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人の心が見えるなら

「人の心が見える能力」があるとしたら、あなたは欲しいですか?

私の答えは決まっている。欲しくない。「いらない」ではなく「欲しくない」。


1 年前まで、私は自分が所属する学生団体の幹部をしていた。幸運なことに自分を慕ってくれる人は多く、しばしば幹部仲間やメンバーから相談を受けた。

最初は嬉しかったし、それでこそ幹部だと思っていたのだが、相談が増えるにつれて重荷になっていった。

A さん個人が望む選択肢と、学生団体として取るべき選択肢は必ずしも一致しない。全員を幸せにしようと思うほど、その実現は遠ざかる。いろんな立場の意見を聞けば聞くほどに板挟みになり、身動きが取れなくなった。

あの時期を経て、周りを見るのが少し上手くなった。複数の立場を想像した上で行動しようと意識するようになった。結果的に優しくなったと思うし、もっと優しくなりたいと思う。でも、その想像力を人の心を見る能力に置き換えたくはない。たぶん苦しむだけだから。


でも、とふと思う。
おそらく自分が一生かけても理解できない考えに直に触れられるなら、ちょっと興味あるかもしれない。

たとえば、「タワーマンションでの生活に憧れている人」の心を理解できるということである。


私は高所恐怖症だ。

そう言うと「じゃあジェットコースターとか苦手?」と聞かれるのだが、高所恐怖症の敵はもっと日常に潜んでいるよ! と声を大にして言いたい。長いエスカレーターが怖いし、高速道路を走っているときに車から見える景色が怖い。前に一足分以上の空間を確保しないとベランダから下を見下ろせない。

そんなわけで、「いつか大金持ちになってタワーマンションに住みたい」と語る人の思考を一ミリも理解できない。生活するところなんて地面から近ければ近いほど良いに決まっている。

でも、「タワーマンションに住みたい」という夢を原動力に仕事に勤しんだり、大変なことを乗り越えたりしている人はおそらくいるわけで。そんな人たちのことを率直に素敵だなあ、羨ましいなあと思うし、その夢にものすごく興味がある。自分が一生持てない夢だからこそ、純粋に憧れている人の心を知りたいと思う。


まあでも、わからなくても良いのかもしれない。私の理想の住まいは平屋。コンパクトだけど庭もついていて、家から山が見えるやつ。そんな夢を抱いて人生設計ができるのも、高所恐怖症の人間の特権なのかもしれない。

人の心もやっぱり見えなくて良い。トランプゲームみたいに、自分の手札を見せたり見せなかったりしながらかかわっていく方がきっと楽しいし、結果的に優しい世界なのだと思う。

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