見出し画像

ショートショート 「お役ごめん」

環境保護団体「地球堂」はその年の5月に結成された。
彼らは地球温暖化を防止するためにむろん善意で活動していたのだが、大多数の国民から反感を買っていた。
彼らの主張が科学的に妥当であるかどうかはさて置き、活動内容があまりに反社会的だったからだ。
以下に団体のメンバーが起こした迷惑行為の例を幾つか挙げる。

5月。
美術館に潜入してトマトスープ缶の中身を絵画に投げ付け、そのあと自らの手を接着剤で壁に貼り付けた。

6月。
自動車工場の壁にペンキをぶちまけた。
ミュージカルが上演されている最中ステージに上がってプラカードを掲げた。
プラカードには「Back to 氷河期!」と書かれていた。

7月。
プロサッカーの試合が行われているピッチに乱入し、自らの手首を結束バンドでゴールポストに括り付けて試合の進行を妨げた。
石油貯蔵施設の周りを取り囲んで周辺の道路に渋滞を引き起こした。
ガソリンスタンドの給油ポンプを破壊して回った。
中華料理店の厨房に押し入って消火器を噴射した。

8月。
観光地の噴水の水を染料で黒く染めた。
プロテニスの試合会場に乱入して紙吹雪を撒き散らした。
エアコンの室外機を手当たり次第破壊して回った。
大勢で高層道路に侵入しランバダを踊った。
全国の牛にゲップをしないよう嘆願書を送り付けた。

9月。
自動車レースが行われているサーキットに立ち入ってレースを妨害した。
映画賞の授賞式に乱入して式の進行を妨害した。
火力発電所に小便を掛けた。

活動は永遠に続くかと思われたが、10月になると徐々に停滞し、11月の下旬にはほとんど見られなくなってしまった。
そして迎えた12月。
地球堂の代表者が記者クラブで会見を開いた。

「我々は本日をもって解散します。目標を達成したからです。活動を始めた5月の平均気温は19.3℃でしたが、その後一旦は上昇したものの、今では8.5℃にまで下がり…」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?