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AIが作った文章を校閲したところ、気になる表現が…!校閲記者としてどう向き合うか、考えてみました

ここ最近のトレンドといえば「対話型人工知能(AI)」。
OpenAIの「チャットGPT」などが有名で、新聞記事にも連日登場しています(そして「GTP」や「GDP」となっていることも)。

先日、そんな「チャットGPT」が生成した文章を校閲する機会がありました。その文章の中に興味深い表現が出てきたので、今日はそのことを書きたいなと思います。


この表現、どういう意味?

自治体がチャットGPTを業務に試験導入した、というニュースが報じられた日。中日新聞には、そのニュースに関連して「実際に記者がチャットGPTに質問をしてみた」といった記事が載りました。

(中日新聞Web会員の方は、こちらから記事全文をご覧いただけます)


記事では、記者の「統一地方選の投票率を上げるにはどうすればよいか」という質問に対するチャットGPTの回答が紹介されています。

「AIが作った文章を人間が校閲するなんてヘンな気分だな~」なんて思いながら読み進めていると、「これはどうしよう…!」と思う表現が。

その箇所を一部抜粋します。

 また、投票の手続きを簡素化することも重要です。投票場所や時間を広く周知することで、投票の敷居を下げることができます。

2023年4月21日付「中日新聞」朝刊社会面

私が気になったのは「敷居を下げる」という表現です。
「敷居が高い」はたいていどの辞書にも載っている慣用句ですが、「〜を下げる」はあまり見かけません。

そもそも「敷居が高い」とは、

相手に面目のないことがあったりするために、その人の家に行きにくくなる。また、その人に会いにくい。

「日本国語大辞典」

というのが元々の意味とのこと。

ですが、近年意味が変化してきており、最近使われているのは単に「近寄りがたい」「ハードルが高い」といった意味。「明鏡国語辞典」には、「高級すぎて僕らには敷居が高い店」「初心者には敷居が高いゴルフコース」といった例文が新しい用法として紹介されています。

さて、このことを踏まえてAIが作った文章を見てみましょう。

チャットGPTは投票に行きやすくする方法を提案しているので、ここでの「敷居」は「ハードル」に置き換えることができます。この場合、「相手に面目のないことがあったり」という意味は含んでいないでしょう。

…つまり、チャットGPTは「敷居」を、新しい方の意味で使っているのです!!!
「〜を下げる」というあまり見かけない表現になっているのも、そのためだと言えそうです。

後日、あらためてチャットGPTに「敷居を下げる」の意味を聞いてみると、こんな回答がありました。

やはり、「相手に面目のないこと」があるかどうかにかかわらず、近寄りにくさ・手を出しにくさを緩和させることとして認識しているようです。

チャットGPTは、インターネット上にある大量のテキストデータを基に学習しているそうです。ということは、インターネット上ではこちらの意味が一般的に使われている、ということになるのではないでしょうか?

2020年度の「国語に関する世論調査」(文化庁)でも「敷居が高い」を元々の意味で認識している人は全体の約3割というアンケート結果が出ており、新しい意味が広く浸透していることはすでに明らかになっていました。

ですが、そんな言葉の移り変わりをまさかAIの作った文章によって実感することになるとは……!!!

校閲をしていて発見したときにはとても興奮し、すぐに周りの人に見せびらかしてしまいました(その節は、仕事中に邪魔をしてごめんなさい)。
日頃の私たちの言葉遣いが、AIの文章力もつながっていると感じた出来事でした。


この場合、指摘はどうする?

AIによる「敷居を下げる」という表現。初めは「どうしよう…!」と思いましたが、結局のところ私から特に指摘はしませんでした。
もしこれが記者が書いた文章であれば、誤解を与えてしまわないよう、別の表現に変えることなどを提案するかもしれません。

しかし、今回の記事は、記者の質問に対してチャットGPTがどのような回答をしたのかを伝えるためのもの。表現が気になったからといって、改変を提案するのは望ましくないと判断しました。


AIとうまく付き合っていくために

今後、対話型AIを活用する機会はどんどん増えていくかと思いますが、AIが生成する文章が必ずしも正しい内容と限らないということはすでに広く注意喚起がされています(前掲の記事に引用されたチャットGPTの回答にも、一部事実とそぐわない箇所がありました)。

それに比べると、こうした言葉の使い方はあまり注目されていないような気がします。AIを利用するときには、事実関係の確認だけでなく言葉の使い方が適切かどうかにも目を向けてみると良いかもしれませんね。