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人類よ、南を目指せ。


「もう全て嫌になって、消えてしまいたい、死んでしまいたい、と思ったらどこへいく?」

昔、そんな話を彼にした。


「私は、きっと北へ行く。
探さないでくださいと置き手紙を残して、北の冷たい海で身を投げて死ぬんだ。」

疲れてマイナス思考に陥った私がそんな話をしていたら、彼は落ち着いた声で、
「俺は南に行く。」と言った。



「寒いのが嫌だなーって思って南に行くのよ。
でもそーすると、南はあったかくて、日向が気持ちよくて、のんびりだらだら出来ちゃって、
そうするとなんとなく生きちゃって。
結果、生きられちゃうのよ、南は。

んで、探しにきたまーちゃん(私)に
何してたの?!探したんだよ!?って怒られちゃって
俺はごめんぴぃ〜って謝って
一緒に東京へ帰るんだ。」



そう話してくれた彼の顔を、昨日のことみたいに思い出せる。

ベッドに横になって、眠る前までの少しの時間、そんな些細な会話をする相手がいるということ。
足の指先が触れてあったかいということ。

ふかふかのタオルケットの柔らかさだって指先で思い出せるのに、
私の好きだった人はもう、私の隣にはいない。



この話は、私達の全てが詰まったような話だと思う。

時々思い出して、ふと我に帰る。
多分、死ぬまで何回も思い出すと思う。

私はこの話を思い出すたびに、
彼からもらったものに気付かされる。

彼のせいで失ったものも多いけど、
もらって良かったものは、全部全部食べて、
私のものになって欲しい。

私の一部になって欲しい。
彼のことが大好きだったから、
好きだった所だけは、私のものになって欲しいのだ。

そのゆるくて、楽天的で、能天気で、すっとぼけた明るさは
私があまりにも欠如していたから
神様がきっと見本になる人間を連れてきてくれたんだと思うことにしてる。

もののけ姫に出てくるショウジョウの、
「オレ、ニンゲンクウ、ニンゲンノチカラモラウ」的な理論で、

私は彼と出会ったことで、
程よいリラックス感(楽天的思考)をもらったのだ。(ということにしてる。)


最低な出来事も、そりゃ山ほどあるけれど、
思い出して怒り狂いそうになる時とか、
「なんであんなひどいことをされなきゃならなかったのか…」と泣きたくなる日も(めちゃくちゃ)あるけど、

そういう時こそ、身体をあったかくして
南国の、何にもない一本道を思い浮かべる。


なんにもしたくないな〜って思いながら、大の字になって、そよ風に揺られながら草むらに寝転ぶのだ。

イマジン、フォーtheピーポー……


あったかい風が頬を撫でる。
聞こえてくるのは、草木の揺れる音だけ。
見上げれば大きな入道雲が、もくもく、もくもくと動いて進む。
日差しが気持ちいい。
遠くに飛行機が飛んでる。
夏の空。


何もしたくないなら、何もしなくていい。


人類よ、南を目指せ。
何にもしなくても、なんか生きられちゃうから。


なにも、寒さで凍てつく北の海で死ぬことない。
死にたくなったら、南へ行こう。


そんな風に思えるようになったから
きっともう大丈夫。

オレ、オマエクウ。
オマエノ思考、テニイレタ。

このお金で一緒に焼肉行こ〜