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紙谷惠子歌集 :3/5 …番いのカラス枝咥え…+読者コメント


外出 97首


外出:97首

夕暮れに番のカラス枝咥え
   飛びゆく姿羨ましくも

ルミナリエインターネットでベッドから
   生中継の動画楽しみ

行くんだと一度決めたら行って来た
   ミサも輝くルミナリエにも


教会のファジーな鐘が鳴り響く
   2分の誤差でバス乗り遅れ

コンサート誘われ出かけ久し振り
   生演奏に活力が湧く

折れ曲がるビル沿い並ぶ人追えば
   うなぎと書いた墨の字が見え

雪が降り頭髪濡らす感覚が
   十数年の時甦る

青空に寒波押し切り散歩する
   こぶしの並木蕾は固く

亡き父に映画の帰り反戦の
   レコードねだった日も雪が舞い

夕月と顔赤らめて初詣
   引きしおみくじ小枝に結ぶ

よのみやじんじゃ

チラチラと雪舞う景色山かすみ
   麓の人家灯が点き始め

雪の日に知人の店で文具買う
   マジックインクは春色選ぶ

曲がり角椿の蕾ふっくらと
   信号青になるまで数え

温かなリビングの陽に騙されて
   外出すれば風が冷たく

車椅子散歩しようと出てみれば
   風が冷たくフリース羽織る

バレチョコをコスモポリタン買いに行く
   君と座りし席懐かしく

歯科帰り春節祭の獅子舞に
   初めて出会う我は神戸っ子

車椅子しばらくぶりの散歩道
   こぶしの蕾まだ固く閉じ

気持ちよく車椅子乗り散歩する
   蕾膨らむこぶしを見上げ

こぶし
 フラワーロードにて

夕方にこぶし咲く道散歩する
   犬と目が合い挨拶交わす

夕方にこぶし通りを散歩する
   雀が花で羽繕いをし

鐘が鳴り寒空の下花嫁の
   ベールのすそを風が舞い上げ

晩寒に老女のおしゃれ激しくて
   ピンクのジャケット毛皮がひかり

暮れかけたいつもの道を散歩する
   大木たちは妖怪と化し

降りそうな雨と寒さに気をそがれ
   厚いコートに着替える弥生

弥生空雪が斜めに降りしきり
   ビル群かすむ景色に見とれ

兵庫県公館 (勤務した福祉の事務所はここおにあった旧県南庁舎)



藍空に桃花浮かび車椅子
   弥生爽やかショールなびかせ

春の空群れて飛ぶ鳥巣づくりか
   小枝くわえて夢を乗せ飛べ

春雷が眠れるものをみなおこし
   春本番に外出の想い

夕暮れにマンション廊下11階
   春霞消え港が迫る

晴れた午後相楽園に散歩する
   小川せせらぎ生きもの探す

相楽園にて神崎さんと


春雨に黄砂洗われ空木見て
   雅人たちの心を感じ

散歩中店中入りてプリントの
  チェ・ゲバラに合う春の夕暮

車椅子目線の高さ異なりし
   人とは違う春が見つかり

春風にマンション廊下水色に
   染まる港の潮香漂う

青き空北野工房作る春
   押し花すみれ友のため買う

夕暮れに今日の港は霞んでる
   ポートタワーの赤が桜色

八分咲く桜の枝にヒヨドリが
   花陰隠れ我をみおろす

見上げれば桜の隙間にヒヨドリの
   顔と尾が見えそっと通りし

近くの小学校の桜 開花前



空晴れてマンション廊下北向けば
   六甲の山波桜雲浮き

藍空の桜の下に車椅子
   止めてこぶしの満開眺め

霞み晴れ盆栽展に空木観て
   雅人のように我も一首を

春半ばまだ歯科通いやめられず
   麻酔効かずに日を送るなり

青空に桜満開木の下で
   友と佇み顔を見合わせ

春の夜に満開桜木見下すや
   向こうのビルは雨で輝き

雨風に散りし桜の花びらが
   路に張りつき知らぬ間に消え

一週間わがもの顔に咲き並ぶ
   昨日雨降り葉桜になるか

盆栽が満開終えて葉桜に
   街路の空木開花したらし

喫茶店椅子ゆったりと奥さん似
   風心地よくカーテン揺らし


東遊園地内の喫茶店



花みずきスイスシャレーの窓に見え
   友と夕食シェフの薦めを

紺碧の水平線を眺めれば
   一年の時どこかに消えて

散歩中ブルータスを見つけ買い
   可愛いでしょうと来る人に言う

鯉のぼり見かけ姪の子思い出し
   工房寄りてTシャツ吟味

みどりの日スパンコールのストールを
   見つけ魅せられ衝動買いす

梅雨の夕信号待ちも鬱陶しい
   友に誘われいそいそ食事に

雨空に紫陽花見れば我いつも
   ファッションショー見る思いにかられ

梅雨晴れて朝の散歩気持ちよく
  向日葵が陽をあどけなく追い

美容師のハサミの音に車椅子
   ひそんだ力背筋伸ばす初夏

祇園さん祭りの時は遅くまで
   下駄の音響く懐かし我が家

車椅子足台はずし大地踏む
   草はやさしく足にからまり

今日は晴れ相楽園に散歩する
   鳩と雀が広場に集う

相楽園は神戸市の和風庭園

散歩道水撒く人は我が為に
   放水やめて気の良い会釈

バス停におしろい花の実をつぶし
   鼻に塗りたて幼子遊ぶ

店員を真似て籠積むおしゃまな子
   おでこに汗を光らせながら

チターの音こんもり茂る樹々の中
   チロルが生まれ夏の夜は更け

交差点渡る後ろで友の声
   彼女今から金魚を買いに

折り紙の船を浮かべし水たまり
   子の長靴が乾きに耐えて

暑さ避け4時に外出道暑し
   あきらめ帰り水枕して

地蔵盆菓子をかかえて眠る子を
   抱いて父親踊りの中に

輪の中にあの子がいない地蔵盆
   無心に踊るその子が似てる

六甲の稜線沈む夕の陽に
   初秋を感じ心が焦る

台風のうわさ流れて幾日か
   暑中夕空大阪まで見え

秋晴れに出かける予定なくもなく
   多忙な医師に振り回されて

西日射す小道の店は南米雑貨
   鮮やかな色主人は読書

幼な子の菓子のおまけを見たく買い
   つるべ落としに姉は急ぎで

気になりし夕べの雨がピタリ止み
   土曜日恒例歯科行き実行

秋雨のハーバーランド濡れる灯が
   地面に映り花園と化す

歩けないだけどアリスでブーツ買う
   こだわり捨てず車椅子行く

コンサート夜に開かれ異人館
   よろい戸開き月も招かれ

工事にてメッシュシートの我が住まい
   包んだように美しく見え

今日こそは何が何でも手に入れる
   秋雨の中行く車椅子

車椅子楠落ち葉カサカサと
   車輪が鳴らす迎賓館へ

歩道橋階段陰に身支度し
   佇む男に夕焼けやさし

階段に青年座り電話する
   彼の世界に夕月入り

灯りつく住宅街の美容院
   マダム客待ち雑誌読みふけ

車椅子転び汚れることもなし
   白いコートを着て出かけられ

ルミナリエ姉友4人見に行きて
   友は感激おとぎの国に

ルミナリエミサの帰りに見に行きて
   通りはずれの街は静かに

ルミナリエ昨年姉とふたり行き
   途中で帰り心残りが

煌々と夜空に浮かぶルミナリエ
   なぜか癒されない未熟さが

姪の子が生まれし祝い買いに行き
   師走の街で号外もらい

ハンドベル礼拝堂に心地よく
   師走の寒さ暫し忘れる

真夜中に教会の鐘鳴り響く
   イブのパーティー厳かに過ぐ

道すがら一番星が付いてくる
   イブのミサにはまだ早すぎる

ミレニアムイヴは楽しく過ごしたい
   街に出かけて友と語らい

空は澄み星は輝きミレニアム
   イブにふさわしミサの鐘鳴り

寒梅を愛でる句会の帰り道
   知人来訪京菓子我に



読者コメント


ご感想などなんでもご提供ください。

 私は紙谷さんを知りません、数度会ったくらいですね。自伝を読んで初めて知ることも多かった。
 で、何度か読みました。正直沢山すぎて。
紙谷さんの歌は生活を繊細に見つめてるなあと。
 「開けるまて胸がときめく福袋、今年は買えて姉はにこやか」
お姉さんの気持ちわかってるなあ。
 「今日は晴れ言い切る自信我にあり、高取山を友とし幾年」
長い時間眺めて、山の変化が判るのよと我にありの言葉に強い意志をかんじます。
 一つ一つの歌の中で楽しんだり、困ったり、よろこんだりする紙谷さんの感性が印象的です。

(A.N.さん ご感想ありがとうございます)

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● 紙谷惠子歌集(全5ページ)● はこちらからhttps://note.com/kotiku/m/m64dd26ef5b52




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