな彼と別れてから、結局上京してからも、たまたま1人で見に行った池袋の映画館で鉢合わせしたり、連絡先を知らないのになぜかたまたま駅で会うとか、友達と遊んでたら友達が連れてきてて会う、みたいことは割とよくあった。
絶妙に気まずいだろうに、毎回「会えてよかったよ」と笑ってくれる彼の優しさが好きだったし、人との距離感がいつも上手い彼は、別れた後でも私の憧れだった。

そんな彼の写真が、実家の庭に埋まっている。

一緒に行ったいろんな街で、キャッキャ無邪気に笑ってる高校生の思い出がギュッと詰まって、庭に埋まっている。おそらく、もらった手紙とかも入っている。恥ずかしいから誰にも読まれたくないのに、なんで埋めちゃったんだろ。


先日、母が庭を畑にしたいと思い立ち、庭の隅っこに生えていたブルーベリーの木を切り倒したと連絡があった。

「切り株引っこ抜いたらさぁ、ディズニーのリス?チップとデール?のぬいぐるみ出てきたんだけど、これあんた埋めた?くまのプーさんの箱も出てきたよ。」


「絶対開けないで、そのまま庭に埋めておいて欲しい。ものすごい栄養が詰まってるから……いい肥料になると思うよ…」


そう答えた後、恥ずかしさのあまり1人でブチギレてしまった。なんで丁寧にビニール袋に入れて埋めてしまったんだ!私のばか!あほ!リス!!!

バチクソにキレ散らかした後、
『あの畑には、きっと甘い野菜が育つだろうな……』と思った。
その野菜が、また誰かと誰かにとっての賑やかな食卓に上がることを、静かに願っている。

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