解けないナンプレ
「新聞読んでるの?」
「この数字を埋めてくやつ?難しいね意外と」
「ああ、それナンプレって言ってうちのデイサービスでもやってもらってるよ」
「毎日ね、頭使わないとって頑張ってるんだけどね」
「いいよ、無理してやらなくても。楽しくないならあんまり効果ないかもしれないし」
「・・・」夢中になってナンプレに挑む母。
ぼくには、一生懸命やっているところをアピールしている母に見えた。
ぼくが介護の仕事をしているおかげで、毎日にように介護を意識せざる終えなくなった母は、もしかしたら嫌々ナンプレをしているのかもしれない。
母親を守るつもりが、逆に苦しめているのかもしれないと思った。
人生の終盤なのだから、もっと自堕落で不摂生な生活を送ってもいいのかもしれない。ビックマックとコーラのLサイズにポテト、アップルパイにミックスピザを食べて夜更かしし、レッドブルでジンを割って飲みながら朝まで映画をみたらいい。
そうじゃなく、朝から新聞の隅っこに掲載されているナンプレに勤しむ。
認知症になったら困るから。と、自分のためにと言いながら、結局息子のためにナンプレに打ち込んでいるのである。
もういっそのこと「認知症になってもいいよ」と言ってあげたほうがいいのかもしれない。それでなおナンプレをやるのであれば、母もナンプレも往生できるというもの。不謹慎な発言で申し訳ない。でも、認知症のことは多少なりとも把握している。だからこそ言う。「認知症になってもいいよ」と。
「できた?」
「できへん」
「できへんのかいっ!」
「仕事の準備しなかん。今日、いつものおばあちゃんのところへ行く日だから。そのあと認知症カフェに顔出してくる」と、母はナンプレを放り出した。
いつまでも、解けないナンプレに挑戦してほしい。ぼくはそう思った。
介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。