外部経済・外部不経済とはなにか。具体例も解説

外部経済とは、ある企業や消費者の経済活動が、市場取引によらずに第三者に便益や利益をもたらすことであり、
外部不経済とは、ある企業や消費者の消費活動が、市場取引によらずに第三者に不利益・損害をもたらすことである。

これだけではわかりにくいと思うので、経済学の前提知識をおさらいした上で、外部性についての解説をしつつ、外部経済・外部不経済についての理解を深めていく。


《経済学の基本概念「市場メカニズム」》

経済活動は、私たちの日常生活において欠かせないものであり、財やサービスの交換がその中心となる。
市場は、これらの交換が行われる場所であり、需要と供給が出会う場所でもある。

財やサービスの価格や流通量はどのようにして決定されるだろうか。
その点を考えるうえで大きな参考になるのが市場メカニズムである。

高校の政治経済の授業などでもよく扱われるテーマである。

供給者と需要者が、価格と数量を通じて相互作用することで市場が成り立っていて、その価格体系に応じて経済社会全体の生産、消費、分配が調整されるメカニズムのことをいう。



引用:Pikuu(https://pikuumedia.com/shijo/)


価格が上がれば需要は下がり、価格が下がれば需要は上がる。
誰だって、同じものであれば安い時に買いたい。

反対に、供給者(売る側)からすれば、価格の高い時にたくさん売りたいし、低い時にはあまり売りたくない。

双方の利害や思惑が重なり、いわば妥協点を見つけるような形で、均衡価格に収束していく。
このメカニズムによって、市場は効率的な取引と資源の配分を実現する役割を果たしている。

市場の重要性は、資源の最適な利用と経済の成長に関わっている。
競争を通じて、企業は効率的な生産方法を模索し、革新的な商品やサービスを提供しようと努力する。
これにより、品質が向上し、またその時の需要者の反応によって価格が適正化される。

個人や企業は市場を通じて収入を得て、生活水準を維持または向上させることができる。

しかしながら、市場メカニズムは万能ではない。
時には市場の失敗が発生し、公正な取引や資源の適切な配分が妨げられることがある。
特に外部経済や外部不経済といった概念が関与する場合、市場の影響はさらに複雑になる。

次に、外部経済と外部不経済について詳しくみていこう。

外部経済・外部不経済が市場に与える影響について理解することで、市場メカニズムの本質をより深く理解することができる。


《市場の外部性》


市場が個々の取引によって成り立っていることは先に述べた。
しかしながら、取引に直接関与する当事者(買う人と売る人)以外にも、その取引から生じる影響を与える場合がある。
これが外部性(externality)の基本的な概念だ。

経済学では通常、個々人や個別の企業が意思決定をする際に、自分以外の他人の意思決定は自分の行動に影響を及ぼすことはないと仮定する。

しかし実際には、個人や企業の行動は他人から完全に独立して決定されるということはなく、他人からの影響は無視できないこともある。
市場取引に伴って、その副次的効果が市場を経由せずに、取引当事者あるいはそれ以外の第三者に及ぶことを外部性という。

外部性は市場メカニズムの影響を超えて広がる効果を指し、内部経済と対比される。
内部経済は、取引当事者だけが影響を受ける経済効果を指す。

外部性に関しては、例を参照しながら理解を深めていくのがオススメだ。

例えば、工場が環境に有害な排出物を放出する場合を考えてみよう。
この排出物は工場とその顧客間の取引と関連しているが、周辺の住民や生態系にも悪影響を及ぼす。

商品の価格や流通量に関しては、商品を作り販売する工場と、その商品を購入する人の取引によって決定されるものであり、それは内部経済だ。
しかし、排出物のために悪影響を受ける周辺住民や生態系は、この取引に参加していない。
取引に参加していない人に影響を与える場合(それが良いものであろうと悪いものであろうと)、外部性があるという。

工場の排出物が周囲に与える負の影響は外部性の一例だ。

一方で、教育の質の向上が個々の学生にプラスの影響をもたらすだけでなく、その地域全体に知識やスキルの向上をもたらす場合もある。
教育機関とそこに通う生徒の関係性だけでなく、地域全体の知的レベルが向上することで、その地域の治安が良くなったり、その結果、その地域の商業が発展するようなことがあれば、それは教育の正の外部性の例である。

正の外部性(プラスの影響がある)を外部経済といい、負の外部性(マイナスの影響がある)を外部不経済という。



外部性は、市場メカニズムだけでは適切に取り扱うことが難しい要因の一つだ。

なぜなら、取引当事者以外に影響を与えるため、市場価格が実際の社会的なコストや効果を正確に反映しないことがあるからだ。

上記の工場排出物の例でいえば、周辺住民は一方的に被害を受けていることになる。
その被害がどの程度かを検証されることもなければ、金銭的な補償がされるわけでもない。仮に金銭的な補償があるとしても、それは誰が支払うのか、工場側がすべての責任を負うべきなのか?といった課題が残る。

外部性は、市場の失敗を引き起こし、資源の適切な配分が妨げる可能性がある。



《外部経済の具体例》

外部経済:社会全体へのプラスの影響

先に述べたように、市場における取引が、その取引に関わる当事者だけでなく、第三者や社会全体にプラスの影響を及ぼす場合、正の外部性(外部経済)があるということになる。

外部経済は、取引に直接関わる利害関係者だけでなく、他の人々や組織にも良い影響をもたらす。
以下では、外部経済について、さらに具体例を交えながら解説していく。

  1. 教育の外部経済

教育は、個々の学生に知識やスキルを提供するだけでなく、社会全体にもプラスの影響を与える典型的な外部経済の例だ。
よく教育を受けた人々は高い生産性を持ち、高給の仕事に就く可能性が高まる。
また、知的レベルが高いことや、それによって高給を得られるようになった結果、地域の治安の改善につながる可能性もある。
これにより、社会全体の労働力・人的資本の質が向上し、経済全体の成長に寄与する。

教育を行う人(学校や塾など)と学生(家庭)の関係性にとどまらず、第三者や社会全体に影響を与えているところがポイントだ。


2.ワクチンの外部経済

ワクチン接種も外部経済の良い例である。
個々の人がワクチンを接種することによって、その人の健康状態が向上するだけでなく、感染症の拡大を防ぐ効果が広がる。
これにより、感染症の蔓延を抑制し、社会全体の健康と経済を保護する効果がある。

これも、ワクチンを打つ医療機関と、そこを訪れる患者だけの関係性にとどまらない影響を持っている


3.研究と開発の外部経済

企業や研究機関が新しい技術や知識を開発することは、その結果生じるイノベーションによって社会に恩恵をもたらす。
例えば、新しい発明や技術が生まれると、それに関連する産業全体に刺激が生まれ、新たな雇用機会や経済成長の機会が広がる。




このように、取引に直接関わる人以外にも良い影響をもたらすことがあり、それを外部経済という。

「良い影響があるなら、それでいいじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、外部経済の問題点もある。
これらのプラスの影響が、市場価格だけでは十分に評価されないことだ。

市場メカニズムでは需要者(買う人)と供給者(売る人)の関係性によって価格が決定されるので、副次的に発生する影響に対しては価格がつけられない。

供給者からしてみれば、すごく価値のある事業を行っているにも関わらず、不当に低い価格で取引が行われることによって、期待したほどの利益を得られないことがある。
場合によっては、その事業から撤退するかもしれない。

結果として、社会全体の利益が最適な水準で実現されない可能性がある。




《外部不経済の具体例》

外部不経済:社会全体へのマイナスの影響

市場取引が社会全体にマイナスの影響を及ぼす場合、それは外部不経済といわれる。

外部不経済が発生すると、取引の当事者だけでなく、他の人々や社会全体にも悪影響をもたらす。
以下では、外部不経済の概念を具体例を交えながら理解を進めていく。


  1. 環境汚染の外部不経済

環境汚染は典型的な外部不経済の例である。

工場が大気や水域に有害な排出物を放出する場合、それは周辺の住民や生態系に害を及ぼす。
これにより、健康問題や環境破壊が発生し、社会全体にコストがかかる。
その工場の製品を買うかどうかに関わらず被害を受けることになるので、外部不経済の例として挙げられることが多い。


2.騒音問題の外部不経済

これも環境問題の一部ではあるが、騒音問題も外部不経済の一例である。

例えば、工場や交通の騒音が、周辺の住民にストレスや睡眠障害を引き起こす場合、これは住民にマイナスの影響を及ぼすことになる。
騒音の原因となる事業者は、その負担を負わずに取引を行うため、外部不経済が発生する。
特に、交通の騒音の場合、被害者だけでなく、加害者が誰なのかを特定することも難しいため、費用の回収はより困難となり、内部化することが難しい。


3.健康に関する外部不経済

例えば、たばこを吸うことが健康に悪影響を及ぼすことは広く知られている。
喫煙者本人が健康問題を抱える可能性が高まるだけでなく、医療機関を受診したり、労働力としての能力を失ってしまったりすることによって、社会全体として負担するコストが増大する。

このような場合、たばこ産業は自身の商品による負担を負わずに取引を行うため、外部不経済が発生するといえる。




これらは一例だが、外部不経済の重要なポイントは、これらのマイナスの影響が市場価格だけでは十分に評価されないことだ。

結果として、社会全体にとって望ましくない状況が発生し、市場の失敗を引き起こすことがある。
このため、政府や規制当局の介入が必要とされる場合もある。




《市場の失敗》

市場の失敗:市場メカニズムの限界

市場メカニズムは効率的な資源配分の手段として非常に重要であるが、上記のような外部性が存在する場合、市場メカニズムに従った価格が最適であるとはいえない。
今回は外部性という点に注目して話を進めてきたが、市場の失敗は、価格メカニズムだけでは社会的なコストや利益を適切に反映しない場合に発生する。


市場の失敗の主な要因:

外部経済と外部不経済:外部性により、市場価格が実際の社会的コストや利益を正確に反映しない。

公共財と市場不足:公共財は市場で効果的に供給されない。公共財についての解説は長くなるので、別の記事を作成することにする。

情報の非対称性:取引当事者間で情報の非対称性がある場合、市場は不完全な情報に基づいて価格が形成され、効率的な取引が妨げられる。これも別の記事で詳しく解説したい。

独占市場と価格操作:競争が不足し、企業が市場を支配する場合、価格操作が発生し、効率的な市場競争が阻害される。




《まとめ:市場の役割と政府の役割》

市場は効率的な取引と資源の配分を実現する重要なメカニズムであるが、市場の失敗が発生することもある。外部経済や外部不経済、公共財、情報の非対称性、独占市場など、さまざまな要因が市場の制約要因となる。

政府や規制機関は、市場の失敗を緩和し、社会的な利益を最大化するために介入する(べきであるが、現実的にできているとはいえない)。
税金や補助金、情報開示、法整備など、さまざまな手段が用いられる。

最終的に、市場メカニズムと政府の役割は、社会の持続可能な発展と健全性を実現するためにバランスが取られねばならない。



《おわりに》

最後までお読みいただきありがとうございます。
コメント等、めちゃくちゃお待ちしております!!

また、「こういうテーマでやってほしい」といったリクエストや、
「ここがわかりにくい」といったご質問やご意見等もお待ちしております。

noteのコメント欄でもいいですし、以下の公式ラインでも質問やリクエスト等受け付けしております。

https://lin.ee/VCbPERh

※ラインの情報を不正に利用したり、なにかの商品を売りつけるといったことは絶対にありませんので、「なんとなく興味ある」くらいのテンションでお気軽にお問い合わせください。

放送大学在学中の限界サラリーマンですが、サポートは書籍の購入にあて、更に質の高い発信をしていきます!