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ここが新聞校閲と違う!「校閲ガール」を読んでみて

入社前、知人に「新聞社の校閲部から内定もらったよ」と報告すると、多くの人から「校閲ガールだ!ドラマ見てたよ」と言われました。

2016年に石原さとみさん主演のテレビドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」が放送されたことによって、「校閲」という言葉が世間一般により広く知れ渡ったような気がします。

入社してからも頻繁に「校閲ガール」と言われるのですが、じつは私、そのドラマ見たことないのですなので、「ドラマみたいな感じなの?」と聞かれても答えられず、もったいないな~という思いがずっとありました。

そこで、まずは原作である小説「校閲ガール」を読んでみました。

主人公の河野悦子は、出版社の校閲部員。私と同じ入社2年目です。
読んでみると、「分かる~」と思う箇所もあれば、「ここはうちの校閲部とは違うな」と思う箇所も。

今回は、本を読んでみた感想とともに、リアル校閲ガール(?!)の実情をお届けできればと思います!

「校閲ガール」って?

宮木あや子さんによる全3冊のシリーズ小説で、KADOKAWAから出版されています。第1作は2014年に出ました。

あらすじは以下の通り。
KADOKAWAのホームページから引用します。

憧れのファッション雑誌の編集者を夢見て、根性と気合と雑誌への愛で、 激戦の出版社の入社試験を突破し 総合出版社・景凡社に就職した河野悦子(こうの・えつこ)。
しかし、「名前がそれっぽい」という理由で(!?)、悦子が配属されたのは校閲部だった。

入社して2年目、苦手な文芸書の校閲原稿に向かい合う日々。 「こんなところ早く抜け出してやる」とばかりに口が悪い演技をしているが、 段々自分の本性がナマイキな女子であるような錯覚に陥ってくる毎日だ。
そして悦子が担当する原稿や周囲ではたびたび、ちょっとしたトラブルが巻き起こり……!?

※この先は、作品の内容に関わる記述が出てくるため、ネタバレと感じる方もいらっしゃるかもしれません。ご了承ください。

表記の基準はそれぞれ

悦子は小説など文芸関連の校閲を担当しており、送り仮名や数字の表記に関して、基本的には作家のこだわりが尊重されています。ですが、中日新聞では共同通信の定めた表記に準拠するというルールがあるため(※)、そうはいきません。数字も、漢数字が原則です。そこが最も大きな相違点かなと思いました。
ルールについては、こちらを参照

例えば、とあるミステリー小説を校閲していた悦子。「柔かい」という表記を見かけて、

「柔」と「か」の間に「<ら?」と入れ、校正メモの「や」の欄にページ数を書き留める。
「校閲ガール」5ページ

というように、「ら」を入れるかどうか問いかけていますが、新聞では常用漢字表の音訓に則するというルールがあるので、必ず「ら」を入れるよう指示します。「?」は付けません。
ただし、コラムなど社外の人による文章はその限りではありません。指摘をしても、筆者の表記を尊重して反映されない場合もあります。そういう時は、振り仮名を付けたりして対応します。

悦子が校閲をしている様子を読んでいて真っ先に思ったのは、「作家ごとに表記が違うのって、すごく大変そう」。そういった負担を減らすために、悦子の勤める景凡社には「校閲指示書」というものがあるようです。
校閲指示書とは、作家の書き方の癖などを校閲に伝えるため、事前に編集者が作成するものだそう。作中ではこんな感じに描かれています。

地名はすべて架空のものだから調べる必要なし。犬が喋るが問題なし。数字は漢数字に統一。作者の意向により「関る」の送り仮名に「わ」は必要なし。「柔かい」の「ら」も同様。
「校閲ガール ア・ラ・モード」164〜165ページ

なるほど、最初にこういった指示があれば、校閲作業がスムーズに進められますね。ほとんどの原稿が社内の記者によって書かれている新聞社にはないシステムです。

確認作業は大体いっしょ

物語の途中で、雑誌の校閲へ異動した悦子。表記ルールが定まっているところなどを見ると、雑誌は文芸よりも新聞校閲に近そうです。
悦子の作業手順は、以下のように説明されています。

必要な事実確認は調べたらしるしを付け、年号や固有名詞は間違いがないか、ライターおよび編集から資料が添付されていればまずそれにあたる。添付されていない、もしくは不十分な場合はできる限り調べ、判らないときは疑問出しの鉛筆を入れる。書名や公演日時、問い合わせ先の電話番号に間違いはないか、日付と曜日は合っているか。数字は見間違うことがあるので何度も確認する。
「校閲ガール」194ページ

これは、私たち新聞校閲の作業とほとんど同じです。
調べる事項は、固有名詞、数字、事実関係などなど…。なるべく正しい情報にあたり、何度も何度も見直します。

雑誌のとあるページを校閲していて悦子が見つけた間違いはこちら。

映画は「今年の新作」とあったが年が変わる前に発表されたものだ。「昨年」とするか、「今年の」をトル。読者投稿は元データと突き合わせたら、年齢・性別・職業のプロフィールデータが取り違えられているものがあった。読者には判らなくても、投稿者はショックだろう。
「校閲ガール」同上

新聞でも、執筆から掲載までに月が替わり、「今月」が「先月」になってしまうことは多々あります。人名や年齢などもミスが生じやすいです。

間違いのリアルさに、読んでいてゾッとしてしまいます。

えっちゃんみたいに服装自由なの?

これが一番よく聞かれる質問かもしれません。
えっちゃんこと悦子はとってもオシャレな人物。ドラマでも、華やかな石原さんの衣装が話題になっていましたね。

私の職場も、服装は自由です。その日の気分に合わせて好きな服を着ています。

ただ、降版間際にミスを見つけたらダッシュで指摘しに行かなくてはなりません。そのことを考えてドラマ版悦子の衣装を見てみると、ハイヒールや厚底靴に「これじゃあ私は走れないな〜」なんて思ったり。いつでもダッシュできる服装を心掛けています。

あとで調べよう

悦子は日常生活で、何か気になることを見つけてはこうつぶやいたり書き留めたりしています。
個人的に、これすごく共感できます

私も、普段の生活の中で知らない言葉を見かけると、すぐに辞書アプリやブラウザで検索してしまいます。その場で調べられない事柄は、忘れてしまわないようスマートフォンのメモに書き留めておくことも。
この仕事を始めてから、何かにつけて調べる癖がついたな〜と思います。

なので、「あとで調べよう」という悦子の言葉には、仕事と直接関係のないことだとしても、気になることをそのままにしないという校閲者としての姿勢が表れていると感じました。

今回原作を読んでみて、テレビドラマの方もぜひ見てみよう!と思いました。
実在する出版社の校閲部がどのように仕事をしているのかも気になるので、このあと調べてみます。

この記事を書いたのは
稲垣 あやか
河野悦子と同じ入社2年目。主にニュース面を担当。コーヒー好きが高じて、コーヒーの木を育て始めました。観葉植物ビギナーなので、冬を越せるか不安です。

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