僕悪

『僕は悪者。』①

俺は悪者になりたい。
ヒーローは嫌いだ。あんな奴現実にはいやしない。
最初は敵なのに喧嘩の後は仲間になるとかそういうのも大っ嫌いだ。
そんなこと現実にはないじゃないか。
スクールカースト上位の人間と喧嘩でもしてみろ、クラス中から無視されるようになるだけだ。喧嘩の後に友情なんて芽生えない。
俺は少年漫画の主人公が全員嫌いだ。
フリーザになりたい。セルになりたい。ディオになりたい。アーロンになりたい。クロコダイルになりたい。ドフラミンゴになりたい。大蛇丸になりたい。うちはマダラになりたい。メルエムになりたい。ダース・ベイダーになりたい。ジョーカーになりたい。
俺は悪者になりたい。
悪者はなんで悪くなったのか、理由が漫画にしろ映画にしろ描かれることが多い。
ほとんどの悪者は最初から悪いわけではない。みんな蔑まされた人生の中で悪者へとなっていく。だから悪者は愛しい。
いつも平べったい「いいこと」をつらつらと並べ立てるヒーローなんかよりもずっとずっと愛しい。
もしも悪者になるためには、蔑まされた人生を送る必要があるのなら俺は悪者にふさわしい。
だから俺はなってやる。悪者に。

   一
教室の一番後ろの廊下から二列目の席。そこは俺が今ほとんどの時間を過ごしている場所だ。週五日、朝の八時半から一六時くらいまでいつも俺は一人でそこに座って、うつ伏せている。
別に寝ているわけではない。眠いわけでもない。
具合が悪いわけでもないし、泣いているわけでもない。
ただ、顔を上げたくないだけだ。
顔を上げて教室の中を認識するのが嫌だった。そしたらクラス中に散らばっているいくつかのグループを作っては楽しそうにお弁当を食べている生徒の中にあって、俺だけが「一人」だということを認識になくてはいけないじゃないか。
とは言え、こう考えている時点で、俺が「一人」であることを認識しているとは言える。哲学的な考えだ。俺は頭がいい。少なくともこの教室内のゴミカスゲボゲリ野郎どもよりは。
うつ伏せになって目を閉じて、自分の頭の中に閉じこもれば頭の中でとても楽しい昼休みを過ごすことができる。
 頭の中の俺はすくっと立ち上がると、手に持っていた機関銃で同級生達を次々と撃ち殺す。
突然のことでいつもは俺の存在を無視しているような教室内カーストランキング上位陣も唖然と俺のことを見ている。
俺はそんな奴らの頭に鉄砲の弾をブチ込む。教室内は血の海となるだろう。それも誰の血かはわからない。色々な人間の血が混ざった血の海だ。
チャイムが鳴った。
俺は妄想を続けることをやめて、顔を起こした。
教室の中や廊下に散り散りになっていた生徒が戻ってくる。ハンドボール部の新岡宏は他のスポーツ部の友人数人とドカドカと教室に入ってきて、俺の前の席に座る。いつも黒板を見るとき、新岡のでかい図体が邪魔だった。だが、俺がそれを実際に伝えることはない。
第二グループ所属の田口学は何やら持田香織というヤンキー混じりの女と楽しそうに会話をしていたが、チャイムが鳴り止むと持田は自分の席に戻って行った。田口は帰宅部のつまらない真面目そうなやつなのに、持田と絡んでいるとは意外だった。だが、俺がそれを実際に「言葉」にすることはない。実際に「言葉」にして、新岡や田口に俺が思ったことを伝えても無視されるか、舌打ちされるだけだ。
俺はため息を吐いて次の授業の教科書を取り出した。
次は古典だ。将来大人になっても役に立たない教科ランキング一位の古典。
その授業を受けるために俺は孤独な昼休みを過ごしたのか。そう思うとイライラした。
古典を受けている時間よりもオナニーをして快感を得ている方がよっぽど有意義だし生産的だ。
だが、この国の「授業」を決めている老害糞萎えチンポカスどもは「オナニー」より「古典」の方が生産的だと思っているのだろう。能無しどもめ。だからそいつらは老害糞萎えチンポカスどもなのだ。
漫画のように、今手元にパッと武器を取り出すことができたらいいのに。
確かナルトでそんなキャラクターがいたような気がする。
あるいは魔法少女まどかマギカの穂村は次々に爆弾を出して爆発させていた。
ああ、あんな風に俺も今すぐ機関銃を取り出せれたら、この教室の中の人間を全員殺せるのだけれど。


(つづく)


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