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ずっと天井を見上げている

天井を見上げている。ここ数年、ずっと。

景色はかわらない。窓から差し込む光の加減によって、影の柄が変わるくらいだ。カーテンを閉めていることがほとんど。

上から覗き込んでくるメガネの男。視界の横から突然、顔を出すから少し驚く。私の名前を読んでいる。「こんにちわ」と挨拶をしてくる。少し馴れ馴れしいメガネの男。なんとなく記憶の片隅にあるくらいの男。

もういい。あっちに行ってくる。ああ、喉が乾く。


介護施設で働いている仕事柄、寝たきりの人と接することがある。
その人はもう自分の力でベットから起き上がることはできない。足は拘縮し両足とも「く」の字に曲がっている。おしっこも、うんちも我慢することはできない。

僕が話しかけると、こっちの世界に戻ってくる。
その人に、僕がどのように映っていて誰として認識しているかはわからない。
「早く逃げてと」と言われたことがある。
常に記憶の断片と現実が錯綜している。
またあっちの世界に行ってしまう。
常にボソボソを「うわごと」を口にしている。

恍惚な表情で、瞳の先は天井の先をみているよう。
本当はどんな世界がみえているのだろう
。そして本当は、僕はどんなふうに映っているのだろう。

できるだけ、楽しい映像を見せてあげたい。明るい言葉を耳に届けたい。

そう思って、僕は今日もベットの横から急に顔を出す。
変な顔して、明るい声で「こんにちわ」と。

介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。