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「なんちょうなんなん」作成の舞台裏(情熱おじさん編)|Ⅴ「動画制作編」~中編~

④涙・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・」

 そのデモ動画は、まだ歌手の方は歌ってませんとのこと。
でも、イメージを見てくださいとのことでワクワクしながら観ました。

♪な~んでも はなしたいけど・・・

 「なるほど。男の人が歌ってるのか」

♪ ~ ♪ ~ ♪ ~

「・・・・・・・・・・・」

♪ ~ ♪ ~ ♪ ~

「・・・」

 見終わる頃、涙が出ました。

 最初は、問題の場面が描かれていました。
「そうそう」
「そうなんよなあ」
と思いながら進んでいき・・・

 そして、「だから、こうしてほしい^^」の部分です。

 ♪前に回って~♪
の部分から気持ちが高揚してきます。

 そして、
♪聞き直すことに~ 応じてく~れたら~♪
まで来ると、気持ちが込み上げてきましたね・・・

 歌ってる人は全然感情は込めてません(笑)
(リズムとかイメージとかを表す目的だと思います)
それでも、何かですね・・・ジーンとくるものがあってですね。
メロディーと、自然な解決像がそうさせたんでしょうね。

多分、こういうふうに周りが考えてやってくれたら、みんな楽しくやれるだろうなあ・・・と思ったのもあるし、やっぱり、娘と重なった部分もあるかもしれないですし、今まで出会った無理解、聞いてきた無理解が解けるところがイメージできたのかもしれません。

 すごくいいなと思いました。

 余韻に浸った後、ふと動画再生時間をみると・・・

2分50秒

 え??
2分50秒??

 たしか、あの金額じゃあ、1分30秒で、上乗せ分はせいぜいあっても10秒か20秒程度だったよね?

早速河原に連絡。

 僕「めっちゃ良かったなー!!」
河原「良かったですねー!!」
僕「ところであれ、2分50秒もあるんだけど??いいの??」
河原「はい。触れないでおきましょう」
僕「はっはっは(笑) そうね~!まあ、大丈夫なんだろうけど、よくわからんから、そっとしておこう(笑)」

 いや~こんなにしてもらっていいんだろうか??
有難過ぎますね。

 そしてまたしばらくして、アップデート版が届きました。

 「あっ!!!」

「絵が・・・

動いてる・・・・!!!」

 僕「河原さん!河原さん!絵が動いてるで!!」
河原「動いてましたよねー!これも触れないでおきましょう」

 お金がないので、90秒で、紙芝居のように静止画が何枚か動いていく動画を想像していました。
最初のデモ動画はまさにそれでした。

それが、いつのまにか、
3分近くになり、
絵が終始動いている動画になったんです!

 いいのかなあ??
いや、めちゃくちゃ有難いんだけど(笑)

いや~すごくいいものができちゃいますね!!


⑤断腸の思いで削った、ある“伝えたいこと”


「あの部分の言葉は、2番目に言いたいことなんで、できれば前のものに戻せませんか?」

 歌詞やメロディーなどを詰めていき、語呂が合わないところは歌詞を見直したりする作業に入っていったところで、絶妙だと思っていた歌詞が変わってしまい、元に戻せないかと相談をしたことがありました。

 なんちょうなんなんの歌い出しは、
「なんでも はなしたいけど ちょうっと きくのが むずかしい」

ですが、一時期、
「なんなく はなしてみえるけど ちょうっと きくのが むずかしい」
という歌詞になっていました。

 これは、実に絶妙だ!と僕は感動していました。

 今回、一番伝えたかったのは、
「補聴器や人工内耳をつけていても、全部聞こえているわけではないんだ」
という部分です。

 そして、2番目に伝えたい部分は、
「上手に話していても、聞こえているわけでない」
ということでした。

 これは両方とも伝えたかったことです。

 前者は、歌の一番重要なパートで使われていますが、後者は入れる部分がありませんでした。

でも、あの歌い出しなら、上手に話していても聞こえているわけではないということが言えるので、実に絶妙に入れることができた!と感動していたのです。

 だからこそ、元に戻したかったんです。

 そして空気さんの答えは・・・

 「“難なく話して見えるけど、ちょっと聞くのが難しい”という言葉は、初見の人では、唐突過ぎて、冒頭、乗り切れない恐れがある。
『課題』を知ってもらって、『解決』の方法を提示するという流れで、初見の人にも伝わる映像にしたので、冒頭の歌詞は、主人公が、主語を「私」にして、
「何でも話したいんだけども、ちょっと聴くのが難しいんだ」
という現状を伝える歌詞から入るのが良いと考えます」

とのこと。

 実は、「上手に話していても、聞こえているわけでない」というのは、あるろうの方が伝えてくれたことで、あの時の訴えが僕はすごく心に残っていました。

そういう場面に幾度となく遭遇して、何度も悔しい思いをしてきたんだろうなと強く感じました。

 だから、このことも、至る所で伝えていきたいと思っていました。
だから何とか・・・と思っていたのですが・・・

 「初見の人には唐突過ぎる」

この言葉がキーワードになりました。

聞こえる人に知ってもらうための動画なので、冒頭で乗り切れなくなるのは困る。

 なるほど・・・

そこは、第三者の視点が大事ですよね。

 断腸の思いでしたが、納得しました。
あれを入れられなかったのは残念ですが、それはまた別の機会で伝えていくことにしようと思います。

 ということで、今の歌詞に落ち着きました。

 ちなみに、補聴器や人工内耳をつけても全部聞こえているわけではないんだという部分を一番伝えたかったのは、そらいろの子どもたちのためです。

 未就学児はそもそも上手に話せません。
それよりも、まずは補聴装具を付ける場合が多いので、そこを知ってもらうことを第一にしたということです。

 さあ!そろそろ、歌が完成に近づいてきました!


⑥振り返れば蟻の一穴だったかも?

「そんなに気にするほどのことでもないんだけど、でも・・・」

「補聴器や人工内耳を付けていても、聞こえているわけではないんだ」
これが、当初の言葉でした。

 この言葉について、監修の平島先生からコメントをいただきました。

「そんなに気にするほどのことでもないんだけど、『聞こえているわけではないんだ』の部分は、聞こえてないわけじゃないから違和感が残る。“全部”聞こえているわけではないとかにできた方がいいかも。まあ、さほどのことでもないので・・・」

 ああ・・・確かに。
まあでも、もうレコーディングも近いし、そこまで気にしなくてもいいかな・・・
空気さんにはお伝えして、変えられそうなら変えてもらう感じでいいかな・・・

 河原には、平島先生のコメントを空気さんに伝えてとだけ連絡しました。

 でも・・・

 何か気になる・・・

 僕の感覚だと、「全部」が入ってなくても、全部聞こえているわけではないということは、わかるんですよね。
だから、そこまで気にしなくてもいいんだけどと言われて、「確かにどっちでもいいかな」と思いました。

 でも、実際に平島先生はそこが引っ掛かった。

なぜ引っ掛かった?

 ああ・・・

「聞こえているわけではない」だと、
随分聞こえてないように感じる。

 確かに、それは心外だと思う場面はあるはず。
本当はできるのに、できないと捉えられるのは悔しい。

「全部聞こえているわけではないんだ」だと、
「聞こえないこともあるんだ」という捉え方になる。

だから、必要な配慮があって、そうすることでお互い楽しくコミュニケーションできるようになるんだということにスムーズにつながる。

 僕が、「全部」が入ってなくても、全部聞こえているわけではないということがわかっているのは、当事者の家族だからです。

 そして、僕は当事者ではない

 もっと受け手の立場になって考えてみると、この「全部」という言葉は、なくてはならないもののような気がする。
そう思えてきました。

 早速河原に連絡し直します。
「ごめん!あの『全部』、やっぱあった方がいいと思う。
もちろん、歌の語呂が合わなくて難しいならしょうがないけど、可能ならぜひ入れてくださいってお願いしてもらっていいかな?」

 レコーディング間近にもかかわらず、空気さんは丁寧に対応してくれました。

そして・・・

 「補聴器や人工内耳を付けていても、全部聞こえているわけではないんだ」
という歌詞に落ち着きました。

 もしかしたら、あってもなくてもあまり変わってなかったかもしれませんし、なかったら、これほどまで支持されてなかったかもしれません。
それはわかりませんが(笑)、
僕は入れて良かったなと思っています。

 ついつい気が緩む場面が出てしまうのが人間ですが、もうどんなささいなことも流さずに考えよう!と気持ちを新たにしました。

 

⑦難聴のことを全く知らない僕が作っていいんだろうか?


「この仕事、自分がやっていいのか悩みました」

 さあ、ついにレコーディングの日を迎えました!
レコーディングなんて僕の人生にはありませんでしたから、こういう初体験はいつもワクワクします(笑)!

 しかし!
まずはやりたいことがありました。

 この素敵な曲を作ってくれたインビジの中村さんに、真っ先にお礼が言いたかった。

 「本当に素敵な曲をありがとうございます!!」
中村さんもありがとうございますと答えてくれ、少しお話ししました。

 中村さんは、この依頼をもらったとき、
「難聴のことを知らない自分が作っていいんだろうか?
この仕事を引き受けてもいいものだろうか?」
と悩んだそうです。

 でも、
「知らないなら今から勉強しながら作るという方法もある。
知らないからこそ、知ったときの思いを活かすことができるかもしれない。」
と思えて、それでこの仕事を引き受けて曲を作ってくれたそうです。

 上の言葉は、僕の解釈が入ってるかもしれませんが、すごく心に残っています。

 僕は難聴理解促進の活動をしていますが、言ってみれば当事者ではありません。
でも、だからこそ気づくこともあるし、できることもあります。

 同じように、当事者だから気づくこともあれば、できることもあります。
いろんな面から伝えられれば、いろんな人に届けられると思うんです。

 世の中には、「よく知りもしない奴は黙ってろ!」と言う人もいますが、知ったかぶりをして間違ったことを言うのは良くないですが、そもそも、物事について完全に知ってる人なんていないわけですから、自分の立ち位置をわかったうえで、等身大で話していくことは、尊いことだなと思います。

 それで間違ってたら、優しく教えてあげる人がいればいいし、そうだったんですか!ありがとうございます!と言ってアドバイスを受け入れればいいだけです。

 何だか、そんなことを後から考えていました。

 さて!

レコーディングはというと、知らない言葉が行き交っていて、でも交わしている人同士はちゃんとわかっていて、「カッコいいなあ~」と眺めていました。
プロ同士のやりとりを見るのはすごく好きなんですよね~

 歌い始めの部分を1回歌い終わった永山さん

「最初は悩んでるけど、段々明るくなっていく方がいいよね?
もう1回やらせて」

TAKE2が終わり、
「いいと思う!」と皆さん。

「もうちょっと明るさを強調したのも録ってみていい?」

ということでTAKE3

「さっきの方がいいかもねー!」
「うん、そうね。さっきのがちょうどいいね。」

おお~
そんなところまで考えて歌ってくれてるんですね~!

「言葉に人格を入れてみました」

とも言ってましたね。

 なるほど・・・面白いですよね!

 いや、歌手としては当たり前のことなのかもしれませんけど、そういう細部に思いを持ってやれる人は大好きだし、僕もそうありたいなあと思うので、チームにそういう人が揃っていて、本当に有難いなあと感じていました。

 さあ、実はこのなんちょうなんなんの作成は、FBSさんが密着取材をしてくれていまして、このレコーディングにも来てくれていました。

 そこで、永山さんのインタビューを取っていましたが、僕も呼ばれまして、
「岩尾さん、永山さんに、どのように歌ってほしいか要望をお願いします」

 え?!
ヨーボー??

 ないないないない(笑)!!
この歌のドシロウトの僕が、プロの歌手にヨーボーなんてございません!!
僕の歌聞いてみますか?(笑)

 いや、それは勘弁してくださいということで、別の話にさせてもらいましたけど、個人的に面白い出来事でした(笑)

 永山さんの歌は本当に優しくて、
押し付けがましくなく、前向きに聞いてもらいたいという意図にドンピシャな歌声でした。

本当に永山さんに歌ってもらって心から良かったと思ってます。

 無事レコーディングも終了して、完成まであともう一息ですね!
(続く)

【STAFF】
ディレクション&アニメーション:白川東一(KOO-KI
うた:永山マキiima
楽曲:中村優一(株式会社インビジ
デザイン&アニメーション:斎藤悠実、永田健人(有限会社アイメージ
監修:福岡国際医療福祉大学 言語聴覚専攻 平島ユイ子教授
制作コーディネーター:古城戸利香(KOO-KI

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