ジェントリフィケーションとはなにか。課題や問題点も解説
ジェントリフィケーションの定義と背景
ジェントリフィケーション(gentrification)とは、都市や地域における再開発や変革が進行する過程で、高所得者や新しいライフスタイルを持つ人々が移り住み、都市環境が改善する現象を指す。「都市の富裕化現象」や「都市の高級化」ともいう。この用語は、1960年代にロンドンで初めて使用されたとされているが、日本を含め世界各地で同様の現象が確認されている。
ジェントリフィケーションが起きる地域の特徴としては、従来の住民層が比較的低所得者や社会的に弱いグループであり、その地域の賃貸住宅や商業施設が安価であることが挙げられる。一方で、移り住む新しい住民層は比較的高所得であり、より高価な住宅やサービスを求める傾向がある。
この現象の背景には、都市の経済的・社会的変化が関わっている。
例えば、都市の中心部の再開発や商業地域の拡大に伴い、他地域からの移住が促進されることがある。
また、都市の魅力的な場所や歴史的な地域が注目を集め、移住の候補地となる場合もある。
そして、移住先としての人気が高まり、高所得者や新しいライフスタイルを求める人々が移り住むことによって、地域全体の治安や環境が改善される。
これだけ見ると、ジェントリフィケーションは歓迎されるもののようにも思えるが、そうとは言い切れない。
・高所得者や新しいライフスタイルを求める人々が移住し、地域全体の環境がよくなったり、再開発や商業地域の拡大が進んだ結果、不動産価格が高騰し、従来の住民が立ち退きを余儀なくされる
・住民の移動により地域の社会構造が変化し、収入格差や文化的多様性の問題が浮き彫りになる
・地域の景観や文化的アイデンティティに影響を与える可能性がある
といった問題点も存在する。
このように、ジェントリフィケーションは、単に地域が高級化してよかったというものではなく、経済的・社会的・文化的な問題を含む多面的な現象である。
ジェントリフィケーションのメカニズム
ジェントリフィケーションがどのようにして生じるかを理解するためには、そのメカニズムを考察する必要がある。
ジェントリフィケーションのメカニズムは複雑であり、原因を一つにしぼることはできないが、不動産市場や都市計画、といった複数の社会的要因が影響を及ぼしている。
・不動産市場の役割
ジェントリフィケーションの最も顕著な要因の一つは、不動産市場の変化にある。
都市の中心部や魅力的な地域での需要が高まると、不動産価格が上昇し、従来の住民にとって手の届かないレベルに達することがある。
その結果、地域の住民構成が変わり、新たな資産家や投資家が市場に参入する。
・都市計画と政策の影響
都市計画や政策もジェントリフィケーションに影響を与える。
例えば、都市当局が特定の地域を再開発の対象に指定することで、不動産開発やインフラ整備が促進される場合がある。
しかしながら、これらの政策が不十分であったり、従来の住民のニーズを無視したりすると、ジェントリフィケーションが不均衡な形で進行し、社会的な不満や緊張を引き起こす可能性がある。
・文化的要素とライフスタイルの変化
ジェントリフィケーションは、単に不動産市場や政策の変化だけでなく、文化的要素やライフスタイルの変化も関連している。
移り住む新しい住民層は、従来の住民とは異なる文化的な嗜好やライフスタイルを持つことがあり、これが地域のアイデンティティや社会的結びつきに影響を与える可能性がある。
これらの要因は、何が原因で何が結果なのか、断定することができないものでもある。
不動産価格が上がったから開発が進むのか、開発が進んだから不動産価格が上がったのか、明確に判断できるものではない。
「鶏が先か卵が先か」みたいな問題ではあるが、こういった要因が複数絡み合って、都市や地域が変化していくという部分は押さえておきたい。
ジェントリフィケーションの影響
ジェントリフィケーションが進行すると、その影響は地域全体に及ぶ。住民の移動や社会的・経済的な変化が生じる中で、様々な問題や課題が浮かび上がる。
・住民の移動と社会的経済的格差
ジェントリフィケーションにより、従来の住民が追い出され、代わりに高所得者や新しいライフスタイルを持つ人々が移り住むことで、社会的・経済的な格差が拡大する傾向がある。
これは、低所得者や地域コミュニティの一部が排除されるという結果として現れることがある。
・地域の景観と文化的アイデンティティの変化
ジェントリフィケーションによる再開発や変革は、地域の景観や文化的アイデンティティにも影響を与える。
伝統的な文化や建築物が失われたり、地域の特色が失われることで、地域のアイデンティティが変化する可能性がある。
・公共サービスとインフラの影響
ジェントリフィケーションにより、地域の需要が変化することがある。これにより、公共サービスやインフラの提供にも変化が生じる可能性がある。
例えば、高所得者が増えることで、高品質の公共サービスや施設が導入される一方で、低所得者向けのサービスが減少する恐れがある。
ジェントリフィケーションが地域に与える影響は多岐に渡り、その多くは社会的・経済的な格差の拡大や地域のアイデンティティの変化といった側面に関連している。
次章では、これらの課題に対する対応策や取り組みについて考察していく。
ジェントリフィケーションへの対応と課題
ジェントリフィケーションが進行することによって、地域社会における様々な課題が浮き彫りになる。
以下では、ジェントリフィケーションへの対応とその課題について考察する。
・コミュニティの関与と自治
前述のとおり、ジェントリフィケーションの進行により、地域の住民の一部が排除される可能性がある。
これを防ぐためには、地域の住民が当該地域の開発をめぐる議論に積極的に参加し、自治組織や地域団体を通じて意見を主張し、政策決定に参加することが重要である。
地域コミュニティの関与が強化されれば、ジェントリフィケーションの影響(特に悪影響)を緩和するための施策がより効果的に実施される可能性が高まる。
・住宅政策とアフフォーダビリティの問題
ジェントリフィケーションが進行すると、低所得者や中間層の住民が地域から追い出される可能性が高まる。
これに対処するためには、適切な住宅政策が必要である。
例えば、公共住宅の拡充や家賃補助制度の導入など、住宅のアフフォーダビリティを向上させる施策が求められる。
※アフォーダビリティ(affordability)
費用を負担できること。「afford」は「~する余裕がある」「~を提供する」「~をもたらす」という意味を持つ英単語であり、afford + -abilityといった成り立ちから考えるとわかりやすい。
・文化的多様性と持続可能な開発
ジェントリフィケーションが進行すると、その地域が本来持っていた文化的多様性が脅かされる可能性がある。
これに対処するためには、文化的な施設やイベントの支援や、地域の伝統や歴史を尊重した開発計画の策定が必要である。
また、持続可能な開発を促進することで、地域の環境や景観を保護し、長期的な発展を実現することが重要である。
ジェントリフィケーションへの対応には様々な課題が伴うが、地域コミュニティの結束や適切な政策の実施によって、これらの課題に対処することが可能であり、またそうすべきであろう。
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