空気と喋るおっさん。【深夜徘徊で会う変な人#1】
深夜は危険。今も深夜のマクドナルドで作業をしているけど、まさしく今、ひとつ飛ばし隣に座ってる人から危険な匂いがする。
目を瞑りながら、空気にむかって延々としゃべっている。もちろんイヤホンもデバイスも何もつかってない。スーツで丸腰のおじさんが呟いてた。
「中国はスマート」「キャップはあけたまま」「また明かして帰る」などぶつぶついっており、連想ゲームとしてはあまりにも難易度の高いものを課されている。
加えて、彼はソファ席になぜか正座してる。律儀に靴も脱いでいる。
色々とツッコミをいれたいが、多分話したら大変なことになりそうなので、席をひとつ分あけて、耳と視界の隅180度ギリギリに彼を置き、様子を伺っている。
一つだけ言えることは、とりあえず、怖い。
人の視界にも限界があるので、たまにポテトをとるためにわざとらしく大きく右を向く。そうすると、なんと彼は手を瞑想のポーズに向けていた。
「黒色のハチ」「中国は見て帰らなあかん」「中国の水遁は水入り」
呪文でも詠唱しているのだろうか、そのうちここにとんでもない悪魔でも召喚されるんじゃないだろうか、と畏怖する。
「昨日の残り物」「もってかえってこなあかん」
”残る”や”帰る”という言葉がよく聞こえる。頻出ワードだ。これはきっとテストに出る。
ゴニョゴニョを聴いてるうちに、はっきりと彼は言った。ボリュームが1.3倍増しでこう呟いた。
「吉野家の牛丼は、中国品だ」
また”中国”という言葉が出た。前半の「中国はスマート」からするに、中国に対して敬意を払っているのだと思う。吉野家の牛丼は中国差で良いものだと言いたいのか。しかし、言葉の端々に憤りやイライラを感じるので、中国に対する賞賛のようなものではない気がする。何が言いたいのか。
「コンビニには肉もある」
「今作ってください」
今度は、コンビニの話になった。そして肉。
「王将、王将」「中国がっ」
「奥さんが中国の方で、旦那さんがイザカヤさんでっ」
食べ物と中国の登場頻度の高さ。食に彼は飢えているのか。
そのうちヒートアップしながら、
「奥さんがイザカヤ」
と言葉を発する。旦那さんもイザカヤさんだし、奥さんもイザカヤさんらしい。わけがわからないが、皆、居酒屋さんということは些かながらに理解した。
と、このあたりで急におじさんのバッテリーが切れ始めた。
元のボリュームに戻り、
「ハンバーガー・・・」「中国の肉・・・」と言っている。
おじさんは果てに寝た。睡魔に負けたようで、腕をプランとさせ思考が停止した。もちろん靴は脱いで、正座をしたまま意識を失った。腕は相変わらず組んでいて、さながら仏様のようだった。
時をまもなくして、小言さえもなくなり、静かになった。
自分の目の端には、スーツを来たおじさんの軽くシルエットが写っていた。完全に静止したので、興味本位で僕は顔をそちらに向けた。
なんと、おじさんはこちらを見ていた。まさかまさかの目が合うハプニング。
「うぇっ!?」
そう声が出そうになったが、なんとか堪えて、顔をパソコンのほうに戻す。「さっきまで目を閉じてたのに、なんで急に開いてるんだよ」とこちらも恐怖と憤りに曝られそうになった。
そして、もう活動停止したと思ったおじさんはまたボヤボヤと呟き出した。視界の隅に映るその影は、とても怖いものに変貌。興味本位で顔を向けたのは完全にプレイングミスだった。
それから時間が経って、「最後にもう一度だけ・・・」と彼の方を向いてみた。
おじさんはタウンワークとにらめっこしていた。
職を探している説が急浮上。もう彼の生態系が謎すぎて、混乱せざずを得なかった。そのスーツは就活中なのか?食に飢えてるのか、職に飢えてるのか、どちらかにしてほしかった。
◇◇◇
と、まぁこんな感じで、深夜は変な人がいる。(ついさっきの実話)
今回のは目が合うという具体的に怖い要素があったけど、深夜の変な人は大体こんなもんである。
もし深夜に出かけようとするなら、気をつけてください。間違っても声をかけてはいけません。目も向けないほうがいいかもしれません。それでも興味があるなら、耳に全力を注いでください。
ではまた。
(ライター | 文筆 | Webデザイン)言葉とカルチャー好き。仕事や趣味で文章を書いてます。専攻は翻訳(日英)でした。興味があって独学してたのは社会言語学、哲学、音声学。留学先はアメリカ。真面目ぶってますが、基本的にふざけてるのでお気軽に。