なべしきさん
ぼくはみみちゃんが作ったなべしき。
7色のアクリルの、もこもこ布で編んでくれた。
ぼくはなべしきだけど、ふだんは鍋は敷いていない。てつこさんが沸かしたお湯を入れた魔法瓶の底をあたためている。
みみちゃんは縫い物をしたりお料理をしたり、手作業するのが好きみたい。
ずっと以前はお料理教室に通っていたし、最近はときどき裁縫教室に通っている。
裁縫教室はおうちの近くにあって、そこの先生とは気が合うみたいだ。(お料理教室の先生のことは、そんなに好きじゃなかったみたい)
みみちゃんは裁縫教室で作った麻のエプロンをつけて、毎日いろんな家事をしている。
ふだんは仕事のために出かけていておうちにいる時間は少ないけれど、ちょっとの時間も大事にしていろんなことを丁寧にやっている。
みみちゃんはごみを捨てるとき、ごみ箱の中に静かにごみを入れる。
かばんを置いたり、何かを移動させたりしてものを置くときとかも、どしんとかばたんとか大きな音をたてて乱暴に置いたりしない。
どんな動作もゆっくりゆったりしているから、一緒にいるぼくたちも、いつもなんだかのんびりした気持ちでいられる。
そんなふうで、みみちゃんの暮らしは丁寧でおだやか。
みみちゃんは今日はおみそ汁をつくっている。
みみちゃんが買ったオレンジ色の小さなルクルーゼのお鍋にお水を入れて、無添加のおみそを溶かしている。
それからあつあげと大根とにんじんを入れてから少しのあいだあたためて、おみそ汁は完成だ。
おみそと湯気の混じり合ういい匂い。
みみちゃんがぼくを机のうえに置いて、それからさっき作ったおみそ汁の入ったルクルーゼをのせた。
じんわりあたたかくなって来て、お湯に浸かるってこんな気分なのかなって思う。
かちゃん、かぱ、かた。
みみちゃんがしゃがんでお皿を出している。おみそ汁をよそうのは、赤色と黄色と黒色の太い線が入った白色のどっしりとした、とってのついたカップ。
アラジンさんで炊いたごはんをおちゃわんによそって、あとは白身魚のムニエルと、もやしときくらげとさやいんげんのナムルと、近くのスーパーで買ったおぼろ豆腐をそれぞれお皿によそったら、晩ごはんの準備がととのった。
今夜のデザートは、デパートで買ったおかきとフェアトレードのミルクチョコレート。
さきにお風呂に入ったから少し遅めになってしまった夜ごはんを、みみちゃんが自分のペースでゆっくりと食べ始めた。
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この小さな物語に目を留めてくださり、 どうもありがとうございます。 少しずつでも、自分のペースで小説を 発表していきたいと思います。 鈴木春夜