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声の魔法!🪄vol.8 よく通る声を目指して

声が通る=響くということ

前回投稿はこちら。

共鳴について考える

「○○さんの声はよく通りますね」

こういう言い方をすることがあります。褒め言葉であることは間違いないでしょうが、でも「よく通る」って、どういうことなんでしょう? また「よく通る」という言い方があるなら「通らない声」というのもあるはず。この違いはなんなのかを考えてみたいと思います。

先に答えを言っておきます。答えは「共鳴」です。よく通る声というのは共鳴をうまく使っている声ということです。「響く」と言い換えることもできます。

共鳴は声が大きいこととは別物です。たとえば学校の部活動中、大柄な体育の先生が指示を出しているとき。その声はよく聞こえるでしょう。対して、小柄なコーラス部の女子生徒が、生声で歌っている歌が聞こえてきたとき。放課後の喧騒に紛れていても、その声は自然と耳に入ってきます。

どちらもよく聞こえるには違いないのですが、前者が声の大きさによって聞こえやすくしているのに対し、後者は共鳴を使って聞こえやすくしています。(体育の先生があまり共鳴使いが上手でないと仮定しています)。

声の大きさは呼気量で決まりますが、共鳴は必ずしも呼気量によるものではありません。少ない呼気量・小さい声でも、共鳴を使えば、その響きの力を利用してよく通るいい声が出せるのです。

共鳴を使った声の変化を聞いてみよう

論より証拠というわけではありませんが、共鳴を使って声がどう変化するのか聞き比べてみましょう。以下は、「あーー」「いーー」のように母音をただ伸ばしているだけのボイスサンプルです。ただし、スタート時は無意識な発声で、途中から共鳴を意識した発声に変えています。それぞれ2秒あたりから変化しますので、音の変化を確認してみてください。

いかがでしたか。たった一音でも、共鳴を意識するのとしないのとでは声の響きが変わってくると思います。(私は歌のプロではないので、途中から共鳴を使いだす部分がカクッとしてしまうのはご容赦ください。)

共鳴とはなんなのか

共鳴がもたらす声の変化についてはわかりましたが、そもそも共鳴とはなんなのかを解説したいと思います。なお、共鳴はいろんな事象で起きますが、ここでは音や声にしぼって説明します。

共鳴は、音や声が持つ特定の周波数(振動)を増幅させる事象です。音や声は空気を振動させることで伝わりますが、その振動を共鳴の力でもっと大きくすることができるのです。振動が大きくなれば、その声はさらに響いて大きくなり、より遠くまで伝わりやすくなります。

……と説明されてもピンときませんよね。はい、私も言語聴覚士の学生だった頃、この辺りのことを学ぶ音響学の授業は大の苦手でした。70点以上が合格の小テストを71点で逃げ切った猛者です。

そんな苦手な人間が共鳴の解説をするのはなかなか酷ですので、今回は例え話に変えてみたいと思います。

広めのホールやお部屋で大きな声を出したとしましょう。その声は部屋の中で反響して聞こえますね。まるでエコーがかかったような感じ。あれが共鳴です。あなたの声は空気を振動させながら相手の耳に届いているのですが、部屋の反響の力がその振動を増幅させて、より響かせています。反響しやすい部屋とそうでない部屋では、あなたの声の届き具合が変わり、反響しやすい部屋にいるときほど、より遠くの人にまで声が聞こえるという現象が起きます。これが共鳴の力の成せる技です。プロの音楽家がホールで演奏するとき、この共鳴がどう作用するかリハーサルなどで確認しながら、演奏を調節するといいます。共鳴の力も見極めた上で、自身の演奏をプロデュースしているんですね。

それほどまでに音や声を変える力をもった「共鳴」。でも、ホールや会議室でその事象が起きるのはわかったけれど、私たちが発する声を響かせるってどういうことなんでしょう。

人間の身体は楽器

ヒトの身体で考える前に、楽器について見ていきたいと思います。わかりやすいのはトランペットやフルートなど、管を使った楽器です。どちらも息を吹き込んで音を出す楽器ですが、口の先に管が続いています。その管を通った先が開いており、音が出る仕組みです。

あの管が、先ほど説明した部屋と同じ役割を果たしています。部屋は広いですが管はそこまで広くありません。それでも閉ざされた空間であるという点では一緒です。このように音の振動を増幅させるためには、部屋や管のように、閉じられた空間があればいいのです。メガホンも同じ役割を持っていますね。筒のように閉ざされた空間の先が開けていて、声が伝わる仕組みですが、あの筒の部分で音があちこちぶつかり、その結果、特定の周波数が増幅され、声が大きくなるのです。楽器の話に戻れば、ギターやバイオリンは、木でできた胴体の部分が共鳴をさせる場所になっています。

ではヒトの身体に戻ってみましょう。楽器で言うところの口をつける部分(息を吹き込む部分)は声帯(声門)です。管は口腔、開いた先が口唇です。なお、鼻腔や鼻孔も共鳴には欠かせないのですが、説明をわかりやすくするために今回は省きます。

ヒトの断面図

つまりヒトは、声帯から息を吹き込み、のどや口の空間を使って声を響かせ、唇からその声を出す、一台の楽器でもあるわけです。

加えて共鳴は、管が広ければ広いほど起こりやすくなります。狭い部屋ではあまり声が響かず、広い部屋だと共鳴を起こすのはそのためです。

「人間の身体は楽器である」「管の面積が広ければ広いほどよく響く」。この2つの事実から導き出される答え。どうすればよく響く声になるのか?という問いの答えは、管の役割を果たすのどや口の面積を、なるべく広くしてあげること、というのが正解です。

共鳴を使いこなすために

共鳴を意識した発声練習・理論編

意識すべきは舌・のど・軟口蓋の3つです。軟口蓋は上へと上がり、舌は下へと下がります。そのため、のどの空間が広くなるというイメージです。

先ほどのボイスサンプルは、奥舌を上下させることで、口の中の空間を広げていました。発声スタート時には奥舌を少しあげてのどを潰しており、徐々に奥舌を下げることで、のどのスペースを広くしていたのです。さらにそのとき、無意識に軟口蓋も上げています。軟口蓋の本来の役割は、発声時に鼻に空気が漏れないよう、上がって鼻への空気の通り道を塞ぐことにあります。より高く上げることができれば空間が広くなり、共鳴の力が増します。


共鳴を意識した発声練習・感覚編

唇を閉じた状態で、のどの奥にピンポン玉が入っていると想像してください。自然と奥舌が下がるはずです。唇を軽く突き出し、人中が引き延ばされます。このとき、口の中の空間はより広くなっています。

そのまま唇を開けます。のどの奥にはまだピンポン玉が入っていますよ。その状態で「はーー」と発声します。いつもより声が響いていませんか? なお歌を歌うときの裏声と呼ばれる高い発声は、このように共鳴を意識して出しているはずです。

この状態で単音だけでなく、日常会話も行います。腹式呼吸も加わるとばっちりですね。口やのどの空間を広げることで、潰れた平べったい声でなく、よく響く声=通る声が身につきます。


マイクを過信しないこと

マイクは声そのものを増幅する機械です。小さい声を大きくしてくれます。軽いエコー機能もついていますから、響きも加えてくれます。

ですが、よく通る声を作ってくれるというわけではありません。あくまで元の声を大きくするだけですから、元の声が良くなければ、マイクを通してもいい声にはならないのですだからこそマイクにのらない状態でも共鳴を意識したいい声を作ることが大切です。プレゼン、商談、そうした場面でより説得力のある声を作りたいなら、大きさで勝負するのではなく、味方につけるべきは共鳴です。共鳴を意識した声にははっと惹きつけられます。いいなと思える声が自信に溢れて聞こえるのは、共鳴を使いこなしているからです。

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